0417:放送前のちょっとした出来事(中編) ◆6xc12amlNk
数時間後。
なんとか亀並の速度で歩けるようになった洋一と共に
ヤムチャは東京に着いた。
東京はいくつもの破壊の痕が残り、激戦の様子を物語っている。
とんでもない所に来てしまったと、洋一はまたも絶望した。
ビル街は瓦礫の山と成り果て、あちこちに走る亀裂や陥没には午前中に降った雨が濁流となって流れている。
「(も、猛烈な死の予感が……!!逃げなきゃ、一刻も早くここから逃げないと、間違いなく死ぬ……!!)」
「おーー、やぁっと服の洗濯ができるぜ。ラッキー」
「何呑気なこと言ってるんですかぁ! いいからさっさと逃げましょうよぉぉ!!
ももも、もう、こりゃ絶対、危険ですってば!!」
「うるせえな、俺の服が汚れたのは元はといえばお前のせいだろ?それに見ろよ、この破壊っぷり。
こりゃ絶対、悟空の仕業だぜ。ここにいりゃ会えるかもしれねえ。うん、今日はここに泊まるぞ」
「ひぎぇぇぇぇぇぇえーーー!!(終わった……)」
洋一は横たわったままぴくりとも動かない。気力体力共にゼロに近かったが、別に生命活動が停止したわけではない。
不貞寝である。
その傍らで
ヤムチャは地図を広げ、
孫悟空の立ち寄りそうな場所にチェックを入れていた。
「ふぁ~~あ。そろそろ夕食の時間だな、洋一。メシ食って食休みしたらまた出かけるぞ」
「………(まだ四時じゃないか……いいよな……胃の頑丈な人は気楽で……)」
「おーい、なんとか言えよ。まったく暗い奴だぜ」
陽が少しずつ傾き始めている。このままあと何時間で夜になるんだろう。空っぽの胃を抱えて洋一は再び暗澹たる想いに囚われた。
次は一体どんな職業のどんな生き物にどんな感じで襲われるんだろうか。想像だけで涙が尽きない。
「…………ーーぃ」
「おい、今なんか聞こえなかったか?洋一」
「へ? い、いえ、よくわかりませんでした……
(別になんも聞こえねーよ、風の音なんじゃないの?つーか俺の耳鳴りの方が酷いよ)」
洋一は投げやりに答え、そっぽを向いた。問題ごとは全て
ヤムチャに任そうと決めたのだ。
どんなに恐ろしい化け物が襲い掛かってきたところで、今の自分では逃げ切れない。だから不貞寝である。が、
「………おおおおぉーーーい!! お前らぁ、ルギア達の仲間かーーーっ!!?」
上空から大声が響くや、
ヤムチャと洋一の目の前に物凄い衝撃音と共に少年が落ちてきた。
着地の瞬間、彼の脚が奇妙に折れ曲がったように見えた。
が、次の瞬間には元通り。洋一は思わず目を擦ったが痛くなっただけだった。
「(ほ、骨……いま、折れたよな?アレ?
ひょ、ひょっとして、また化け物と遭遇しちゃったの……?俺ってつくづく……)」
「な、なんだ貴様は!? 名を名乗れっ!!」
ヤムチャが構え、洋一は腰を抜かした。しかし少年は答えず、叫んだ。
「いッいッ……いってぇぇえ~~!! 脚、痛ってーーーーッ!!」
洋一は恐怖に凍りついた。この少年はどこから落ちてきたんだ?この辺で高い建物といえばあの東京タワーしかない。
(あの距離を……ジャンプして飛んできたの?嘘だ、そんな馬鹿な)
そこに聞き慣れぬ声が響いた。よく見ると少年は自分よりかなり大柄な男を背負っている。
――――ルフィの旦那ァ、脚は大丈夫かよ?
てっぺんから飛び降りるなんていっくらなんでも無茶苦茶だぜェ。
その兄ちゃんあそこに置いてくりゃ良かったじゃねぇかよ。
「いいじゃねェか、飛刀。コイツは俺の仲間だ! また勝手にいなくなられると困るんだよ」
――――そんなボロボロの身体で逃げられるわきゃねぇだろ……意外と心配性なんだな、旦那は。
「(な、なんだコイツ、俺たちを無視した上にわけのわからん会話をしやがって。
……さては危ない奴だな!
見たところ気を相当消耗しているが………背中の男の気もほとんどゼロだぜ。
ん?なんとなくどこかで感じたことのある気の様な……
いや、聞いたこともない声だし、気も小さすぎてわからん!
これはチャンスだ、この
ヤムチャ様が成敗してやるぜ)」
「(ひィ~~~~~~~~死にたくない、死にたくない、死にたいのはやっぱ嘘です、
ごめんなさい神様)」
少年の背負う男の顔は麦わら帽子のせいでよく見えない。
男は「ヒトウ」というらしいが、威勢の良い口調の割に全く動こうとしない。
どっかで見たことのあるジャケットを着ているが……とにかく怪我人らしいことはわかる。
次に
ヤムチャは少年を観察する。彼の腰には黒光りする大きな刀が差されていた。
洋一は「ひぃぃ・・・」と呟いて震えている。あんなもので斬られたら真っ二つだ。しかし今なら少年の両手は塞がっている。
チャーンス!
「おい、人を無視するのもいい加減にしやがれ!
まさか自分から挑んでおいて怖気づいたなんて言うんじゃないよな?この腰抜け野郎!」
やる気が急上昇している
ヤムチャと、
ヤムチャの挑発に蒼白の洋一。
しかし麦わら少年は全く意に介さず、恐るべきマイペースぶりでさっきと同じ質問をした。
「おい、お前らルギアの仲間か?」
「ルギア? 誰だそいつは!? 俺はそんな奴会ったことも見た事も無い!
そんなことよりお前は誰だ!?」
「俺かァ? 俺はルフィ。こいつは飛刀だ。喋るぞ」
――――よぉ オレ様は飛刀ってんだ。よろしくな。
ルフィが身体を曲げて大刀を見せた。刀身には大きな眼と口があり、ニヤリと笑った。
洋一は恐怖のあまり、薄笑いを浮かべながら失禁した。
「うあああああっ! 剣が喋ったぁぁぁっ!!
……なーんてな! それくらいの事でこの
ヤムチャ様が驚くと思ったか?
どうやら変化能力のある奴が仲間にいるみたいだが……
不意打ちの前に声を出しちまうなんて頭の悪い奴だな!
この地球人最強の男、
ヤムチャ様が貴様らを成敗してやる!」
――――……やっべーぜ、旦那。こいつ馬鹿だ。
「おーい、別に俺ァお前らと戦う気なんて全然ねーぞ。すんげー腹減ってるし、おまけにちっと眠いしよぉ」
「お前に無くてもこっちにはあるんだッ! な、洋一」
「えッ!?、?!あ、あがが……(ひいいいいいいいぃ~~~~、なんでコッチに振るのぉ~~~~!?
戦う気なんてないに決まってるでしょお!! こんな化け物、無理、絶対無理だよ……!)」
洋一は這いずった。逃げたくても足が動かず、片腕は骨折。
それでも洋一は残った腕で懸命に逃げようとした。
火事場のなんとやら力であるが、数十cm後ろに下がったところでただでさえ残り少ない力を使い果たし、
パワーアップして復活した疲労と空腹とストレスと痛みが一斉に洋一を襲う。
ああ、らっきょ。こんな時にらっきょがあれば……!!
「しっつけぇなぁ、なんでお前、そんなに俺と戦いてーんだ?」
ルフィは首を傾げた。心底不思議そうな顔でいくつも『?』マークが飛んでいる。
「フッ……それは秘密だ!さあ、覚悟してもらおうか……
ってお前、それ、その背中にしょってるの、ご、ご、悟空じゃねーーかっ!!」
麦わら帽子の影から、
ヤムチャの捜し求めていた男の顔が覗いていた。
「ん? ああ、そうだぞ。なんだお前ら、悟空と知り合いだったのか?」
「バカ野郎! オレ達は仲間だッ!!畜生、誰だっ、誰が悟空をそんなにしやがったんだっ!
まるでボロ雑巾じゃないかよっ!」
「おれ」
「なんだとォォ!?……やっぱりそうだったのか!
悟空ぅ、今この
ヤムチャがお前の仇をとってやるからなっ!」
「慌てんなよよ。もう敵じゃねェんだって。仲間だっつってんだろ」
「そんなこと言ったって俺は騙されないぜ!
さては悟空を盾にして攻撃させないつもりだな……卑怯な奴め!」
――――駄目だ、旦那。話が進まねェよ。背中のそいつを早いとこ降ろしてやった方がいい。
まずぁ落ち着かせて、それから会話しな。こーゆー単細胞タイプはよぉ、刺激するほど逆効果なんだ。
隣の奴はチビって怯えてるだけだしアイツさえ説得しちまえば戦闘まで行かねーよ。
「そだな……おい、えーと、ヤモチャ」
「
ヤムチャだ!!」
「心配すんな。悟空の奴、のびちまってるけどちゃーんと生きてるぞ。」
ルフィは悟空を降ろすと、自身も相当疲れたのか、そのまま地べたに腰を下ろした。
「うあぁ……悟空ッ! しっかりしろよっ! なんだってこんな姿になっちまったんだ!?
まさか最強のお前が負けるなんて信じられねえ……!」
「疲れてんだ、ゆっくり寝かせてやれよ」
「誰のせいだっ!! ………ハッ!わかったぞ!
さてはオマエ 悟空が安心して眠ったところでトドメを刺す気だったんだろ!?」
「そんなことしねぇって。お前、ホント馬鹿だな」
人の話を聞かないことにかけては抜群の才能を発揮するルフィも、
ヤムチャとの噛み合わない会話に少々呆れてきたようだ。
そこで飛刀が口を挟む。
――――
ヤムチャさんよぉ、よーく考えてくれよ。普通に考えりゃ敵がわざわざ怪我人背負って駆けずり回ったりするかよ。
ルフィの旦那はそいつと決闘して仲間になったんだって。
味方なんだよ、俺たちは。あんたらと接触したのだって戦うのが目的じゃねぇんだ。
だいたい本気で殺すつもりなら声なんかかけねーで即攻撃するって。アンタだってそーするだろ?
「ぐぅ……!! し、しかしだな、悟空に大怪我をさせたのは事実だろうが!
そもそもなんで決闘なんかしたんだっ!? 理由を教えてもらおうか」
「いっぺん仲間になった奴を見捨てることはできねぇ。だから俺は戦った」
「なんだそりゃ!! わかるように説明しろ!」
「んー……あ。そーいやぁ、前に悟空がお前のことを喋ってた気がすんなァ………
そーだ、思い出したっ! 足元がいつもお留守のヤモチャだ!」
「や か ま し い !! 人の古傷をえぐりやがって……!
それからオレの名は
ヤムチャだ!!二度と間違えるな!!!」
「お前声でっけーな。そっちのそいつは名前なんてんだ?」
ルフィが大袈裟に耳を塞ぐ。
ヤムチャは一応本気で怒ったのだが、本気と受け取られてないようで一層腹が立った。
「フン、誰がお前みたいな人の名前を何度も間違える無礼な奴に教えるかよ」
「なー、お前の名前は?」
洋一は絶対に目を合わせまいとして震えていた。ルフィの明るく能天気な声が逆に怖かったのだ。
「………!(……目ぇ合わせないようにしてたのに……なんで俺に振るの!?
俺が嫌がってるのわかんないの?やっぱ殺すつもりで降りてきたんだ……!なんか
ヤムチャさんはケンカ腰だし……
今度こそ命運尽きたんだ。寿司も食ってないのに、ここで死ぬんだ……)ぁぁ……つ、ついてねぇ……」
「『つついてねえ』か。へー。変わった名前だなァお前。俺はモンキー・D・ルフィ。こいつは飛刀。
ししし……お前ら俺たちの仲間にならねーか?」
「断る!!何の意図があるのか知らないが、悟空をこんなにしちまった奴の仲間なんかになれるかッ!!」
「そっかぁ……じゃあ『つついてねえ』はどーする? こっちくるか?」
「お前らみたいな怪しい連中に仲間になれなんて言われて『はい』と答える奴がこの世のどこにいるんだよ!
だいたい洋一はオレの仲間だ……! 勝手に勧誘などしないでもらいたいぜ」
「(ひ~~~~聞こえないフリ、聞こえないフリ、俺はいない、俺はいないぃ、俺は石地蔵ぅ)」
「……そっか……わかった。じゃあな。行くぞ、悟空」
ルフィは立ち上がって悟空を背負い始めた。
「ちょっと待てぇぇぇえ!!!お前、なんで悟空を連れて行くんだッ!!
悟空は俺たちの仲間だって何回も言ってるじゃねえか!」
「だからよー、俺たちは仲間を待ってんだよ。東京タワーってとこに集まるって約束したんだ。
けど、なかなか来ねーからどうしたもんかと思ってよ。そんであのてっぺんから街中を見回してたらさ、お前らが見えたんだ。
俺はアイツとどうしても会わなきゃいけねぇんだよ……またはぐれちまったら大変だからさ」
「駄目だ、悟空は渡さないぞ! お前だってその、待ってるお仲間とやらを突然怪しい奴に連れてかれたら困るだろうが!」
「うーん、そりゃそうだ。じゃどうすりゃいいんだ?」
―――ルフィの旦那よぉ、いっそこいつら全員一緒に連れてっちまえばイイじゃん。
悟空はコイツに背負ってもらってよ。
「あ、そーか。そうすりゃいいんだ!」
ルフィがポン、と手を叩く。その能天気な様を見て
ヤムチャの怒りが沸点を超えた。
「お前らさっき俺が『断る』って言ったの覚えてないのかー!?
それともオレが裸だからっておちょくってんのかっ!?」
「俺は真剣だ」
ルフィは実にあっけらかんとした口調で言い返した。
それが―――あまりに毒気の無いさっぱりした表情で、
ヤムチャは一瞬、言葉に詰まった。
怒りが急速に引いていくのを感じ―――どうにも調子が狂う。
「くッ……まあいい、悟空が目覚めたらアイツから直接詳しい話を聞けばいいんだからな。
………それよりお前ら、ドラゴンボールの話を聞いてるか? 」
ヤムチャは質問を変えた。この男―――ルフィが自称する通り、彼が本当に悟空の仲間ならば、この重大事項を知っているはずだ。
もし知らない聞いてねェと答えれば、彼は悟空の信頼を得ていないということになり、つまりは敵……ということになる。
万が一に備え、
ヤムチャは計画のほんのさわりだけ、『ドラゴンボール』の名だけを明かすことにした。
「ドドゴンボール? ドドゴンボールなんて知らねーよ。飛刀は聞いたことあるか?」
――――いや、知らねー。ポートボールなら
ルールだけ知ってっけどよー。
つーかこんな時によくもまーボール遊びしようなんて幼稚な発想が出てくるよな。
呑気にもほどがあるぜ、 このオッサン。
「ドドゴンじゃない、ドラゴンだッ! 勝手に変な言葉を作るな!
それからドラゴンボールは球技じゃなくて玉だっ!」
――――いーや、玉を使えば球技だろ。籠球だってそーだ。それ以外に何て言えばいいんだよ。
「だからッ、ドラゴンボールってのはッ、七つ揃えば何でも願いを叶えてくれる球のことを言うんだよッ!!」
言った瞬間、
ヤムチャは背筋が凍った。
(ハッ……しまった……!!)
呆気にとられた顔で
ヤムチャを見つめてくるルフィと飛刀。頭に「?」が渦巻いてる表情だ。
やばい―――
ヤムチャは咄嗟に言い訳を考える。
奴らは質問攻めにするに違いない、いや、もうすでに自分たちが何を計画してるか気付いているかも。
いやいや、コイツ頭悪そーだから一瞬でそこまで考えちゃいないだろう。
ヤムチャは頭を抱え込む。
(クソッ……何やってんだ、俺は! 敵にわざわざ教えてどーすんだよ!?
ドラゴンボール計画が………俺のうっかりのせいであっさり漏洩しちまった……どうする……殺すか?
いや、仮にも悟空を倒したほどの実力だし……ちゃんと仲間に引き込めば案外すごい戦力になるんじゃないか?)
「ふーん。それよりヤブチャ、飯持ってねーか?俺すげーハラ減ってんだ」
ルフィは呑気に鼻をほじっている。きゅるぐ~、という奇妙な腹音を出しながら。
「普通に流すな!! っていうかお前、人が真剣に話してんのにその態度はなんだ!
それから『ブ』じゃなくて『ム』だ。やぶ蚊呼ばわりされてるみたいで非常にムカつくぜ!」
――――でもよぉ、俺もルフィの旦那も今までけっこうな数の人間に出会ってきたわけだけどさぁ、
そーんな都合のいいアイテムの話なんかこれっぽっちも聞いてねーぜ?
そのド(略)ルって7つもあるわけだろォ?そんだけ支給されてりゃあ、
噂っくらいは耳に入りそーなもんだがなぁ………なーんかガセの臭いがぷんぷんすんぜ。
……なァ、旦那。と、飛刀は
ヤムチャに対する警戒をたっぷり含んだ口調でルフィに同意を求めている。
ヤムチャは少年の差す妙な刀が、自分を胡散臭そうな目つきで睨んでいることに気がついていた。
疑り深い奴め……
ルフィを引き込むとしたら彼は邪魔だ。
だいたい『ヒトウ』なんて名前の参加者なんていたか?
刀に化けたまま正体を現さない事も
ヤムチャは気に食わない。
悪徳商法なんじゃねーの?信用したら蟻地獄だぜ、とまで呟いている。
嫌な奴だ、と思いながら
ヤムチャは声を荒げた。
「フ、フン。ドラゴンボールは自体は支給されちゃいないんだよ(多分)……
だが、願いを実行する方法ならある。秘密だけどな!」
――――胡散くせっ。大の大人が「秘密」なんて単語使うなよ、気色悪ぃ。
「こ、このクソ刀が……!別に信じたくなけりゃ信じなくていいんだぜ……?損するのはお前らだからな」
――――旦那、やっぱこいつら危ねーよ。俺ァやっぱ連れてくっての撤回するぜ。
「うーん…………そだな」
ルフィは少々考えて、飛刀の言葉に同意した。
別に怪しいのは気にならないし、
ヤムチャの話も半分位しかまともに頭に入っていない。
彼さえ同意すればルギアに会わせ、仲間だ!と言って紹介する気だった。
しかし、本気で嫌がっている相手を無理強いして連れて行く気は無い。ただそれだけだった。
「……じゃ、行くか、悟空」
ルフィはそれじゃお茶でも飲みにいくか的な、いかにも軽い口調で悟空の太い腕を自分の肩に回し、
満身創痍のその身体で――――彼を背負い、ゆっくりと立ち上がった。
「待てっ、待ってくれ! 悟空を連れて行くな! ご、悟空は俺の仲間なんだよ……!!」
ヤムチャは反射的に悟空の腕を掴んだ。ここで離したら二度と再会できない気がした。
「今は俺の仲間だ」
一点の曇りもないルフィの瞳が、断言した。
(―――こいつは、アレだ、間違いない)
ヤムチャの脳裏に戦慄が走る。
この少年は主催者相手に勝ち目の無い戦いを挑もうとしてる。
そしてその無茶な戦いに悟空を巻き込もうとしている。
(なんてこった………)
ヤムチャはドラゴンボールのことを思い出す前の自分を思い出した。
かつての自分もこうして悟空と共にあの化け物共と戦おうとしていたのだ。
なんて無謀な。不可能だ、そんなの。
いや……無理でも不可能でも――――悟空の性格ならやる。それどころか、そんな計画に誘われれば喜ぶだろう。
オラ、わくわくしてきたぞ、なんて言ってあっという間に意気投合だ。
(だから………だったのか!!)
そう考えれば少年の『仲間』発言は理解できる。
悟空がこの少年にドラゴンボールを明かさなかった理由。
ドラゴンボールの事を思い出す前に、コイツの計画――――皆で主催者をぶっ倒せ!に同意してしまったんだ。
うぁー。
「ぅあーーー………」
ヤムチャは自分の推理というか妄想に、頭を抱えて悲鳴を上げた。
「………じょ、冗談じゃない! 俺が……どれだけこいつを探し回ったと思ってんだよ!?
俺には悟空が必要なんだよ! 何も知らないくせに勝手なこと言ってんじゃねー!!」
「お前、コイツが強ぇから必要なのか?」
「……! ……ああ、そりゃ確かに悟空は強いさ、俺たち他の人間を置いて1人でどんどん先に行っちまう……
同じような修行をしても追いつけた試しがない……
へへ、戦いのたびに悟空と俺の間には決定的な差があるんだってことをいつだって思い知らされてきた……
でもな、悟空だって俺が必要なはずだ。
いつも肝心なときは1人で戦わせちまって……俺だって力になってやりたいんだよ。
今までずっと力を合わせて仲間や地球を守ってきたんだから………こんな時ぐらいコイツの役に立ちたい。
それに、俺みたいな奴でも、強大な敵が来ても悟空と一緒ならなんとかなりそうな気がするんだよ。
なんかこいつと一緒にいると勇気が湧いてくるんだ。
…………こんなこと考えちまう俺はヘタレだと思うか?」
「うん」
…………そっか。即答か。あっさり答えやがって。
やはり最初の第一声を聞いた時点で実力行使に出れば良かった。
ヤムチャはそう思いながら拳に力を込めた。
殺すなら悟空の気絶している今しかない。気の消耗具合からいって一発殴れば失神、いや絶命だな。
後で生き返らせてやるから悪く思うなよ? こっちだって悟空を見殺しにするわけにはいかないんだ。
ヤムチャがそんなことを考えながらルフィを睨むと、彼は少しも動じず、先程と同様のあっけらかんとした口調で返答した。
「わかった」
「へ?」
思わず呆ける
ヤムチャの前に悟空を降ろし、ルフィは麦わら帽子を被り直して3人に笑いかけた。
「しし……悟空、また会おうぜ。俺たちは東京タワーにいるからよ、なんかあったらすぐ来いよ」
意識が無いハズの悟空の表情が、一瞬だけ和らいだ気がして――――
ヤムチャは大いに動揺した。
「お前らもだぞーー!気が向いたら来いよーー!」
「だ、誰が行くか! 」
ヤムチャはルフィに向かってそう言い捨て、慌てて悟空を肩に担ぎ、横で腰を抜かしている洋一の襟首を掴むと、
ルフィの目指す東京タワーとは正反対の方向に大きく駆け出した。
ちらっと横目で見ると、ルフィが屈託の無い笑顔で手を振っていた。
(……クソッ、なんなんだ、アイツ……調子の狂う奴だな。
と、とにかく、やっと悟空と会えたんだ。これで皆に顔向けできるぜ!)
最終更新:2024年07月30日 15:00