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 今年も冬がやってきた。  俺の住むこの村では、冬はとても厳しい。一面真っ白な雪に重く包まれ、家族で寄り添って過ごす。  欠かせない冬支度の一つに、漬物作りがある。短い夏の間に採れた野菜を、冬の間の栄養源として蓄えておくのだ。  俺は、この準備が密かに楽しみだ。  何故って、彼女に会えるから。 「よう、つーちゃん」 「あ、こんにちわ」 #ref(http://obsidian.no.land.to/jm/f/jm1275.gif)  村の誰よりもよく働き、小さな体で漬物壷を抱えて走り回る彼女。俺らは『つーちゃん』と呼んでいる。 「今年も美味そうだなあ、一口……」 「食べちゃだめですよ、冬の蓄えなんですから。食いしん坊な所は、お父さんそっくりですよ」  ふふ、と笑って俺に壷を渡す。 「よう、つーちゃん。今年のたくあんはどうだい」 「ええ、いい漬かり具合になりそうです」 「おやおや、つーちゃん、寒いだろ。これ被りな」 「はわわ、ありがとうございます」  村の皆は、彼女と笑いあい、冬の支度を進めてゆく。  ちらほらと降る雪が、村を覆いつくすまで。  何年も、何十年も繰り返してきた行事。  彼女だけが、変わらないのだという。  不思議なものだと思うが、村の皆は自然と彼女を受け入れていた。  彼女が何者なのか、とか、いつからここにいるのか、とか。  そんな事は些細な事なのだと、楽しそうに働く彼女を見ている人は、きっとそう思うのだ。 「今年もつーちゃんのおかげで、冬が越せそうだなあ」 「皆さんが夏の間頑張って、美味しい野菜を作ってくれたからですよ」  冬が深まり、村は眠りにつこうとしていた。  彼女にまた会えるのは、来年の冬。 「……なあ、俺ん家に来ないか?」 「ふふ、私には、私のお家がありますから」  毎年のことだが、一人雪の中へ消えてゆく彼女に、声をかける。  はにかむように笑って、『つーちゃん』は帰ってゆく。 「……本当、お父さんそっくりなんだから」  雪の中のつぶやきは、よく聞き取れなかった。 「また来年なー!」  かすむ彼女の姿に手を振る。  次の雪を、心待ちにして。 ----
  今年も冬がやってきた。   俺の住むこの村では、冬はとても厳しい。   一面真っ白な雪に重く包まれ、家族で寄り添って過ごす。   冬支度の一つに、漬物作りがある。   短い夏のあいだに採れた野菜を、冬の間の栄養源として蓄えておくのだ。   俺は、この準備が密かに楽しみだ。   なぜって、彼女に会えるから。 「よう、つーちゃん」 「あ、こんにちわ」 #ref(http://obsidian.no.land.to/jm/f/jm1275.gif)   村の誰よりもよく働き、小さな体で漬物壷を抱えて走り回る彼女。   僕らは『つーちゃん』と呼んでいる。 「今年も美味そうだなあ、一口……」 「食べちゃだめですよ、冬の蓄えなんですから。食いしん坊なところは、お父さんそっくりですよ」   ふふ、と笑って俺に壷を渡す。 「よう、つーちゃん。今年のたくあんはどうだい」 「ええ、いい漬かり具合になりそうです」 「おやおや、つーちゃん、寒いだろ。これかぶりな」 「はわわ、ありがとうございます」   村の皆は、彼女と笑いあい、冬の支度を進めてゆく。   ちらほらと降る雪が、村を覆いつくすまで。   何年も、何十年も繰り返してきた行事。   彼女だけが、変わらないのだという。   不思議なものだと思うが、村の皆は自然と彼女を受け入れていた。   彼女が何者なのか、とか、いつからここにいるのか、とか。   そんなのは些細なことなのだと、楽しそうに働く彼女を見ている人は、きっとそう思うのだ。 「今年もつーちゃんのおかげで、冬が越せそうだなあ」 「皆さんが夏のあいだ頑張って、美味しい野菜を作ってくれたからですよ」   冬が深まり、村は眠りにつこうとしていた。   彼女にまた会えるのは、来年の冬。 「……なあ、俺ん家に来ないか?」 「ふふ、私には、私のお家がありますから」   毎年のことだが、一人雪の中へ消えてゆく彼女に、声をかける。   はにかむように笑って、『つーちゃん』は帰ってゆく。 「……本当、お父さんそっくりなんだから」   雪の中のつぶやきは、よく聞き取れなかった。 「また来年なー!」   かすむ彼女の姿に手を振る。   次の雪を、心待ちにして。

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