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雪月花 - (2006/10/21 (土) 07:48:48) の最新版との変更点

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~雪~ 「あら?」   寒くなってきた季節。鉛色の空からチラリホラリ。 「寒いと思ったら……」   バルコニーから雪が降る様を眺めるペリドット。街が白く染まっていく。 「ただいま、ペリドット。あれ? どうした?」 「ああ、マスター。お帰りなさい。雪が……」 「うん。強く降ってきたね。明日は積もるかな……って、冷えてるじゃないか。中に入ろう」 「はい」   深夜、ペリドットはまたバルコニーに立って、雪が降る街を眺めている。 「雪が好き?」 「あ、マスター。風邪をひきますよ」 「大丈夫。北国育ちなんだ。雪と寒さには慣れている」 「そうなんですか。私……雪は嫌いです」 「嫌いなのに、眺めているのかい?」 「ええ、雪は嫌い……寒いのも嫌い……でも、好きなんです」 「??????」 「昔……北国で暮らしたことがありました。1年の半分以上、雪に埋もれる国でした。寒さは人の心まで凍てつかせます。とても悲しいことがありました……でも、悲劇がハッピーエンドで終わった時に思ったのです。冬の寒さは命を鍛え、降り積もる雪はその下で命を育みます。あらゆる物をその懐に抱いて。やがて来る春のために……もしかしたら、厳しさで愛児を鍛える気高い孤高の女王様なのかも。そう思うと、冬の寒さや雪の冷たさを好きになれました。私が育った庭園では、そこまでの厳しさはありませんでしたから……」 「ああ、そうだねえ。よく分かるよ。……こんなに冷たくなって、いくらドールだっていっても、よくないよ」 「……温めて下さい……」   顔だけが火照る自分を笑いながら、彼はベリドットを抱きしめて、一緒に雪の降る街を眺めていた。 ~月~   ときどき、ペリドットはバルコニーから外を眺めている。なかでも、月を見ることが多いようだ。今夜も……。 「そんなに熱心に月を眺めていると、少し不安になるなぁ」 「なぜですか?」 「いなくなってしまいそうで……」 「……なよたけさんですか? ふふふっ、大丈夫ですよ。私は月には帰りませんし、五つの品を求めることもいたしません」 「よかった……」   彼女がいる。そこにいてくれる……僕のそばに。ただ、それだけのことなのに、なぜだろう? 目頭が熱くなる……。 「あらあら、泣き虫さんですねぇ」 「いやいや、季節の変わり目だからね。情緒不安定なんだ」   もっともらしい言葉を並べてみるが、彼女には通用しないだろうな。 「人はお日様の恵みを受けて生きていきます。いつの時代でも、どんな場所でも。だから道を誤ることなく、歩いていけるのです。でも、黄昏時に人は道を誤ります。行く先が暗闇でも、それに気がつかずに歩くことを止めません。私は、月になってマスターの行く道を照らしていたいのです。悲しみの時、寂しい時、どんな時でも、貴方を包んでいたい。いつでも、どんな時でも迷わずに進めるように……ただ、貴方を護っていたい……」 「……僕は……」   言葉が出なかった……月の光を浴びて、白く輝く彼女が、あまりにも神々しく、美しかったから……。 「貴方のそばに、いさせてくださいね……」   この先にどんなことがあっても、彼女がいれば僕は大丈夫。そんな自信が湧いてきた。 「ずっと……一緒にいよう……」 「はい」
~雪~ 「あら?」   寒くなってきた季節。鉛色の空からチラリホラリ。 「寒いと思ったら……」   バルコニーから雪が降る様を眺めるペリドット。街が白く染まっていく。 「ただいま、ペリドット。あれ? どうした?」 「ああ、マスター。お帰りなさい。雪が……」 「うん。強く降ってきたね。明日は積もるかな……って、冷えてるじゃないか。中に入ろう」 「はい」   深夜、ペリドットはまたバルコニーに立って、雪が降る街を眺めている。 「雪が好き?」 「あ、マスター。風邪をひきますよ」 「大丈夫。北国育ちなんだ。雪と寒さには慣れている」 「そうなんですか。私……雪は嫌いです」 「嫌いなのに、眺めているのかい?」 「ええ、雪は嫌い……寒いのも嫌い……でも、好きなんです」 「??????」 「昔……北国で暮らしたことがありました。1年の半分以上、雪に埋もれる国でした。寒さは人の心まで凍てつかせます。とても悲しいことがありました……でも、悲劇がハッピーエンドで終わった時に思ったのです。冬の寒さは命を鍛え、降り積もる雪はその下で命を育みます。あらゆる物をその懐に抱いて。やがて来る春のために……もしかしたら、厳しさで愛児を鍛える気高い孤高の女王様なのかも。そう思うと、冬の寒さや雪の冷たさを好きになれました。私が育った庭園では、そこまでの厳しさはありませんでしたから……」 「ああ、そうだねえ。よく分かるよ。……こんなに冷たくなって、いくらドールだっていっても、よくないよ」 「……温めて下さい……」   顔だけが火照る自分を笑いながら、彼はぺリドットを抱きしめて、一緒に雪の降る街を眺めていた。 ~月~   ときどき、ペリドットはバルコニーから外を眺めている。なかでも、月を見ることが多いようだ。今夜も……。 「そんなに熱心に月を眺めていると、少し不安になるなぁ」 「なぜですか?」 「いなくなってしまいそうで……」 「……なよたけさんですか? ふふふっ、大丈夫ですよ。私は月には帰りませんし、五つの品を求めることもいたしません」 「よかった……」   彼女がいる。そこにいてくれる……僕のそばに。ただ、それだけのことなのに、なぜだろう? 目頭が熱くなる……。 「あらあら、泣き虫さんですねぇ」 「いやいや、季節の変わり目だからね。情緒不安定なんだ」   もっともらしい言葉を並べてみるが、彼女には通用しないだろうな。 「人はお日様の恵みを受けて生きていきます。いつの時代でも、どんな場所でも。だから道を誤ることなく、歩いていけるのです。でも、黄昏時に人は道を誤ります。行く先が暗闇でも、それに気がつかずに歩くことを止めません。私は、月になってマスターの行く道を照らしていたいのです。悲しみの時、寂しい時、どんな時でも、貴方を包んでいたい。いつでも、どんな時でも迷わずに進めるように……ただ、貴方を護っていたい……」 「……僕は……」   言葉が出なかった……月の光を浴びて、白く輝く彼女が、あまりにも神々しく、美しかったから……。 #ref(2p0g9xnf_0.jpg) 「貴方のそばに、いさせてくださいね……」   この先にどんなことがあっても、彼女がいれば僕は大丈夫。そんな自信が湧いてきた。 「ずっと……一緒にいよう……」 「はい」 ~花~   ペリドットと暮らすようになってから、ウチの中は空気が変わった。独りで暮らしていたころの寒々しい空気は もはやない。猫という家族も増えて、悪戯に手を焼くことも楽しめるようになった。   彼女は毎日、僕の部屋を花で飾ってくれる。初めのころはくすぐったい気もしたが、今では欠かせないものになっている。彼女が管理している庭園から持って来る、色とりどりの花。 「ねえ、マスター。花って、どうして綺麗に咲いていると思います?」 「えー? どうしてかなぁ。繁殖とか……かな?」 「ふふ、半分正解です。もう半分は、みんな頑張って生きているっていうことです」 「……頑張って、生きている?」 「はい。先日、調べ物をしているときに、素敵な言葉を見つけました。『桜梅桃李(おうばいとうり)』っていうんですよ」 「へぇ、『桜梅桃李』ねぇ。古そうな言葉だね。大陸渡来かな? でも、桜が入っているということは、日本で生まれた言葉なのかな? 意味は?」 「原典は分かりませんでしたが、とても素敵な意味を持っていました。『桜は桜、梅は梅、桃は桃、李は李。どんな花も美しい、それぞれがそれぞれに力一杯咲いている。もう少し赤ければ、もっと花が大きければ、そんなことはこれっぽっちも思わない。それぞれがそれぞれに、ただひたすらに咲いている。人間も同じだ。どんな人も美しい。どんな人も素晴らしい。それぞれがそれぞれに、力いっぱい生きている。人をうらやむことはない。自分でなければならない花を自分らしく咲かせよう。力一杯咲かせてゆこう。それこそが、桜梅桃李』」 「人それぞれ、みんな違って、みんないいってことかな」 「正解です。私たち姉妹も大勢おりますが、一人として同じ乙女はいません。皆、それぞれが個性を持って、魅力を持って、それぞれのマスターと暮らしています。誰もが幸せになろうと頑張っています。咲き誇る花のように……」 「なるほどねぇ……確かに、みんな美しく咲き誇っているよね。見とれるくらいに……」 「あら、誰に見とれているのですか?」 「微妙に笑顔が変わったね……僕が見とれる花は、貴女しかいないでしょう……二人で、幸せになろうよ」 「マスター……」   ペリドットと暮らすようになってから、ウチの中は空気が変わった。独りで暮らしていたころの寒々しい空気は もはやない。   だって、これからはずっと二人で生きていくのだから。

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