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「ただいま」 相変わらずの疲れた顔を浮かべて、マスターが帰宅する。 それを笑顔で出迎えるのも私の仕事。言葉に出すのは恥ずかしいけれど、いつもありがとうございます。 「あっ、おかえりなさい。お風呂、沸いてますよ」 「おぉ、ありがたい。今日は冬なのに汗かいてなぁ」 マスターは脱衣所へ。私はその間に夕食の仕上げをする。 それにしても、マスターの言う通り、仕事着は汗が染みこんでいて少し重かった。 今日はいつもよりお疲れなのかなぁ……。 ……ここは、いつもとは違うことをしていたわってあげたい。 でも、何をしよう……漬物とお酒はいつものことだし。でも、それはいつもマスターが喜んでくれるからやはり嬉しい。 ……そうじゃない、今日はいつもよりたくさん喜んでもらいたい。 何か、特に今できることは……そうだっ。 さっそく思いついたことをやるために、脱衣所の前へと向かう。 「マスター、お風呂入りましたか?」 「ん、あー入ったぞ」 確認の後、脱衣所に入る。 マスターの姿はお風呂場の磨りガラスの向こう。 では、さっそく準備を……ふふふ。 ◇ ◇ ◇ ◇ 新入りの教育とかで疲れた今日。いやぁ、風呂は生き返る。 「失礼します」 「おう、遠慮なく……はぁ!?」 あまりにも自然に入ってきたため、こちらも普通に対応してしまった。 その声の主……漬物石が、何故か風呂場に登場だ。 慌てて前をタオルで隠す。座っててよかったぁ……。 「な、ん、ど、どうした? お前がわざわざこんなところに来るなんて……うっ」 漬物石……バスタオルを身体に巻いて登場とは、ずいぶんと凶悪じゃないですか? どことなく顔も赤いし。恥ずかしいならやるなよぉ……俺も恥ずかしいけど。 「はい、マスターのお背中でも流そうと思って」 「そ、それはありがたいけど……まぁ、お願いします」 無下に断るわけにもいかず、素直に背中を流してもらうことに。 「では、失礼します」 俺の背中にお湯をかける漬物石。 いつもは何ともないことなのに、少しだけ鳥肌が立つ。なんだかこそばゆい。 漬物石の小さな手が、俺の背中に触れる。 「やっぱり、マスターの背中は大きいですね。やりがいがありますよ」 「そりゃまぁ……」 「マスター、照れてますか?」 「い、いきなり……まぁ、少しは。お前は?」 「……ものすごく、恥ずかしいですよ。だからあまりこっち見ないでくださいね」 なんだ、どっちもどっちって奴か。 今漬物石がどんな顔をしているか、見えずとも大体想像はつく。 「じゃ、じゃあ始めますね」 漬物石が、俺の背中を洗い始める。 ……あぁー、恥ずかしいけど心地いい。くすぐったいけど極楽。 「かゆいところありますか?」 「それは床屋だと思うぞー」 「そ、そうですね。でも、やっぱりマスターの背中大きいですね。ちょっと腕が疲れて来ちゃいます」 「そっか。じゃあお礼に俺もお前の背中、流してやろうか?」 「い、いいですっ」 ちっ、全力で遠慮か。 まぁ、さすがに俺も気軽に女の子の身体に触るつもりはないけどな。 ……しかし、漬物石は背中を流すのも上手いな。とても気持ちいい。 あー、疲れが消えてゆくって、こういうことなんだな。 ……それにしても静かだ。俺の背中を擦る音以外、何もしない。 「……さっきから黙ってるけど、どうした?」 「え、あぁ……」 漬物石の小さな声。 どうしたんだ、いったい……そう思った矢先だった。 「だ、だーれだ?」 「っ」 俺の目の前は小さな手で隠されて、背中にはいろいろ当たっている。 「……つ、漬物石」 「当たり、です。えへへ」 ……やばい、今かなりその、何というか……。 「つ、続きしますねっ」 「お、おう」 ……たまには、疲れて帰ってくるものだな。 これだったらまぁ、忙しいのも許せるか、な。 ----
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