竜宮レナは、神様がどんな姿をしてるか、知っている。
存在を全否定することは、竜宮レナという人間に関しては恐らく縁のない話だ。

だから壮年の男性を想起させる声が言うところの『神様』――正しく言うと『神様にも等しい力』を想像するのは決して難くはなかった。
あれは何だったのか、よく分からないにしろレナが助けられたという事実は揺るがない。
そんなにも『神様』については知っていた。
だけど、そんな恩人――あるいは恩神とでも言おうか――が何を企んでいるか、推測しようもない。
何を深謀遠慮して、『殺し合い』なんて行うのか。
どうして、結衣のような何もできない人間が選ばれたのか。
どうして、真希波とい少女が死ななければならなかったのか。
どうして、部活メンバーを寄せ集めるように参加させたのか。
どうして、レナのような、結衣たちのような『小奇麗さ』のない穢れた少女が選ばれたのか。

簡単に死んでしまった、『殺してしまったも同然』な女の子の、安らかで冷たい死に顔は、死ななければいけない必然があったとは彼女にもとうてい思えなくて。

はたして『神様』は、こんなものが見たかったのだろうかと。
私たちが、こんな風に死んでいくのを見たがっているのだろうかと。
そう問いかけても、やっぱり答えなんかが貰えるはずはなく。

だけどレナが『日常に帰して』と泣き叫んだら――本当に『神様』、『オヤシロさま』は嘲笑うだけなんだろうか。


 ♀ × ♀



「なあ、そろそろお互いのこと。もっと話してもいいと思うんだ」

私は、レナにそう提案した。

現状確認。
右手には、レナから譲り受けた釣りざおのようななにか。うん、なにか。決してただの釣りざおではないのは確かなんだ。ともあれ護身を兼ねて握っている。
ポケットには、紙に包んだ奇美団子。
真希波さんには申し訳ない限りだけど、私とて好き好んであんな姿になりたいわけじゃないし、時間制限だってあるらしい。
つまりこれはいざという時のための秘密兵器ってことになるのかな。レナにも二個ほど授けた。
ゲームで言うとキーアイテム。あるいはマスターボ○ル的な希少価値のある代物に値するかな。とはいえこれは【ゲーム】であってゲームではないんだ。
下手に躊躇ったりするのもよくないのかもしれない。――残念ながら、リトライはないんだから。使い時が大事ってことはそれこそゲームと同じだけどな。

そして、左手には――レナの右手が重ねられて、軽く握られている。
心地のいい、小さくもとても心強い掌だった。
自然と再び繋がれた手は、ここに来るまでの過程で離れることはなかった。


「はぅ? ……んーうん、そうかもね。そういやレナたちあんまり自分の事については話してなかったかも。かも」


何故二回繰り返した、というツッコミは既にしている。口癖だそうだ。
口調が特徴的な奴ってそういや私たちの周りにはいないよな、とふと連想して思ったのは関係のない話だな。
あーいや、あいつがいたな。罰金バッキンガムこと綾乃。いや、ことって繋ぎもおかしいけど。

さておいて。
レナの手につられて私たちはこれといった意識も持たず南下をしている訳だ。
とはいえその実、あんまり私たちは会話らしい会話をしていなかった。
元より私もお喋りのつもりはない、京子たちがいなかったら無口だったかも――いやけど最近の私を見るとそうでもないかも……テレビに一人でツッコム位だし……。
コホン、しかしそれでも娯楽部メンバーの中ではお喋りスキル自体は決して高くはない私だ。
それでも、或いは、今現在私たちが『日常』の最中にいたならば交友を深めたいし話をしていたのかもしれない。

ところが、違う。
私たちが今いるのは、【ゲーム】なのだ。
生と死を掛けた、バトルロイヤル――バトルロワイアルだっけ。
そしてつい先刻、人の死に立ち会ったばかりで、ぺらぺらとお喋りできるほど私は胆っ玉はすわっている訳ではない。
むしろ私の心は、弱かった。泣いた。そりゃ目一杯に泣いたよ。
秋瀬或はなんだか言っていたけれど、悪いが私はそこまで人格が完成されていない。
人の死に涙を流すくらいには、不完全(ふつう)だ。
私には、残念ながら暢気にお話ししよう、と言う気にはなれずに、レナに悪いと感じつつも、これといった会話はしていない。
……まあ京子だったら、むしろこういう時にこそ、場のムードを沈ませないために、カラ元気でも振る舞うんだろうけど、私には真似できないしな。


「じゃあ、改めて、私は船見結衣だ。七森中学校二年生」
「私は竜宮レナ。雛見沢ってところのちっちゃい学校に通ってるんだ」

雛見沢。聞いたことがない。
……とか言う割になんか身に覚えがある気もするけれど。なんかひぐらしかミンミンゼミでも見れば思い出せそうな、なんかモヤモヤ。
まあ、思い出したらまた考えよう。仕切り直しだ。

ふと。
今まで滞りなく進んでいた歩みが、止まった。
レナが、手は繋がれたままだけど、こちらを振り返った。
その顔はどこか憂した顔だ。……どうしたんだろう。

「……そういや、七森中学って聞いたことがある」
「あ、もしかしてあかりの声が届いていたのか?」
「うん、確かそんな名前だったかな。かな?」

まあ、あの音量だ。
聞こえていたって不思議では、決してない。
むしろ必然ってやつだったのかもしれないな。

「……ごめん、聞こえてたんだけど、私はやっぱり、みんなの事が心配で……そのあかりちゃんって子のこと……」

後ろめたそうに、もじもじと、私に向かって伝えてくれた。
……私が、そのことを怒るとでも思ってるのか。

「気にしなくていいよ」

だとしたら、とんだ的外れだ。
私は、そのことに怒るつもりもないし、怒れる立場でもないのだ。

「そんなのは私だって同じだ。みんなが心配なのはさ。それに実際レナは『詩ぃちゃん』ってやつを助けに来たじゃないか。
 確かにあの時の私は、レナに怖がっていたかもしれないし、今こんなこと言ったって、しょうがないんだけどさ、
 今思うと、あの時のレナは、格好良かった。仲間を思って、一心不乱に戦っていた姿は、私には真似できないぐらいに凄かった」

私にしては珍しく、捲くし立てる。多分、昨日の私がこれを聞いてたら、聞いてる私の方が恥ずかしくなるようなことだけど。
生憎ながら、今の私にはそんな感情は抱けなかった。

あんな、明らかな不利な状況でも。もしくは不利な状況だったからこそなのかもしれないけど。
それでもあんな釣りざおだけで、友達の為だけに、果敢に戦っていたのは、妬ましいぐらいに、凄かった。

「……でも、レナは詩ぃちゃんを助けきれなかった。……そんなの、おなじだよ」
「それは違うと思う。そりゃ助けきったら、それはそれでいいんだろうけど。その行為に意味があるんだよ。
 それにさ、レナがあそこで助けに来なきゃ、レナみたいな心強い『友達』はできなかった。……まあ、私に言われたって、あれだけどな」
「……ううん、ありがとう、結衣ちゃん。そっか、私たちは、『友達』か」

さっき真希波さんに対しては、私はレナに『友達』ではないって言った。
……薄情だという以前に、真希波さんは、多分私よりも一次元も二次元も違う存在に感じた。
響きが悪いけどさ、私と真希波さんは、きっと相容れなかったんだと思う。どっかで不和がでてたかもしれない。
もちろんだからといって、「死んでよかった」だなんてとうてい思えないんだけどさ。――恐らく関係性を表すなら『友達』ってのは、難しいんだと思う。

そういう意味ではレナは、存在として、私と近かった。
秋瀬とも、真希波さんとも違う、共鳴できる存在だった。
……一緒にいたいって、思える人だった。

率直に言うと、私はレナとただ単に『友達』になりたかった。
近くにいてほしかった。隣を歩いてほしいって、感じた。


「違うのか?」
「違わないよ、レナたちは――『友達』だよ。結衣ちゃんみたいな友達が出来て、嬉しいな」
「お互い様だよ」

言うまでもなく私は、自分の事を棚に上げている。
あの時、私は直ぐにあかりの元に駆けつけてやれなかった。
正確には、向かったことは確かなんだけど、結局は有耶無耶に終えてしまっている。
そんなのは、向かっていたって意味がない。日常生活に置いては、胸張って言うことじゃないけど、ここでは結果がすべてだというのに。
――死んでしまったら、そんなの意味がないのに。分かっているのに、今の私は、山小屋やら、近隣施設に行かず南下している。とんだ薄情者だ。

その理屈を通すのならば、私が今しがたレナに言ったことだって、自分自身で「綺麗事だ」って切り捨てれる発言で。
レナが詩ぃちゃんを助けようと助けまいと、安全が確立出来なかった以上は無意味と言ってるも同然。
レナが隣にいてほしいのと、あかりのことを直視したくないという私の我儘から出た、ただの戯言だった。自分自身、気持ち悪くなるぐらい曲った発言だ。

桐山もあかりのことになんやかんや言っていたけど、それは本当に信用してもいい言葉だったのか。本当に友達なら、自らの足であかりの許までいくべきじゃないのか?
もっともらしい理由をつけて、格好つけて……子供のころ言ってた正義の味方には、程遠い行為なんだろう。


「それでも、ありがとう。結衣ちゃんは優しいね」


そんな私に。
そんな私にレナは、にっこりと笑みを見せてくれる。

胸がキリキリと、締め付けられる。しこりとなって残った罪悪感に似たなにかが、暴れ回る。
――あかりは大丈夫かな、って思う気持ちも大事なんだろう。
大事なんだろうけれど――! 成果が出なきゃ、意味はない。こんなことをしてたって、あかりを助けることには、意味がないのは、分かってるのに。
なんて、優しくないんだろう。


「そんなこと、ないさ」


帯びたのは、なんなんだろう。
後悔か、反省か、或いは妥協か、はたは虚無か。
分かりきった、ことなのだけど。

「……」

うすら寒くなってきた。
ダメだ。全然ダメだ。私は立ち向かえない。
――――全然、踏ん張りきれていないじゃないか。
血で、涙でぬかるんだ地面に、何時までももたついているじゃないか。

真希波さんのような強さも。
あかりのような信じる力も。
京子のような元気さも。
ちなつちゃんのような優しさも。
何一つ有していない私は、どうしたら、戦えるんだろう。


「……結衣ちゃん? 寒いの?」


ふとレナに、そう問われた。
知らない内に、どうやら私は震えていたようだ。
握っていた手からか、もしかすると私がそこまで分かりやすく震えていたのか。
どうであれ、レナに心配をかけていたらしい。


「大丈夫だよ、なんかごめん」


あたりさわりのない言葉で返す。
しかし、レナはそれだけで終わらすことを許さなかった。


「それは嘘だよ」


やけに強い口調で、言い放った。
手が、一際強く握られる。痛かったけど、痛くない。
そんなポエムみたいなことが現実に感じるぐらいの、不思議な握手。

まるで、この手が私たちの思いをを繋ぐ懸け橋のように、ぴったしと思いを言いあてられる。
素直にびっくりしたし、ドキリとした。


「隠さなくたっていいんだよ、結衣ちゃん」


まるで年下の子供をあやすかのような、優しい声だった。


「怖いのは仕方ないんだよ。レナだって怖い。何時死ぬかわかんないんだもん。怖いに決まってる」


意外、というときっとレナに悪いんだろう。
レナだって、昨日までは普通に平和を享受していた人間なんだから。
なら、どうして。どうしてレナは、ここまで芯が折れずに生きてられるんだろう。不思議に思った。


「――だけど、ううん。こういう時だからこそ、『仲間』――『友達』に話さないで、一人で耐えるのは、強さじゃないんだよ。
 レナは今、結衣ちゃんに弱音を零したんだから、慰めてもらったんだから、これぐらいへっちゃらだよ。苦になるはずない」


なら、私はレナにこの不安を打ち明けたら、強くなれるんだろうか?
ゲームみたいに分かりやすく、レベルを上げることはできるのか?
……こんなことを考えてる時点で、多分それは強さを履き違えているのかもな。どうなんだろう。

それでもなんだか、不思議な言葉だ。
まるでその言葉で、様々な苦境から奇跡を掴みとったかのような、説得力のある、言葉だ。


「まあ、レナは結衣ちゃんにそれを強要させたいわけじゃないんだ。結衣ちゃんが話したくなったらでいいと思うな」
「そっか、ありがとう、レナ」
「ううん、当然のことだよ」


当然のこと、か。
レナはそれを当然として動けるのか。
なんだか悔しいな。


「じゃ、話もずれちゃったけど話を戻そうか」
「そうだな」


何時までも私の事につきあわせるのも悪いしな。
……気持ちの整理がついたら、またレナに相談させてもらおう。
私は話を戻して、レナに娯楽部と杉浦綾乃を話そう。


「うん、じゃあ、さっきもちょっと言ったけど改めて私の友達も紹介しとくよ」
「うん」
「まず、私とおなじ部活の――まあ娯楽部っていうんだけど、私も含めて四人。……あとは何でか生徒会から杉浦綾乃って人が一人、ここにいる」
「……ちょっといいかな。レナ、娯楽部なんて部活、都会にいた時でも聞いたことないんだけど……」

だろうな、私もそんな正式な部活聞いたことがない。

「うーんと、その部活はようするに非公式の部活でさ、学校で今は使ってない茶道部の部室を勝手に借りて好き勝手やってるってわけ。
 まあ、言ったって特にやってることはないんだけどな。各々が好きなことやったり雑談したりさ」
「なんだか私たちの部活と似てるね」
「そうなんだ」

それもそれで大丈夫なんだろうか。
娯楽部と似ている部活って……成り立つのか? いくら田舎って言ったってさ……。

「で、娯楽部のメンバーは私、船見結衣の他に、さっき挙がった赤座あかりって奴と歳納京子、それに吉川ちなつちゃんかな。あとはさっきも言ったけど生徒会の杉浦綾乃」

吉川のぼるって奴がいたけど、ちなつちゃんの兄弟かなにかかな。
って、ふと思ったが、聞いた覚えはない。偶然なんだろうか。

どうでもいいことに思いを馳せてると、嬉しそうな顔でレナも話してくれた。

「じゃあついでにレナの部活メンバーも紹介するね。私、竜宮レナと、通称『口先の魔術師』こと前原圭一くん」
「く、『口先の魔術師』!?」

な、なんだそれ!? 中二病て奴か……。
……うーん、私もそういや中二だ。……あれ、大丈夫だよな私。
なんだか急に不安になってきた。京子を馬鹿に出来ない言動とってないだろうな。

「うん、そんなにおかしいかな?」
「い、いや……。いいセンスしてる……と思う」
「そっか!」

そ、そんな笑顔されたら断れない! ツッコミ入れづらい! これはちなつちゃんの紙芝居に通ずるものがあるぞ。
……うん、良いセンスだ。素晴らしいセンスだ。実にクール。KOOL……っと誤字った、COOLなあだ名だな。そう思うことにしよう、うん。


「で、あとは私たちの部活の部長の魅ぃちゃん。園崎魅音ちゃん」
「さっきの詩ぃちゃんって奴の姉妹かなんかか?」
「そうだね、詩ぃちゃん……詩音ちゃんっていうんだけど……のお姉さんなんだ。ムードメーカーで本当は優しい子なんだ」
「ふーん、なるほど」

しかしどうなんだろうか。
……本当に、その魅音って人は信用していいのかな。
疑うのは悪いって、わかってるんだけど、わかってるんだけどさ。
やっぱり、妹のああいう姿を見ると、どうしても姉の方も、疑い深くなってしまう。いけないことなのに。
詩ぃちゃんが、全部悪いってわけでもないのに、さ。


「それから、ここにはいないんだけど、あと部活のメンバーには、北条沙都子ちゃんって子と、古手梨花ちゃんって子がいるんだ」
「なんだかずいぶんと賑やかなんだな」
「お互いさまにね」
「そうだな」


時間を見れば放送までにはまだまだ余裕はあるようだ。
なら、ついでに京子たちの紹介でもしておこうか。


「まあ、とりあえず一人一人紹介でもするか」
「うん、じゃあおねがい」
「まずはまあ、私とあかりの幼馴染ってことになるのかな、歳納京子って奴がいる。
 迷惑ばっか掛けてるし、非常識だし、自分勝手だし、多分こんなときでも空気読まないで馬鹿騒ぎしてるんだろうよ」
「ふーん、なんだか魅ぃちゃんと通ずるところがあるね~」
「魅ぃちゃんねえ」

それはいいことなんだろうか。
京子を馬鹿にしてるってことはきっとないんだろうけどさ。
快活って意味でレナも言ったんだろう。やっぱああいう元気な奴は、集団に一人ぐらいはほしいものだ。
……まあ。そうは言っても。


「でも、あいつって根本的には泣き虫だから。――だから、私が、私たちが守ってやんないと」


昔から、あいつは私――それとあかりがいなきゃ、何も出来ない奴だった。
何て言い方も恩着せがましいけどさ。あいつは。京子は多分、この現実を理解してない。
それこそ、死体を見つけたりしない限りは、この殺し合いに真摯に向き合えない様な奴だ。
――――早く、見つけたいな。見つけないと。

と、そこから軽く外見紹介をしてから、自然とちなつちゃんの話に移った。

「んで、次はちなつちゃんだな、私にはよく分かんないけど『魔女っ子ミラクるん♪』の主人公とやらに似てるらしいけど……知ってる?」
「んーん。ごめんね、田舎だからかな、よく分かんないや」
「まあ、私でも知らないしいいんじゃないか?」

前、娯楽部で(あかり寝てたけど)ミラクるん見たときも正直理解不能なとこあったし。なんだ味噌キャベツ弁当って。

「それで、人格面を言うって言っても、ちなつちゃんは時々変な事言うけど、基本的にいい子だよ。
 進んで娯楽部のお茶淹れとかもしてくれてさ、……えーと、京子の仕事も手伝ってくれたし」
「偉いんだねえ~」

ちなつちゃんの淹れたお茶は美味しかったなあ(遠い目をしながら)。
流石は、元々茶道部志望って感じだよな。

さて、次はあかりだな。


「そして娯楽部最後に紹介するのはあかり、赤座あかりかな。そうだな……。あかりはな――いい子だ。……んで、最後になるけど綾乃ってやつはだな」
「……あれ、ちょっと待って。あかりちゃんの説明は?」
「済んだけど」
「終わってないよ! いや、もうちょっと話すことあるはずだよ! だよ!?」
「うーん……。あ、そうだ。あかりはな、赤髪のお団子なんだ、覚えておいてくれると嬉しい」
「う、う~ん? わ、わかった……」

あかりの説明は既にし尽くしたし。
……ああ、そうだ。まだ言ってないことがあった。

「そうそう、あかりはな、曰く『ゆるゆり』の主人公なんだ」
「主人公って何!? ……レナ、どこかでそういうの聞いたことあるよ。そういうの中二病っていうんだよね……」

…………。
…………。
…………。

「――――あ」

その発想はなかった。
というか自然に言葉になったけど『ゆるゆり』ってなんだっけ。

そうなんだよな。そういやあかりって昔から葉っぱ仮面とかいって若干痛い子属性付いてるもんな。
『口先の魔術師』も馬鹿に出来ない現状だった。顔も知らない前原圭一に謝っておこう。
……痛いことに突っ込めなかった私も私で一体全体何なんだろう……。

むむむ。
とんだ発覚だな。
しかしあとあかりで言えることって言えば……。


「……うーん、あかりはそうだな。『とうめいにんげん』で『おっぱいミサイル』が必殺技。効果音が『アッカリ~ン』だ」
「随分と個性的なんだね!」
「まあ、『とうめいにんげん』と『おっぱいミサイル』は嘘だけどさ」
「『アッカリ~ン』は!?」
「あと『よく寝坊し』たり、『順応性が高かったり』、『伝説の剣をもって』たり、『ピンチの時に覚醒し』たり」
「さすが主人公だね……だね……」
「まあ、今の四つも嘘だけど」
「レナは結衣ちゃんとあかりちゃんがわからなくなってきた……」


はあはあ、と疲弊したレナが失礼なこと言ってる気がするが、気持ちは分かる。
いつも私はそっち側に立ってるし。おもに京子が原因だな。
いい感じにあかりを誤魔化せ……説明を終えたところで綾乃の話に移ろう。


「それで最後になったけど杉浦綾乃ってのは私たちの学校の生徒会で、副会長なんだ。
 正直今まで言った中では一番繋がりは薄いけど、それでもやっぱ友達だからさ。一緒に帰りたい」
「うんっ、そうだね」
「綾乃の事を知りたいなら京子の方が絶対詳しいから、京子や本人と合流したら、また訊いてみて」
「わかった」


……紹介してみて分かるけど、やっぱりここにはみんながいる。
いや、わかってたことだけど。あかりの声を聞いた時点でそんなのわかってたことだけど。
やっぱり、辛いな。
みんなが死ぬ姿なんて想像つかないけど、真希波さんみたいに、人はあっさり死んでしまう。
……京子だって、死ぬだろう。あかりも、ちなつちゃんも、綾乃に関しても。
そんなのは嫌だ。
真希波さんの死に直面して、私のその気持ちはより一層強まった。

気持ちだけは、強まった。


すっかり歩みも止まってしまって、なんだかこの中途半端な場所に落ち付いてしまった。
しまったな、とは思ったけど、レナが、嬉しそうに語ってきたので、場所を移るのもあとにさせてもらおう。


そして、そのまましばらく奇天烈とも言えるぐらい個性豊かな部活メンバーの紹介も程々に終わった頃。
レナから、一つの事を問われた。

「ねえ……結衣ちゃん。一つだけ、一つだけ訊いていいかな」

耳を疑うような、びっくり発言。


「結衣ちゃんは……レナたちが神様と一緒に、時間を跳んで戦ったことがある、って言ってさ、信じることが出来る?」



――――直後、放送が、流れた。




最終更新:2012年08月03日 21:49