その目は被害者の目、その手は加害者の手 ◆j1I31zelYA


――人は自分の気分しだいで壊せるものをそれぞれ持ってる。
おもちゃだったりペットだったり恋人だったり家庭だったり国だったりする。

                             霊能力者、格闘家・幻海




――そう言えば浦飯は、参加者の居場所が分かるレーダーを持っていたはずだった。

やっと思い出して、常盤愛ははたと足を止めた。
そこは道なき道で、住宅街の隙き間を埋めるような小さな林の中で。
膝から下は、草いきれの中をがむしゃらに走ったために細かな擦り傷が目立った。

浦飯たちとは、どれほどの距離をかせいだだろうか。
レーダーで捕捉されているなら今に追いつかれてもおかしくないけれど、
これまで追跡の気配を感じなかったからには、レーダーの探知範囲から逃げきれたのかもしれない。
このまま進路を変えずに逃げ続けるべきだろうか……いや、そもそも、追いつかれたらどうなるのだろう。
決まっている。きっとすごい形相で睨まれて、最初から不意打ちするつもりだったのかと問い詰められて.
殺されるか、雪村螢子を失った憂さ晴らしの道具にされるか、

頬をはり倒した瞬間の、浦飯の呆けた顔を思い出した。
胸をチクチクと刺されるかのように、ぬぐいさりがたい後味の悪さが残っていた。
どういうわけか、いつもの常盤愛らしい『引っぱたいて別れを告げてせいせいした』という感想さえ吐きだす気分になれない。
それどころか立ち止まったまま、独り言が漏れそうになる。
まぎれもなく、自嘲だった。

「あたし、何やってるんだろう……」

振り返れば、これまで一つでも計画通りに運ぶことができたかどうか。

中川典子は脅迫し、
高坂たち三人組には襲いかかって返り討ちに遭い、
浦飯幽助と秋瀬或には殺意を露見させて逃げだした。
自らの有利になるように場を動かそうなどと目論みながら、有利な情報の一つすら広められていない。
今ごろ、中川典子は男を殺しきれないまま、死の蛭がハッタリだと気づいてしまったかもしれない。
越前リョーマらは、たまたま本物の白井黒子と遭遇して誤解を解いてしまったかもしれない。
浦飯幽助たちは、常盤愛は見境なしに殺す危険人物だと広めて回るかもしれない。
今ごろ、たくさんの参加者が愛をブラックリスト入りにしていて、気づいていないのは当の我が身だけかもしれない。
そういう可能性があるから、うかうかしている暇なんてないはずなのに。

「あたしは強い。あたしは強い。あたしは強い…………って。
いつもなら、こう言えば落ち着いたのに」

強くなったのだと、信じていた。
上手く立ち回って、自分だけの力で、生き残れるはずだった。
他人なんて、特に男なんて信用できない。
脱出のために仲良く協力し合うなんて光景はあり得ない。
利用するか切り捨てるかして生き残るしかない。
そうやって、幾重にも頑丈な鎧を着て、これで間違っていないと言い聞かせていられた。

それは、愛が『怖がり』だから?
違う。そんなことあってはならない。
だって、怖がっても誰かが助けてくれるわけではないから――



誰かが――



「そこにいるの、誰」



誰かが、いる。
風が吹いたのかと思ってしまいそうな葉ずれの音だったけれど、
これまで森の中を歩き回った経験と、経歴がら人の気配に敏感になっていたことが役立った。
雑草の繁茂する、木と木の間に目を凝らす。
木陰から謎の人物が現れると予期していた愛は、しかしぎょっとして腰を抜かした。

透明な空気の布でもめくったかのように、何もなかった場所から少女の姿が現れた。
しかもその透明人間には、見覚えがあった。

「わー、よく気づいたわね。転校生の常盤さんだったかしら?」

吉祥寺学苑の制服を着た少女。
神崎麗美。
あの高坂王子と一緒にいたとかいう、付き合いのほぼ皆無な同じクラスの生徒。

「か、かんざき、さん……?」
「あ。あたしの名前覚えててくれたんだーうれしー。
そうよー、あたし同じ三年四組の神崎麗美ちゃん」

妙に明るい声で、愛が呆けていないか確かめるように眼前でヒラヒラと手を振ってみせる。

おかしい。
転校して日の浅い常盤にも、まずおかしいと感じられる。
なんでこんなに明るいんだろう、とか、なんで笑顔なのに不気味に見えるんだろうとか。

「どしたの? 幽霊と会ったような顔しちゃって。
ひょっとしてあんな登場したから、死んでて化けて出たとか思っちゃった?」

……いや、それ以前にもっと気にすることがあったはずだ。
そう、確か高坂はこいつと合流の約束をしていた。
時間を考えればとうに再会しているはずなのに、まるで常盤のことを何も聞いていないかのように話しかけてくる。

「まずは、お互い無事で良かったねーって言えばいいのかしら?
……もっとも、アタシが『無事』かっていうと疑わしいけどねぇ」

偶然か、理由があって合流に失敗したのか。
それとも、知らないと見せかける演技をして、愛が下手な実力行使に出るのを待っているのか。
こうやって話をしているのも罠だろうか。
読み取ることができずに、どう出るかを測りかねた。

「どうして、隠れてアタシを見てたの?」
「だって脇目も振らずに走ってきたかと思ったら、急に止まるんだもの。
まるで、『人殺し』から逃げてきたみたいだったじゃないの?」

語尾をあげ、さも気になるという風な流し目を送りつけて、愛が答えるのを待っている。
むっとしたけれど、だんまりを決めこめばそれをきっかけにクロと断定されるかもしれない。
どうしよう、と初めてうろたえる。
ここで今度こそ偽の情報を撒くという手もあったけれど、高坂王子らの仲間だったらしいことを思えば得策じゃない。
何より愛自身、そういった計算を繰り返すことに疲れを覚えだしていた。



「『死んだら生き返らせればいいじゃん』とか、頭のおかしいこと言う連中から逃げてきたの……」



結局、これだけを言った。

「へー、確かにそれは頭がおかしいわね。そいつら、気が狂ったりしてたの?」
「まともには見えたけど……話してることはまともじゃなかった」

浦飯たちの言ったことには怒りを抱いていたのに、他人から狂った連中だと言い切られるのは奇妙な抵抗があった。
ぽつりぽつりと、支障はなさそうな範囲で説明する。
浦飯幽助なる少年と、そのあとに秋瀬或という少年に出会ったこと。
死人が生き返る世界から来たとか、死んだ知人を生き返らせようという話になったこと。
死の蛭については伏せ、その言いざまに対して怒りを覚えたこと。

「なるほどね。確かに勝手な連中だわ」

神崎は口をへの字にして、うんうんと頷いた。
それは話を合わせての相槌ではなく、本当にそう思っての言葉に見えた。
やはりこの女は愛のことを何も知らないのではと、安堵を持ちはじめる。



「せっかく殺したのに、誰が生き返ってほしいなんて思うもんですか」



その言葉に、そう言った神崎がにっこりと笑っていたことに、安堵がふき飛んだ。

「生き返らせるってことは、償いをするってことじゃない。やり直すってことじゃない。
やり直すとか、がんばるとかは、もう捨てたのよ。
まぁ、吉川には生き返ってほしいと思わなくもないけどね。
でも、吉川たちを殺したアイツはダメ。絶対に許せない」
「殺し合いに……乗ってたの?」
「あれー? そんなに怯えることはないんじゃない?
こんな場所なら、誰が加害者になって誰が被害者でもおかしくないんだから。
あの道の駅の女もそうだったわ。人殺しのくせに、被害者ヅラして。
マシンガンなんてもので友達を撃ち殺しておきながら、開き直ってみせたの」



「………………え?」



道の駅。
マシンガン。
女。

アイツじゃない、と否定するには条件がそろいすぎていて。

「…………何よ、その顔と反応は」

動揺を悟られまいとする方が無理だった。
見逃さず、神崎麗美の眼が鋭い光を宿らせる。



浦飯幽助と秋瀬或の追跡を中断させたものは、携帯電話の着信音だった。

時間的にそろそろだと踏んでいた秋瀬は、少しだけ待ってくれないかと幽助を制止する。
ほとんど先行するように駆けていた幽助も、神妙な表情を見て立ち止まった。
一刻を争う追跡劇の最中とはいえ、六時間に一度の生死確認を邪魔はできなかった。
幽助自身の身内はもういないにせよ、どれほどの犠牲者が出たのかは気になるし何より秋瀬の知り合いが呼ばれるかもしれない。
即座に携帯電話を耳に当て、二人は死者の名前を知る。

幽助を驚かせたのは、前回をはるかに上回る人数で読み上げられた死者の名前。
その中に、園崎魅音や前原圭一の名前があがったことにも表情を苦くする。
そして、秋瀬或にとっても驚くことがあった。

「真田君と……月岡君が……」

胸を刺突されたような驚きを覚えたことが、意外だった。
おそらく、役割を聞きまわった参加者たちの中で、初めて死亡を告げられたからだろう。
皆で這い上がる道を見つけられず、男は死んだ。
新しい『生まれ変わった月岡彰』は、二度目の死を迎えた。
知っていた。未来とはそういうものだと。
知っていたはずなのだが……。

「時間を取らせて悪かったね、捜索を続けようか」
「大丈夫か? 知ってるヤツが呼ばれたみたいだけど……」
「浦飯君ほどじゃないさ。それに、常盤さんだって放送を聞いて足を止めているかもしれない」
「距離をつめるなら今のうちってことか」

そう間をおかず、二人は歩みを再開する。
果たして秋瀬の読みは当たっていたのかどうか、間もなくして浦飯のレーダーには二つの光点が映った。

『神崎麗美』という名前の書かれた光点が、『常盤愛』のそばから離れていくところだった。

「もう一人が気になるけど、まずは常盤の方だな」
「いや、この人と常盤さんがどう接触したのかも気になるし、僕はこの子の方を追うよ。
少しでも多くの人と話しておきたいしね」

それに幽助の前では敢えて言わないが、レーダーからでは生死まではわからない。
常盤愛がすでに死体であり、神崎麗美が殺人者である可能性も否定はできないと見てのことだった。
まだ不安定そうな幽助を一人にするのは気がかりだが、少なくとも常盤に対しては穏便に接するだろう。

「レーダーを一度預けてくれないかな? 『神崎』さんへの対応が済んだら、君たちに合流するから」
「ああ、別にいいぜ。常盤のことは心配するな。さっきみたいに手を出させる真似はしねぇよ」



「あんたが『秋瀬或』?」
「僕の名前は常盤さんから聞いたんだね。『神崎麗美』さん」

天才か狂人か。
この少女はそのどちらに近いのだろう、と秋瀬或は二択を直観する。
その笑顔のどことなく『壊れた』感じが、我妻由乃の片鱗と少し似ているからだ。
孤独だとか、飢えだとかが臨界突破した、負の想念からくる独特の迫力だった。

「へー。別に、どこでアタシの名前を聞いたのかは興味ないわ。
でもアタシは、あの女の知らないことだって知ってるわよ。
『探偵』で『前の殺し合いの関係者』で、『天野雪輝の味方』の秋瀬或クン」

ただし、我妻由乃とは違うところもある。
あの少女は、それでも懸命に『なにか』を獲得しようと足掻く狩人の目をしていたけれど。
この少女が笑顔に宿す瞳は、とても虚ろなものだった。

「……高坂君から、聞いたんだね」
「さぁね」

ハッタリによる断定だが、大筋に違いはあるまいと断定する。
天野雪輝のことを伝聞から知ったとすれば、可能性がある人物は3人。
我妻由乃が教えるケースは、およそあり得ない。
そして最初の放送で呼ばれた日向よりも、まだ生存している高坂の方が多くの人間と会話しているだろう。
しかし、事前に高坂王子から話を聞いたとすれば、或を危険人物だと認識することはないはずだ。
だとすれば、神崎麗美の試すような言動はどこから起因するのか。
少女の狙いが読めず、さらに問いかける。

「それで、君は僕たちのことをどう思ったのかな? ずいぶんと警戒されてしまったようだけれど」
「べっつにー。何かされるって警戒してるわけじゃないし、何をしようとも邪魔だてするつもりはないわよ?
ただ、いくつか聞いてみたいことはあったわね。たとえば――」


ニヤリと笑むように唇をゆがめて、言った。



「この殺し合いが開かれたのって、天野雪輝のせいなの?」



問いかけが、或を撃ち抜いた。

「いや、そんなことはないよ」

否定した。
否定したけれど、心中ではやはり、と思った。
予期しないでは、なかった。
だからこそ、これまで天野雪輝に関する情報をあまり口外しなかった。

全てのことが明るみになった時に、こう言い出す人間が現れるのではないか。



『なんだ、じゃあ殺し合いが始まったのは、天野雪輝のせいじゃないか』と。



「前の殺し合い参加者なんでしょ。次の神様が決まる寸前だったんでしょ?
だったら、どうしてこんなことが起こったのか説明できないの?
殺し合いに深くまで首突っ込んでたんだし、聞いた話じゃ神様目指してたんだからさ。
そこまで深く関わっておいて、こんなに大勢の人を巻き込んでるのに『何も知りません』じゃ済まないんじゃないの」

次の神様を決める殺し合いに参加していた。
『自分が優勝して、その後にみんなを生き返らせよう』と、客観的に見れば正気の沙汰ではない発想から殺し合いに乗って、優勝した。
結果として神様になったのに、恋人をなくした喪失感から神としての責務を放棄し、世界を消滅させて怠惰な一万年を過ごした。
ともに一万年を過ごしていた部下である使い魔ムルムルが、いつのまにか主催者の立場に立っていた。
主催者は、『神様の力』を優勝者に贈呈すると宣言した。

事実をつなぎ合わせれば、『雪輝が使い魔の勝手な行動をさえ見逃すほどに腐抜けていたから、みすみす殺し合いなんてものを開かせた』とも受け取れる。
人によっては『神様が関係する殺し合いなのに、現・神様である雪輝が何も知らないなんて無責任にもほどがある。雪輝が神として職務怠慢だったせいだ』と考えるかもしれない。

「君がどうしてそう思ったのかは分からないけれど、雪輝君に責任はないと断言する。
前のゲームと今回のゲームでは、ルールや趣向に違う点も多いんだ。
素直に、前回のサバイバルゲームと同じ催しだと考えることはできないよ」

或としては、そう思わない。
ムルムルが複数個体いることは雪輝の話から分かっているし、並行世界が無数にあるという事実だって掴んでいる。
主催側にいるムルムルが雪輝に仕えていたムルムルと同一かどうかなど断定できない。
それに主催者の『自称・神様』にせよ、雪輝が万全だったとしても止められたかどうか怪しい。

しかし血と恐怖の世界に十二時間以上も放り込まれ、友人や大切な人を殺され、
控えめに言っても主催である『神様』を憎悪しているに違いない生存者たちは、そう思うだろうか。
雪輝もまた被害者なのだと割り切って、協力者として受け入れられるだろうか。
あの遠山金太郎にはそれができていたけれど、ほかの参加者も皆がそうだとは限らない。

「ふーん。じゃあ、質問を変えるわよ」

そんな或の煩悶を、すべて見通したわけではないだろうが、神崎は軽やかな口調で続ける。



「実はあたし、天野のカノジョに、仲間を殺されてるの」



我妻由乃。
最大の障害のことに違いなかった。

「襲われた時はピンとこなかったけど、桃色の髪にいっちゃった目をした怖い女って、最初に会ったヤツが教えてくれてた特徴そのまんまだったわよ。
今思えば、『ユッキーと結ばれたい』とか言ってたもの。どう考えても天野雪輝のことじゃない?
ほかに、名前にユキがつく男子っていないもんねー」

少ない手がかりから、まるで全貌をつかんでいるかのように推理を語った。
じっさい高坂ならば、雪輝監禁事件や8thとの戦いを見て『我妻由乃は危険人物だから気をつけろ』と警告したくもなるだろう。
高坂が呼ばれた時期しだいでは、由乃の目的をいつもの例によって『天野雪輝を生かすため』だと勘違いしてもおかしくない。

「そいつは、我妻なら雪輝のために殺し合いに乗るかもしれないって言ってたわよ?
それって、雪輝クンのせいでたくさんの人が殺されたってことじゃないの」
「それは違う。信じてもらえるかは分からないけれど、彼女が殺し合いに乗った理由は、ごくごく利己的なものだ。
雪輝君を優勝させるためなんかじゃないよ」
「ふーん? じゃあ、聞き方を変えるわよ」

神崎はそこで句切り、ためてから言った。



「ちょー愛してる彼女さんが殺し合いに乗ってるようだけど、雪輝君はどうするの?」



少し、黙る。
まさに雪輝自身が答えを出せていない問題だったから、というのがひとつ。
楽しそうな少女の狙いが読めないから、ということがもうひとつだった。
間違いなく頭が切れる。そんな少女が、雪輝を糾弾したとして、それでなにをしたいのか。
雪輝に恨みを持って立場を危うくすることが狙いなら、この場ではなく第三者と出会った時に初めて披露するはずだ。

「少なくとも、彼女に同調して殺し合いに乗ることは絶対にないだろうね。
彼女を止める側に回るだろうことは、保証するよ」

或の擁護を意に介さず、少女は続けた。

「止めるってどうやって? 自分の恋人を殺すの?
それとも、愛のチカラってやつで説得とかしちゃうの?
でも、あんたたちっても元の世界でも殺し合いに参加してたのよね?
『帰ったらまた殺し合いしなきゃいけないけど、今は殺し合いヨクナイ!』とでも言って説得するの?
それってただの問題の先送りじゃない。脱出に成功しても、天野クンは遠からず彼女と殺しあうことになるわけよ
対主催派からすれば味方が増えて願ったりな話だけど、それで彼は幸せになれる?」

……まったく、痛いところを。
内心でつぶやき、或は言われずとも分かっている論説を反芻した。
現状、雪輝が我妻由乃を殺すのは不可能。最大のタブーのようなものだろう。
我妻由乃を殺せず、死なせたからこそ、一万年間も絶望し続けていたのだから。
ついさっき会った時も、『由乃の代わりに死んでもいい』とまで言ってのけた。

しかし、たとえ二人を死なせずして殺し合いから脱出させたとしても、問題はまったく解決されていない。
あの我妻は、『サバイバルゲームが決着する直前』の時点から来ている。
雪輝と我妻の、どちらかが神にならない限り、二週目世界のサバイバルゲームは決着しない。
つまり我妻由乃が生きていては、天野雪輝は神になれなかった。生きていれば歴史が変わる。
ならば、我妻を雪輝とともに『元いた世界(一万年後)』に連れて帰ってしまうことでタイム・パラドックスが起こる。
それこそ、かつて彼女自身が時間を戻して過去にとんだ時に、世界が分岐してしまったように。
『我妻由乃とともに生還した雪輝の世界』と『サバイバルゲームの決着前に我妻由乃が消失し、絶望する雪輝の世界』に分岐するだけだ。
それでは今この場にいる雪輝をどうにか幸福にしただけで、新たに雪輝が絶望する並行世界を生み出してしまう。

「あ、そうか。アタシ、いいこと思いついちゃった~」

まるでゲームの攻略法でも閃いたかのように、神崎は両手のひらをパンと合わせた。

「もしかして、主催者の神様パワーに頼って、元の世界の殺し合いをどうにかしてもらう?
それはそれでいいかもね。『死んだら生き返らせよう』とか簡単に言えるんだから、もう何でもアリよねぇー?
だから、『死んだ人が生き返るかどうか』を気にしてたんじゃないの?」

そこまで、たどり着かれていた。
胃の中が冷えるような感覚と、神経が張り詰める感触があった。
月岡彰と交わしたような腹の探り合いにすらなっていない。
容疑者から自白させることに関しては、秋瀬或も自信があった。
だが、己が尋問される側に回るのは初めてのことだった。

「あんた、きっと我妻由乃を生き返らせたかったんでしょう。
最終的に2人が殺し合いをしても、生き返らせて二人幸せになればいいって」
「まさか。そこまで極端なことを考えてはいないよ」

例えば。
我妻由乃は、元いた二週目の世界、元の時間軸に返す。
そして、同じように雪輝を神にするために死んでもらう。
歴史と同じ結末をたどるのだから、タイム・パラドックスは起こらない。
その後に、死んだ我妻を生き返らせる。そして雪輝のいる一万年後に送る。
最大の反則手であることは理解しているが、それでも手段の一つとしては想像していた。
雪輝が我妻なくしては幸せになれないならば、私情を殺してでもそうするべきだろうかと思ったこともあった。

「ってゆーか、たくさんの人を殺しておいて、今さら自分たちだけ幸せになろうって言うの?
そんなことが許されると思ってるのかしら。
しかもアンタ、浦飯幽助には『生き返らせるのは慎重に考えた方がいい』とか言ってたそうじゃない。
自分も蘇生を考えてたくせに、どの口が言ってるのかしらねぇ。
浦飯のためなんかじゃなくて、敵に回したくなかっただけじゃないの」

頭のいいヤツってむしろ考えることが読みやすいのよね、決まったルートをたどるから。
そう指摘して、締めとなる言葉を言い放った。

「そんな風にすかした態度をとって余裕気取っちゃってさ。
本当はアンタこそが、誰よりも八方ふさがりなんじゃないの?」

或は、黙る。
諦めるわけにいかないからこそ、答えるわけにいかない。
事情のすべてを知悉してはいないけれど、神崎の指摘は逃げ場がないほどに的を得ていた。

雪輝が『我妻由乃をどうしたいか』について答えを出せるかさえ、こじれきった今ではおよそ困難すぎる試練だった。
しかしそれを乗り越えても、雪輝が『由乃を殺せない』と結論づけてしまえば、脱出後の二人をどうするかという解答不可能な難題が立ちはだかる。
それならば、いっそ我妻を殺して、己の手で雪輝を幸せにしてやればいいのではないかという欲望が持ち上がり。
しかし、由乃の存在なくして一万年間も不幸だった少年にそれを強いるのかと、理性が歯止めをかける。
さらに言ってしまえば、あれだけの人間を殺して壊れきった我妻を救いようなどあるはずもない。
無理難題だと分かっていた。
しかし諦めることも許されなかった。

そして、理解する。
この少女に、普段のペースを乱されている理由。
狙いが読めなかったのではない。
この少女には、最初から『狙い』などなかったのだ。

「まっ。そういう風にアンタがいかに手詰まりかを証明したところでー。
どうせだから、引き取ってほしいものがあるのよねー」

ごそごそとディパックを探り、数枚のメモ用紙をつかみ取る。

「これ、彼女に殺されたヤツがちょーっと首輪について調べてた情報なの。
跡部王国だか透視能力だか知らないけど、信頼できる筋の情報だとは思うわよ。
で、これを――」

二つに折りたたんで、両手の人差し指と親指でピリリと裂け目を入れて。
ビリビリと、一気に破いて引き裂いた。
念入りに細かく破き、パラパラと足元に落とす。

「ほら。欲しけりゃ、地面に這いつくばって拾いなさいよ。
もっとも――首輪を外せたって、アンタの大切な友達は幸せになれないでしょうけど」

彼女に狙いがあるとすれば、それは否定。
否定してどうしようというのではなく、ただ己が愉しむために否定した。

だから、神崎を呼び止められない。
世界一の探偵を志望する少年も、一人の中学生でしかなかったのだから。
ただ、立ち去る背中へと、竜宮レナや真田や月岡たちに尋ねてきた問いかけを放つ。


「君は、何になりたいんだい?」
「なりたいものなんて、ないわよ」

【F-4/南東部/一日目・日中】

【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:The rader@未来日記、携帯電話(レーダー機能付き)@現実、セグウェイ@テニスの王子様
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0~1)、火炎放射器(燃料残り7回分)@現実、
インサイトによる首輪内部の見取り図(修復作業中)@現地調達
基本行動方針:この世界の謎を解く。天野雪輝を幸福にする。でもどうしたらいい?
1:神崎の落としていった見取り図を修復して書き写し、浦飯たちと合流する。
2:我妻由乃を止める。天野雪輝のために、まだ殺さないでおきたいが……?
3:越前リョーマ、切原赤也に会ったら、手塚の最期と遺言を伝える。
[備考]
参戦時期は『本人の認識している限りでは』47話でデウスに謁見し、死人が生き返るかを尋ねた直後です。
『The rader』の予知は、よほどのことがない限り他者に明かすつもりはありません
『The rader』の予知が放送後に当たっていたかどうか、内容が変動するかどうかは、次以降の書き手さんに任せます。
幽助とはまだ断片的にしか情報交換をしていません。




隅っこにうずくまり、隠れていたつもりだったのだが。
それだけでは『そっとしておいてほしい』という意思表示にはならなかったらしい。

「常盤」

神崎がいなくなって、次に声をかけてきたのはさっきの男――浦飯幽助だった。

さっきまでの常盤だったら、警戒心が先行してまず逃げをうっていたかもしれない。
しかし、今は『うっとうしいな』と思っただけだった。
浦飯幽助を許す許さないよりも、今の常盤は自分自身の問題が重すぎた。

中川典子がどうなったのか、知ってしまったのだから。

「その……悪かったよ」

第一声は、謝罪だった。
怒りにまかせて掴みかかられるかと思えば、ひょうし抜けがする。

「そりゃあ、いきなり死んだって生き返らせればいいとか言われたらおかしくなったのかと思うよな。
っつーかよ、オレだって、ぐだぐだ考えるガラじゃねえってのに。煮詰まって変なこと言っちまってた。悪かった」

不器用そうに頭を掻きながらぺこりと頭をさげる。
自身が殺されかけたことなど、すっかり脇において話している。
人の気持ちも知らないで、と苛々する。

「その……これはオレの勝手な思い出語りなんだけどよ」

口を閉ざし続ける愛を、許していないと解釈したのか。
そんな前置きをして、幽助は喋り始めた。

「オレが死んだ時は、螢子が泣いてたんだよ。おふくろも生気が抜けたみたいになっちまってて……すっげぇバツが悪かった。
それまで、周りからもっと煙たがられてたはずだったから、あんなに泣かれるとは思わなくてよ。
だから、こんなに悲しませるぐらいなら生き返ってもいいかと思ったんだ。
螢子についても、それと同じように考えちまってた」

あの時の螢子は、俺が生き返るのをずっと待ってた。
浦飯はそう言った。

それがとてつもない想いのなせる行為だと、感じ取るぐらいはできた。
常盤だって死んだら悲しんでくれるような、ミホやケーコといった親友はいるけれど、
幽霊になって化けて出たとしても『絶対に生き返ってくる』と信じてくれるかどうか。
いや、むしろ早く死んでくれと願う連中の方が多いかもしれない。
さっきの、神崎麗美のように。

「だから、逆の立場になって。
俺が生き返ってほしいって言わなかったら、悪い気がして……」

顔を向けることができないから、どんな顔をしているか分からない。
こいつなりに『生き返りさえすればそれでいいのか』と言ったことに答えようとしたのだろう。
だとすれば、この男はきっと本物だ。
少なくとも、少女当人の気持ちを全く思わなかったわけじゃない。

でも、今さらそれを認めるのはしゃくにさわる。
清い気持ちでハッピーエンドを期待していたこいつが、妬ましい。
そんな感情が、ぶっきらぼうに反発の言葉を吐かせた。

「でもあんた、まるで泣いてないみたいじゃない。
いくら想ってるからって、涙も流さないようじゃ説得力なんてないわよ」

もう、優しい大人になんて、絶対になれそうにない。
真っ暗な気持ちで、そんなことを思った。

「泣けねぇよ…………俺のせいだって思ったら」
「さっき言ってた『間に合わなかった』ってやつ?
だからそれは責任でもなんでもないじゃない。
そんな理由で泣いてくれないなんて――」
「間に合わなかったことだけじゃ、ねぇんだよ」

それきり浦飯は黙り込む。
言いたいことがつかめない。
浦飯はすぐに病院に行ったはずだった。何の落ち度もない。
螢子を殺したのは渋谷翔だし、殺し合いに呼んだのは主催の大人たちだ。

雪村螢子が殺し合いに呼ばれたことに、浦飯幽助の責任なんて――

――あれ?

気づく。
とても冷徹で、しかし腑に落ちてしまうことに。

学籍簿で、見たのだ。
浦飯幽助の知り合いは、同じ学校の『雪村螢子』と、仲間だったらしい『桑原和真』。
もう一人、敵対する人物が誰だかいたらしいけれど、つまりその四人が『浦飯幽助を中心とした人間関係』だったとは察しがつく。
桑原とかいう男は知らないけれど、色々な事件に巻き込まれたのは、浦飯が『霊界探偵』だったせいらしいのだから。
愛の知り合いもまた『三年四組のクラスメイト』だった。
だから、『色々な学校の生徒が無作為に選ばれた』ぐらいにしか思わなかった。
しかし、浦飯からすればどうだろう。
探偵で、色々な事件を解決してきた。
そっちの業界ではそこそこ有名で、何とか武術会なるイベントに友人ともども強制参加させられたこともあった。
そんな風に色々とあった人間だから、主催者も彼に目をつけた。
何十万人といる学生の中から、浦飯幽助を選んだ。
殺し合いに招かれたりしたら、そうなのだろうと納得してもおかしくない。
だとすれば。



『浦飯幽助の身近な人物』だったから、雪村螢子は巻き込まれた。



浦飯幽助という存在が、雪村螢子を殺し合いに巻き込み、死なせてしまった。



「自分が許せないから、泣く資格もないってわけ?
……螢子さんは『あんたのせい』なんて思ってないかもしれないわよ」

そういう風に、受け止めてしまったとしたら。

「分かってる。螢子はそんなことで恨んだりしない。今までもずっとそうだった。
でもな、分かってても、どうしようもできねぇんだよ……」

己を許そうとしても、許せない。
危険な目に巻き込んだこともあったのだろう。
しかし、真の意味での『手遅れ』に直面したことはなかったはず。
たとえ、当の大切なひとが許していたとしても。
許さなければ誰にとっても救われないと分かっていても。

「アイツの為に何をしてやれるんだって、そればっかり考える……」

だからこその、殺し合いの打倒。だからこその、死者蘇生なのか

「なんで、そんなこと、聞かれるままに話しちゃうのよ。
アンタ、あたしに殺されかけたこと忘れてんじゃないの……?」
「そりゃあ……」

短時間の会話を交わしただけだが、浦飯が自分の心境を、それも繊細なところをベラベラと喋るタイプじゃないと分かる。
会ったばかり、しかも印象は最悪だろう相手に、どうしてここまで伝えようとするのか。

「引っ叩かれた時に、痛かったからかもな……」
「意味わかんない……マゾなの?」

ぴしゃりという軽い音から、浦飯が己の頬に触れたことが分かる。

「妙に懐かしい気分になって……。
親からげんこつを食らったり、殴られたことはあったけど、俺にビンタを食らわせたのは、アイツだけだったから」

それは違う。
常盤愛は、そんな女性と重ねられるキレイな女じゃない。
少なくとも、螢子さんは脅して殺人を強要させたりしない。
いざ惨事になったと知ってバカみたいに震えることもない。
『まさかそこまで殺すと思わなかった』なんて愚かなことも言わない。

「あたしはそのケーコさんじゃないわよ」
「んなこた分かってるよ。ただ、なんか懐かしかったんだ。そんだけだ」

常盤愛は、浦飯に助けてもらうべき少女じゃない。
――だから、助けは求めない。

すぅ、と息を吸い込み、きっぱりと吐き出した。

「――だったらさ、それってもう答えは出てるじゃない」
「答え?」
「自分を許すも許さないも、ぜんぶアンタの都合なんでしょ?
アンタ自身は、ケーコさんが喜ばないことぐらい分かってるんでしょ。
そんなに人をウダウダ悩ませてまで生き返りたいと思う人かぐらいは、分かるでしょ」

神崎麗美から、色々なことを言われた。
悪意があり、毒があり、正論があった。
男を許せないと思うのも、緊急避難だから悪くないと信じこむのも。
ぜんぶがお前の勝手で、同意するヤツなど一人もいないと言われた。

「あたしはそのケーコさんじゃないけど。
でも、あたしだったら怒るわよ。『それってどっちなの?』って。
生きてほしいから生き返らせるの?
それとも、自分が謝りたいから生き返らせるの?」

神崎は、愛がとち狂って蘇生目当てで殺し合いに乗ることを期待したのかもしれない。
ここで『生き返らせたい気持ちが分かる』と同調すれば、浦飯幽助を味方につけられるかもしれない。
どんな手を使っても生還するなら、それが手っ取り早いかもしれない。

「そんな不純な気持ちで『生き返ってほしい』とか思われたって、全然嬉しくなんかないんだから。
螢子さんがアンタの言う通りの女神さまみたいな人なら、そんなの許すはずないじゃない」
「女神って……」

でも、それは無理だ。
たとえ本当に生き返るのだとしても、殺される側は殺す側を恨むだろう。
責任を取るために、取るべき責任を増やすなんてばかげている。

嫌なものは嫌だ。
受け付けないものは本当に受け付けない。
たとえ味方ができるとしても『一緒に死者蘇生目指してがんばろう』なんて言えるはずない。
『たくさんの人を殺してしまったから、私を助けるために蘇生を肯定して』なんて思えない。

「螢子さんはアンタが死んだ時、生き返ってほしいって言ってくれた。
アンタも、生き返ってほしいとは思ってる。
だったら、それでいいじゃないの。思うだけなら自由でしょ?」

少しだけ、視線を浦飯へと向けてみる。
表情は、なかった。
小学生に髪と鉛筆を持たせて、『鏡を見て自分の顔を書いてごらん』と言った時に描かれる真剣な無表情のそれに似ていて。

「そうだな……」

だから、幼く見えた。
男とは、一定の年齢を通過したら欲望というケダモノを宿すのだと信じていた。
それでも、歳をとっても幼さは残るんだと何となく思う。

「てめぇが間に合わなかったせいで死なせておいて。
てめぇの都合で生き返らせますなんて、まかり通るわけねぇよな……」

憑き物が落ちたように、力が抜け落ちるのが分かった。
体から、表情から、目つきから。

「決めた。もう、考えねぇ。
うじうじ期待すんのは止める。
もしかしたら、オレ以外にも生き返らせようとする連中はいるかもしれねぇけど。
生き返るかもしれないのと、最初から生き返りを期待するのは違うよな」

声は、きっぱりとしていた。
心はまだ荒れっているのかもしれないけれど。
少なくとも、顔は穏やかそうだった。
善意からの苦言ではなかったはずだけれど、愛までふっと力が抜けてしまう。
だから、これで良かったのだと思うことにして。



「よし、それじゃ一人になるのも危険だし、しばらく秋瀬を待とうぜ。
オレが聞いたヤバい奴らのことも、まだ伝えられてねぇし」



それで、これからどうしよう。

生き残りを優先するなら、また騙し通すしかない。
しかし神崎麗美の言葉で、理論武装していた鎧はとうに剥がれ落ちてしまった。

それでも。
あれだけのことをしておいて、今さら後戻りもできるはずがない。
自分から逃げ道をふさいでしまったことを自覚して、愛は大きく息を吐いた。

秋瀬或が戻るまで、そう時間は残されていない。


【G-6/北西部/一日目・日中】

【常盤愛@GTO】
[状態]:右手前腕に打撲
[装備]:逆ナン日記@未来日記、即席ハルバード(鉈@ひぐらしのなく頃に+現地調達のモップの柄)
[道具]:基本支給品一式、学籍簿@オリジナル、トウガラシ爆弾(残り6個)@GTO、ガムテープ@現地調達
基本行動方針:生き残る。手段は選ばない
1:???
[備考]
※参戦時期は、21巻時点のどこかです。
※幽助とはまだ断片的にしか情報交換をしていません。

【浦飯幽助@幽遊白書】
[状態]:精神に深い傷、貧血(大)、左頬に傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3、血まみれのナイフ@現実、不明支給品1~3
基本行動方針: もう、生き返ることを期待しない
1:常盤と秋瀬を待つ。
2:圭一から聞いた危険人物(雪輝、金太郎、赤也、リョーマ、レイ)を探す
3:殺すしかない相手は、殺す……?



(いい気味)

ゲームを打倒することはあれほどに脅威で、難関で、絶対に無理だと膝をついたのに。
何かを壊してしまうことは、面白いほど簡単だった。

べつに、天野雪輝のことを心底から恨んでいたわけじゃなかった。
あの時の少女イコール我妻由乃だと気づいたのもほとんど閃きだし、別に殺し合いが開かれた事情なんてもうどうでもいい。

ただ、気に入らなかった。
見方さえ変えればもっと苦しむべき立場にいるはずなのに、余裕を気取って俯瞰して。
もっと苦しんで、じたばたと足掻いた方が見ていて『面白そう』じゃないか。
だから、もっとも痛手となりそうな言葉を投げつけた。
もっと『死者蘇生』を焚きつけて殺し合いに乗せる手もあったけれど、相手も頭が切れる。
意図があからさま過ぎれば、かえって失敗していただろう。

首輪の情報を落として行ったのは、光明があった方が却って足掻くだろうという気まぐれが働いたから。
それに、持ち続けていた『重荷』を、背から降ろしてしまいたかった。

常盤愛に対しては、少し違った。
恨んだし、呪った。
口を滑らせてしまえば、吐かせるのも推理するのも容易い。

吉川のぼるが死んだことも。
あの女があの殺人現場に立っていたのも。
麗美に許せるかと問いかけたのも、ぜんぶ。

こいつの、せいなんだ。

殺そうか、と思った。
もう、世の中のルールは見限った。『悪いこと』かどうか気兼ねすることもない。
それでも、殺してしまえば一瞬で終わってしまう。
麗美はあんなに苦しんだのに、こいつは撃ち殺されるだけでリタイアできるなんて。
気に食わない。

――まさか『こんなおおごとになると思わなかった』なんて考えてないわよね?

――脅迫した女が暴走することぐらい、予想できなかったはずないでしょ。

――無関係そうな女の子だって、殺されてたのよ。

だから、説明した。道の駅で起こったことを。
常盤愛が、どんな大罪を犯したのかということを。
ひな鳥が飲みこめないものを親鳥がかみ砕いて口移しで与えるように、懇切丁寧に説明してやった。

――要するにアンタは、私怨のしかも逆恨みで他人に嫌がらせをして、被害を拡大しただけじゃない。

――誰もアンタが正しいなんて思わないわよ。違うって言うなら死んだヤツの知り合い全員全員に『アタシは悪くない』って納得させてみれば?

――アタシは優しいからそんなモノ要らないケド。

――結局さぁ、男は殺すべきだとか緊急避難とかにかこつけて、殺人を正当化したかっただけじゃないの?

――だってそうよね。参加者の過半数が男なのに『男を信用できない』って時点で対主催グループに混じれるはずないし、その時点で優勝するしか道がないもの。

放心する常盤を横に放置すると、放送を聞き終えてからさらに言葉を重ねた。

――そんなに自分の殺人を正当化したいなら、優勝してから生き返らせればいいじゃない。

――生き返らせるのは勝手なこと? でも、アンタがしてきたこととどっちが勝手かしら

――別にあの女に生き返ってほしくなんかないけどー。友達や先生が生き返るなら、アタシだって泣いて喜んで感謝だってしてあげるわ

別に、友人が生き返ることなんかこれっぽっちも期待していない。
蘇生が可能だったとしても、そんな慈悲を働かせるような大人たちではないことぐらい、天才児でなくとも分かるだろう。

――それさえできないって言うなら、

吊るした餌に乗らないならそれでもいい。
前にも後にも進めずに立ち往生するか、あるいは開き直って自身の優勝を目指し暴走をするか。
どっちにしても、あの場で撃ち殺してしまうより苦しみそうだ。


――アンタは天使なんかじゃない。ただの人殺しの、死にぞこないだ。


神崎麗美は、死人の生き返りなど信じない。
天国も地獄も信じない。
だから、死んでしまえばもう永遠の別れだと悟っている。

だから、放送で呼ばれた友人の名前を呼ぶ。
誰にも悟られないように、そっと。










「さよなら、雅」


【F-4/南東部/一日目・日中】

【神崎麗美@GTO】
[状態]:高揚
[装備]:携帯電話(逃亡日記@未来日記)、催涙弾×1@現実 、イングラムM10サブマシンガン(残弾わずか)@バトルロワイアル 、シグザウエルP226(残弾12)
[道具]:基本支給品一式 、インサイトによる首輪内部の見取り図@現地調達、カップラーメン一箱(残り17個)@現実
997万円、ミラクルんコスプレセット@ゆるゆり、草刈り鎌@バトルロワイアル、クロスボウガン@現実、矢筒(19本)@現実、隠魔鬼のマント@幽遊白書、火山高夫の防弾耐爆スーツ@未来日記
火山高夫の三角帽@未来日記、メ○コンのコンタクトレンズ+目薬セット(目薬残量4回分)@テニスの王子様 、売店で見つくろった物品@現地調達(※詳細は任せます)
基本行動方針:傍観者としてゲームを『楽しむ』。
1・他の参加者を見つけたら、『面白くなりそう』な方向に扇動する。
2・自身が殺されることも否定はしない。ただし、できるだけ長く楽しむ為になるべく生き残る。

[備考]鬼塚英吉は主催者に殺されたのではないかと思っています。




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最終更新:2021年09月09日 19:47