ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- ◆jN9It4nQEM
非情にまずい状況だ。
菊池善人は現在の状況を端的に判断する。
第二放送が菊池達にもたらした影響はあまりにも大き過ぎた。
ここにいる三人は、第一放送で大切な人達は呼ばれていない。
だから、僅かながらでも思ってしまったのだ。
誰も失わずに、日常へと帰ることができる、と。
(大切な人が呼ばれてしまった。ま、単純だけど一番胸にくるやつだよな)
けれど、何も失わずに元の世界に帰れるなんて甘い幻想は幻だった。
ちらりと後ろを振り返ると、呆然とした自表情で立ち尽くす杉浦綾乃と、滝のような涙を流している植木耕助がいる。
仲間、友達、救いたいライバル。喪ったものはもう二度と戻ってこない。
なまじ、やり直すなんて夢に浸れないくらいに現実を知っている二人は、落ちたくても落ちれない。
帰りたかった日常は、何処にもないことに気づいてしまっていた。
(どうすっかな……これ。菊池センセーのありがてー講義を聞かせて元気になるならいいんだけどさ。
そんな、簡単にはいかねぇよな)
拙い頭脳を必死に回して、菊池は考える。
このままだと、底なし沼に沈むかのように二人は方向を違えてしまう。
何か一言でいいのだ。進むべき方向を見失わないように、ちょっとした気遣いの言葉を。
「…………うし、もう大丈夫」
そんな重い沈黙を破ったのは、涙を大量に流していた植木だった。
ぐしぐしと腕で涙を拭い、きりっとした目で前を向いていた。
数病前まで泣いていたと思えない様は、隣で呆然としていた綾乃も目を見開いて驚いている。
「佐野とロベルトが死んで。シンジもやっぱり死んでてさ。すっげぇ悲しいし悔しい。
どうして死ななくちゃいけねぇんだって今でも思う」
少しだけ、涙の混じった声で植木は淡々と言葉を紡ぐ。
それでも、言葉の一つ一つを噛みしめるかのように、明確に意志を伝える。
「それでも、俺は立ち止まってられねぇ。まだ、生きている仲間がいる。
ヒデヨシと合流して、バロウをぶっ飛ばして。やることはたくさん残っているんだ。
いっぱい泣いて、悲しいのはここでやめとく。そんで、全部終わらせた後、もっかい泣く。
今は負けねえ。痛いけど、辛いけど、意地でも前に進んでやる。俺は絶対に、折れねえ!」
短い言葉ながらも、植木ははっきりと伝えてくれた。
負けない、と。痛みを抱えて前に進む、と。
ならば、菊池もそれに応えなくては。
今も舞台の裏側でふんぞり返っている主催者共に一発キメるまで、足を前へと踏み進む。
「…………私は、まだ実感がありません。赤座さんが。……………………歳納京子が、死んだなんて。
信じれないんです。いや、信じたくないんです」
そして、最後の一人である綾乃は未だ心ここにあらずといった虚ろな表情を浮かべていた。
植木や菊池と違って、正真正銘の一般女子中学生である綾乃にとって、友達の死を告げる放送はショックが大きすぎた。
ただぬるま湯の日常をいつまでも続けたくて願ったことは、もう叶わない。
みんなで帰るというささやかな想いは粉々に打ち砕かれてしまった。
「いつも騒ぎを起こすごらく部にもう会えないなんて……嫌。
私達は何の悪いこともしていないのに、こんな思いをしなくちゃいけないんですか」
枯れ果てた声帯から絞りだすかのように、綾乃はたどたどしく、思いをぶちまけた。
どうして。どうして、自分達なのだ。
こんな辛い思いをする程に自分達は罪深い存在だったのだろうか。
否。私達は、そこまでひどいことをしていない。
ちょっとだけ羽目をはずして遊んだことはあったとしても、基本的には品行方正に生きてきたはずなのだ。
「どうして…………っ! どうしてっっ!!」
綾乃は、現実を理解できても、前へと進むことができない。
行き止まりの絶望に背を向けれない。
今はただ、泣くことしかできなかった。
◆ ◆ ◆
たった一度与えられたチャンスを間違えた人間に、未来はない。
◆ ◆ ◆
御坂美琴は、歯を食いしばっていた。
後ろでひくひくと泣いている吉川ちなつを見て、自分はまた護れなかったと認識した。
何が、先輩だ。自分を慕ってくる女の子一人を悲しみから護ることすらできやしない。
「……で、お姫様はいつまで悲劇のヒロインを振舞っているのかしらねぇ。
いくら泣いても、自分を責めても。死んだ人達は生き返らないわよ?」
言葉を発するのでさえ重い空気の中、式波・アスカ・ラングレーは苛立ちを吐き捨てるかのように呟いた。
二人に対する嫌悪感を隠さず、アスカは淡々と事実を突きつけていく。
「生き残ったアタシ達に戻る道なんてない。
残っている可能性を意地でも離さずに進むのが、死んだ奴等が一番喜ぶんじゃない?」
「ちょっとそんな言い方……!」
「いいんです! いいんです……式波さんの言ってることは、間違っていませんから」
ちなつは無理矢理に涙を止め、不器用な笑顔を作る。
今、何をすることが死んでしまったあかり達にとって、一番なのか。
ちなつ自身わかっているのだ。いくら泣き喚いても、赤座あかりと歳納京子が還ってこないことを。
死んだ人間を救うことはできやしない。
放送で告げられた夢に縋りでもしない限りは、現実で生きる他、すべきことはないのだから。
それをわかっていながらも、ちなつは動けなかった。
動いてと何度も身体に念じても、石のように固まった両足はビクリともしなかった。
「命の使い方を間違えたら、そこでお終いよ。ただ安寧と待っていても、可能性はやってこない。
闘わなくちゃ、生き残れないんだから」
殺し合いに巻き込まれる前も、今も変わらない。
アスカにとって、エヴァンゲリオンを駆り、戦場で戦うことを当然としていたのだからちなつや美琴と認識が違うのは仕方がないのだ。
だから、彼女は前を向く。生き抜くために最適な道を常に模索し続ける。
この世界で最初であった碇シンジが命を落としても、変わらない。
否、変えれない。自分の優秀を証明する為にも、アスカは勝ちにいかなくてはいけないのだから。
「……それに、周りはアンタ達を待ってはくれないわよ?」
その言葉を象徴するかのように、遠くで銃声が鳴り響いた。
余韻に浸る暇もなく、少女達は選択の時を迫られる。
「御坂さん……」
「アンタが決めなさいよ。別にアタシはどっちでもいいしね」
「私は――――」
行くか、行かないか。
二者択一の問いに、与えられた時間は少ない。
◆ ◆ ◆
救われるべきか、救うべきか。
選択を間違えた人間に、未来はない。
◆ ◆ ◆
初春による襲撃から逃れた雪輝と金太郎は学校に到着していた。
道中、はぐれてしまった秋瀬のことが心残りであったが、戻ったところで雪輝達に何ができるのか。
結局は、再会を信じて彼らは進むしかなかった。
――どうしようもなく、僕らは弱い。
学校には雪輝達以外、誰もいなかった。
もっとも、校庭には戦闘の跡があったことから誰かが戦っていたという認識はあったが、現状は安全地帯という認識は覆らない。
しかし、彼らは学校に留まることを選ばずに、雪輝が提案していた病院行きを決めた。
何故か? 理由は複数あるが、一番に挙げられるのは未だ合流できていない知り合いを捜す為である。
五体満足で健康な雪輝達が引きこもることは下策。加えて、学校では思うような調達ができなかったことも含められる。
このような経緯で、彼らは再び行動を開始した。
そして。
「…………くそっ」
放送が、流れた。幸いのことに、雪輝の知り合いは誰も呼ばれることがなかった。
由乃も、高坂も、秋瀬も。全員がまだ生きている。
しかし、金太郎の場合は。知り合いのテニス部の部長の名前が呼ばれてしまった。
死を、告げられてしまった。
ぐすぐすと、涙を流して歯を食いしばる彼の姿は見ていて痛ましかった。
……神様になっても人並みの感情は残っていたんだ、僕は。
自分の中にうずくまっていた人間性に、くすりと雪輝は薄く笑う。
定まらない自分の“願い”に、救うべき対象の喪失。
此処にいる由乃を救いたいのか? それとも、殺すことで終わらせたいのか?
その答えを知るには、雪輝は時間を重ね過ぎた。大人になりすぎたのだ。
昔の自分なら、迷うことなく決断できたのかもしれないけれど、今は違う。
摩耗した“願い”は、何だったのか忘れてしまった。
それこそ世界を支配して殺し合いを開くぐらいに大切で、あらゆる事象を支配してでも叶えたかったものなのに。
どれだけ、強く想っても――もう、わからない。
「ままならないよ、本当に」
「どーかんだねー。こんなクソッタレた世界、ままならなくて嫌になっちゃう」
いつの間に、近づかれていた?
思考に浸り過ぎていたせいか、接近してくる人影に気づかなかったらしい。
金太郎もショックを受け、自分も上の空。
失態だ、いつ誰が襲ってくるかわからないのに気を散らしていたら直ぐに死んでしまう。
それは、雪輝が潜り抜けてきた死闘から嫌というほど学んだはずだ。
「いきなりは、驚くんだけど。何か用があるのかな?」
「用があるから話しかけたんじゃない。わかっている癖にわざわざ聞くって性格悪いと思うんだけど」
「あはは……」
「笑って誤魔化さなくてもいいよ。まるで、自分だけお前らとは違うんだって顔しちゃってさァ」
けらけらと笑う目の前の少女を前に、雪輝達は怪訝な顔をするだけだ。
いきなり現れて、思わせぶりなことを並べ立てる少女に対して、不信感を抱くのはそう時間はかからなかった。
「ねぇ、未来日記の所有者で、前の殺し合いの生き残りな天野雪輝クン? この殺し合いでも乗っちゃってるのかにゃー?」
「…………へぇ。知られちゃってるんだ、なら隠す必要はあまりないみたいだね。
だけど、一つ訂正。この場では、僕は乗ってはいない。所謂、対主催ってとこかな」
確信する。この少女は紛れもない悪意を持った敵だ。
これまでとは違う、頭脳で相手を掻き乱す――最悪。
ならば、雪輝もそれに合ったスタイルで対応すればいい。
名前と経歴を知られた程度で慌てはしない。
「へー? 彼女はばっさばっさと殺し回っているのに?」
「……そこまで、知ってるんだ」
「知ってるも何も。仲間共々襲われちゃってさぁ。アンタの彼女――我妻由乃ちゃんにねー」
「天野っ!」
「大丈夫、遠山は下がってて」
拙い、非情に拙い。
この少女、想像以上に雪輝達のことを知識として知っている。
未来日記。“願い”を叶える為のゲーム。天野雪輝と我妻由乃の関係性。
言わないが、自分が最後の生き残りで神様だということも既に彼女の掌に含まれているのかもしれない。
油断は、できない。少しでも気を抜くと必殺の言霊が自分に降り注ぐだろう。
「まあそれは一旦、置いといて。単刀直入に言わせてもらうけどさ。
この殺し合いが開かれたのってアンタが原因な訳?」
初っ端から遠慮なしの言霊がやってきた。
掛け値なし、ど真ん中の直球だ。
「ざっけんなや! 誰だか知らんけど、ダチにアホなこと言ってるんやないで!
天野は……! 天野はなぁ!」
「……大丈夫だよ、遠山」
「けどなぁ!」
「本当に大丈夫だから。僕を心配してくれて……僕の為に怒ってくれてありがと。
まだ、ここは僕の分野だ。そうだよね?」
「べっつにー? どうでもいいし、そんなこと。あたしが聞きたいのは答えよ。
ちゃっちゃっと答えてくれない?」
相手は早急な答えを求めてくるが、ここはどうすればいい?
一番正しい返答は何だ?
沈黙は肯定とみなされる可能性があるから不可、何かしらの言葉を持って返さなければならない。
ハッタリとペテンは雪輝も苦手ではないが、完全に得意とは言えない。
友人の秋瀬或であるなら、上手く切り抜けられたかもしれないが、此処にはいない。
金太郎は即座に否定してくれるが、彼の意見は雪輝寄りの感情論だ。
対峙する少女を納得させるどころか、逆撫でするのが関の山だ。
――考えろ。
久方ぶりの頭脳戦に、雪輝は思考を回していく。
不可、不可不可、不可。考えついた答えはどれも簡単にいなされてしまう。
それをできるだけの頭脳を眼前の少女は持っているのだから。
ならば、どうする。結局、何も返さないまま沈黙を貫くべきか。
(……舐められっぱなしは、癪だよね。それに、遠山は僕を信頼して下がってくれたんだ。
ここで、僕が進まなくてどうする)
ここで、意見を退くことは雪輝だけではない、金太郎にまで火の粉が降りかかる可能性を孕んでいるのだ。
自分をダチと呼んでくれた金太郎まで馬鹿にされるのは――腹が立つ。
だから、ここは譲らない。
もし、自分が原因だとしても、謝罪こそすれど飲み込まれてなどなるものか。
「……わからない」
「はぁ?」
「わからない、そう言ったんだ。聞こえなかったならもう一度言うけど?」
「聞こえてるわよ。まさか、それが答えでーすってことかしら」
「『わからない』。君に対して、僕の身からはこの言葉しか返すことができない。
好きに解釈すればいいさ、君が何かに押し付けたいならばさ」
言霊に僅かながらの刺を添えて、返答する。
この返答で少しは苛立ちに左右されて、冷静な判断を乱せば、雪輝としては凄く助かるのだが。
「……っ」
――揺らがないよね。
相手の少女は、眉を少し歪めただけで大きなダメージを与えられなかったようだ。
最初からダメージが通るとは思っていなかった為、落胆こそないもののやはり拙い。
自分が少女に勝っているのは圧倒的な経験と長年の時を積み重ねて身に付けたポーカーフェイスだけだ。
頭脳面では相手に大きく劣るし、身体面は未知数だ。
だが、ナイフ一本しか身に付けていない雪輝にできることはあまりない。
相手が拳銃でも身に付けていたら即刻逃げ帰るレベルだ。
「まーいいわ。この話題はつまんないからやめやめー。それじゃあ、次の話題ーっていうか。
これがラストなんだけど」
「まだ、あるの?」
来る。最初に言っておきながら後回しにされた必殺の魔弾が、やってくる。
雪輝自身の核であり、答えが出ていない最高に最悪な問い。
「あるに決まってるでしょ。むしろ、これが肝ってやつ?
問いかけるわよ。我妻由乃に仲間を殺されちゃったあたしに対して、どうするのかにゃ?
そもそもの話、アンタは我妻由乃をどうするんだろう?」
天野雪輝と我妻由乃の世界に、切り込まれた。
救うべきか、救われるべきか。秋瀬或にも同じように問われた質問だ。
まず、雪輝自身、我妻由乃についてどう想っているのか。
――救いたいさ。
関門の答えは簡単だ。雪輝は由乃のことを愛しているのだから。
愛する人を救いたいと思うのは間違いなんかではない。
ならば、見方を変えて由乃は救われるべきか、救うべきかという視点になると雪輝は顔をしかめざるをえない。
由乃の魂は、生きてきた人生は決して綺麗とは言えない。
何かを裏切って、切り捨てて。他人を害することで、自分の幸せを手に入れようとした由乃は、きっと傍目から見ると救われるべきではないだろう。
雪輝も、その部分は理解している。
「人殺し。それも、現在進行形。そんな爆弾、雪輝クンは普通に接するなんてできないわよねぇ」
……ああ、そうだよ。
心中で鋭く吐き捨てて、雪輝は先程よりも更に深く思考する。
相手は由乃に仲間を殺された所謂、『被害者』だ。『被害者』から見る我妻由乃はただの殺人鬼で、憎むべき存在である。
安易な答えで対抗できる柔らかな憎しみではないだろう。
「止めれない、止まらない。八方塞がりって感じ?」
一々、くどく弱点を突いてくるこの少女はよっぽど由乃のことを憎んでいるようだ。
仕方ないとはしても、やはり自分の彼女“だった”由乃をボロクソに言われるのは癪に障る。
だが、反論できるだけの正当性は雪輝にはない。
少女の言う通り、八方塞がり。由乃は止めれないし、止まらない。
自分の“願い”が定まらないのに止めれる訳がないのだ。
「ぷっくくっ……結局、アンタには無理なのよ。我妻由乃はどう足掻いても救えない。
今ここでどうにかしても無理ゲーよ。前の殺し合いだってあるんだし」
諦めろ、と囁く声が雪輝の耳に届く。
届かない、と嘆く声が雪輝の身体を重く支配していく。
この少女相手に、自分が言えることはもうない。
少女の絶えまない追求に、雪輝は遂には膝を屈しそうに、
「さっきからごちゃごちゃとうっさいねん! 変な理屈ばっかりで頭がおかしくなりそうなんや!」
ならない。雪輝が感じていた痛みを吹き飛ばすかのような快活な声が辺りに響く。
「おい、天野! こんな金髪女なんて関係あらへん! 大事なんはお前が我妻由乃のことをどう思ってるかなんや!
お前がやりたいことを言えばええ! 反対? 知るか、んなもん!」
「へぇ、遠山金太郎だったよね? それ、我妻由乃に跡部景吾が殺されたって事実を付け加えても言えるのかな?」
金太郎とは学校は違うが、同じ中学生というカテゴリーで覇を競い合っていた跡部景吾。
余り話したことはなかったが、金太郎自身も跡部のことをすごいテニスプレイヤーだと知っている。
所謂、戦友というものに入るかもしれない跡部を殺されてなお、金太郎は真っ直ぐな目でいられるのか。
少女の策略は、牙を剥いて金太郎を攻める。
「変わらへんわ。確かに一発ぶっ飛ばさな気が済まんけど、そこまでや。
ウダウダそいつのこと憎んでも、死んだ戦友は還ってきーひん」
「……っ!」
「大体、そんなことよりもや! ワイが一番大切やと思っとるのは天野がホンマにやりたいことなんや」
「……僕の?」
突如、話題を振られて、雪輝はきょとんとした顔をするが、金太郎はしたり顔で話を強引に続ける。
「別にこいつのことは後回しでええんや。いいか、天野が一番やりたいこと、我妻に対してどう思ってるか。
それが一番の鍵なんやで」
「僕が、一番やりたいこと?」
「せやせや。こいつにぶちかましてやればええだけのことなんや」
「随分と勝手なこと言ってくれちゃってるけどさぁ、それって自己満足じゃないの?」
「はぁ? 自己満足で何が悪いん? やりたいこと貫けんよりはよっぽどマシやと思うけどな」
天野雪輝が一番に望んだこと。摩耗した今ではわかるはずもない、本当の“願い”。
由乃に対して、自分はどうしたいのか、一緒に何をしたいのか。
いい加減覚悟を決めて、向き合う時ではないか。
「ブチかましたれぇ、天野ォ!!!」
金太郎が脇で叫んでいた。自分の為に、ここで少女に追い詰められることがないように。
由乃に大切な戦友を殺されている可能性があるにもかかわらず、金太郎は雪輝のことを尊重してくれている。
何故だか、それが無性に嬉しくて。止まっていた感情が少しだけ溶け出したかのように感じた。
ここで、進まなくちゃ駄目だ。
雪輝は、思う。いつまでも忘れた“ふり”をしないで前を向かなくては、と。
涙と感情が枯れ果てる前に願ったことを――表面へと浮き上げろ。
ユッキーと呼んでくれた彼女。殻に閉じこもっていた自分をの世界を無理やりに広げた彼女。
時には迷惑だとも身勝手だとも思った彼女を、雪輝はどう思っていたのか、どうしたいと思っていたのか。
「……ははっ。考えてみれば、単純なことだったんだ」
周りにあるしがらみ全てを打ち捨てて、雪輝が願ったことなんて些細で簡単だった。
殺し合いを抜きにして、何時だって思っていたことだった。
「僕は由乃と一緒に星を観に行く。どれだけ時間が過ぎても、辛いことがあっても。……由乃がその約束を忘れても。
僕にとっては、一度足りとも忘れたことがない大切な約束だった」
紅い日が沈みかけた夕方の教室で、雪輝達がいつか絶対に、と約束した小さな“願い”ごと。
由乃と雪輝。両方の存在が欠けることないままで、星を観に行く。
無理だって勝手に認識して。一緒にいてはいけないと諦めて。
忘れたふりをすることで逃げていたのは自分だった。
「だから、僕に由乃は殺せない。いや、殺さない。一兆を超えて、那由多の選択肢があったとしても。
僕は彼女を愛してる。誰に文句も言わせないぐらいに、愛している」
「……それで、救いますとか言う訳?」
「まさか。僕はヒーローじゃないんだ、救うなんて大それたことはできはしない。
それでも、君がどんな言葉で僕を責めても、もう迷わないし違わない。
犠牲とか、殺された人とかそんなのを度外視してでも――僕は由乃に手を伸ばす。
そして、彼女を迎えに行く」
救われるべきか、救うべきか。
そんな難しい理屈を抜きにして、雪輝は由乃と一緒に星を観に行きたいのだ。
彼女と愛を語らって、青臭い青春を送りたいのだ。
中学生によくある感情の一種だ。至って、普通の少年らしい“願い”ごとだ。
「ありがと、遠山。定まったよ、僕のやりたいこと」
「へっ、ええ顔になったやんけ。そっちの勝手に諦めた奴よかよっぽどマシやで」
「うん、だから僕は貫くよ、最後まで。えっとさ……まあ、そういうことだから、道(そこ)を退いてよ。
僕は今から、この世界で一番大切な女の子を迎えに行かなきゃいけないんだ……!」
「…………っっ! 退く訳、ないでしょう!」
その言葉に、少女は自分の感情を抑えることはしなかった。
背負っていたイングラムを二人へと向けようとするが。
「遅い」
その前に迅速に動いた人影が一つ。
金太郎だ。手には学校で調達したラケットを持って万全の態勢だ。
銃口が二人へと向く前に、金太郎は疾走した。
一秒でも早く、アレを取り除く為にも、ラケットを疾風の如き速さで、大きく振るう。
「……馬鹿みたい。少しは怯えろっつーの」
「はっ、鍛錬はかかさずやってきた訳やし? ダチが撃たれそうな時に躊躇なんてあらへんわ」
ラケットに弾かれたことで、銃弾はあらぬ方向へと跳んでいき、イングラム自体は天高く舞い上がり少女の手から離れることとなる。
今の状況を少女から見ると、完全に詰みだ。
イングラムは弾かれて、自分はラケットを突きつけられた状態。
奇跡でも起こらなければ、このまま突破されるだろう。
それこそ、誰かが通りかかるような――。
「何、してるのよ、アンタ達!」
――正義を気取った馬鹿が通りかかりでもしない限りは。
視界に映るのは三人組の女子のグループのようだ。
……面白チャンス到来ってやつかしらね。
口を三日月に歪めて、少女は此処から上手く掻き乱す振る舞いを考えようと頭を回す。
少しでも、面白おかしく全てを絶望で包む為に。
最初に叫んでやる言葉はどうしようか。
助けてくださいとでも、弱い少女を気取ってやるべきか。
それとも、誰かに脅されて殺人を行っている憐れな殺人鬼を演じてやるべきか。
少女がくつくつと笑みを浮かべて、来たるべく“祭り”を楽しみに思ったその時。
「えっ」
それは、誰もが予想にしていなかった“偶然”だった。
リュックサック的な何かが扇を描いて飛んでくる。
無論それだけならば、さしたる驚きは存在しない。
だが、そのリュックサックは爆裂し、大量の炎を辺りに撒き散らした。
誰もが一瞬の刹那に、行動した。逃げようと踵を返す者、真っ先に仲間に飛びつき、護ろうとする者。
様々な行動をする中で、少女は動くのが遅れてしまった。
思考をゲームを面白おかしくすることに浸らせ過ぎたのか、それとも単純に突然のことに驚き、身体が硬直してしまったのか。
どちらにせよ、少女は動けず、炎はそんな何もできなかった少女に容赦なく襲いかかった。
視界も、思考も焼きつくされる。
吹き荒れる炎に晒された身体は、ただただ――熱かった。
◆ ◆ ◆
Day:the third quarter of the first day
式波・アスカ・ラングレーは、吉川ちなつに撲殺される。
御坂美琴は、初春飾利に焼殺される。
菊池善人は、神埼麗美に射殺される。
遠山金太郎は、天野雪輝に刺殺される。
越前リョー――――
◆ ◆ ◆
式波・アスカ・ラングレーは、動けなかった。
意識が別のことに向いている今ならば、御坂美琴の背中を狙うことができる。
ただ、ここで排除しにかかっても、意味はあるのか。
仮に美琴を上手く排除することができたとしても、場に存在する残り四人が自分に敵意を向けて襲いかかれたりはしないだろうか。
そんな、頓挫しかかった暗殺計画を心中で考えてたら――炎が爆散した。
リュックサックから吹き上がる炎は無差別に広がり、その場にいた参加者達を襲う。
それは、アスカに対しても例外ではない。
対応に遅れたアスカは、迫り来る炎をわかっていながらも躱せなかった。
あれだけ偉そうなことを言っておきながら自分が真っ先に死んでしまうなんて。
そして、そのまま炎に焼かれて無様に死に晒す。
そのはずだったのだ。
「アンタ、バカァ? 何、人を庇ってるのよ……」
目の前で、炎に包まれて苦しんでいる少女――吉川ちなつを見て、アスカは困惑を隠すことなく呟いた。
訳がわからなかった。ちなつには、アスカを助ける理由なんて一ミリもないはずだ。
「あは、は……どうしてかな?」
「そんなの、アタシにわかる訳ないでしょう……! とりあえず、さっさと此処から離れるわよ!
全く、アタシがアンタに借りを作るなんて思ってもいなかったわ……っ」
アスカは倒れこんでいるちなつの身体を背負って、吹き荒れる炎から一歩でも遠退くように歩き出した。
こんな死に体の少女でも何かの役に立つかもしれない。
そう考えると、形だけでも助けておいた方がいいのかもしれないと判断した。
だから、利害の計算の結果、助けるだけに過ぎない。
「もう、いいですよ……わかっています、よね?」
「……遺言ぐらい聞いてあげるわよ」
だが、炎による熱はちなつの命を殆ど燃やし尽くしてしまった。
加えて、死にかけのちなつを今から病院に運んだとしても、そこに医者はいないのだ。
アスカもエヴァンゲリオンの戦闘に携わっている人間として、最低限の治療技術は持っているが、ここまで深い火傷を治療できない。
どう足掻いても、助けられない。それがアスカが下した結論だった。
「私も、御坂さんみたいに誰かを、護れるぐらいに、強くなりたかった。足手まといになりたくなかった」
「実際、足手まといじゃない」
「そうだった……私は、結局足手まといで。何でもできる式波さんが妬ましかった。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ……死んじゃえなんて思ったの」
ちなつの口から出た言葉は、アスカが予想していたことだった。
愚図な大衆は、天才の足を引っ張る。
ちなつもその例に漏れず、いずれ牙を剥いてくると考えていた。
「だけど、そんなことしたら、もう私は、私じゃない。みんなと一緒に過ごしてきたちなつじゃない。
式波さんを庇ったのは…………わかんないや。とにかく、目の前で誰かが、死ぬのが嫌だったから。
もう、誰も死んでほしくなかったから……御坂さんみたいに、私も誰かを護れたらって」
「アンタにとって、アタシは救われるべき人間でも救うべき人間でもないでしょう。
アタシを護るよりも、自分を護ればよかったじゃない」
「人を、救けるのに、理由は必要ですか? 身体が勝手に、動いちゃったじゃ、駄目ですか」
「……うっさいわね。無駄な体力使ってんじゃないわよ。死にかけなんだから黙ってなさい」
撒き散らされた炎の壁により分断されてしまった為に美琴の安否はわからない。
自分達を護る為に前に出て、電撃を放出していた彼女は炎の中に消えてしまった。
護られた自分達でさえ、この有り様なのだ。美琴が生きている確率は低いだろう。
「御坂さんなら……同じことを、したはずだから。後悔は、ないです……。
もし、御坂さんが無事なら、たすけ、て」
「気が向いたらね、気が向いたらよ、勘違いしないでよ!」
「お“願い”、します。ふふっ、死んだら、あかりちゃん達に会えるかなぁ」
「ふん、死後の世界なんてある訳ないじゃない。夢見すぎだと思うわ」
「そうかもしれない。けど、私はもう一度、ごらく部のみんなに、会いたい」
最後の最後まで在るはずもない理想に浸るちなつに、アスカは相変わらず嫌悪感を抱いていた。
何故、こいつは甘い理想をいつまでも信じていられるのだろう。
死にかけになった今でさえ、甘さを捨てていない。
「――――会えるんじゃない?」
「ふぇ?」
「会えるんじゃないって言ったのよ! そんなに強く思ってるんだったら万が一にも会えるんじゃないのって!
何度も言わせないでよ! こんな恥ずかしいこと、もう言いたくないんだから!」
「……ふふっ。式波さんって、案外、優しいんですね」
「は、はぁ??? 違うわよ! どうせ死んじゃうんだし、最後ぐらい気持ちよく死ねばって思っただけだから勘違いしないでよ!
ホント、脳みそまで甘くなってるんじゃないの! アタシはねぇ!」
それでも、最後ぐらい、ほんのちょびっとだけでもちなつが、安心して死んでいってもいいのではないかと思ってしまった。
ちょっとした気の迷いで、ちなつのことを可愛そうだなんて全く思っていないはずなのだ。
だから、そんな優しい目で見ないでくれ。安心しきった、いい人を見るような目つきで自分を見ないでくれ。
「……でも、こんな勘違いなら、悪くはないかな」
耳に聞こえていた微かな息が聞こえなくなっても。
少しだけ力が込められていた掌がずり落ちても。
アスカは動じない。何も、感じない。
そこにいるのは、救った少女と救われた少女。
式波・アスカ・ラングレーは、吉川ちなつに救われた事実だけが燃え盛る世界に残っただけだった。
◆ ◆ ◆
初春飾利は目の前に横たわる御坂美琴をじっと見つめていた。
炎に焼かれ、今にも死にそうな美琴を彼女は何をするでもなく、ただただ見つめている。
「うい、はる……さん?」
「はい、お久しぶりですね」
初春はどこか影の見える笑みを見せ、美琴の途切れかけの声に答える。
自分が殺ったのだという罪を無理矢理に認めさせるかのように。
ガチガチに震えた指先を必死に抑えながら、初春はその場にしゃがみこみ、汚れた美琴の顔をハンカチで綺麗にしていく。
「初春さんも、いたんだ……あはは、かっこわるいとこ、みせちゃったな」
「そんなことないですよ。後ろの二人を護る為に、全力全開に電撃を放つ姿は第三位なんだなって思いました」
「それで、この有り様じゃあ、笑え、ないわね。第三位なのに、目の前にいる友達一人救えない、なんて」
「…………御坂さん」
「私には、わかんないけどさ。初春さんが、こんなことするのって、理由あるんでしょ?
何の、考えもなしに、するとは……思えないから」
知られていた。自分のやったことは美琴には全てお見通しだった。
気絶から目覚めた後、近くの草むらに投げ捨てられていたデイバックを拾って、当てもなしに歩いて。
やっとのことで見つけた『人間』は、あのビデオで見た光景と同じく争っていた。
やっぱり、『人間』は殺さないと。
「だって……」
「だって?」
「『人間』は、醜いから。平気で裏切るから……殺さないと。殺られる前に、殺らないと!
佐天さんだってそうだった! きっと、信じたから殺されたんです!」
火炎放射器を取られた初春だったが、予備の液体燃料とボンベは残っていた。
ならば、まだこの手は誰かを燃やすことができる。
「だから! わたしは、おかしくない! おかしくないはずなんです……!」
桑原和真の最後の支給品である手榴弾を使って、誘爆を狙ったのだ。
これなら、あそこにいるかを一網打尽にできる。
そう、確信して初春は手榴弾のピンを抜き、少しばかりのタイムリミットがある手榴弾をデイバックに放り込んだ。
そして、『人間』にむけて力いっぱいに投げたのだ。
結果は見ての通り大成功だった。大成功なら、嬉しいはずなのだ。
それなのに、自分の心には生まれたのは鈍い痛みとわだかまりだけだった。
「やっと、『人間』を殺せたのに! どうして、嬉しくないんでしょうか……? 私は、間違えていないのに」
「それが、初春さんが、諦めていない証拠よ。まだ、救けることができる、間に合うってこと。
確かに、全員が誰かを救けることができる、ヒーローじゃないけどさ。
それでも、初春さんが思っているよりも、人間は強いし、優しいのよ」
そう、ぼんやりと呟いて、美琴はふらりと立ち上がった。
両足で立っているが、足に力は入っておらず常に震えている。
「……出てきなさいよ、炎に隠れてないでさ」
「ふん、参加者がいると思って来てみたけど。いたのは死にぞこないだけのようね」
炎の影から出てきたのは、目を鋭く尖らせた一人の少女――我妻由乃だった。
手に携えている日本刀は、いつでも斬り殺せるようにか、刃を鞘から抜き放ち、美琴達へと向けていた。
今にも斬りかかってきそうな雰囲気を出しながら、由乃はジリジリと美琴達へと距離を詰めてくる。
「残念だけど、ここから先は通行止めよ。友達を護る為にも、私は――負けられない!!」
限界だった。立つだけでも、身体は痛みを訴え、血と汗は滝のように流れ出す。
だが、美琴には立つ理由がある。友達を護る。護って救けなくてはいけない大切な思いがある。
「誰が、死にぞこないですって? ハッ、第三位を、ナメんじゃないわよ!
これでも、アンタが向かってくるなら……っ! 容赦はしない――!」
「……チッ」
最後に残った力を全て開放したのか、美琴の身体から発生した雷撃は由乃を襲う。
雷撃の稲妻は由乃の足を止め、後退させるには十分過ぎる一撃だった。
――死にかけの癖に、ムカつく!
絶えず放出されている稲妻は、美琴達の周辺を厚く覆っている。
冷静に考える。今の自分の状態で美琴達を殺すメリットと放置するメリットを天秤にかける。
行くか、行かないか。所詮、死にかけが相手なのだ。無傷で終わらせるくらいじゃないと割に合わない。
「護る……ッ! 絶対、護るっ…………! もう、取り零さない! 最後まで貫いたアイツみたいに!
私も、意志を、貫く! アンタが抱いてる幻想を、ブチ殺すまで、私は――――諦めない!」
だが、眼の前に立っている少女を相手に無傷で終われるのだろうか。
近づくもの全てを焼き尽くさんとする勢いを自分は止めれるのだろうか。
由乃の頭脳が答えを導き出すまで、時間は長くかからなかった。
撤退。これ以上の戦闘は無駄だと悟ったのか、由乃は踵を返して姿を消す。
勝てないではなく、負けない為にも。由乃は感情をコントロールして、後ろへと走りだした。
「……あー、もう、限界か」
「えっ」
そして、世界は再び彼女達だけを取り残した。
一秒、一分、十分。どれだけの時間が経ったのだろうか。
ふらり、ふらりと。美琴の身体が縦横に揺れることで、静寂に終わりが告げられた。
もう自分の力だけでは立っていられないのだろう。
それを察した初春は急いで美琴を抱きとめようとするが、美琴はまだ原型が残っている右手でやんわりと制した。
「ダイジョブ、ダイジョブ……じゃないか。もう無理だから、いいよ。
うん、いまできることは、やり尽くした。心残りは、あるけど……後悔は、してないわ」
「私のせいで……わたしの、せいで!」
「違うってば。初春さんのせいじゃない。誰のせいでもない、運が、悪かったけよ」
ひらひらと掌を振って、美琴は曖昧に笑う。
せめて、死ぬ前までは笑顔でいようと。
友達と別れるときはいつも決まっているのだ。
「気にするなって言っても、気にするんでしょうけど。やめてよ、無駄に背負い込むのは。
初春さんは、黒子と、一緒に生きて……。償える道なんて、いっぱい、あるんだから」
「はい……! はい……っ」
「人間ってさ、弱いけど……強いから。最弱が、最強も倒せるぐらい、強いから。
きっと、こんな殺し合いも、潰せるって信じてる」
「こんな、私でも大丈夫、でしょうか?」
「だいじょーぶよ、初春さん、パソコン、とか機械関連得意じゃん……その分野で、いけるって」
笑って、別れていくのが友達だから。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった初春の頬をそっと撫でて、美琴は儚げに笑う。
「うん、それ、聞いて安心した……ゆっくり、休める」
そして、身体に残った生命を必死に掻き集めて、美琴は最後の言葉を“彼女”に向けて呟いた。
「後はお“願い”――アスカ」
「はぁ……頼まれたわよ――ミコト」
炎の向こうに苛立ちを隠さずに立っていたアスカに向けて、美琴は不敵な笑みを浮かべた。
その笑みにアスカはそっぽを向いて、答える。
自分の言葉が届いたことに満足したのか。穏やかな顔つきを浮かべながら倒れていく。
アイツみたいに、最後まで意志を貫けた満足感を胸に抱いて、美琴はゆっくりと息を止めた。
「ま、チナツに借りを作りっぱなしは癪にさわるし。最後に助けてって言われたミコトは死んじゃったし。
このエヴァンゲリオンパイロットがあんな甘ちゃんに助けられたままなんて……アタシのプライドが許さないっての」
もう動くことがない美琴をちらりと一瞥して、アスカは初春に対して向き直る。
吹き荒れる炎を物ともせずに大股で歩いてくるアスカに、初春は何も言えなかった。
ただ、彼女の目はまるで――。
「借りを返せないのは困ると思っていたけど。丁度よくお“願い”されちゃったしね。
そういう訳なの、アンタには無理矢理にでも救われてもらうから」
――美琴のように、熱く燃えていた。
正義も悪も関係ない、意志の強さを表すかのように。
◆ ◆ ◆
神崎麗美は空を見上げていた。
炎に焼かれた身体を無視して、彼女は誰もいない所まで逃げてきた。
そして、体力が尽きた所で地面に倒れこみ、そのまま動くのをやめてしまった。
痛い、苦しい、虚しい。
負の感情が自分の胸の中に溜まっていくのを感じる。
「あは、ははっ。あははははははっ」
最初はいた仲間も、今は誰一人いない。
皆、死んでしまったか、麗美自身が手放してしまった。
孤独。嘘つきで場をかき乱した麗美にはお似合いの最後だ。
だから、全然後悔なんてしていない。
「ははっ、はははっ! あはははは!!」
後悔なんてないはずなのに。
どうして、両の瞳からは涙が絶え間なく流れ落ちるのだろう。
少し冷たい掌を誰かに握ってほしいと願ってしまうのだろう。
火傷で黒ずんだ身体を抱きしめてほしいと感じたのだろう。
「嫌……いやぁ……いたい、痛いよぉ……」
口を開けば、弱音しか出てこない。
もう前へと進むことができない足は痛みしか訴えてこない。
辛くて逃げ出したい現実は、麗美を絶望へと落とすのには十分過ぎるものだった。
どれだけ表面を取り繕っても、麗美は中学生なのだ。
打たれ弱くて、惨めったらしい女の子なのだ。
「…………痛い、痛い、痛い」
今まで出会ってきた全ての人間に懺悔をしても、救いの手は差し伸べられなかった。
当然だ、自分は差し伸べられた手を踏み越えて、ウソを付くことで他人を貶めて。
救われる要素なんて何一つ存在しない。
だから、彼女の最後は一人で終わるのだ。
無様に生きて、無様に死ぬ。麗美の世界は、暗闇に閉ざされる。
「――てよ」
「何、弱気なこと言ってんだよ」
しかし、未来は変えられる。
道理をぶっ飛ばす人間が一人いれば、世界は明るくなるのだ。
「きく、ち……?」
「ああ。ったく、前にぶっ倒れてる奴がいたと思ったらお前だったなんて。
何があったんだよ。そんなボロボロな姿で、見てられねーっつーの」
「菊池こそ、どうして……あは。菊池ってば、一人なんだ。やーい、ぼっち」
「ぼっちじゃねぇよ! ……ちょっと仲間が放送でショック受けちまってな。
動ける状態じゃないから、仲間に任せて単独行動ってゆーな。
ま、学校で待ち合わせしようっていう他の仲間との約束もあるからいつまでも留まっていられなくてさ。
つーことで俺だけ先行してるっつ-訳だ」
ニヤリと、笑みを浮かべて菊池は麗美の身体を背負って歩を返す。
元来た道を戻る菊池に麗美はありのままの疑問をぶつける。
「なんで、戻るのよ」
「なんでって。お前ボロボロじゃん。だから、一旦仲間のとこ戻るんだよ。
とりあえず、安心して休める場所と仲間が必要だろ」
「約束、どうすんのよ?」
「んなの、どうにかなるだろ。目の前で死にかけてるクラスメート放っておけっかよ」
当たり前のことを聞くなと言ってるかのような菊池の言葉は、今の麗美には辛かった。
自分がこんなにも汚れて、自棄になって。
いっぱい、いっぱい傷つけて。
そんな自分と比べて、菊池は眩し過ぎた。綺麗過ぎたのだ。
こんな醜い世界で会ったクラスメートはいつも通りを貫いていた。
だから、麗美は――。
「菊池、ちょっと下ろして」
「おろしてって、お前立てるのかよ。いいから黙って」
「お“願い”。下ろして」
「……わかったよ」
下ろした麗美は菊池の予想とは裏腹に、しっかりと両足で立っていた。
ふらつきながらも、菊池の手を借りずに麗美は立っている。
少しでも早く手当をしなくちゃいけないのに、麗美は何をするつもりなのか。
天才の考えることはよくわからん、と心中で呟いた菊池の目に飛び込んできたのは、銃口だった。
拳銃には弾が込められていて、冗談でもないと嫌でもわからされた。
「ねぇ、菊池……あたしってさ。救われるべき、人間? それとも、死んじゃうべき?」
突然に麗美から問われた質問と、向けられた銃口は菊池の予想を遙かに超えていた。
――洒落になんねーぞ。
菊池の拙い頭では理解できない状況だ。何故、麗美は銃口を自分に向けている。
それまでの弱々しい麗美とは違い、何処か退廃的な雰囲気を纏った麗美は、まるで――自分達と出会う前を見ているようだった。
「この世界であたしはさ、頑張って頑張って。死ぬ気で頑張って。頑張った結果が、人殺し。
仲間は皆死んで、真面目にやっていくのが馬鹿らしくてさ。
だから! 少しでも、絶望に転がして! 面白おかしくけらけら笑って!
だって、そうした方が楽だから! 辛いことも、好きだった仲間のことも!
思い出さなくて済むから! 苦しさに耐えなくて、すむから!」
麗美自身、何を口走っているかわからなかった。
死にたくないけど、菊池達みたいな真っ直ぐな人間には助けてほしくない。
もはや論理にすらなっていない。破綻している言い分に、菊池も呆れているはずだ。
「あたしは、嫌い。この世界が嫌い。吉川や雅があっさり死んじゃうこの世界が嫌い。
どんなことがあっても真っ直ぐでいられる奴らが嫌い。跡部達の死を受け入れられないあたしが嫌い。
全部、全部、全部! 大っ嫌い! 嫌いで嫌いでたまらない、アンタのことも!
あたしとは違って、まだ真っ直ぐでいられる菊池も、嫌い!」
――あたしは、アイツらみたいに強くない。
麗美は強くない。
鬼塚みたいに、道理をぶっ飛ばすことはできなかった。
跡部みたいに、最後まで誇りを失わずにいることはできなかった。
滝口みたいに、死の間際まで他人の心配をすることができなかった。
彼らのような気高い強さを、持っていないから。
「ねぇ、菊池……。こんなあたしでも、アンタは救う訳?
救われるべきでもない、死んじゃった方がマシなあたしに、その右手を伸ばす?」
麗美は言う。諦めてしまえ、と。
麗美は囁く、届かない、と。
麗美は喚く、もう無理だ、と。
負の感情で覆われた壁は超えれない。
「無理でしょ? 無理だよね? 無理だって、言ってよ……」
だから、彼は救われるべきではないと諦める。
手を伸ばさずに、武器を向けて楽にしてやるとか偽善者ぶって危険を排除するのだ。
そうやって、諦める彼を麗美は嘲笑って、トリガーを引いて撃ち殺す。
それみたことか、結局は口だけなんだ。
――面白おかしく馬鹿にして、最後まで嗤い続けてやる。
そうしてくれないと、麗美は――真っ直ぐさに耐えれない。
「んーとだな。お前がこの世界でどんなことをやらかしてきたか。俺は全くわかんねぇ。
とりあえず、やらかしたと仮定して、だ。
人によっちゃあ絶対に許さねーってブチ切れるかもしれねぇな。
俺自身も神埼のことを幻滅するかもしんないし聞かないことには始まらねー」
淡々と言葉を紡いでいく菊池の姿は一見、冷静に見えた。
これだけの醜い有り様を見せたのに平常心を保てるのはさすが、3-4の天才と言った所か。
そして、その天才サマが大層なお言葉を並べて否定してくれるのか、麗美は楽しみだった。
菊池程頭が良ければわかるはずだ。麗美は救われるべきではない人間だって。
「それでも。お前は俺のクラスメートだ。吉川も相沢も渋谷も死んでどんどん減ってく中でも、生きているクラスメートだ。
救われるべきとか、死ぬべきとか関係ないね。俺が救けたいから助けるんだ。それに文句は言わせない。
何せ、お前を助けるのは俺の好き勝手だからな。つーか、クラスメート救けんのは当たり前だろーが」
だが、菊池は麗美の思惑通りの返答をしなかった。
それどころか、麗美に向かって右手を伸ばして、いつも通りの、3-4で過ごしている時のバカにした顔で。
彼は、叫ぶのだ。
「難しいこと言ってんじゃねぇよ! シンプルに救けてって言えって!
んなクソみて~な顔してる神崎麗美サマじゃねーだろ!
はっ、そんな顔じゃあセンセーに馬鹿にされるぜ? とゆーか、笑ってる方が、センセーも喜ぶぜ?」
――昔の事ウジウジ悩んで今を楽しまねーのは損だってよ。
ズキンと、頭の奥で痛みが奔る。
「やめてよ………」
――だからよ、おめーも楽しく行ってみねーか?
楽しかった日常が、脳裏に再生される。
「やめて、よ……!」
――難しー顔してねーで、シンプルによ?
大好きだった、初めて心の底から好きになった彼の顔が頭に浮かぶ。
「先生と同じこと、言わないでよ!」
――ニカーっと笑っていこーや!神崎よぉ?
麗美を地獄の底から救ってくれた鬼塚英吉の笑顔が、菊池善人と重なってしまう。
「あたし、まだ戻れるって思っちゃう! その手を取ってもいいかもって思っちゃう!」
「うっせー! お前の事情なんて知るか! 俺が救けたいッて思ったんだ、素直に右手、取ればいいんだよ!
クラスメートほったらかしにしてましたなんて、できっかよ!」
「ふーん……菊池は、先生がまだ生きてるって信じてるんだ!
あたし達がこんなに苦しんでるのに、助けに来ない先生じゃないじゃん!
じゃあ、思いつくのは死んでる可能性だけだよ!」
麗美は早々に諦めた鬼塚の生存を菊池はまだ信じている。
自分と同じくらい頭が良くて、誰よりも鬼塚と一緒にいた彼は、まだ前を向き続けている。
「そりゃ、こんな状況になっても助けに来ないなんておかしいとは思うけどさ。
センセーだって一応人間なんだぜ? 神様じゃねーんだからよ。
死んじゃったなんて決めるのは早過ぎやしないか?」
だけど、彼と自分が違うのは、鬼塚に対しての認識だった。
自分は、困った時は助けに来てくれる神様のように思っていたけれど。
菊池は、一人の先生として、同じ人間として見ていた。
過剰に信頼せず、かといって全くの信頼がないとも言わず。
「それに、どっちでも変わらねぇよ。センセーに胸張れる生き方をしないと、ぶん殴られちまうからな。
神崎だってそう思っていたんじゃねーのかよ」
そう、呟いて菊池は麗美に近づいて、無理矢理に手を取った。
その手はいつか引っ張ってくれた先生と同じく、力強く優しかった。
「だから、やり直そうぜ。謝るんだったら俺も一緒に謝ってやる。
クラスメートの不始末は連帯責任ってな」
いつでも救けてくれるヒーローはいなかった。
辛い時に励ましてくれる仲間は皆死んでしまった。
それでも、最後まで見捨てないでくれるクラスメートは傍にいた。
「菊池……」
「ッ! んな目で見んなよ! こーゆー役目は吉川とかがやるべきなのに、先に死んじまってよ……。
チキショウ、ぜってー俺らは死んでなんかやんねー!」
時間が止まればいいと思った。
今だけは、殺し合いで疲れ果てた神崎麗美ではなく、3-4の神崎麗美でいられる気がした。
だからこそ、正気でいられる内に。
クラスメートのことを考えていられる内に――。
「つまらない茶番劇だったよ。つまらなすぎて反吐が出る」
――握りしめられていた手を、離した。
彼が気づいていなかった、背後から狙っている敵が彼に対して何かを繰り出そうとしている所を。
跡部景吾が自分を生かすべくやったように、彼を強く押し出した。
迫る六角柱の射線から追いやって、一人この痛みを受ける。
「かん、ざき?」
「あは、因果……応報ってやつ?」
口からは大量に血が吐き出される。
どう考えても致死量、出血大サービスなんてレベルじゃない。
サービスのし過ぎで死んでしまうぐらいに、口からは溢れ出てくる。
「さようなら。僕の“願い”の為に――無様に死んでくれ」
六角柱が身体から抜けるのと同時に鉄球が麗美へと迫る。
腹部を貫かれ、治療に血を流した麗美に避けられる訳がなく、鉄球を正面から受け宙を舞う。
「神崎ぃ!」
――何、らしくない大声出してんのよ。
菊池が自分の名前を叫んでいる。
宙に浮かんだ自分の身体を受け止めようと走っている。
止めたかった。突如現れた白髮の少年の砲門が、今度は彼に向いていることを伝えたかった、
だが、自分の体はもう自分のものじゃない。
痛みと流れ出る血に押し潰され、声が出なかった。カチコチに固まったかと錯覚するくらいに両手両足は動かなかった。
このままだと、菊池は死ぬ。自分と同じく、あの鉄球を食らってゴミのように吹き飛んで無様に死ぬ。
……嫌だ。
自分は仕方がない。これまでやってきたことを考えるとお似合いの最後だ。
けれど、菊池は関係ないはずだ。
間違えずに、進むべき道を見失わなかった菊池は、自分とは違う。
「……ぁ」
やはり、声は出ない。逃げて、の三文字すら出ない自分の喉を今日程恨めしく思ったことはなかった。
どんなに振り絞っても、手を伸ばさないように動作で伝えようとしても。
菊池は、全部無視してこっちに向かって手を伸ばしてくる。まだ間に合うんだ、と走ってくる。
――誰か、救けてよ。
声にならない声で、麗美は叫ぶ。喉が潰れていようとも、最後まで諦めずに。
無茶に無茶を重ねれば、道理はいずれ吹っ飛んでいくのだから。
そう、教えてくれた先生がいたから。
――菊池を、救けてよ!
麗美は“願い”続ける。
無茶に無茶を重ねて、いつまでも、想い続ける。
ご都合主義のヒーローが現れてくれることを。
自分達を救けてくれる“大人”がいない世界で、叫び続ける。
「まだ、終わらせないよ」
叫び続けたからこそ、かつて自分が襲いかかった敵が助けに来るなんて――ご都合主義が生まれるのだ。
麗美の視界に入った白帽子が、生意気な声が今だけは心地よく聞こえた。
白帽子の少年の掌から放たれたボールは、白髪の少年へと高速で迫り、砲門を逸らすことに成功する。
そして、宙から地面へと落ちる瞬間、見えた彼の顔はあの時と変わらず、大胆不敵で――。
「神崎、おい神崎! 目を開けろ、神崎!」
――輝いていた。
変わることなく、真っ直ぐに立っていて。
今にも尽きてしまう視界だけど、はっきりと見えたのだ。
「…………ごめん、ね」
命が尽きる最後に、その顔が――羨ましいと思ってしまった。
、
◆ ◆ ◆
「遠山っ! 遠山っ!」
天野雪輝は、遠山金太郎を背負って走っていた。
あの炎の爆発から少しでも離れる為に。
爆発で吹き飛んだコンクリートの破片を食らった金太郎を治療する為に。
流れる汗を無視して、雪輝は必死に脚を進めていた。
「うっさい、わ。天野、もう少し、声のトーン小さく」
「何言ってるんだよ! そんなこと言ってる場合かよ!」
「言ってる、場合とか関係なく、てな。もう、手遅れやから、な?」
刺さったコンクリートの破片は、金太郎の体内に残り、無理矢理に服で縛った傷口からは血がとめどなく溢れ出している。
いくら服をきつく縛っても、流れだす血の勢いは止まらなかった。
「……アホ天野。優先順位っちゅーもんが、あるやん? ワイはどう足掻いても助からんけど、我妻はまだ救けられるんや」
「~~~~~!! 確かに、由乃は大事だけど! 遠山だって僕は助けたい!」
「そんなら、俺を救けると思って、な」
うっすらと目を開けて、雪輝に向かって言い放った言葉は、少し怯えが混じっていて――。
「ワイを、見捨てろ」
――決意の感情が色濃かった。
初めて友人から頼まれたことは、見捨てることだった。
簡単だ、ここで実行してしまえばいい。
たくさんの人間を殺して、滅ぼした天野雪輝ならできるはずだ。
それを実行出来る度胸も覚悟もある。
「行け。さっさと、ワイを置いて行って、救えるもん救ってこい」
「そんなの、出来る訳ないだろ! 友達を置いていけないよ!」
それでも、雪輝には無理だった。
この世界で初めてできた友達を、見捨てるなんて辛いことはできなかった。
「僕は神様なんだ……っ! 友達一人救えなくて、何が神様だ!」
「ホンマ、頑固やな……ま、そういうのは、嫌いじゃあらへん、けど」
苦笑ともつかない笑みを浮かべ、金太郎は雪輝の背中から降りる。
軽く、雪輝の頭を小突いてニカッと口を横に広げる彼の姿はいつも通りで。
「みーつけた」
「こないな、時、どうすんねん……ッ!」
「遠山ッ! まっ」
どうしようもなく、遠い場所にいた。
何も言わずに、金太郎は、突如現れた少女――我妻由乃に向かっていく。
ラケットを握る手は血塗れでかすかに震えている。
血を流しすぎたせいで力が入らないのだろう。
「天野ッ! 今は無理かもしれへんけど! いつか、必ず笑える時が来る!
どんな時でも笑い飛ばして、ふざけた
ルールなんかぶっ壊せ!」
「――――っ! ごめん……っ!」
行くしかなかった。金太郎が由乃を止めている内に少しでも遠くへ逃げることが今の雪輝にできる一番の事だった。
このまま自分が此処に留まっていると、金太郎は犬死にだ。
彼の死が、何の意味も持たなくなってしまう。
「行けよ、天野。お前が願う所まで。いつか、必ず――笑えるはずやから」
日本刀に拳銃。最低でも、これだけの武器を持っている今の由乃を相手に、ナイフ一本で戦える訳がなかった。
この判断は正しい。けれど、間違っていないとわかっていながらも。
雪輝の胸に燻る悔しさと悲しみは、消えなかった。
友達を見捨てて逃げた事実は、雪輝に重くのしかかる。
そして、金太郎が死ぬ最後の瞬間まで、雪輝は泣けなかった。
◆ ◆ ◆
「さてと、どうするんだい?」
秋瀬或は、浦飯幽助と常盤愛に問いかけた。
秋瀬達は知る由もないが、未来は四つ存在する。
式波・アスカ・ラングレーは、吉川ちなつに撲殺される未来。
御坂美琴は、初春飾利に焼殺される未来。
菊池善人は、神埼麗美に射殺される未来。
遠山金太郎は、天野雪輝に刺殺される未来。
確定こそしてないものの、未来の成就は時間の問題だった。
「僕は雪輝君の所へ向かう。やっぱり彼のことが心配なんだよね。困ったことに、僕の中にある甘さはどうしても抜け切らないらしい」
「そっか……」
秋瀬のこれからは、とっくに決まっていた。
愛する彼を救う為にも、少しでも早く馳せ参じることを考えている。
「君達はどうするんだい? 動くのか。それとも、動かないのか。選択の時間はもうないよ?」
それぞれが不確かな要素を孕んでいる中で、彼らは惑う。
何が正しくて、間違っているか。
誰を救けるべきで、見捨てるべきか。
だが、彼らは遅すぎた。
未来はもう始まって、変えられようがないぐらいに進んでいることに、彼らは気づいていない。
もう救けられようがない、人がいることを――今は、まだ知らない。
【遠山金太郎@テニスの王子様 死亡】
【御坂美琴@とある科学の超電磁砲 死亡】
【吉川ちなつ@ゆるゆり 死亡】
【神崎麗美@GTO 死亡】
【残り 22人】
【F-5北部/一日目・午後】
【式波・アスカ・ラングレー@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:左腕に亀裂骨折(処置済み)
[装備]:ナイフ、青酸カリ付き特殊警棒(青酸カリは残り少量)@バトルロワイアル、
『天使メール』に関するメモ@GTO、トランシーバー(片方)@現実 、ブローニング・ハイパワー(残弾0、損壊)
[道具]:基本支給品一式×4、フレンダのツールナイフとテープ式導火線@とある科学の超電磁砲
風紀委員の救急箱@とある科学の超電磁砲、釘バット@GTO、不明支給品×0~3、スタンガン、ゲームセンターのコイン×10@現地調達
基本行動方針:エヴァンゲリオンパイロットとして、どんな手を使っても生還する。
1:スタンスは変わらないけど、救けられた借りは返す。
[備考]
参戦時期は、第7使徒との交戦以降、海洋研究施設に社会見学に行くより以前。
※イングラムM10サブマシンガン(残弾わずか)@バトルロワイアルは燃え尽きました。
【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:肉体的には健康
[装備]:交換日記(初春飾利の携帯)@未来日記、交換日記(桑原和真の携帯)@未来日記、小さな核晶@未来日記? 、宝の地図@その他
[道具]:
基本行動方針:生きて、償う
1:辛くても、前を向く。
[備考]
初春飾利の携帯と桑原和真の携帯を交換日記にし、二つの未来日記の所有者となりました。
そのため自分の予知が携帯に表示されています。
交換日記のどちらかが破壊されるとどうなるかは後の書き手さんにお任せします。
ロベルト、御手洗、佐野に関する簡単な情報を聞きました。
【手榴弾@現実】
桑原和真に支給。ピンを抜いて、ドッカーン☆
【F-5南東部/一日目・午後】
【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:決意
[装備]:青学ジャージ(半袖)、太い木の枝@現地調達
リアルテニスボール(ポケットに2個)@現実
[道具]:基本支給品一式(携帯電話に撮影画像)、不明支給品0~1、リアルテニスボール(残り8個)@現実
、自販機で確保した飲料数種類@現地調達、S-DAT@ヱヴァンゲリオン新劇場版
基本行動方針:神サマに勝ってみせる。殺し合いに乗る人間には絶対に負けない。
1:戦う
2:切原、遠山を探す。
3:ちゃんとしたラケットが欲しい。
【綾波レイ@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:疲労(小)
[装備]:白いブラウス@現地調達、青学レギュラージャージ、 第壱中学校の制服(スカートのみ)
由乃の日本刀@未来日記、ベレッタM92(残弾13)
[道具]:基本支給品一式、 天野雪輝のダーツ(残り7本)@未来日記、心音爆弾@未来日記、第壱中学校の制服(びしょ濡れ)
基本行動方針:今は、もう少し歩いてみる。
1:戦う。
2:自分にとって、碇くんはどういう存在だったのか、気になる。
3:二人についていく。
4:いざという時は、躊躇わない。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも碇親子との「食事会」を計画している間。
【高坂王子@未来日記】
[状態]:疲労(小)、全身打撲
[装備]:携帯電話(Neo高坂KING日記)、金属バット
[道具]:基本支給品(携帯のメモにビルに関する書き込み)、『未来日記計画』に関する資料@現地調達
基本行動方針:秋瀬たちと合流し、脱出する
1:戦う。
2:輝いた男として、芯を通す。
3:神様を倒す計画に付き合う。
4:雪輝を探し、問い詰める。
[備考]
参戦時期はツインタワービル攻略直前です。
Neo高坂KING日記の予知には、制限がかかっている可能性があります。
『ブレザーの制服にツインテールの白井黒子という少女』を、危険人物だと認識しました
【菊地善人@GTO】
[状態]:健康
[装備]:デリンジャー@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品一式、ヴァージニア・スリム・メンソール@バトルロワイアル 、図書館の書籍数冊
基本行動方針:生きて帰る
1:戦う。
[備考]
※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。
※ムルムルの怒りを買ったために、しばらく未来日記の契約ができなくなりました。(いつまで続くかは任せます)
※基本支給品一式 、インサイトによる首輪内部の見取り図@現地調達、カップラーメン一箱(残り17個)@現実
997万円、ミラクルんコスプレセット@ゆるゆり、草刈り鎌@バトルロワイアル、クロスボウガン@現実、矢筒(19本)@現実、隠魔鬼のマント@幽遊白書、火山高夫の防弾耐爆スーツ@未来日記
火山高夫の三角帽@未来日記、メ○コンのコンタクトレンズ+目薬セット(目薬残量4回分)@テニスの王子様 、売店で見つくろった物品@現地調達(※詳細は任せます)
携帯電話(逃亡日記@未来日記)、催涙弾×1@現実 、シグザウエルP226(残弾12)が付近に落ちています。
【バロウ・エシャロット@うえきの法則】
[状態]:左半身に負傷 および全身数か所に切り傷(手当済み)
[装備]:とめるくん(故障中)@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式×2(携帯電話に画像数枚)、手塚国光の不明支給品0~1、死出の羽衣(使用可能)@幽遊白書 、同人誌制作セット@ゆるゆり
基本行動方針: 優勝して生還。『神の力』によって、『願い』を叶える
1:施設を回り、他参加者と出会えば無差別に殺害。『ただの人間』になど絶対に負けない。
2:皆殺し。特にロベルト・ハイドンは絶対に生きて返さない。
[備考]
※名簿の『ロベルト・ハイドン』がアノンではない、本物のロベルトだと気づきました。
※『とめるくん』は、切原の攻撃で稼働停止しています。一時的な故障なのか、完全に使えなくなったのかは、次以降の書き手さんに任せます。
(ただし、使えたとしても制限の影響下にあります。次に使用できるのは6時間以後です)
【F-5南西部/一日目・午後】
【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:スぺツナズナイフ@現実
[道具]:携帯電話、学校で調達したもの(詳しくは不明)
基本:由乃と星を観に行く
0:……今は、逃げる。
※神になってから1万年後("三週目の世界"の由乃に次元の壁を破壊される前)からの参戦
※神の力、神になってから1万年間の記憶は封印されています
※秋瀬或が契約した『The rader』の内容を確認しました。
【我妻由乃@未来日記】
[状態]:健康、見敵必殺状態、
[装備]:雪輝日記@未来日記、ミニミ軽機関銃(残弾100)@現実、
来栖圭吾の拳銃(残弾2)@未来日記、詩音の改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に、真田の日本刀@テニスの王子様、霊透眼鏡@幽☆遊☆白書
[道具]:基本支給品一式×5(携帯電話は雪輝日記を含めて3機)、会場の詳細見取り図@オリジナル、催涙弾×1@現実
逆玉手箱濃度10分の1(残り2箱)@幽☆遊☆白書、鉛製ラケット@現実、不明支給品0~1 、滝口優一郎の不明支給品0~1
基本行動方針:真の「HAPPY END」に到る為に、優勝してデウスを超えた神の力を手にする。
1:雪輝はしばらく泳がせておく(出会えば殺す) 。
2:秋瀬或は絶対に殺す。
3:他の人間はただの駒だ。
※54話終了後からの参戦
【G-6/北西部/一日目・午後】
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:The rader@未来日記、セグウェイ@テニスの王子様
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0~1)、火炎放射器(燃料残り7回分)@現実
基本行動方針:この世界の謎を解く。天野雪輝を幸福にする。
1:雪輝君と合流する。
2:越前リョーマ、切原赤也に会ったら、手塚の最期と遺言を伝える。
[備考]
参戦時期は『本人の認識している限りでは』47話でデウスに謁見し、死人が生き返るかを尋ねた直後です。
『The rader』の予知は、よほどのことがない限り他者に明かすつもりはありません
『The rader』の予知が放送後に当たっていたかどうか、内容が変動するかどうかは、次以降の書き手さんに任せます。
【常盤愛@GTO】
[状態]:右手前腕に打撲
[装備]:逆ナン日記@未来日記、即席ハルバード(鉈@ひぐらしのなく頃に+現地調達のモップの柄)
[道具]:基本支給品一式、学籍簿@オリジナル、トウガラシ爆弾(残り6個)@GTO、ガムテープ@現地調達
基本行動方針:生き残る。手段は選ばない
1:???
[備考]
※参戦時期は、21巻時点のどこかです。
※幽助とはまだ断片的にしか情報交換をしていません。
【浦飯幽助@幽遊白書】
[状態]:精神に深い傷、貧血(大)、左頬に傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3、血まみれのナイフ@現実、不明支給品1~3
基本行動方針: もう、生き返ることを期待しない
1:???
2:圭一から聞いた危険人物(雪輝、金太郎、赤也、リョーマ、レイ)を探す
3:殺すしかない相手は、殺す……?
【F-6/一日目 午後】
【杉浦綾乃@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]:ハリセン@ゆるゆり、友情日記@未来日記
[道具]:基本支給品一式、AK-47@現実、図書館の書籍数冊、加地リョウジのスイカ(残り半玉)@エヴァンゲリオン新劇場版
基本行動方針:みんなと協力して生きて帰る
1:――――。
[備考]
※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。
※『友情日記』の予知の範囲は自身がいるエリアと周囲8エリア内にいる計9エリア内に限定されています。
【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:全身打撲
[装備]:探偵日記@未来日記
[道具]:基本支給品一式×3、遠山金太郎のラケット@テニスの王子様、よっちゃんが入っていた着ぐるみ@うえきの法則、目印留@幽☆遊☆白書
ニューナンブM60@GTO、乾汁セットB@テニスの王子様
基本行動方針:絶対に殺し合いをやめさせる
1:自分自身を含めて、全員を救ってみせる。
2:学校へ向かい、綾波レイを保護する。
3:皆と協力して殺し合いを止める。
4:日記を使ってヒデヨシとテンコも探す。
[備考]
※参戦時期は、第三次選考最終日の、バロウVS佐野戦の直前。
※日野日向から、7月21日(参戦時期)時点で彼女の知っていた情報を、かなり詳しく教わりました。
※碇シンジから、エヴァンゲリオンや使徒について大まかに教わりました。
※レベル2の能力に目覚めました。
最終更新:2021年09月09日 19:50