楠森昭哉は苦悩する/内木聡右は疑心する/そしてケトルは盲進する ◆hhzYiwxC1.


1年前のある雨の日。
ケトルは校門の屋根のもとで項垂れていた。

ケトルは当時、フラウやテトとは違うクラスにいた
幼馴染だったフラウと、その友人たちは兎も角、テトのことなど当時の彼は知らないわけだ。
彼はその日、自分の事だけで精いっぱいだった。
持ってきた傘にはところどころ小さな穴が空いていて、それも今気付いた。
午前中はギリギリ曇天でとどまっていたから保険のつもりで持ってきたわけだが、その保険会社が倒産したような気分だ。
天気が雨でなくとも、こんな気分の平日は、ヘコまないわけがない。

「最悪だ……」

フラウにさっきから携帯で掛けている。
だが一向に彼女は出ない。部活中でマナーモードにでもしているのか?
それにしてもこの穴の空き具合だと、ハッキリ言ってびしょ濡れは必至だろう。

「ホントに最悪だよねー」

突然背後から声が響いた。とてもきれいな、澄んだ声。
ふと目をやると、そこには見知れた顔。
だが面識などありはしない高嶺の花。

「ねえケトルくん?」

となりのクラスのテトがそこにいた。
男なら誰でも欲情しそうな魅力的な身体……特にその胸が、少し歩いただけなのに少しだけ揺れている。
ハッキリ言ってこの状況は、犯罪的であった。幸いこの時季節は秋。衣替えの時期だ。

厚手のブレザーで、多少胸のボリュームは抑えられているが、それでも少しだけ揺れる。
無論、運動のような激しい動作を行った場合の揺れよりも小さな、震度1程度の揺れ。

だがそれがいい

アニメオタクであり、匿名掲示板にもたびたび足を運ぶケトルにとっては、それこそ最高のシチュエーション。
ひょっとして彼女はブラをしていないのだろうか?
そう妄想すると、今夜ゴミ箱の中身がティッシュで埋まってしまうかもしれない。

「そう思わない? ケトル君」

答えられない。
美味し過ぎるシチュエーションなのに一言も言葉を発することはできない。
寧ろ、疼こうとしている自分の駄息を必死に抑え込もうとすることに全力を注がざるを得ない。

「やっぱり気になる? 私のおっぱい」

…この女。言いやがった。何の羞恥心もなく花の女子高生が別クラスの別に親しくもない男子(童貞)に向けて、誘惑のまなざしを向けながら「おっぱい」と

「別に私は恋なんてしないだろうから今この場で触らせてあげてもいいんだけどね」

「ぜひお願いします」

何も考えずにそう言った途端。ケトルはグーで鼻を殴られた。


「調子に乗ってました。すいませんテトさん」

テトから受け取ったティッシュを、鼻血滴る右鼻に詰め込みながら、そう謝罪する。
その時のテンションは酷く低かったが、今でも彼の中では興奮は冷めやらない。

「ホントに男ってケダモノばっかね。まあそこが可愛いところなんだけどね」

それだけ言い残すと、テトは雨の止まぬグラウンドの外に出た。
そして真っ直ぐ校門へと向かう…………

見間違い。それとも白昼夢だろうか?
テトは消えていた。

その晩、ケトルがティッシュを一箱使い切る事となる。
用途についての詮索は控えてほしい。

――

しばらくあてもなく彷徨っていたケトルが思うのは、その日の白昼夢の出来事。

何故だろう? 親友のフラウがちょっと前に死んだばかりだと言うのに、悲しくもなんともない。
どうしてだろう。と色々考えていたら、ケトルはある物を発見した。

それは扉―――――



一方で、楠森昭哉と内木聡右は、地下室の探索を開始していた。

「随分と古いな…………埃だらけだ…」

聡右は、たびたび目を擦りながら、懐中電灯で暗い地下室を照らし何かがないかと探索する。

「いえ、内木さん。古いと言うのほどでもないかもしれませんよ。ここは」

「? どう言うことだ楠森」

「確かに、埃は凄いんですが…………見てください。さっき見つけた本です」

そう言って昭哉は、聡右に本を手渡す。
その本。一冊の、何の変哲もない本は、懐中電灯で照らしてみると確かに表紙がよく見えないほどの埃を被っていた。
だがその側面。ページ部分を照らしてみると、不自然な事にほとんど黄ばんでいない。

「本は放っておけば劣化します。ページが黄ばんで表紙の崩壊も始まる。だが、この本は明らかにおかしい。まるでこの埃は取ってつけたような感じの付け焼刃だ」

「つまり何が言いたいかといいますと…」

「この本…延いてはこの地下室にあるものは新しいと言うことになります」

「……新しいとどうなんだ?」

昭哉の説明を未だ深く理解しない聡右は、再度問い返す。

「これらの施設・並びにこの島自体が、謎を解くための“ダンジョン”であるという説が浮上します」
「内木さん。ここは便宜上は無人島だ。だのに何で新しい本や映画館がある? 映画館にも行きましたがそこも真新しかった。数年前に無人島と化したとしても不自然なくらいに」

「主催者が…………僕らに何かを解いて欲しがっている…僕はそう推理しますね」
「悪いがさっぱり分からんな。この部屋の全容も、若狭の意図も」

「………誰かいるのかい?」


突然響いた声。
男の声と言う事は理解できるが、妙に高く幼げな声。
声は意外と近くから響いていた。
昭哉が声のする方向に懐中電灯を向けると、そこにはケトルが立っていた。

「や……やあ。楠森君に内木君」

「ケトルさんでしたか……ビックリしましたよ」
「ビックリさせてゴメンよ。でもここで何をしてるんだい? 扉みたいなのが開いてたから来たんだけど」

「その理由でしたらこいつです」

昭哉は、例のカードキーを翳し、それを懐中電灯で照らしながらケトルに見せた。

「ここにF-4の書かれています。僕はこれを頼りにここまで来たんです」

「内木君は?」

「俺か? 俺の場合は乗りかかった船って奴だ」


「で? ケトルさんは?」

ケトルは……答えに詰まった。
言えるはずもなかろうよ。自分の親友を“間違えて”殺した上に、自分はそれをあまり悲しいとは思わず、夢の中のテトに欲情している。
言ったらまず見放される。
下手したら殺されるかもしれない。極限状態のクラスメイトは、きっとストレスを抱え込んでいるに違いないというのに。

「僕は…………若狭にテトが捕らえられていると推測してるんだ…あいつから彼女を救いたい」


内木聡右は思い出す。
そう言えばテトはあの時分校にいなかった。二階堂永遠や卜部悠らと共に。
謎の多い二階堂は兎も角として、テトや卜部はいたって普通の女子高生だ。
だが、この殺し合い。全て若狭一人で動かしているとは考えにくい。

誰かがこの殺し合いで糸を引いている。

ここにきてその“誰か”が誰なのか……すぐに一つだけ選択肢が頭に浮かんだ。

鬼崎嘉聖。

奴ならばすべてのことをやってのけることが可能だ。
だが、あれほど喜佳に組を継がせたかっていた嘉聖自身が喜佳自身が死ぬかもしれないゲームを?
それ以前に、このことを楠森やケトルに話せるだろうか?

喜佳は、家の事で一部のクラスメイトからは白い目で見られている事は知っている(最も、朽樹良子らはそれらを全くものともせずいつも通り喜佳に接してくれているようだが)

楠森昭哉も最初は明らかに自分を疑っていた。
ケトルもどちらかと言えば流されやすいタイプだ。

聡右は悩む。
結論から言うと嘉聖を始めヤクザ関係者はこのゲームに一切関与していない。
だがそのことを聡右は知らない。
ただ父親同然に慕っていた鬼崎虎之佑を殺したのは間違いなくあの老怪だとは分かっている。
罪の一つや二つ簡単に奴は揉み消せるのだ。
だからこそ出会ってしまったその巨悪を疑わずにはいられない。
浅はかであるが、一番の逃げ道でもある。

――

一方で楠森昭哉も推理する。
若狭吉雄を憎悪しつつも、若狭一人でゲームが成り立っているとは到底思えない。
卜部悠及びテトは少なくとも若狭側…………同様にあの場にいなかった二階堂永遠は保留(グレーと仮定した上で)としてだ。

だが、裏で糸を引いているのが若狭だとしたら、どうしてもつじつまが合わない。
卜部悠は性格が悪い事は知っているが、天上天下唯我独尊という人物ではない(むしろそれは銀鏖院水晶が当てはまるが、銀鏖院はあの場にいた)だろう。
事実、卜部は喧嘩で他クラスの生徒を半殺しにしかけていた朱広竜にしょっちゅう絡んでいる。

“虎の威を借る狐”にも見えなくはない。

だがその虎が不在の今、卜部は何故いつもの態度を維持できる?
聊か考えすぎかもしれないが、若狭が黒幕で卜部達が裏方というわけではなく、その実逆………………!

逆転の発想………………! 黒幕は……いたいけな女子高生…………

突飛な、机上の空論としかケトルや内木聡右は取ろうとはしないだろう。
それに昭哉自身もそうであってほしくないと思っていた。

もしそうだとしたら、自分がこのゲームに抗おうとする原動力。
それが根本から削がれてしまうのだ。
自分は道化にはなりたくない。その一心で、彼もまた自分の考えを黙殺した。

だからこのケトルは…………


「もし君達がゲームに抗おうとしてるなら協力したいんだ。僕はテトを助けたい」


ケトルの声に対し、聡右と昭哉は黙り込んだまま。

「…………もしですよ? テトがこのゲームを主催し、僕らを陥れようとしているとしたら……」

「何だよそれ」

ケトルは、昭哉の首筋にサーベルの刃を向けた。

「テトが今どこで何をしているのかなんて細かい事気にしない。でも! 彼女を疑うことは僕は決して許さない! 言っていい事と悪い事があることを!! ちゃんと理解して物を言ってくれ楠森君!!」

「お…おいケトル!」

「………わ…分かりました。刃を下げてくださいケトルさん」

「………ご免。………それはそうとさっきのキー……」

「そうでした…暗くてよく分かりにくいんですがここにそのキーで開けれる“何か”がここにあるはずなんです」

「そうだな……速いとこ探さねえと……んん?」

埃だらけの棚に手を置くと、聡右は何かしらの違和感を覚えた。
何かが置かれている。少なくとも本ではない何か。
それは手に取れた。
手に取れるサイズの、木製の何か。

照らしてみて分かった。

「オイ……何か分からんが変な箱見つけたぞ」


【F-4 地下室/一日目・午前】
【男子十三番:ケトル】
【1:僕(達) 2:君(達) 3:あの人(達)、○○さん】
[状態]:やや疲労、悲しみ、テトへの想いによる憂鬱
[装備]:サーベル
[道具]:支給品一式、M79グレネードランチャー (0/1)、チャフグレネード予備擲弾×4
[思考・状況]
基本思考:どうにかして殺し合いを止めさせる
0:テトのことを知りたい
1:やる気になっている相手の説得が無理だと思ったら逃げる
[備考]
※夢など様々な要素からテトがなにかを知っていると悟りました


【男子二十二番:内木聡右】
【1:俺(たち) 2:アンタ(たち) 3:あの人、奴(ら)、○○(名前呼び捨て)】
[状態]:健康、心が揺れている
[装備]:コルト・パイソン(6/6)
[道具]:支給品一式、予備弾(18/18)
[思考・状況]
基本思考:喜佳と合流したい。仲間を集めてゲームを潰す
0:楠森と共にF-4の地下室を調べる
1:喜佳は無事なのか? あの爺が黒幕だとしたら……
2:戦いを極力避ける、ゲームに乗る気はない。
3:助けを求める生徒は見捨てない(だからと言って油断もしない)
4:襲ってくる者は退ける(殺しはしない)
5:内心では吉良が改心してくれて、生き残ることを望んでいる
6:ケトル、由佳、英人、吉良を警戒
[備考欄]
※喜佳がもしもゲームに乗っていたら、どうするかまだ決めていません(死ぬことはないだろうとは思っていますが、それでも心配です)
※喜佳が銃を扱える事実は聡右以外は知りません
※玉堤英人は吉良邑子、間由佳を利用し、人を殺させていると思い込んでいます
※エルフィがパニックを起こした責任が自分にあると思って、追うのを躊躇ってしまいました
※ゲームの黒幕が鬼崎嘉聖ではないかと推測しました

【男子十一番:楠森昭哉】
【1:俺(達) 2:あなた(達) 3:彼(彼女)(達)、名字(さん)】
[状態]:怒り、激しい憎悪、裏切られた悲しみ
[装備]:消化器
[道具]:カードキー、本(BR)、工具箱(ハンマー、ドライバー、スパナ、釘)、木の枝、支給品一式
[思考・状況]
基本思考: 若狭吉雄を許さない(具体的にどうするかは決めていない)
0: F-4の地下室を調べる
1:倉沢ほのかは保留
2:内木聡右を少し警戒
3:海野裕也が少し心配
4:ケトルを危険視。危ないようなら切り捨てる
[備考欄]
※今回のイベントが本の内容をなぞったものだと考えています
※自分では冷静なつもりですが、その実かなり危ない状態です
※卜部悠、テトが主催者側に居ると確信しました
※内木聡右を以前よりは信用しています
※主催者陣における若狭吉雄の現在の立ち位置について疑問を抱いています


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誓いの剣 ケトル 愛にすべてを
誤算 楠森昭哉 愛にすべてを
誤算 内木聡右 愛にすべてを

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最終更新:2009年09月10日 13:47