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試合開始◆EGv2prCtI.


 誰かに肩を揺すられている気がした。
 身体が重い。何だか首の辺りに違和感を感じる。
 数時間しか寝ていない、起きぬけのような状態だ。
 奇妙な違和感と共に、記憶を辿る。
 朝に起きて、まだ慣れない学校に集合して、バスに乗って、修学旅行先に行って、周りを見学して、クラス企画で船に――

 ――。

 長谷川沙羅(女子二十四番)は未だ覚めない頭を回転させて、身を起こした。
 顔を上げると、クラスメートの仲販遥(女子二十一番)がこちらの肩に手をかけて心配そうにこちらを見ている。

「さら、さん?」
 沙羅は一旦顔をしかめ、もう一度遥を見直してから、言った。
「……仲販さん」
 遥が、にこりと微笑んだ。
「さらさんだけ、おきてなかったから」

 それから沙羅はそれとなく遥を見ていて――その遥の首元に付けられている何か鈍く光る首輪のようなものに気が付き、沙羅ははっと手を動かした。
 かつん、と爪に金属が当たる。
 当たって、指先が数ミリ弾かれた。
 ――自分にも首輪が付けられている!
 先程からの首の違和感はこれが原因だったのだ。
 しかも、いくら引っ張ってみても何故か外れない。
 ホックやスイッチになっているところも見当たらない。
 誰に、いつ嵌められたのかも分からないこの首輪は沙羅の感覚にかなり不快な違和感を醸し出していた。
 いや、しかし今はそれより――

 一旦、遥から視線を外して、周りを見渡した。
 その部屋の木造の天井や壁を確かめて、どうやら今居るのは見知らぬ教室であることが分かった。
 そして自分はその教室の机で寝ていたらしいというのは分かったが、しかしこれまでの記憶とはまるで整合性が取れていない。
 そう――修学旅行。
 修学旅行の、船の上で寝たのなら起きても船の上に居るのが自然ではないだろうか。

 教室にクラス全員が居たようで、ほぼ半分の人数は教室のあちこちを調べていた。
 身体が大きいので目立つグレッグ大澤(男子十二番)やクラス委員長のサーシャ(女子十六番)、あと、まだ名前の把握をしていない男子や女子の何人かもその中に入っていて、何もしていない生徒は落ち着かない様子で座りながら調査を見守っている。
 見たところ――窓と恐らく廊下側に二つある扉は、当座開かないようだった。

「他のみんなが教室のあっちこっちを探してるけど、扉も窓も開かないみたい」
 声がして、沙羅が振り向くと後ろの席のエヴィアン(女子三番)が綺麗な蝶の羽を整えながら、こちらを見ていた。
 予想通り、と言うか、やっぱりエヴィアンの首にも金属のそれが付けられていた。
「どうも、イベントって感じじゃないわ。首輪とか、何かおかしい」
 自らの首輪を指差して、エヴィアンはやや深刻そうに言った。
「修学旅行に……」
 沙羅は聞こうとし、しかし一旦言葉をしまった。
 いけない。どうも言い方が悪くなる。
 私の悪い癖だ。
「私達は、修学旅行に行っていたんじゃ?」
 多分、エヴィアンにも答えようがない質問だろう。
 しかしそれでも、沙羅は聞かずにはいられなかった。
「そうね、私もそう思っていたんだけど――」

 エヴィアンがそう言い終わるか言い終わらないかの内に、黒板側の扉ががらがらと音を立てて開いた。
 みんながそちらに視線を向け――隙間から見えた廊下の奥は真っ暗で、そこから魚を連想させる不細工な顔の男が、入って来た。
 ――歴史科の教師の、名前は確か――若狭吉雄だ。
 いつもなんだか影が付き纏っている感じで、今も、根暗なオーラを放っている気がする。
 扉を閉めて、教壇まで歩くと、若狭がやや抑え気味に叫んだ。
「はい、みんな座って座って」
 その指示を聞いて、立っていた生徒が何も言わずに全員それぞれの机に戻っていった。
 そう、これでようやくこの訳の分からない状況の説明がなされるのだ。
 いや――内木聡右(男子二十二番)辺りが何かを言いたそうにしているように、本当は文句の一つでも若狭にぶつけたいのだろうけど、しかしそれを言ってはいけない強い威圧的な雰囲気がした。
 そう、若狭に何かを言うことを許されない、威圧的で異様な何か――が。

 全員が座ったことを確認すると(いや、厳密には、三席空いていた。しかしそれが誰の席なのかは思い出せない)、若狭がしゃがれた低い声で、言った。
「えーと、今回のイベントを担当することになりました。よろしく」
 イベント。
 やはり、これはイベントだったのだ。
 沙羅は安堵した。
 別に自分達は誘拐とか変なことに巻き込まれた訳じゃない。
 これから――これから楽しい何かが始まるのだ。
 そう信じたかった。
 いや、信じずにはいられなかった。
 ――今の今まで。

 そして、若狭は言った。
「これから皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」


 ざわ、と一瞬だけ教室全体がざわめき、そして誰かが呻いた。
 それも直ぐに止んだ。
 殺し合い? 何かの比喩表現?
 それにしては普通、『殺し合い』だなんて先生は言わないのでは?
 それとも――本当にこのクラスメート達と殺し合えと言っているのだろうか?
 有り得ない。漫画や小説じゃあるまいし。
 しかし――

 沙羅達が混乱している中、突然男子のクラス委員長のラト(男子二十七番)が立ち上がった。
 髭が揺れて、革靴の上等な足音が響いた。
 若狭がラトを睨み付けるように見ている中、少し間を置いて、ラトが言った。
「若狭先生、テトさんと二階堂さんと卜部さんはどうしたんですか?」
 言われて気が付いた。
 卜部悠(女子二番)、テト(女子十九番)、二階堂永遠(女子二十二番)の姿が見当たらない。
 空いていた席は三人のものだったのだ。
 三人は、一体何処に連れていかれたのだろうか。
 それとも――
「じゃあ、ラトでいいか」
 若狭はラトの質問に答えることなく、何か手にすっぽり入るサイズのリモコンを取り出した。
 そして、ラトに向けて押した。

 音が教室の中で聞こえ始める。
 よく耳を澄ますと――ラトの首輪から、高い電子音が間隔を置いて発せられ始めていた。
 何か、重大なことが起ころうとしているのは確かだった。
「やっぱりか……」
 ラトは、目を細めた。
 観念したのか、いや、或いは始めからこうなることを予測していたかのように、ラトは俯いて首を横に振った。
「元から僕を殺すつもりだったのでしょう? いいでしょう。それが彼女の意思なら僕は止めません。
 彼女自身の結末がどうなろうとね」
 若狭が、僅かに顔を歪めた気がした。
 それからラトが言う彼女――が誰かどうかを考える前に、沙羅達の思考は別のところに飛ばされた。
 首輪の電子音の間隔が徐々に短くなりつつあったのだ。
 何が起こるのか、予測は簡単に出来た。
 多分全員が、首輪がラトを死に至らしめることを容易に考えることが出来たのかも知れない。
 ラトの周りに居た生徒が、机や椅子を吹っ飛ばしながらラトから急いで離れた。
 ラトが、ふん、と鼻から息をついた。

「サーシャさん」
 ただラトを目を見開いて見ていたサーシャが、声を掛けられて口を開けかけた。
 いつの間にかラトのかわいらしい猫の鼻と、澄んだ瞳がサーシャに向けられていた。
「多分、好きだった」

 それを言い終わったその時、まさにその時、こもったようなどん、という音が響くと唐突にラトの首元から赤い何かが噴霧された。
 ちょうど――沙羅達にも付けられている首輪の、中心部分と同じ位置が。

 全身に張り詰められていた糸が切れたように、ラトの身体が力無く崩れた(その時、頭が斜め右後ろ隣の倉沢ほのか(女子十三番)の机の隅にぶつかって、ほのかが小さく呻いた)。
 それきり、仰向けになったラトの動きが止まり、赤黒い水溜まりがラトの首を中心に面積を広げ始めていた。
「きゃあああああ!」
 仲販遥が目を見開いて悲鳴を上げた。
 それを皮切りに、程なく重なった悲鳴が発せられ、一部の生徒――朱広竜(男子二十番)や和音さん(女子二十七番)、倒れたラトを見たままのサーシャ、それからその他何名か――を除いてみんながラトから離れるように教室の後ろへ駆け出した。

「待て!」
 凛と響く大きな声が叫ばれ、悲鳴が止んだ。
 左腕を横に広げてみんなの静止を促した玉堤英人(男子十九番)の声だった。
「僕達を驚かそうとしている委員長の悪ふざけじゃないのか?」

 ――そうだ。
 何かのたちの悪い、ラトのサーシャへの公開告白イベントだ。
 卜部も――最初からそれが目的でこれを提案した。
 そうに違いない。
 英人が言った通り、これは――

 思い立ったように麻倉美意子(女子一番)とフラウ(女子二十五番)が同時にラトに近寄り――フラウが先にしゃがみ込んで、ラトの手首を持った。
 美意子と英人がそれを見守る中、フラウが尻尾を降ろして首を振りながら、言った。
「……英人、本当に死んでる」
「――」
 全員が言葉を失った。
 若狭はその様子を、ただじっと見ていた。
「いやあああ!」
 悲痛な叫びが、教室に響いた。
 遥が、沙羅の後ろでしゃがみ込んで、ただ叫び続けた。
 また教室がソプラノのコーラスに満たされ、内木聡右やトマック(男子二十一番)ら何人かが扉に駆け込んだが、どう力を入れても扉が動く様子はなかった。

 ――ラトは、転校して来たばかりの沙羅に、優しく接してくれた。
 口下手で、人付き合いが苦手な自分に。
 そのラトが、死んだ。
 死んでしまった。
 いや、もしかしたら自分はこれを止めに入れたのかも知れない。
 それも――ラトが助かる可能性も本当に失われた、のか?

「はいみんな、立ったままでいいから静かに、静かにしろー」
 リモコンを持ったまま若狭が言った。
 そのまま、全ての物音が即座に掻き消えて静寂が訪れる。
 無理も無し、このまま騒ぎ続けていたら――ラトのように首を吹き飛ばされるのだ。

 落ち着いたのを確認して、若狭が続けた。
「えー、では、説明するぞ。
 ルールは簡単、みんなには後で渡すデイパックの中に入っている武器で最後の一人になるまで殺し合ってもらいます。
 武器はそれぞれ違う物が入っているからなー、銃でもフォークでも恨みっこ無しだぞ」
 ――本気だ。
 既に本当に死人が出ている以上、嘘だということは有り得ない。

 若狭は黒板に何か、地図のようなものを磁石で貼り付けた。
「これはこの島の地図です。
 地図が縦線と横線で区切られていますが、これは禁止エリアの目安です。
 六時間ごとに放送で伝えますが、決められた時間に発動する禁止エリアの中に居ると、首輪が爆発します。
 あ、それから島から離れたりしても爆発して、最後に死んだ人から二十四時間以内に誰も死ななかったらみんなの首輪が爆発するぞ」
 どうあっても逃がすつもりは無いらしい。
 いや――しかし、目的は?
 何故こんなことを行う必要が?

「理不尽なことかと思うかも知れないけど、それは違う。
 これは先生やみんな達なんかよりも偉い人が決めたことなんだから、みんなもそれに従うんだぞ。
 だから頑張って殺し合えよー」

 ラトの芳醇な血の臭いが教室を漂っている。
 そのラトを見たままのサーシャを除いて、みんなが、みんなをちらと疑いの目で見始めていた。
 首輪の威力は既に実証されている。
 それは若狭に従うしか無いということで、そしてそれは――

 沙羅はまだよく知らないクラスメートが居る。
 しかし、本当に見知ったクラスメートを殺せる人など居るのだろうか?
 あってはならない、そんな悲しいことなんて。

 沙羅がそれを考えている途中で、若狭がリモコンのスイッチを押した。
 首から――いや、全身に電流のようなものが流れた気がした。
 沙羅は、意識を失った。

【一日目・深夜 ゲーム開始】
【男子二十七番:ラト 死亡】
【残り50人】

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GAME START サーシャ 壱里塚と久世の異常な愛情
GAME START 玉堤英人 玉堤英人は大いに悩み推測する
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GAME START ラト 死亡