玉堤英人は大いに悩み推測する ◆zmHe3wMKNg


住宅街の民家の中でパソコンのキーボードを叩く音がする。。
音を出す者の名は玉堤英人。コンピュータ部に所属し、プログラムを作成できる程度の知識はあるものの、ごく普通の男子高校生。
ひとつだけ他人と違う点は、とある事故で失った左腕の肘から先をチタン合金製の機械の義手に替えている所か。
事故で失う前の腕には小学校からの腐れ縁でそのまま付き合ってしまっている彼女、
間由佳からもらったバングルがはまっていたのだがそのまま一緒に無くなってしまったようだ。
―別に大した問題じゃない。たとえ体がすべて機械に替っても僕が人間である事実に変わりはないからね。
…まあ、今そんな哲学的なことを考えても仕方がないか。
僕に支給されたのは武器ではなく、ごく普通の「USBメモリ」。
一瞬嘆いたが、これは主催者側の重要な情報でも入っているのかもしれないと気を取りなおし、
鍵が開いていた民家に侵入し、パソコンを立ち上げて中身を覗いてみたわけだが(もちろんネットには繋がっていなかった)
…空っぽ。どうやらハズレということらしい。
ちなみに、支給品にはこんなショボイもんを用意する癖に、部屋の棚の中には日用雑貨の代わりに弾薬の入ったケースが詰まっていた。
要するに銃火器を支給されている連中は弾切れの心配をせずに撃ちまくれ、ということか。
かといって銃火器を支給された者が絶対的に有利であるかというとそういうことでもない。
そもそも銃火器は一介の学生がいきなり使いこなせる代物ではない。
確実に当たる射程は1~2メートル程度。正直その距離で殺すならナイフで刺すか金属バットで殴った方がマシな気もする。
遠距離からの攻撃はボウガンやスリングショットとったものの方が使いやすくていいだろう。

「はぁ…ずいぶん冷静だな。」

ああ、実はメモリに主催側の情報なんか入ってなくてもだいたい察しは付いているんだよ。
なんとなくこんな日が来るような気がさ。「彼女」がここにおらず、ラトが首を吹っ飛ばされた時に確信したね。

「…始めたのか?二階堂永遠。」

◆ ◆ ◆

「なぁ、そんなところで一人で本読んでて楽しいか?」

僕、玉堤英人があの時微妙にクラスから浮いていた二階堂永遠(女子二十二番)に話しかけたのは、ちょっとした気まぐれだったんだと思う。
あの時期は付き合ってる由佳とちょっとしたいざこざで疎遠になってて、ストレスもたまっていたんだろう。
「……あなたに何か関係があるのでしょうかね……?」
「別に?ま、いいじゃん。同じクラスメイトなんだしさ。あ、僕は玉堤英人、よろしく。
趣味は音楽鑑賞で特技はプログラム作り。フォートラン言語はプロの領域まで極めてるね。」
「……へぇ、プログラム、ですか……。」
「コンピューター部の期待のエースってやつだな。桐原重工から推薦とか来てたりするんだぜ。
 まぁSEなんてなる気はねーけど。…あれ?ひょっとして興味あったりする?」
「……桐原重工は私のバイト先……。」
二階堂が少しわざとらしく咳き込んだ。
「……すみません…このことは内密に……。」
「ああ、分かってるって。この学校バイト禁止だしね。良かったじゃん共通の趣味があって。」
今まで気付かなかったけど実は結構美人なんだな二階堂。このまま二股掛けちまおうか―
「……趣味…いや、違う。あの世界こそ私の存在理由……。」
「…はい?」
そして、こっちを見た彼女は能面のようだった顔に笑みを浮かべた。
「……そうね、あなたなら教えても……」

「……私の兄は桐原重工に勤めるSE……レプリカントの知能を作る部門に所属していた……」
「おいおい、最高峰じゃん。」

レプリカント。この教室にも片桐和夫などの生徒がそれに該当する。
その見た目や行動は人とほとんど変わらないが彼は奴隷として販売するための適応テストのために来ている。
獣人とも長い間人種間で確執があったなか、彼らの人権が認められる日はまだ遠いだろう。
…当たり前だ。人間が作った存在が人間と対等なんてあるはずがない。

「その通り。レプリカントにとって人間こそが神であり、崇拝すべき存在。その筈だが…今も不可解なことがある。」
「なにが?」
「……兄はレプリカント達を崇拝していた。」
「は?…あーでもわかるわ、それ。」」
「…なぜ?」

そもそもフォートラン言語を習得とかですら生半可な難易度じゃない。
それこそ、人間と同じ思考とやらをプログラムして作り出すなんて正気のさだではないだろう。
販売側はどうであれ、作っている人間にとっては僧侶が仏像を彫るに等しい行為。
すなわちレプリカントこそが神なのかもしれない。

「そうだなぁ、俺も片桐を見る目を少し変えなきゃならないかもな。」
「……特に、兄が最も崇拝していたのは私だった……」
「は?…まぁ、いいんじゃね。結局家屋が一番大事ってことでしょ?人間らしくていいじゃん。
 …あー?なにがいいたいの?微妙に話が繋がってないような…。」
ふっ、と二階堂が少し笑った。
「……その左腕……」
「ああ、事故でちょってね。ちなみに桐原重工製。出来いいだろ。」
「そうね…数年前まで私もそのような機械の儀体を使っていた。」
「え?そうなの?…でも見た感じプラグ耳とか尻尾とか見当たらねー普通の体じゃん。」
「…兄の努力の成果…昔の私は、腕も足もお腹も眼も頭も…すべて金属製だった…」
「…あー、冗談でしょ?面白いな~二階堂さん。」
「……私の整形は、兄と兄の知り合いの外科医が極秘裏に行ったもの。
 死体置場から購入した死体の、比較的綺麗な部分を少しずつ集めて、徐々に入れ替えていった。」
「…なにそのホラー?」
なんかだんだん電波なこと言い始めたぞ、意外とユーモラス?
それとも地雷踏んだか?
「……そして、すべて入れ替え終え終わってすぐ、兄は亡くなりました。
 睡眠不足による過労と外科医は説明していた。そこまでして、崇拝する私を綺麗にしたかったのだと。
 確かにそれは誇れることだが、残った私は何をすればいい?どこに情熱をむければいい?」
「…あー…?」

少し、寒気がしてきた。

考えてみれば一理ある。

今は人間が機械で作った手足を装備する時代だ。
しかし、実は逆も存在するのではないだろうか?
例えば機械が人間で作った手足を装着しているとしたら。

「……でも、たとえ体をすべて人間のものに替えても、それは人間と呼べるのでしょうか……?」

なにも言えない。

「……私はいつか完全に人間にならなければならない。でも、私一人では人間とは呼べない。
 他人との対等な交流で初めて人間と定義されるのだから……。私がみなと違うというなら、
 みんな平等にすればいい。私は、いつかそれに情熱を注ぐべきだ。」

平等ってなんだ?

「……その日が来たら、協力してもらいますよ……。」

顔が近づき、彼女の異常に冷たい唇が頬に触れた。
―その時僕は見た。彼女の、細身だが女性と呼ぶにはやや太めの左腕の手首に、
由佳にもらってからずっと嵌めていた僕のバングルが嵌っているのを。




結局、それ以来僕は二階堂を避けるようになった。彼女からも積極的に話しかけてくることもなく、
しばらく経ったある日泣きながら謝ってきた由佳と寄りを戻したこともあって、二階堂と会話することはなくなった。
別に差別とかそんなんじゃない。ただ単純に恐怖。
人間に作られた…らしいあいつは、僕より食物連鎖で格上。脳裏にそう刷り込まれていた。


◆ ◆ ◆

「そして、僕は今ここに居る、と。」

回想を元に二階堂が主催だと推測すると、二階堂が情熱を注ぐ目的は、ここにいる全員を死体に変えて同じ数のレプリカントに被せること、か?
どこのフランケンシュタインの怪物だよ。

「まぁ、結局は憶測に過ぎないけどな。」

彼女がここまで回りくどいイベントを行う理由がわからない。恐らく本当の主催は別にいて、便乗させてもらってるだけの可能性もある。
あるいは二階堂は実はいいやつでなんだかよくわからない奴らに嫌々協力させられているだけなのかもしれない。
もしくは二階堂は全然関係なく、いなかった三人はすでに殺されてるだけとか―

可能性は無限にある。考えても答えはでないだろう。
分かっているのは、どんな理由であれここに連れてこられた時点で既に詰みということだ。
所詮は普通の人間である僕の命もそう長くはないと考えたほうがいい。

「とりあえず、由佳でも探してみようかな。」

そして、二階堂について知っている限りの推測と憶測を書きだしたメモ帳をUSBメモリに写し終えた僕は民家を後にした。


―これが僕の遺言になるのか、みんなと交渉するのための切り札になるのか、まだ判らない。


【H-5 市街地/一日目・深夜】
【19:玉堤英人(たまづつ・ひでと)】
【1:僕(たち) 2:君(たち) 3:あの人、あいつ(ら)、○○(名前呼び捨て)】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、USBメモリ
[思考・状況]
基本思考:間由佳と合流したい。主催側がどうなっているか知りたい。
0:ゲームに乗る気はない。基本的に身を潜めてやり過ごす。
1:話が通じそうな人に出会ったら情報を餌に交渉して仲間に入れてもらう。
2:一応武器になりそうなものを探す。
[備考欄]
※USBメモリに玉堤英人の推測を書いたデータが入っています。



時系列順で読む


投下順で読む


試合開始 玉堤英人 スレイヴマスター




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年12月14日 01:37