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第二話「嘆願書に署名してくれないか?」イーヒン「は?」

「殺し合い……かぁ」
住宅街のど真ん中でキム・イーヒンは静かに思考していた。
無論、それはこの強制された殺し合いという状況についての事。
突然の拉致に加えて、爆弾入りといった物騒な首輪による束縛。そして理不尽な要求。

「うん……悪くないね」

イーヒンはさして、その事に不満や怒りを抱かなかった。
それどころか、この状況に対して楽しさすら感じていた。
イーヒンは若くして日本の黒須市にて活動する凶悪なギャング団のボスを務める男だ。
魔王サタンより地獄から死者を借り受け、ゾンビとして使役する特殊召喚能力者『ゾンビ使い』の一人でもある。
イーヒンはそのゾンビ使いの中でも珍しい、ゾンビ召喚以外にボーナス的に別の能力を宿す星を持つ『フリークス(変わり種)』だ。
イーヒンは他人にゾンビ召喚という強大な力の証、『星(スター)』を他人に与える能力を持つ。
その能力で片っ端から普通の人間に星を与え、従わせることで彼は頂点に立ってきた。

「なかなかスリリングで楽しそうじゃないか」
イーヒンが優先とするものは自身の娯楽、それは『他人が争い、血を流す光景』を見ること。
たとえそれが自分の部下だろうが構わず、スリルを得られるのなら良しとするイーヒン。
彼にとって、この場は正に最高の娯楽場所だと言える。
残虐なスリルを楽しく満たせる場所を、最高と言わずなんという?

「……楽しまなきゃ損だよね♪」
イーヒンの内にあるのは絶対的な自信、肝っ玉が大きいとかそんな次元ではなく、絶対に自分は死ぬことは無いと確信しきっている。
バックに入っていた名簿をざっと見るに、イーヒンの知る人間は参加していないようだ。別に居たとしても彼にとってはどうでもいい事だが。

「〜〜〜♪♪」
鼻歌を歌い、バックに名簿をしまう、代わりに取り出したのは会場の地図。

「まずは……ざっと巡ってみるかな、会場」
イーヒンはバックを肩にかけ、地図片手にその場を離れた。
その足取りは軽く、隙だらけに見えなくもない。しかしそれは見せかけだけで、その裏にはとんでもない凶悪さを兼ね揃えている事を把握できるものは何人いるだろうか?
そんなイーヒンが他の参加者と出会うのは比較的直ぐであった。

「そこのあんた、ちょっと良いかい?」

歩き始めて数分。気配を隠そうともせず堂々と接触を経ってきた相手は、サングラスを着用したコート姿の白人だった。
首に首輪をつけられ、参加者全員に支給されるバックをもっているあたり、彼が参加者であるのは疑い用もない。

「……なんでしょう?」
イーヒンは気まぐれか、彼の問に答える。勿論警戒されないように人当たりのいい仮面の笑顔を被って。
男はイーヒンの知らない人間だった。
コミニケーションをはかり、使える人間だったら何かしらの協力関係を築くのも良いし、利用できそうになかったら、自身のゾンビ『毒婦の抱擁』の鋏ででもバラせば良いだけのこと。気まぐれな彼はそう考えたのだろう。

「あんたも殺し合いの参加者だよな?名前を教えてくれ」
 話し掛けてきたものの、イーヒンから適度に距離をおき、男は近寄ろうとしない。今の状況ならこれが当然だろう。
見知らぬ他人に警戒心を抱かない訳にはいかない。おいそれと気を許しては命に関わるからだ。

「僕はイーヒン。参加者かと問われればそうだよ。
 気がついたらこんな事に……わけがわからないよ」
ここは同じ被害者側として接した方が得だと、瞬時に当たりをつける。

「そうだ、俺もだよイーヒンさん。あんたも巻き込まれた口か?お互い災難だよな。ほんとによぉ……
そこで巻き込まれた者同士、ちょっと頼みたいんだけどさ」
「ん?なんだい?」
「この嘆願書に署名してくれないか?」

男はゆっくりとした足取りで近づき、右手に持つ嘆願書をイーヒンに向ける。
表情は真剣そのものだ。
「……嘆願書?」
「そう、嘆願書だよ。署名してくれ。礼はするから」

率直に言えば、イーヒンは困惑した。
普通この流れで考えれば、この殺し合いについての具体的な対策や情報交換を行うものじゃないだろうか?
なのになぜ突然嘆願書の署名を求める?

「……えっと、君」
「デュードだ。俺はデュード」
「……デュード。なんの署名かは知らないけど、ちょっと今はそんな状況じゃないんじゃないかな?」
「俺にとっちゃこれは重大なことなんだよ。なぁ、サインしてくれよ。礼はするから」

男(デュードという名らしい)は、遠回しに遠慮してもしつこくサインを求めてきた。
イーヒンは差し出されている嘆願書を見てみる。
内容はよく理解できないが、妙な小細工などはされていないだろう、極普通の紙切れだ。罠などの類ではないと思える。
デュード本人はどうしてもサインが欲しいらしいがーー

「……わかった。サインすれば君の気はすむんだろう?ペン持ってるかい?」

たかがサイン。デュードのしつこさに折れ、イーヒンは差し出された嘆願書を受け取った。
デュードは満面の笑みを浮かべ、一本の鉛筆をイーヒンに渡す。
新品同様の長さを持つ、削り建ての鉛筆。おそらく支給品だろう。

「キム……イーヒン……っと、これで良いかい?」
「あぁ、これで良い。ありがとよぉ」

記入欄にサインを書き、デュードに渡し返す。
デュードはそれを受け取ると、満足げに礼を返す。
そして素早くコートから、隠していた散弾銃を取り出し、イーヒンの顔面に突きつける。


 ドバァン!!


銃身が切断されているため、その銃からは束で散弾が発射された。
鈍い発砲音を響かせ、顎から上をふっ飛ばす。
糸が切れた人形のように、脱力した体が崩れ落ちる。
そこからの行動は素早かった。
デュードはそれをゴミのように蹴り飛ばした。頭の無くなった胴体が、道の隅に転がる。
そして素早く振り返りもせずにその場を立ち去る。
銃声は目立つ。近くに参加者がいれば、まずここに来るだろう。その前にトンズラするのが利口だ。
デュードは恐ろしいほど冷静だった。
そのくらいの判断を、瞬時に下せるほどに。


「良い一日をなぁ、イーヒン」


場違いなほど明るい声で、デュードは一言残していく。


◆ ◆ ◆


デュードが去った後、放置されたイーヒンに異変が起こる。
失った頭部の断面から、ヤモリの尻尾のように何かが生えてくる。
それは、段々と大きくなり、形を整え、やがて正常なイーヒンの頭になった。
これはイーヒンの「異能」……いや、「得意体質」の起こしている事態。
人体の切創(キズ)は血液によって凝固し、かさぶたの内側では肉・血管の再生が行われる。
回復期間は人によって個人差が生じるが、イーヒンの血液の場合、回復の作業を秒単位の早さで行えるのだ。
回復にはそれなりの"タンパク質"が必要になるが、本来致命傷となるべきダメージも新陳代謝の一環として処理される。
その驚異の体質は、再生能力が無いとされる脳細胞や、神経組織すら復元可能。
それゆえに、頭を銃で撃たれた"だけ"では、イーヒンは死なない。


「…ひどい目に合った。もう少し警戒するべきだったな。」


再生したばかりの頭を揺らし、感覚を掴む。
自分の頭をふっ飛ばしたデュードに対する怒りは、驚くほど希薄。
頭を銃で吹き飛ばされるなど、イーヒンにとってはそんな驚くことではない。すでに何度か経験済みだ。
そんなことよりも彼は急を要するべき事があった。

「…タンパク質を補給しないとな。」

失った組織を再生するためには、それと同じ量の"タンパク質"を消費する。
早急に補給しなくては。
放置されたデイバックを掴むと、イーヒンはその場を去った。

◆ ◆ ◆

イーヒンとデュードが立ち去ったあと、その場に残されたのは派手な血痕と、幾つかの肉片。
そして、接触を図るタイミングを失ったまま隠れていた一人の少女だけだった。


「なんだったのよ……今のは……」


傍線と呟く言葉に答えるものはいない。

彼女の名は金張財子(きんばり ざいこ)。「キンバリー」という渾名で呼ばれ「ひとり校内貴族」の別名を持つ、うぐいす中学校3年B組所属の女子中学生。
普段の金持ちという事からあふれる自信は鳴りを潜め、その表情には当然ながら怯えが映る。
キンバリーはすべてを見ていた。
デュードとイーヒンの会話から、デュードの唐突な発砲までも。
イーヒンが死なずに、何事もなかったかのように(少なくともキンバリーにはそう見えた)立ち去るところまでのすべてを。
吐き気がした。人間の脳味噌が撒き散らされる光景なんて、見たくもなかった。
キンバリーは恐ろしかった。平然と好意的に接していた相手を殺したデュードという男が。
キンバリーは恐ろしかった。頭を撃たれても、死ななかったイーヒンが。
首に張り付いた首輪が、ひんやりとした金属感を伝えてくる。

三家本礼とか言う男が見せた"賞品"は……私でも見たことが無いくらいの大金だった。
デュードって名の男も、あの大金につられて殺し合いに乗った?
イーヒン……あの得体のしれない男も、殺し合いに乗ってるかもしれない。

「……なんなのよぉ、本当に……」

銃で撃たれても死なない化物に、殺し合いに乗った殺人鬼。
そんな連中と、私が戦える?
ーー無理だ。絶対に無理だーー

「……お金をあげるから、誰か……助けて」

その場にいるのはキンバリー1人。
ゆえに、助けを求める悲痛な言葉に、応じるものはいない。




【3―F/黒須市住宅街/一日目/朝】

【キム・イーヒン@ゾンビ屋れい子】
[状態]: 健康。服の襟首に血痕付着 体内タンパク質91%
[服装]: 原作初登場時の服装
[装備]:
[道具]: 基本支給品 ランダム支給品×3
[思考]
基本:タンパク質を補充し、殺し合いに乗る。
1:殺し合いを楽しむ。
2:会場を観光?する。
3: 「この服お気に入りだったのに……」
[備考]
※れい子の存在を知る前からの参戦。

【ポスタル・デュード@ポスタル2】
[状態]:健康。
[服装]:コート姿。
[装備]:改造ショットガン@サタニスター
[道具]:基本支給品 散弾の弾×39発 ランダム支給品×1
[思考]
基本: 嘆願書の署名を集める。
1:1500万ドル?イカかしてるぜ!
2:楽勝だぜ!
3:ファック!
[備考]
※嘆願書の署名活動中からの参戦。

【金張財子@血まみれスケバンチェーンソー】
[状態]:健康。恐怖・不安。
[服装]:セーラー服
[装備]:
[道具]:基本支給品 ランダム支給品×3
[思考]
基本: 死にたくない……でもどうすれば?
1:一体どうすればいいの?
2: 誰か助けて
[備考]
※鉈叉によって脅迫されていた時期からの参戦。
ギーコと会う前からの参戦なので直接ギーコの事は知りませんが、知識では知っています。




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最終更新:2013年12月25日 22:30