目の前に光が満ちる。何やら妙に周りが騒がしい中、沢本いずみは目覚めた。
(……ここ、何処だろう。)
いずみはぼんやりとした表情で、自分の周囲を見渡す。
広さは高校の体育館ほどか、少々薄暗いホールのような空間。全くもって見覚えがない。
いずみ以外にも大勢人がいる。中には仮装のような格好をしている人物も多い。いずみは、その中に見知った顔を見つけた。
「サタニスターさん!」
大柄な修道女(シスター)に駆け寄るいずみ。サタニスターと呼ばれた女性は、駆け寄って来たいずみを驚きの表情で出迎える。
「いずみ、あんたも此処にきてたのかい」
「は、はい。気がついたら此所に居て……サタニスターさん、ここってどこですか?」
「残念だけど、あたしも今目が覚めた所だからね。あんたと同じで状況がよくわからない……一体全体どういう事なんだろうね」
サタニスターも此所がどこか判断がつかないらしい。もしかしたらこの人なら何か知っているんじゃないかと期待していたいずみは少々落胆する。が、知り合いと合流できたことは、いずみにとってありがたかった。
「皆様、初めまして。こちらにご注目ください」
粘着質で、嫌に高い悲鳴のような不愉快な声。
先程まで誰もいなかったこの空間の中央部分、その場所に一人、高級そうなスーツを着こなす背の高い人物が立っていた。
まるで瞬間移動したかのように、最初からそこにいたかのように、その男はそこに居た。
まるで鳥のようだ。
この場の全員がその人物に抱いた印象はそれだった。
男が何者かはわからない……が、あり得ないほど青白い顔をしたこの男は、どう見ても人間には見えない。不気味な青い鳥が不器用に人間の服を着ている。そうとしか見えなかった。
「私の名前はハーピュア。突然の事態で混乱しているでしょうが、皆様を此処に集めた目的をお話ししましょう」
自分に集中する視線を確認するように眺めながら、ハーピュアと名乗る鳥男は語る。いずみは、その無機質な瞳が酷く恐ろしい物に感じられた。
「これより此処におられる皆様には、殺し合いを行って頂きます」
淡々と言い放った言葉。それに何ら臆するものも感じられない。
◆ ◆ ◆
「より厳密に申し上げれば……。
皆様はこれより用意された場で最後の一人になるまで殺し合いを行ってもらうのです」
「気づいている者も、そうでない者も居らっしゃるでしょうが、この催しを円滑に進めるため、皆様には枷を用意させて貰いました。自分の首を確認してみてください」
「見ての通り、首輪がはめまれています」
「これはこの通り――」
『ピ――――』ボンッ!
間の抜けたタイマー音が鳴り、突如ひとりの男の首輪が爆発した。頭部を失った首から血が吹き出る。
不運にも爆殺された男の周辺から短い悲鳴が上がる。
「――首輪自体が爆弾になっている仕様です。私たちは何時何時でも、特定の参加者がこの催しの障害になると判断した場合には
これを爆破できる権限がありますので、くれぐれも自身の行動にはお気をつけください」
「皆様には殺し合いの会場に飛んで貰いますが、そこで会場の地図や食糧。
そして何らかのアイテムを支給しておきます。これはどんな品物が当たるかは完全にランダム。殺し合いに役立つかもしれないしそうでないかもしれないのでご了承ください。
運も実力の内という訳です。
最後に、死亡者の名前は6時間毎の定時放送で発表させていただきます。
その際に禁止エリアも伝えるので聞き逃さないようにお願いします。放送は一回につき一度しか行わない方針ですので――」
淡々とハーピュアによって行われる狂ったゲームの説明を、いずみは唖然と聞いていた。まだ頭が状況を理解しきれていないのだ。
その横ではサタニスターが、険しい表情でハーピュアを睨んでいた。
「――さて、これで大体の説明が終わった訳ですが――」
『ピ――――』
「――おや?」
ハーピュアが怪訝な表情で、新たに鳴り始めた機械音の方に顔を向ける。
「え、あ、あれ……マヨの首輪が……い、いや! なんでなの!? お願い、早く外してよ!」
「麻、麻夜!? 待ってろ、今すぐ外してやる 」
車椅子に乗った少女は、不気味に音が鳴り続ける首輪を外そうと必死に引っ張りながら、青ざめた表情でハーピュアに懇願する。
その隣では、少年が少女の首輪を必死に外そうとしている。恐らく少女の兄だろう。
それを見たハーピュアは少し哀んだ表情を浮かべていた。
「Mrs.麻夜様、申し訳御座いませんが、その首輪は無理やりに外そうとすると自動で爆発する仕掛けになっております」
「っ……!? そ、そんなぁ! お願いいいいィィィィ!!!!嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ハ……ハーピュアとかいったな!!てめー今すぐ麻夜の首輪を止めろ!!さっさとしねーとブッ殺すぞ!!」
「諦めなさい」
ハーピュアは冷たく言い放つ。
少女――東堂麻夜の顔は絶望に染まり、大粒の涙をボロボロと零していた。
『ピ――――』
「嫌ぁ……お兄ちゃん……死にたく」―――ボンッ!!!
麻夜の言葉を遮り、非情な破裂音が響き渡る。
「まよぉぉぉぉおおおお!!!
アアああアぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああっ!!!
てめぇぇぇぇぇ!!」
妹の亡骸を抱き締め、絶叫する兄――東堂雄貴は、凄まじい殺気をハーピュアに向ける。
ダッダッダッダッダッダッダッ!!
変化は急に起きた。突如その場に十字架を背負ったガンマンが現れる。
ガンマン――ジャック・ガンズは、主の怒りに呼応するように、2丁拳銃の弾をありったけハーピュアに叩き込む。
頭が、肩が、腹が、眼が、腕が、凶弾によって吹き飛ぶ。あっという間にバラバラに崩れ落ちるハーピュア。
「はぁ……はぁ……」
「――お気持ちは察しますが、私に銃弾など効きませんゆえ、これで勘弁していいただきませんか」
「……なっ!?」
それも一瞬。妹の仇を取ったという希望は片時も成されず、何事もなかったかのようにパーツが合わさり再生する。
あまりにも異常な光景に、周りが騒然となる。
あまりの惨状に顔を青くしながら呆然とするいずみだが、次に自分の身に起こったことにより再度驚愕した。
体が段々と透けてきたのだ。隣にいるサタニスターも、それどころかこの場の全員の姿が透け始めていた。
「最後にひとつお知らせです。最後の一人になるまで生き残った者、
つまり優勝者には、景品としてどんな願いでもひとつだけ叶えてもらえる権利が与えられます」
「名誉、金、権力、死者の蘇生、永遠の命、あらゆる欲望を、どんな混沌無形な願いでも叶えて差し上げましょう」
「――私、ハーピュアは皆様のご健闘を心より祈って参ります」
【進行役/ハーピュア@ミキストリ】
最終更新:2014年04月01日 01:18