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  「私の名前は川尻浩作…杜王町に住むただの会社員…妻は川尻しのぶ、息子は川尻早人…」  奇妙な場所だ。  市街地、と言えばその一言で説明が付く。それは一つの事実だが、それでも正確にこの場所の奇妙さを説明しては居ない。  堅牢な石造りの、歴史を感じられる建物。  顔を上げて南に視線を移せば、闇夜に浮かび上がるのは円筒形の建築物。  ローマのコロッセオ ――― ある程度に知識があれば、そのように判断するだろう。  転じて南西に目をやれば、深夜故にはっきりとは分からぬものの、これまた古代ローマを思わせる遺跡群の影。  さらに知識があり、視界が開けていれば、それがフォロロマーノの遺跡群だと分かる者もいるかも知れない。  どちらも、有名なローマの観光名所だ。  しかし…。この先にある大きめの十字路からその向かいへと視線を伸ばす。  すると、そこから先は空間を切り取って貼り付けられたように、風景が変わる。  市街地。そして住宅街。  しかしその住宅街は、明らかに異質。この場所、或いは向こうに見えるコロッセオ等から判断できるローマの建築物ではない。  そこから先の区画は、明らかに日本の住宅街のそれなのだ。  ローマと日本。その境界線上付近の暗闇で、小さく呟く声が聞こえている。  怯えているのか? 或いは、放心、混乱してでもいるのか。  うわごとともとれる力のない声で、ただ同じ様な言葉を繰り返している。  まるで、自分自身が何者なのかを、自分に言い聞かせているかのようだ。  声の主、『川尻浩作』は確かに、本人の言うとおりただの会社員の様に見える。  スーツにネクタイ、革靴という、特に目立つところのない出で立ちで、路地の陰にひっそりと立っている。  唯一変わっているのは、首に鈍く光る金属の首輪が填められているという点のみ。  それ以外には、何の変哲もない男である。  顔立ちはスッキリとして比較的整っている。黒目が大きく、猫のようなアーモンド型。  短く刈り揃えた黒髪をジェルで立たせているのがある種の若々しを感じさせる。  体つきも太すぎず細すぎず。特別鍛えているようには見えないが、かといって貧弱とまでは言えない。  しかし、その表情は読み取れない。  暗がり。月明かりしか無い静まりかえった深夜だ。  彼の様子を事細かに見て取るのはなかなかに難しい。  ただの、人間であれば、だ。   「震えているのか…んん…?」 「!?」  不意に聞こえたその声に、びくりと反応する。 「だ、誰だ…!?」  辺りを見回そうとする男の顔周りを、丁度ぐるりと囲むかの様に、白い筋が現れていた。  白い筋。いや、それは月明かりに煌めいてようやくそれと分かるが、まるで中空に浮かぶ水流のうねりのようであった。  そのうねりの突端部分に、顔のようなものが見て取れる。 「見えるか~~~? 見えてねぇようだなァ~~~?  キキキ…いいね、お前はいいぜ。  その不安げな…怯えた顔が良いッ!!  いい気になってねェ~~~~って事だからなァ~~~~!!」 「ひぃっ!? ど、どこに居るッ!!??」  背広姿の男の声は引きつり、決して大きくない。大きくはないが、それを聞いた水流の顔が、殊更満足げに笑ったようだ。 「なあ、お前。自由っていいよなァ~~~? 川尻…浩作…って言ったか?  俺もよ、お前と同じ杜王町の住人よ。  ただ…長ェ~~~こと、別の場所に閉じこめられていたんでなァ~~~~。  今のこの自由のありがたさを、より実感できるって~ワケよ」  ゆらりゆらりと、空中に浮かんだ水流のうねりが、背広の男の周りを回る。 「好きなときに飯を食い、好きなときに屁をこいて、好きなときに立ちションベンが出来る…」  へたり込むように腰が落ち、震えながら動けない。 「そんで、好きなときにガキを犯して、好きなだけ人がブっ殺せるッッ!!  てめーのガキに突っ込んで、てめーの女房に血反吐を吐かすのも俺の自由!!  自由!! 最高!! ギハハハハハ!!!!」  不意に、、勢いよく男の口に入り込む。  その感触にびくりと反応し、思わず両手を伸ばすが、時既に遅し。  水の塊は完全に男の中に進入してしまっていた。 「これでお前は、俺の操り人形よォ~~~~~!!  お前の身体を操って、ムショでの憂さ晴らし、たァ~~~~ぷりさせてもらうとするかねェ~~~~~!!  ギャハハハハハ……」    ボグン。    男の喉が、大きく膨らみ、身体から分離した。 ◆◆◆   「腹の底からウププ…ってな笑いがこみ上げてくるよなぁ~~~。  こうも巧く、ハマっちまうとよォ~~~~」  背広の男は、先程までの慌てた素振りなど微塵も感じられない、落ち着き払った様子でそう告げる。  目の前で這い蹲り、なにやら黄色い粘土のようなもので手足の自由を奪われ、油汗を垂らしている屈強な男を見下ろしたままに。 「て…てめー…『スタンド使い』かッ…!?  てめーもあの「学生服の男」に矢で刺されたのかッ…!!??」 「はぁ~ん、弓と…矢、ね。  聞いた事はあるが、俺は違うね。  こいつは、生まれもっての才能よ。  つまり、おめえとは年季が違うッて事だ…な!」  足元にある、ボール大の黄色い肉塊を蹴り上げる。 「ぎぃにゃあぁぁぁ~~~!!」  這い蹲った男が、悲鳴を上げてそのままの姿勢で飛び上がった。  あたかも、その肉塊の動きをトレースするかのように。 「おめえのこのひねチョビたカエルのションベンみてーなスタンド…水の姿で変幻自在、遠くにまで飛ばせるが…パワーは弱く、人間に取り憑くくらいしか能がない…。  …ってなところみてーだな。  ヒヒヒ…シケた能力だ。それじゃあ俺のスタンドにゃ勝てっこねぇぜ」 「ヒィ…ヒィィィ…」  立場は完全に逆転していた。  物陰に潜み、水のスタンド『アクアネックレス』を使って自分の操り人形に出来る獲物を探していた凶悪殺人犯の片桐安十郎(アンジェロ)が見つけた男、『川尻浩作』は、一見無力なサラリーマンのようで居て、恐るべきスタンドの使い手だった。  アンジェロはスタンド使いになって日が浅い。  死刑囚として収監されていた彼は、つい最近になって謎の「学生服の男」によって、この力を与えられた。  自分以外のスタンド使いとまともにやり合ったことは一度もないのだ。 「さぁ~って、どうするかな。  てめーを『操り人形』にする方法はあるにはあるが…」  アンジェロのスタンド、『アクアネックレス』を閉じこめた肉塊を弄びながら、『川尻浩作』が思案する。 「なんだか厄介そうな性格してるみてーだし…」  肉塊をボールのように手で跳ね飛ばしながら続ける。 「いっそ『喰っちまう』方がイイかもしれんよなァ~~~~!?」     ◆◆◆   「『川尻浩作』…。こいつはとんでも無いゲス野郎だな…」  自らのスタンド、ムーディー・ブルースによる『リブレイ』を終えたレオーネ・アバッキオが、そう漏らす。  ここで、争いがあった。  足跡、僅かに折れ荒らされた茂みや地面。  それらは、或いは多くの人間なら見落とし、無視してしまう程度の痕跡であったが、元警官であるアバッキオにはやはり不自然なものが見て取れた。  リプレイ…過去にそこに居た人物の行動を再現するムーディー・ブルースの能力。  微かな「争いの痕跡」を発見したアバッキオが再生した事実は、あまりにもおぞましかった。  自分の身体の一部を操り、切り離し、自在に動かして肉を喰らうスタンド―――。  たしかに、先に襲いかかってきた「水のスタンド使い」も、決してまともな人間とは言えないゲス野郎だった。  しかしその『ゲス野郎対決』を制したのは、見るからに粗暴な筋肉男の方ではなく、一見ただの優男にしか見えぬサラリーマン、『川尻浩作』の方だったのだ。  生きたまま人間を喰う ―――。  パッショーネの中に、或いは自分が属しているブチャラティのチームの中にも、様々なスタンド使いが居るし、中にはやはり、目を背けたくなる様な能力を持っている者もいる。  しかし知っている中で言っても、この『川尻浩作』のおぞましさは、群を抜いていた。  厄介な奴が居る。  おそらくは強力なスタンド使いの手により突然拉致され、訳も分からぬまま殺し合いのゲームをしろと言われているこの現状。  その時点で十分に厄介だというのに、集められている奴らはと言うと、こんなおぞましいスタンド使い達なのだ。  ムーディー・ブルースは、元警官であるアバッキオの精神を体現しているスタンドだ。  証拠を集め、真実を探り当てる。それが能力の本質であり、決して戦闘向きではない。  1人で立ち向かい、あの『川尻浩作』に勝てるだろうか?  恐らく、相当難しいだろう。  何れにせよ ――― チーム。  チームの仲間がいるのであれば、まずは合流するべきだ、と考える。  いるのならば? いや、間違いなく居るはずだ。アバッキオは半ば確信的にそう思っている。  最初に集められたあの会場。あそこで殺された3人のうち1人。  それはつい最近彼のチームに入ってきた新入り、ジョルノ・ジョバァーナだったのだから。 「ジョルノ…」  アバッキオは思い出す。  最初は、その物腰や風貌に、でかい夢とやらを吹く事も相まって、軽んじ、また警戒もしていた。  しかし、ポルポの遺産を探し出し、ブチャラティが幹部となってからの、ボスの娘を護送する任務。  そして離反から、サルディニアへの旅…。  その何れの場面でも、ジョルノの『黄金の精神』は、的確な判断と性根の座った戦いぶりを発揮し、チームの窮地を救い、信頼を勝ち得ていった。  決して口には出していなかったが、今ならアバッキオもはっきりと言える。  ジョルノは、俺の掛け替えのない仲間だった ――― と。  その仲間が、殺られた……!!  今、アバッキオの心には『怒り』がある。激しく燃えさかる『怒り』がある。  だが…。  アバッキオが今やるべき事は、復讐ではない。  トリッシュを守り ――― チームと合流し ――― ボスを、倒す。  サルディニア島で、ナランチャが襲撃者を退け、ムーディー・ブルースの『リプレイ』を使い、ボスの顔を知ること。  その最中に起きたこの変事は、やはりどう考えてもボス、或いはボスの親衛隊によるスタンド攻撃 ―――。  そう見て間違いないだろう。  いつ、ジョルノが捕まったのか?  どうやって我々をこんな場所へと移動させたのか?  分からないことばかりで、何も断定できない。  それでも ――― アバッキオは考える。  俺は『任務』をやり遂げる。それこそが俺達の『勝利』だからだ。 ◆◆◆     このとき、アバッキオは一つミスをした。  それをミスと断じてしまうのは酷かも知れないが、やはり一つ間違いを犯していた。  もし、ムーディー・ブルースの再生を、もっと過去の時間にまで遡らせていたら、『おぞましいスタンドを使うゲス野郎』の、本当の正体が分かっていたのだ。  変幻自在で熱にも冷気にも負けず、身にまとえば何者かに変身でき、或いは攻撃を防ぐ盾とも、敵を食らいつくす牙にもなる、スライム状のスタンド。  『イエローテンパランス』の『ラバーソール』。  帝王DIOに雇われ、承太郎一行を暗殺すべく付け狙っていた矢先に、彼はここへと運ばれた。  この異常時において、ラバーソールは一つのシンプルな回答を得ている。  つまるところあの眼鏡の男が「新しい依頼者」であり、「ここに集められた連中」を皆殺しにすれば、報酬が貰える。  要は、そういう事なのだ。    会場内に放り出され、一通り状況確認をしてから最初に出会ったのが、『川尻浩作』だった。  軽く締め上げて、情報を吐かせる。吐かせた後に、まずは一人目とぶち殺して、全て喰らってやった。  しばらくはあの男の姿を借りて、ラバーソールはひっそりと殺しをしてのけようと思っている。  見るからに凄味のある自分自身のハンサム顔は、目立つし警戒されるかも知れない。  或いは殺し屋としての自分を知っている者もいるだろう。  だからこそ、どう見ても平凡で、何の力も持たない一般人に見える『川尻浩作』に化けた。  そうすることで、さっきのアンジェロの様な間抜け野郎が、油断して近づいてくるかもしれないし、承太郎一行の様なお人好しの正義漢どもが手助けしようとしてくるかもしれないと、そう考えたからだ。  間抜けを出し抜いてブチ殺すのにも、こっそり集団に紛れるのにも、この姿はなかなか具合が良い。  『川尻浩作』の姿をした『ラバーソール』が、ちょっとだけ惜しく思ったのは、元々のターゲットの1人である承太郎が、先に殺されてしまったという事だ。  承太郎一行の始末もついでに出来ていれば、DIOからの報酬ももらえてウハウハだっただろう、と。  その事だけであった。     &color(red){【川尻浩作 死亡】} &color(red){【片桐安十郎 死亡】} &color(red){【残り 136人】}       【ローマ市街地(E-6の何処か)・1日目 深夜】 【ラバーソール】 [スタンド]:『イエローインパランス』 [時間軸]:JC15巻、DIOの依頼で承太郎一行を襲うため、花京院に化けて承太郎に接近する前 [状態]:健康、『川尻浩作』の外見 [装備]: [道具]:基本支給品一式×3、不明支給品3~6、首輪×2(アンジェロ、川尻浩作) [思考・状況] 基本行動方針:勝ち残って報酬ガッポリいただくぜ! 1.しばらくは、『川尻浩作』の姿でか弱い一般人のフリをさせて貰うぜ~~。 2.承太郎一行の誰かに出会ったら、なるべく優先的に殺してやろうか?   【ローマ市街地(E-6・中央)・1日目 深夜】     【レオーネ・アバッキオ】 [スタンド]:『ムーディー・ブルース』 [時間軸]:JC59巻、サルディニア島でボスの過去を再生している途中 [状態]:健康 [装備]: [道具]:基本支給品一式、不明支給品1~2 [思考・状況] 基本行動方針:チームと合流し、ボスを倒し、『任務』を全うする。 1.余計なことをする気はないが、この『川尻浩作』には要注意だな…。 ※川尻浩作の参戦時期は、エステ・シンデレラで吉良吉影に顔を奪われるより以前。 ※片桐安十郎(アンジェロ)の参戦時期は、虹村形兆に矢で射られてスタンド能力を得て、死刑執行されるも死なずに脱獄した時点。 *投下順で読む [[前へ>腐れ外道とチョコレゐト]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD 前編]] *時系列順で読む [[前へ>腐れ外道とチョコレゐト]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD 前編]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |&color(blue){GAME START}|[[ラバーソール]]|058:[[Via Dolorosa]]| |&color(blue){GAME START}|[[片桐安十郎]]|&color(red){GAME OVER}| |&color(blue){GAME START}|[[川尻浩作]]|&color(red){GAME OVER}| |&color(blue){GAME START}|[[レオーネ・アバッキオ]]|049:[[Break My Body/Break Your Soul]]|
  「私の名前は川尻浩作…杜王町に住むただの会社員…妻は[[川尻しのぶ]]、息子は[[川尻早人]]…」  奇妙な場所だ。  市街地、と言えばその一言で説明が付く。それは一つの事実だが、それでも正確にこの場所の奇妙さを説明しては居ない。  堅牢な石造りの、歴史を感じられる建物。  顔を上げて南に視線を移せば、闇夜に浮かび上がるのは円筒形の建築物。  ローマのコロッセオ ――― ある程度に知識があれば、そのように判断するだろう。  転じて南西に目をやれば、深夜故にはっきりとは分からぬものの、これまた古代ローマを思わせる遺跡群の影。  さらに知識があり、視界が開けていれば、それがフォロロマーノの遺跡群だと分かる者もいるかも知れない。  どちらも、有名なローマの観光名所だ。  しかし…。この先にある大きめの十字路からその向かいへと視線を伸ばす。  すると、そこから先は空間を切り取って貼り付けられたように、風景が変わる。  市街地。そして住宅街。  しかしその住宅街は、明らかに異質。この場所、或いは向こうに見えるコロッセオ等から判断できるローマの建築物ではない。  そこから先の区画は、明らかに日本の住宅街のそれなのだ。  ローマと日本。その境界線上付近の暗闇で、小さく呟く声が聞こえている。  怯えているのか? 或いは、放心、混乱してでもいるのか。  うわごとともとれる力のない声で、ただ同じ様な言葉を繰り返している。  まるで、自分自身が何者なのかを、自分に言い聞かせているかのようだ。  声の主、『[[川尻浩作]]』は確かに、本人の言うとおりただの会社員の様に見える。  スーツにネクタイ、革靴という、特に目立つところのない出で立ちで、路地の陰にひっそりと立っている。  唯一変わっているのは、首に鈍く光る金属の首輪が填められているという点のみ。  それ以外には、何の変哲もない男である。  顔立ちはスッキリとして比較的整っている。黒目が大きく、猫のようなアーモンド型。  短く刈り揃えた黒髪をジェルで立たせているのがある種の若々しを感じさせる。  体つきも太すぎず細すぎず。特別鍛えているようには見えないが、かといって貧弱とまでは言えない。  しかし、その表情は読み取れない。  暗がり。月明かりしか無い静まりかえった深夜だ。  彼の様子を事細かに見て取るのはなかなかに難しい。  ただの、人間であれば、だ。   「震えているのか…んん…?」 「!?」  不意に聞こえたその声に、びくりと反応する。 「だ、誰だ…!?」  辺りを見回そうとする男の顔周りを、丁度ぐるりと囲むかの様に、白い筋が現れていた。  白い筋。いや、それは月明かりに煌めいてようやくそれと分かるが、まるで中空に浮かぶ水流のうねりのようであった。  そのうねりの突端部分に、顔のようなものが見て取れる。 「見えるか~~~? 見えてねぇようだなァ~~~?  キキキ…いいね、お前はいいぜ。  その不安げな…怯えた顔が良いッ!!  いい気になってねェ~~~~って事だからなァ~~~~!!」 「ひぃっ!? ど、どこに居るッ!!??」  背広姿の男の声は引きつり、決して大きくない。大きくはないが、それを聞いた水流の顔が、殊更満足げに笑ったようだ。 「なあ、お前。自由っていいよなァ~~~? 川尻…浩作…って言ったか?  俺もよ、お前と同じ杜王町の住人よ。  ただ…長ェ~~~こと、別の場所に閉じこめられていたんでなァ~~~~。  今のこの自由のありがたさを、より実感できるって~ワケよ」  ゆらりゆらりと、空中に浮かんだ水流のうねりが、背広の男の周りを回る。 「好きなときに飯を食い、好きなときに屁をこいて、好きなときに立ちションベンが出来る…」  へたり込むように腰が落ち、震えながら動けない。 「そんで、好きなときにガキを犯して、好きなだけ人がブっ殺せるッッ!!  てめーのガキに突っ込んで、てめーの女房に血反吐を吐かすのも俺の自由!!  自由!! 最高!! ギハハハハハ!!!!」  不意に、、勢いよく男の口に入り込む。  その感触にびくりと反応し、思わず両手を伸ばすが、時既に遅し。  水の塊は完全に男の中に進入してしまっていた。 「これでお前は、俺の操り人形よォ~~~~~!!  お前の身体を操って、ムショでの憂さ晴らし、たァ~~~~ぷりさせてもらうとするかねェ~~~~~!!  ギャハハハハハ……」    ボグン。    男の喉が、大きく膨らみ、身体から分離した。 ◆◆◆   「腹の底からウププ…ってな笑いがこみ上げてくるよなぁ~~~。  こうも巧く、ハマっちまうとよォ~~~~」  背広の男は、先程までの慌てた素振りなど微塵も感じられない、落ち着き払った様子でそう告げる。  目の前で這い蹲り、なにやら黄色い粘土のようなもので手足の自由を奪われ、油汗を垂らしている屈強な男を見下ろしたままに。 「て…てめー…『スタンド使い』かッ…!?  てめーもあの「学生服の男」に矢で刺されたのかッ…!!??」 「はぁ~ん、弓と…矢、ね。  聞いた事はあるが、俺は違うね。  こいつは、生まれもっての才能よ。  つまり、おめえとは年季が違うッて事だ…な!」  足元にある、ボール大の黄色い肉塊を蹴り上げる。 「ぎぃにゃあぁぁぁ~~~!!」  這い蹲った男が、悲鳴を上げてそのままの姿勢で飛び上がった。  あたかも、その肉塊の動きをトレースするかのように。 「おめえのこのひねチョビたカエルのションベンみてーなスタンド…水の姿で変幻自在、遠くにまで飛ばせるが…パワーは弱く、人間に取り憑くくらいしか能がない…。  …ってなところみてーだな。  ヒヒヒ…シケた能力だ。それじゃあ俺のスタンドにゃ勝てっこねぇぜ」 「ヒィ…ヒィィィ…」  立場は完全に逆転していた。  物陰に潜み、水のスタンド『アクアネックレス』を使って自分の操り人形に出来る獲物を探していた凶悪殺人犯の[[片桐安十郎]](アンジェロ)が見つけた男、『川尻浩作』は、一見無力なサラリーマンのようで居て、恐るべきスタンドの使い手だった。  アンジェロはスタンド使いになって日が浅い。  死刑囚として収監されていた彼は、つい最近になって謎の「学生服の男」によって、この力を与えられた。  自分以外のスタンド使いとまともにやり合ったことは一度もないのだ。 「さぁ~って、どうするかな。  てめーを『操り人形』にする方法はあるにはあるが…」  アンジェロのスタンド、『アクアネックレス』を閉じこめた肉塊を弄びながら、『川尻浩作』が思案する。 「なんだか厄介そうな性格してるみてーだし…」  肉塊をボールのように手で跳ね飛ばしながら続ける。 「いっそ『喰っちまう』方がイイかもしれんよなァ~~~~!?」     ◆◆◆   「『川尻浩作』…。こいつはとんでも無いゲス野郎だな…」  自らのスタンド、ムーディー・ブルースによる『リブレイ』を終えたレオーネ・アバッキオが、そう漏らす。  ここで、争いがあった。  足跡、僅かに折れ荒らされた茂みや地面。  それらは、或いは多くの人間なら見落とし、無視してしまう程度の痕跡であったが、元警官であるアバッキオにはやはり不自然なものが見て取れた。  リプレイ…過去にそこに居た人物の行動を再現するムーディー・ブルースの能力。  微かな「争いの痕跡」を発見したアバッキオが再生した事実は、あまりにもおぞましかった。  自分の身体の一部を操り、切り離し、自在に動かして肉を喰らうスタンド―――。  たしかに、先に襲いかかってきた「水のスタンド使い」も、決してまともな人間とは言えないゲス野郎だった。  しかしその『ゲス野郎対決』を制したのは、見るからに粗暴な筋肉男の方ではなく、一見ただの優男にしか見えぬサラリーマン、『川尻浩作』の方だったのだ。  生きたまま人間を喰う ―――。  パッショーネの中に、或いは自分が属しているブチャラティのチームの中にも、様々なスタンド使いが居るし、中にはやはり、目を背けたくなる様な能力を持っている者もいる。  しかし知っている中で言っても、この『川尻浩作』のおぞましさは、群を抜いていた。  厄介な奴が居る。  おそらくは強力なスタンド使いの手により突然拉致され、訳も分からぬまま殺し合いのゲームをしろと言われているこの現状。  その時点で十分に厄介だというのに、集められている奴らはと言うと、こんなおぞましいスタンド使い達なのだ。  ムーディー・ブルースは、元警官であるアバッキオの精神を体現しているスタンドだ。  証拠を集め、真実を探り当てる。それが能力の本質であり、決して戦闘向きではない。  1人で立ち向かい、あの『川尻浩作』に勝てるだろうか?  恐らく、相当難しいだろう。  何れにせよ ――― チーム。  チームの仲間がいるのであれば、まずは合流するべきだ、と考える。  いるのならば? いや、間違いなく居るはずだ。アバッキオは半ば確信的にそう思っている。  最初に集められたあの会場。あそこで殺された3人のうち1人。  それはつい最近彼のチームに入ってきた新入り、[[ジョルノ・ジョバァーナ]]だったのだから。 「ジョルノ…」  アバッキオは思い出す。  最初は、その物腰や風貌に、でかい夢とやらを吹く事も相まって、軽んじ、また警戒もしていた。  しかし、ポルポの遺産を探し出し、ブチャラティが幹部となってからの、ボスの娘を護送する任務。  そして離反から、サルディニアへの旅…。  その何れの場面でも、ジョルノの『黄金の精神』は、的確な判断と性根の座った戦いぶりを発揮し、チームの窮地を救い、信頼を勝ち得ていった。  決して口には出していなかったが、今ならアバッキオもはっきりと言える。  ジョルノは、俺の掛け替えのない仲間だった ――― と。  その仲間が、殺られた……!!  今、アバッキオの心には『怒り』がある。激しく燃えさかる『怒り』がある。  だが…。  アバッキオが今やるべき事は、復讐ではない。  トリッシュを守り ――― チームと合流し ――― ボスを、倒す。  サルディニア島で、ナランチャが襲撃者を退け、ムーディー・ブルースの『リプレイ』を使い、ボスの顔を知ること。  その最中に起きたこの変事は、やはりどう考えてもボス、或いはボスの親衛隊によるスタンド攻撃 ―――。  そう見て間違いないだろう。  いつ、ジョルノが捕まったのか?  どうやって我々をこんな場所へと移動させたのか?  分からないことばかりで、何も断定できない。  それでも ――― アバッキオは考える。  俺は『任務』をやり遂げる。それこそが俺達の『勝利』だからだ。 ◆◆◆     このとき、アバッキオは一つミスをした。  それをミスと断じてしまうのは酷かも知れないが、やはり一つ間違いを犯していた。  もし、ムーディー・ブルースの再生を、もっと過去の時間にまで遡らせていたら、『おぞましいスタンドを使うゲス野郎』の、本当の正体が分かっていたのだ。  変幻自在で熱にも冷気にも負けず、身にまとえば何者かに変身でき、或いは攻撃を防ぐ盾とも、敵を食らいつくす牙にもなる、スライム状のスタンド。  『イエローテンパランス』の『[[ラバーソール]]』。  帝王DIOに雇われ、承太郎一行を暗殺すべく付け狙っていた矢先に、彼はここへと運ばれた。  この異常時において、ラバーソールは一つのシンプルな回答を得ている。  つまるところあの眼鏡の男が「新しい依頼者」であり、「ここに集められた連中」を皆殺しにすれば、報酬が貰える。  要は、そういう事なのだ。    会場内に放り出され、一通り状況確認をしてから最初に出会ったのが、『川尻浩作』だった。  軽く締め上げて、情報を吐かせる。吐かせた後に、まずは一人目とぶち殺して、全て喰らってやった。  しばらくはあの男の姿を借りて、ラバーソールはひっそりと殺しをしてのけようと思っている。  見るからに凄味のある自分自身のハンサム顔は、目立つし警戒されるかも知れない。  或いは殺し屋としての自分を知っている者もいるだろう。  だからこそ、どう見ても平凡で、何の力も持たない一般人に見える『川尻浩作』に化けた。  そうすることで、さっきのアンジェロの様な間抜け野郎が、油断して近づいてくるかもしれないし、承太郎一行の様なお人好しの正義漢どもが手助けしようとしてくるかもしれないと、そう考えたからだ。  間抜けを出し抜いてブチ殺すのにも、こっそり集団に紛れるのにも、この姿はなかなか具合が良い。  『川尻浩作』の姿をした『ラバーソール』が、ちょっとだけ惜しく思ったのは、元々のターゲットの1人である承太郎が、先に殺されてしまったという事だ。  承太郎一行の始末もついでに出来ていれば、DIOからの報酬ももらえてウハウハだっただろう、と。  その事だけであった。     &color(red){【川尻浩作 死亡】} &color(red){【片桐安十郎 死亡】} &color(red){【残り 136人】}       【ローマ市街地(E-6の何処か)・1日目 深夜】 【ラバーソール】 [スタンド]:『イエローインパランス』 [時間軸]:JC15巻、DIOの依頼で承太郎一行を襲うため、花京院に化けて承太郎に接近する前 [状態]:健康、『川尻浩作』の外見 [装備]: [道具]:[[基本支給品]]一式×3、不明支給品3~6、首輪×2(アンジェロ、川尻浩作) [思考・状況] 基本行動方針:勝ち残って報酬ガッポリいただくぜ! 1.しばらくは、『川尻浩作』の姿でか弱い一般人のフリをさせて貰うぜ~~。 2.承太郎一行の誰かに出会ったら、なるべく優先的に殺してやろうか? 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