――ラッキーボーイ、貴方は僕のことをそう言いましたが、それは違います。
  本当のラッキーボーイは貴方の方ですよ――

あいつにそう言われてから自分の生き方を振り返ってみれば、確かにその通りだった。
眉間に銃弾を撃ち込まれても生きて仲間と再会できたし、現在はこうして幹部の座に就いてる。

その事は良い。本当にラッキーだ。
だがしかし、今回新たに起こった『ラッキー』には流石の俺も頭を悩ませた……

* *


そこには本来誰もいないはずだった。
“ボス”がわざわざそういう手配をし、“財団の連中”が誰もいないって言うから顔を出したというのに。

――なんで観客席やピッチ上に人がいるのか。

異様な光景だった。もっとも、スタジアムの本来あるべき姿という意味では正解なんだが……

「どんなものにもルールが存在する。それが食事の摂り方だろーと、コンテストに出品する絵画だろーと、だ」

ぶつっ、という音とともに向かい側のスクリーンに映った老人は開口一番にそう言って来た。
何を言っているのかすぐには理解できなかったが、要するに『ハメられた』のだという事はすぐに理解できた。

「我々が君たちに課すルールは3つだ。
 ひとつ、このゲームには制限時間がある。ゲームの進行が24時間滞った場合、制限時間オーバーとなる」

ブーツの拳銃に手を伸ばす。
妙に身体が重く感じたのは緊張や恐怖からでも、敵のスタンド能力でもない。
『自分をハメた人間の話を聞かざるを得ない』という状況に追い込まれてスクリーンから目を離せなくなっていたのだ。

「ふたつ、我々が指定する区間に入らぬこと。この指定は6時間に1度行う。つまり入ってはいけない区間が増えていくという事だ」

銃口は未だ下を向いている。やたらと銃を振り回すとそれだけ注目が集まるし隙も生まれる。何よりもチンピラ臭くて気に入らない。
視線はスクリーンの老人から逸らさず、耳だけを使って周囲の状況を把握する。どうも周りの連中も自分の身に何が起こっているのか分かっていないようだ。
会場のどよめきがそれを証明していた。つまり全員が同時にハメられたという事になる。

「みっつめ、最後にして最大のルールだ。
 ……何をやっても良い。生き延びて見せろ――殺し合いをしてなッ!!」



初めて老人の口調が強くなる。
そしてその内容にも驚きを隠せない。と同時に沸々と怒りが湧き上がってきた。

「手段は問わん……我々が用意した物品を使うもよしッ!己の肉体、あるいは頭脳、それのみを使って生き残るもよしッ!
 対峙した相手を屠り去れッ!隣に立つ仲間の寝首を掻いて見せろッ!」

ほとんど反射的にスクリーンに向けてありったけの銃弾をブチ込んでいた。無意味な事だとわかっても撃たずにはいられなかった。
しかし、銃弾が――ピストルズがスクリーンに穴を開け、それらを亀裂という線に変えても映像は止まらない。

「全く……我々、そう、名乗っておこう。我々はドレスという。そして私は霞の目だ。
 君たちは我々に従わなければならないと、こんな事はルールに挙げるまでもない大前提だと理解してくれていると思っていたのだが。
 まあ良い、続けよう。ルールがあるという事はすなわち褒美と罰があるという事だ」

頭を振り銃弾を込めなおした、筈だった。
帽子に仕込んだ弾丸はシリンダーから左約15センチ――というよりもただ振り下ろされた頭からまっすぐに落ち、地面に乾いた音を立てるだけに終わる。
身体の異変に気付いたのはその時だった。手が動いていない。痛みもなければ痺れも感じない。感覚がないという感覚だけがそこにあった。
そしてそれは手首から肘へ、肩へ、胴へ、足へと広がっていき、ついには自力で立っていられなくなる。
……だが、それも俺が頭で勝手に思っていただけ。身体の方は意思に反してしっかりと大地を踏みしめているしリボルバーを取り落とす事もない。
それどころか次の瞬間には自分でも体感したことの無い速さで観客席を駆け抜け、2秒もしないうちにピッチの中央に辿り着き、今度はその場で指一本動かせないほどに身体が硬直してしまった。
睡眠不足や疲労以外のことで身体が言う事を聞かないという体験をしたのはこれが初めて。金縛りとか、そういったものとも違う。
まるで何者かに身体を、肉体を支配されているようだった。そしてそれは俺の感覚から視覚と聴覚だけは奪わない。すぐそばに迫ったスクリーンの老人がこっちを見る。

「まずは褒美から。ルールに忠実に従い、最後まで生き残った者には全てをやろう。金だろうと力だろうと、永遠の命だろうと。不可能な願いはない。
 逆に、如何に優れた能力を持とうがルールに従えない者に与えるものはない。罰という名の処刑以外はな。

 ――食い破れッ!」

* *


そして今……俺はレストランでトリッパ(牛胃袋のトマト煮)の皿をつついている。
いつだったかにチームの連中と『人肉は美味いのか』について語り合ったレストランだ。

全てはタチの悪い悪戯だったのだ。あるいは寝不足で悪い夢でも見たんだ。
その証拠にスタジアムなんか周囲には見当たらないし、身体だって自由に動いている。

そう思っていた内は食も進んだが今ではすっかり食事をする気をなくしてしまった。
俺のもとを訪ねてくれる人がみな同じように話す立った一言の台詞が頭の中にこびりついている。

初めて自分がラッキーボーイである事を呪った。幸運とは幸福と必ず一致するものではないと俺はこの時初めて知ったのだ。


「君があの場所で死んでいたことは、ある意味では幸運だったのかもな……」



【グイード・ミスタ 死亡】
【残り ×× 人】

【ジョジョの奇妙なバトルロワイヤル3rd 開催】


補足
  • 主催者は霞の目博士@バオー来訪者です
  • 首輪の代わりに『寄生虫バオー』を使用しています
 ※私の脳内設定では肉の芽等のテクノロジーを組み込んで参加者の生体反応から位置情報、盗聴や制限まで出来るように進化しており、
  爆発の代わりに体内を食い破るという設定です(=死亡したキャラもバオー化して復活?的な妄想もしていたり)
  • 主催者の目的は『育朗に代わる真のバオー適合者を探す』というものです
 ※他に主催者に協力している人間がいるかどうかは不明です
  • ミスタ死亡後にその他の説明があったかどうかは他の方にお任せします
  • ミスタの参戦時期は、『恥知らずのパープルヘイズ』=第5部終了から半年後でした



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最終更新:2012年03月07日 16:02