日常というものは簡単に崩壊するものだ。
特に非日常の中のささやかな日常というものは。
「ちょっと、面白い生き物見つけたからすぐに駅前集合!」
梅雨時期にしては珍しく日光の射す、さわやかな日曜日の朝、突然団長殿から電話がかかってきた。
俗に言う特別収集というやつだ。
時計を確認するとまだ八時をまわっていない。
どうやら団長殿は大切な休日の過ごし方というものをわかっていないらしい。
しかし無視することはできない。まだ良く働いていない頭でもそれはわかる。
人間がどれだけあがいても神様には勝てないんだからな。
act0—SOS団と奇妙な生き物
純粋な人物の視点から見た絶望と希望、それに対する本人の思考調査ノート
(上からマジックで「おれのにっきだぜ」と書いてある)
○がつ×にち はれ
あさおきるとぜんぜんしらないばしょにいた。
しかたがないからじめんのなかでだれかがくるのをまってたらあまいにおいがちかづいてきた。
おれのうえのほうでにおいがとまった。うまそう。
ようすをみるためにうえにでてみたら、あいすがおちていた。
ひろってたべてるとおんなにみつかった。どうしようかなやんでるとおんながもうひとつあいすをおとした。
おれがそれもひろってたべるとおんなはちかづいてきておれのあたまをなでた。
かんちがいしてるみたいだけどもぐらじゃあねーぞ。
やはりというべきか、今回も俺が駅前に着いたときにはみんな揃っていた。
ハルヒの上下ジャージ姿をのぞけばそれぞれ個性あふれる私服を着込んできている。
「遅いわよっ!」
いつも以上に大きな声を出すハルヒ、しかし機嫌は悪くない、いやとても良いようだ。
その声に含まれているのは苛立ちなどではなく、まさしく『特殊生命体Ⅹ』を発見したというような喜びだけだった。
あの偏屈ハルヒをそこまで喜ばせる生き物、たとえばどんなものだろうかと俺は今までの経験に照らし合わせて考えてみる。
・・・ダメだ、どう考えてもいい結果は望めない。
真夏の太陽のように明るい笑顔をしたハルヒ。つまりそれほど珍しい、もしくは面白い生物なのだろう。
たとえば恐竜の子ども、火星人、猫娘、北海道産イリオモテヤマネコなどがそれに含まれているだろう。
そう、つまりは存在しないはずの動物を見つけたということだと推測できる。
その生き物の世話を任される俺の図と言うものは我が団について知っている者ならばたやすく想像がつくに違いない。
つまり、拾った動物が何であろうと結果的にすべての迷惑は俺のほうへとまわってくる仕組みになっているのだ。
冗談じゃあないぞ。
ただでさえ平穏じゃない日常なのにこれ以上壊されたくはない、いや壊されてたまるか。
そういった意思を持ち俺が言葉を発しようとしたときだった。
「それで、面白い動物というのは?」
いつもの気味の悪いエセハンサム薄ら笑いで季節はずれの転校生こと古泉一樹がハルヒにそう問いかける。
・・・本当にタイミングの悪い男だ。
「よぉく聞いてくれたわ、古泉君。これがもう、最高なのよ。
早起きは三文の徳って言う言葉を今日始めて実感したわ!待ってて、すぐ連れてくるから。」
言い終わるが早いか、ハルヒは俺の来た方向とは真逆の方へ走っていく。
その速さ、陸上部から勧誘があるのも頷けるものだ。
「いったい、何がいたんでしょうか?」
ハルヒの背中が見えなくなった後、先輩である朝比奈みくるさんがそう紡ぎ出した。
元来のものなのか、それとも現在の状況をまだ把握しきれていないのか、その言葉はとてもゆっくりとしたものだった。
正直なところ俺自身もまだ把握し切れてはいない。
しかしあのハルヒの向日葵のような笑顔を見ればただ事じゃないということは明らかだ。
「良くないこと、ですか。
まぁたしかにあの涼宮さんが見つけ、なおかつ大喜びするような生き物です。僕たちもそれ相応の覚悟を決めなくてはいけないかもしれません。」
俺の表情から言いたいことを察したのか、古泉がそう続ける。
「しかし、いくら涼宮さんだからといって常識でありえないとわかっている生き物を存在させることはできません。
犬猫、悪くてもライオンやトラといったところが妥当でしょう。」
それも問題なんだ。
常識の許容範囲内ならあいつは何だって起こすことができる。
ライオンやトラを拾うことだって、それをばれずに飼い続けることだって。
それこそがあいつの神たる所以なのだが。
涼宮ハルヒ。
まぁ説明なんかしなくてもわかるかもしれないが、世界の中心である。
比喩表現などではなく、彼女を中心に世界は回っているといっても過言ではない。
「理想を現実に変える能力」
SOS団の三人が口をそろえて俺に説明したことだ。
ちなみにこの三人も普通じゃない。
宇宙人・未来人・超能力者と、不思議生命体のバーゲンセールといってもいいくらいの組み合わせだ。
そんな奴らと一緒に何をしてるのかって?
俺自身知りたいよ
「ただいま!!」
数分後、これといった会話もなく立ち尽くしていた俺たちの元に行きと同じくらいの速度でハルヒが帰ってきた。
その手のなかには・・・
「連れて・・・来なかったんですか?」
そう、何もいなかった。
抱えきれないものなら地面を歩いているだろうと思ったが地面にもそれらしい生物はいなかった。
ハルヒが欲しいものを手に入れそこなったのか?
ありえないことだが今の状況ではそれ以外は考えられない。
「何言ってるの、みくるちゃん?そこにいるじゃない。」
そこ、といってハルヒが指したのは何もない地面だった。
とうとうおかしくなってしまったのか、と俺が哀れみにも似た視線を送っているとハルヒは俺のほうを睨み「何よその目は!」と吠えた。
「何も見えないんですが、一体何がいるのですか?」
どうやら地面しか見えないのは俺だけじゃないらしい。
ハルヒはワケがわからないといったような顔で自分の足元を見た。
当然そこには何もいない。
しかしハルヒは少しも動ぜず「潜っちゃったのね。」とだけ言い、腰から下げたビニール袋をあさり始めた。
潜る、液体の中に身をうずめる行為に対して使われる動詞だ。
しかしここにあるのはコンクリートだけ。潜れるものなど何もない。
そう思い、やれやれとため息をつこうとした俺の目にあるものが映った。
水を含みすぎたスポンジのようにグジュグジュに緩んでいるハルヒの足元。
そう、確かに緩んでいる。目の錯覚でもなくコンクリートが、まるで泥のように。
ゆっくりとビニール袋から何かを取り出すハルヒ。それはまるで動物園に入る前の子どものような顔である。
そのまま腕を頭の後ろで組み、足を上げ投球フォームを作る。俗に言うワインドアップだ。
そして・・・
「角砂糖三つ、いくわよ、そーれ!!」
腕を思いっきり振った。白い立方体が三つ、綺麗な軌跡を描いて飛んでいく。それを追いかけるように緩んでいくコンクリート。
角砂糖と思しき物体が一直線上に並んだ次の瞬間。
「おうおうっ!!」
, , , , , , , , , , , , , ,
地面の中から茶色い男が現れた。
Jojo's strange adventure "if" story
イタリアはまだ遠く 〜セッコの・・・憂鬱?〜
最終更新:2008年12月25日 20:08