時は六月中旬の、木曜日。俺と『会長』が、『榎本先輩』の襲撃に合った、その二日後。
日中を何事にも巻き込まれずに過ごし、俺が文芸部室を訪れると。
……何故か『榎本先輩』がいた。
「ああキョン。美夕紀さんは今日から、SOSの準団員になったから! 本人自らの申し出よ!」
笑顔で言い放つハルヒと、その傍らで満足そうににやけている『榎本先輩』を他所に
俺は団員席に腰を下ろしていた『古泉』の首根っこを掴み、そのままたった今入ってきた扉から廊下へと引きずり出した。
「いえ、彼女はもう『矢』の影響を受けてはいませんから。彼女の『スタンド』は十分な戦力になりえるものですし。
ことの経緯をお話して、合意の上で、我々の『仲間』になってもらったわけです」
確かに。『スタンド能力』の概要を知った時点で、ハルヒにまつわる大体の概要を理解してもらうのは、難しいことではないだろう。
「それに、『戦力』は多いに越したことはありませんから。『榎本さん』はもともと、『矢』によって、彼女に対する『敵意』を植えつけられたわけでもありませんし」
……言いたいことは分からんでもない。いや、むしろ非常に納得がいく説明だと思う。
しかし、二日前に、鈍器で殴打された相手と、今日から『仲間』というのも、なんだか複雑な気分だ。
「別の意味で、ハルヒに妙なことしなきゃいいがな」
「ご心配ですか、『王子様』としては?」
いや、先輩のあの『愛情表現』の形を見たことのあるやつなら、誰でも心配がると思う。
……何事もなきゃいいが。本当に。
「ちょっと、みくるちゃん、大丈夫!?」
会話を終え、俺と古泉が部室へ戻ると、なにやらハルヒが、大いにあわてた声を上げていた。
見ると、ハルヒと榎本先輩が窓際にしゃがみこみ……
なんとッ!? その前には、床に横たわる『朝比奈さん』の姿があったァッ!
「どうしたんですか、涼宮さん。朝比奈さん、大丈夫ですかッ!?」
古泉と共に賺さず駆け寄る。
朝比奈さんはなにやら、熱に浮かされたような表情で、額に汗を浮かべながら、荒く息をついている。
ちなみに言い忘れたが、本日の朝比奈さんは『バニーさん』である。
「うぅ~~ん……」
「突然倒れちゃったのよ、貧血かしら?」
と、いうか、どちらかというと熱中症じゃないだろうか。
この熱い中、ビニール生地で、体にフィットするバニースーツなど着せられたら、そりゃ皮膚呼吸も出来ねェーに決まってんだろ!
「美夕紀さん、担架持ってきて担架! 古泉君、キョン! 保健室に運ぶわよ、手伝って!」
「いえ、涼宮さん。僕と彼の二人だけで十分ですよ。何、少しばかり暑かったので、夏ばての延長という程度のことでしょう。
フーゴ先生のところで休ませて貰うようお願いしてきます」
「何かあったら心配じゃない、あたしも付いていくわよッ!」
古泉がハルヒに意見する一瞬前、俺をちらりと見た。
ああ、俺も大体、お前と同じことを考えている。すなわち、これが『スタンド攻撃』によるものではないか? と言う事だ。
しかし、今のところ俺の『スタンドセンサー』はピクリとも反応していない。
「まあまあ、ほら、涼宮さん。大丈夫だから、ここは『男ども』に任せよーよ。それより、新曲の『サビ』の続き、聴いてよ」
この榎本先輩の助け舟は、状況を察してのサポートなんだろうか。
はたまた、単に自分がハルヒと二人きり(長門は居るが)になりたいが為の言動なのか。……多分、『後者』だな。
「うゥ~~ん……ま、いいわ。じゃ、任せたわよ。あ、キョン」
ハルヒ。貴様は次に『どさくさにまぎれて、みくるちゃんにヘンなことするんじゃないわよッ!!』
と、言う。
「どさくさにまぎれて、みくるちゃんに『ヘンなこと』するんじゃないわよッ!!」
はいはいエピタフエピタフ。
……考えてみれば、バニー姿の朝比奈さんを担架で運ぶというのは、中々に肝っ玉の要る行為であって。
ここまでの道のり、俺と古泉と朝比奈さんは、絶えず奇異の視線で見られっぱなしであった。
何見てんだい? うらやましいのかい? 君たちも運びたいのかい?
……とまあ、なんだかんだで、『フーゴ』の居る保健室へたどり着く。
朝比奈さんは、既に呻くことなく、今は眠っているようだった。こりゃ、マジで熱中症とかかもな。今日、暑いし。
「ん。どうしたんですか? 『撃たれ』ましたか? 『刺され』ましたか?」
そりゃ、イタリアンジョークなのか?
「どうせ『熱中症』でしょう? 多いんですよね、今日は。特に暑いから。まったく、ジャポネの『湿気』は異常ですよ」
ぶつぶつとぼやきながら、俺たちの元へ、フーゴがやってくる。
「ああ、もう見れば分かりますね。軽い『熱中症』です。体を冷やして、しばらく休んでいれば治ります。
用意をするんで、ベッドに寝かせてくれますか?」
フーゴは大して朝比奈さんの様子も見ずに、白衣の裾をひらひらと揺らしながら、備え付けの冷凍ケースへ向かった。
古泉がそれを手伝いに言ったので、俺は朝比奈さんをベッドに移す作業に入る。
……古泉とフーゴがこの場に居なけりゃ、えらいシチュエーションだ。
失礼します、朝比奈さん。なんとなく緊張しつつ、朝比奈さんの体を持ち上げる――――。
……ふと、その感触に、違和感を感じる。
朝比奈さんは、さっきまで荒く息をついていたはずだ。なのに、今は不思議なほどに『静か』だった。
クーラーの効いた保健室に来て、すこし落ちついたのだろうか?
「ああ、念のため『脈』を見ますか。熱失神の時の脈拍は、『ゆっくり』になるんですよ」
非合法養護教諭のわりに、知識は申し分ないらしい。フーゴは、ベッドに横たわる朝比奈さんの元へ近寄り、その手首を取った。
「これ、邪魔ですね」
バニーさん用のリストバンド(なのか? アレ)をずらしながら、浅黒いフーゴの指が、朝比奈さんの白い手首に触れる。
「……?」
「どうしたんですか?」
……一瞬。
フーゴの表情が強張ったのを、俺は見逃さなかった。
「……嘘だろッ!?」
突然、フーゴが大声を上げ、朝比奈さんの体に覆いかぶさる。
おい、ちょっと待て、何をする気だっ!?
「……止まっているッ!」
……何だと?
フーゴが、朝比奈さんの唇の傍に、自分の頬を近づけ、数秒ほど停止した後。
「『呼吸』も『脈拍』も止まっている……ッ!」
「……なんだってエエエエエェェェッ!?」
そう叫んだ。……呼吸と脈拍が『止まっている』?
そりゃ、つまり、どういうことだ?
……嘘だろ?
「『嘘』じゃないッ! 確かめてみろ、『脈』がないんだよ! 『心臓』が『動いていない』んだッ!」
朝比奈さんの左胸に手を当てながら、フーゴが叫ぶ。
……って、オイ! ドサクサにまぎれて『ヘンなこと』してんじゃねェ―――ッ!!
「落ち着いてください! 『それどころ』じゃありません! やはり、『スタンド攻撃』を受けていたのか……ッ!?」
古泉が、いつになく鬼気迫る表情で、表情なく『眠る』朝比奈さんを見つめている。
スタンド攻撃だとしたら……えらく『広範囲』なやつだろう。
このところは大体正常に機能している俺の『スタンド探知能力』では、『敵スタンド』は確認していない。
しかし、それほどの遠距離から、一発で『命を奪う』能力なんて……
……と。その瞬間。
おなじみと為った、あの『感覚』が俺を襲った。
しかも、めちゃめちゃ『近距離』だ。
「ッー! 古泉、フーゴ! 『スタンド』だ、『スタンド』が発動した……『すぐ近く』でッ!!」
「! 何だって……!」
俺の言葉に、二人が周囲を見回す。
いや、違う。そんなところじゃない。これはもっと近く……俺の『すぐ傍』だ!
「……これは、『朝比奈さん』だ!
朝比奈さんから『スタンドの発動』を感じるッ!」
「朝比奈さんからッ……!? しかし、彼女のスタンドの『像』は見当たりませんが……それにッ!」
彼女の心臓は止まっている。そうだ。それは俺も分かっている。
だが、俺は確かに『感じる』んだ。朝比奈さんが『スタンド』を発動させている!
何がなんだかわからんが……岸辺の言っていた、ゴッド・ロックのあの『能力』を、使ってみる!
「『ゴッド・ロック』! 朝比奈さんの『スタンド像』を『引きずり出せ』!」
現れた俺のスタンドが、横たわる朝比奈さんの頭部に手を当て……そこから何かを『引きずり出し』た!
「これは―――ッ!!」
……朝比奈さんの体の上に浮かび上がる、俺のスタンドと比べれば、いくらか小柄な人型の像。
頭部に無数の赤い薔薇の花を咲かせた、白い『女性』のスタンド像。
「古泉、これは!?」
「はい、朝比奈さんの『スタンド』です……」
現れた『スタンド』は、まるで何かを追いかけて走るような『動作』をしている。
しかし、スタンドは朝比奈さんの上から動くことはない。まるで、『映像』を映し出しているようだ。
だが、一つ言える事がある。
『スタンド』が生きていると言うことは―――!
「朝比奈さんは『生きている』ッ! しかし――――『何処』でだッ!?」
「それは――――『本人』に『訊けばいい』」
そう言ったのは、フーゴだ。
「スタンドとスタンドは『会話』をすることが出来る。『キョン』、あなたの『スタンド』で、彼女の『スタンド』と会話が出来るかもしれない!」
スタンド同士の会話。
よく分からんが、言われた事は『やってみる』。最近のごたごたで、俺が『学習』したこの世の真理だ!
「『ゴッド・ロック』! 朝比奈さんの『スタンド』と『会話』をしろ!」
現れたG・ロックが、忙しなく動き回ろうとする朝比奈さんの『スタンド』に近寄る。
それと、同時に。俺の頭の中の『何か』が、G・ロックと『繋がる』のを感じた。
なるほど、こういう事か。百聞は一見に如かず。とはよく言ったものだ。
「朝比奈さん、聞こえますか? 朝比奈さん」
『ゴッド・ロック』の口から、俺の『声』が発せられる。
それは『音』ではなく、何かもっと、別の次元の概念だ。なんとなく分かる。
俺の『声』を聞くと、朝比奈さんの『スタンド』が、動くのをやめた。どうやら、届いたようだ。
「朝比奈さん、俺です。『スタンド』を使って、あなたに話しかけています、応答できませんか?」
「……あ、えっと、キョン君ですかぁ? どうなってるんですか、あたし、『どこ』に来ちゃってるんですかぁ~~~ッ?」
オーケイ、通信―――成功ゥ!!
見ると、古泉とフーゴも、自分の『スタンド』を出している。
つか、古泉のスタンド、怖ぇ。
「朝比奈さん。どうも、古泉です」
「ひぇっ!? あ、は、はい。古泉君ですね。わたし、朝比奈ですゥッ!」
知ってます。
「朝比奈さん、あなたが居るのは、今、『何処』なんですか? 見たまま、そのままで構いませんから、仰ってください」
『セックス・マシンガンズ』とやらの口がぐわばぐわばと激しく開閉し、古泉の落ち着いた声を発している。
……うーん、シュール。
「えーと……ここは、『渡り廊下』です! 学校の……でも、学校に誰もいなくて……
わたし、部室で急にふらっとしたと思ったら、回りに誰も居なくって……
『メリミー』でワープしようとしても、キョン君も、古泉君も、近くに居ないみたいで……」
……誰も居ない『学校』。その言葉が、一瞬、俺にあの灰色の北高を思い出させる。
「……朝比奈さん、落ち着いて聞いてください。俺たちの世界に、あなたはちゃんと『いる』んです。
保健室のベッドに横になっているんです」
「ふぇ?」
「ただし、心臓は止まってるんですけど……」
「ふ、ふええぇぇぇ!? 『止まっている』んですかぁっ!?」
「……状況は分かりませんが、とにかく、機関に連絡をします」
ふいに、古泉が『音』でそう言う。ポケットから、携帯電話を取り出し、耳に当てる……
「………おかしい――――ッ」
ぽつり。と、古泉が漏らす。
「何がだ?」
「……どうして『出ない』んだ……『森さん』――――!?」
――――
「……ん」
……どうやら、原稿を描いているうちに、転寝をしてしまっていたらしい。
『光陽園第一ホテル』は、『杜王グランドホテル』のようなハデさは無い。
湿気たビジネスホテルだが、なんとなく僕はこの場所と『波長』が合うようだ。
ここに来てからと言うもの、『仕事』もまずまず進むし、夜もよく眠れる。
昨晩もよく眠れた。『転寝』をしてしまう理由などないはずなのだが。
時刻は午後四時。なんだか寝ぼけてしまった。眠気覚ましに、『コーヒー』でも飲みに行くか。
あの『涼宮ハルヒ』と顔でもあわせちまったら大事になる。
だが、この時間なら、あいつらは『SOS団』だかで、まだ『北高』に居るはずだ。
僕は適当に、財布と、カメラの入った鞄を抱え、部屋を出た。
廊下は静まり返っている。このホテルの宿泊客は大体、出張中のサラリーマンだとかの、つまらない連中で、昼間は出払っているのだ。
こんなホテルに長期宿泊をする人間なんて、おそらくこの世に僕以外居ないんじゃないだろうか。
……ふと、ロビーを出ようとしたとき、フロントに目が行く。
従業員は出払っているのか、そこには誰の姿もない。
不思議だ。いつもなら、誰かしらが受付として、そこに立っているはずなんだが……
――街に出て、ようやく、僕は自分が異様な状況下に在ることに気づいた。
街には、『誰も居な』かった。この僕を残して、町中の誰もが『消え去って』しまったのだ。
道を歩く人も居なければ、車も走っていない。カラスの一匹もいなければ、ノラネコがふんぞり返っても居ない……
「これは……まさか、『スタンド攻撃』―――!」
しかし、町中から一度に人を消してしまう『スタンド』……そんなものがありえるだろうか。
ありえないとは言い切れない。しかし、この場合、こう考えるほうが妥当だろう。
「『別の世界』に来てしまった……この岸辺露伴がッ!」
……こうなると、参ったものだ。
『人』も『生き物』もいない。僕の『ヘブンズ・ドアー』は、そいつらが居なければ何の役にも立たない。ただの非力な小人だ。
「やれやれ……今度は『傍観者』で居られたらいいと思っていたんだが」
またも僕は、『ハイウェイ・スター』だの『チープ・トリック』だのに面倒をかけられたように……
『矢』を持つものの『敵』として認識されてしまったわけか。
「しかし……奇妙な『能力』だな」
『誰も居ない別世界』に引き込む。いったい何がトリガーとなって、僕がこの『世界』に来てしまったかは分からないが……
普通なら、この世界で僕を『攻撃』するだとか、とにかく何か『続き』があるはずだ。
まさか、このまま永遠にこの『世界』に閉じ込められる。なんて『スタンド』じゃあないだろうな……
……クソ。この『岸辺露伴』が、『ビビらされている』ッ……!
……しかし。『永遠にこの世界で一人きり』という、僕の最悪の予測は、まもなく外れることになった。
宛てもなくふらつく僕の目の前に。横道から、突然飛び出してくる『モノ』があった。
音もなく現れた、一台の『乗用車』。……たとえトヨタの『プリウス』だって、こんな静かに『走行』することは出来ない。
ましてや、タイヤの向きなどお構いなしに、『真横』に走ることなど。
「――――あんたはっ! 『岸辺露伴』ね――ッ!?」
その画期的無音車の『上』に乗っている、一人の人物。
今日は非番だったのか。どうでもいいTシャツに、適当なジーンズを纏い、これまた適当に髪を一つくくりにしただけの女。
その顔には、見覚えがある。そして、この『能力』にも。
「『森園生』だったか、君は」
「……まさか、最初にあんたに遭うとは思わなかったわ」
停止した車の上で、森園生は、心底意表を突かれたと言った表情で、そう言った。
――――
「私、今日は非番だったから。テキトーにお昼ご飯を食べた後、ソファで眠っちゃってたみたいなのよ。
それで、ふと気づいたら、この有様。最初は気がつかなかったけど、『テレビに何も映ってない』のがきっかけで、おかしいことが分かったわ」
『眠り』。なるほど、それがトリガーだと言うなら、僕も納得できる。僕は確かに、原稿を描くのに疲れて、居眠りをした。
「つまり―――『眠ってしまったスタンド使い』を、『別世界へ引き込む』スタンドか」
「そう見るのが一番妥当じゃないかしら。最も、まだ実例は、私とあんただけだから、判断材料としては不十分かもしれないけど……
とりあえず、私以外の人間を見つけるために、そこらをでたらめに走り回ってたら、あんたに会った。ってわけ」
『ヘブンズ・ドライブ』で、僕を乗せた車を動かしながら、彼女がそう言う。
「『北高』には行ったのか?」
僕は即座にそれをたずねた。『北高』。自分にかかわった人間の『スタンド能力』を引き出す力を持つ、『キョン』の居る学校だ。
おそらく、この街で最も『スタンド使い』が集まっている場所といえば、あの学校だろう。
「一時間ぐらい前にね。授業中に『うたた寝』してる、生徒が居ないかと思ってね。
でも、誰も居なかったわ。意外とみんな真面目なのね。『谷口』君なんか、きっと転寝してると思ったんだけど」
僕はその人物を知らない。が、おそらく『キョン』によってスタンドを引き出された、自覚なき『スタンド使い』なんだろう。
「もう一度行ってみたほうがいい」
僕は、ハンドル前に形式的に座った園生に向かって言う。
「おそらく、北高は今、『放課後』だ。『運動部』に属する連中は、どいつも額に汗して動き回ってるだろう。
今日は暑い。暑さで『失神』してる連中が居ても可笑しくない。
僕とお前が考えるとおり、『眠り』がこの世界への入り口だとしたら、北高に誰かがいてもおかしくない」
「言いたいことは分かるけどね。
だけど、『無自覚なスタンド使い』なんかが何人集まったところで、大して意味はないのよ。
私たちが必要としてるのは、『SOS団』を初めとする、『事情を知るスタンド使い』たち。
文芸部室でのらりくらりしてるだけのあいつらが、『熱中症』だのを起している可能性は、低いと思うけどね!」
「馬鹿言え、それでもあいつらがあの『北高』に居る以上、そこで誰かが『眠る』可能性にかけた方がよっぽど合理的だろうが!」
「……そうね。確かに、『文芸部』のやつらは別として、『会長』あたりは、転寝をこきやがる可能性もあるわね。
『眠り』がトリガーだと知らなかった私には盲点だったわ、『露伴』! じゃあ、これから『ヘブンズ・ドライブ』は、『北高』を目指すわよ! いいわね!?」
僕の答えを待たずに、ヘブンズ・ドライブは例によって法則を無視しながら、北高へと続く小さな路地に飛び込んだ。
……『会長』というあの柄の悪いチンピラが、この世界にやってきたところで、何の役に立つかは分からないが。
とにかく、今は『仲間』が現れるのに期待するほかないだろう。H・ドライブ園生と二人きりの世界など、真っ平ごめんと言うものだ。
――――
……何がなんだかわからない。それが、今の『みくる』の精神状態を表すのに、もっとも正しい表現だ。
部室で無理矢理バニー衣装を着せられ、ふと、窓際に立ち、日光を浴びたら、意識が遠のいた。
そして、気がついたら、バニー服のまま、世界から誰もが消え去っていた。
しばらく戸惑いながら走り回っていたところ、『元の世界』とやらから、『キョン君』からの声が響く。
……何がなんだか分からない。自分は、『保健室』に居ると言う。しかし、自分は『保健室』にはいない。
ここは『何処』なのか? 『フーゴ』先生らしき声から、『別世界』である。ということは聞かされた。しかし、その『意味』が分からない。
「わ、私、どうすれば良いんですかぁ~~っ!?」
「落ち着いてください、朝比奈さん! 今、あなたの体を連れて、『フーゴ』の車で町へ出ます!
『キョン』君の『感知能力』で、あなたをそこに迷い込ませた『スタンド使い』を探します!」
みくるにそう告げたのは、古泉一樹の声だった。
何がなんだか分からない。何度も言うが、それ以外に言いようがない。なら、『私はどうすればいい』んですか?
……そのとき、私は北高の中庭に居た。宛てもなく校内をさまよった結果だ。
その中庭に飛び込んでくる、一台の『車』。
「『見つけた』ァー!! 『朝比奈みくる』ねッ!?」
……もう一度行ってもいいだろうか。
朝比奈みくるは、『何がなんだか分からない』です。
最終更新:2009年08月12日 16:30