……『オノダイスケ』の正体判明から、三日。祝日の金曜日の空には、雨雲がびっしりと蔓延っていた。
どうせならこのまま、明日の不思議探索もブッ潰れるほどに降りまくってくれればいいんだが。
それで探索が中止になれば、俺たちにとってこんなに心休まることは無い。

……喜緑さんの件までの猛攻がウソのように、ハルヒの命を脅かそうとする輩は、なりを潜めたきりだ。
前回の不思議探索の土曜日に、会長と鶴屋さんが撃退した奴から、もう一週間も、『敵』は現れていない。
……そろそろ、たまりに溜まったものが爆発しそうな中、明日は不思議探索。
無事に終わってくれると良い。昨日の放課後から、俺はそんなことばかりを考えていた。

「……降ってきたか」

ふと。居間の窓から外を見て、外の世界に、音もなく雨が降っていることに気づく。
父親と母親は、市外へ買い物に出かけ、妹は、午前中から、友人たちとプールに遊びに行っている。
いつから降り出したのかは分からんが、この調子だと、今日はプールは営業中止だな。

「……ただいま」

そんなことを考えているうちに。玄関が開く音が聞こえ、小鳥の囀るような、小さな声が聞こえた。
……妹か? にしては、妙に静かだ――――



「……どうしたの」

……どうしたも、こうしたも―――。
廊下と居間とを繋ぐドアを開けて入ってきた、見知らぬ美少女を前に。
俺はおそらく、えらい間抜け面を浮かべていたと思う。


キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第13話『西宮市はラブホテルのきらめきで彩られる』


「……いや」

……おそらく、雨に降られたのであろう、肩ほどまでの濡れ髪を拭いながら。
目の前に立つその人物は、不思議そうな目で、俺を見ている。

「……え、っと」

誰だっけ、この子?
一瞬、その大人びた容姿と、やかましさの一つも無い落ち着いた様子が、妹の友人であるミヨキチと被って見える。
しかし、ミヨキチではない。何が違うかって、顔が違う。俺の知る彼女は、目の前の少女のような顔つきではなかったはずだ。

「……だから、どうしたの?」

少女は当たり前のように、キッチンに入り、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、それをグラスに注ぐ。

「キョン君も、飲むの?」

……キョン君。
その少女は、俺の目をまっすぐに見ながら―――今、その名前を、確かに呼んだ。
よく見ると、その少女の顔には、どこか見慣れた要素を感じる。
何と言うべきか、それはとても身近な―――俺にとって慣れ親しんだ雰囲気。
……ああ、そうだ。この子は、まるで―――

「……妹、なのか?」

俺の口から、その言葉が転がり落ちて、フローリングを伝う。
少女は―――俺の妹に良く似た、けれど、ずっと大人びた少女は―――怪訝そうに眉を顰めて

「変なキョン君」

と、呟いた。

――――


ちくしょう、古泉のアホんだらは、どうしてこんなときに限って、連絡が付かんのだ。

「ちょっと、キョン君、どうしたの? ……何あわててんの?」

首にかけたタオルで髪の毛を拭いながら、『妹』は、ドタバタと家の中を駆け回る俺を、鬱陶しそうに見た。
これがあわてられずに居られるものか。自室から引っ張り出してきた外出用の服を身に纏うと、自転車の鍵を手に、『妹』の手首を取る。

「ちょ、ちょっと? 何、どうしたの」

「いいから、ちょっと来い!!」

「え? でも、あたし、服濡れたままなんだけど」

「じゃあ、早い所、何でも良いから着替えてきてくれ!」

俺の尋常ならぬ様子を感じ取ったのか、妹は渋々と、自室へと向かって行った。
その間に、俺は下駄箱を漁り、妹の為のレインコートを探す。
それはすぐに見つかったが―――サイズが見るからに合わない。こりゃ、今朝までの『妹』にぴったりのサイズだ。
仕方ない、少々オーバーサイズだが、母親のレインコートを引っ張り出す。
俺は……傘で良い。来月から、自転車に乗りながらの傘は罰金の対象らしいが、今月まではギリギリセーフだろうと、勝手に解釈しておく。

「ねえ、あたし、髪の毛乾かしたいんだけど……」

「それも手早く頼む!」

いかにも納得がいかないといった様子で、『妹』は顔をしかめる。
今のうちに―――そうだ。岸辺に連絡を取っておかなくては。

「……何の用か知らんが、僕より古泉に連絡を取ったほうが良いんじゃないか、『キョン』」

受付の声を挟み、聞こえた第一声がそれだ。

「あいつには連絡が付かん、とにかく、ちょっとした非常事態なんだ!
 あんたの『ヘブンズ・ドアー』が是非とも必要なんだ、今から会えるか!?」

「……そっちから出向いてくれるというなら、構わないが。僕はホテルにいる。
 しかしな、僕は『何がなんだか分からない』状態で、人の言うとおりに動くのがとても嫌いなんだ。
 せめて事情を話す時間ぐらいはないのか?」

「髪、乾いたけど? ねえ、こんな雨なのに、どこ行くの?」

悪い、岸辺。あまり時間がない。今すぐそっちに向かうから、『ロビー』に降りててくれ。
なにやら岸辺の文句が聞こえた気がするが、無視して電話を切る。

「ちょっとな、知り合いのとこだ! 悪い、お前、レインコートでいいか?」

「なんで『今』なの? 雨が上がってからじゃ駄目なの? っていうか、なんであたしが連いて行くの?」

お前が着いてこなくちゃ、意味がないだろうが。
何しろ、非常事態に陥ってるのは、おまえ自身なんだから。

「……一応訊いておくが―――お前、誰かに『矢』で刺されたりしてないよな?」

「『矢』ぁ?」

……どうやら、『オノダイスケ』の毒牙に掛かったわけじゃないらしいな。
なら、あるいは、誰かの『スタンド能力』によって、こうされちまったって事か?
とにかく、全ては『ヘブンズ・ドアー』だ。少しばかり手荒だが、あいつのスタンドで、妹を『読んで』貰うしかない―――!

――――


約十数分後。俺たちは、『光陽園第一ホテル』のロビーにたどり着いた。
念のために、此処までの道のりを、『ゴッド・ロック』のスタンド探知能力をフル稼働させながら来たが
『敵スタンド』らしき気配も、また、背後の妹から『スタンド』の発生を感知することもなかった。
もっとも、敵の『スタンド能力』によって発生している事柄までは探知できないが……

「ねえ、何でこんなとこに用があるの?」

「いいから、ちょっと此処で待っててくれるか?」

俺は、ロビーの椅子に妹を待たせ、『岸辺露伴』を探した。
しかし、狭いロビーに、岸辺の姿は無い。
あの野郎、待ってろって言ったじゃあないか。まさか、俺が途中で通話を切り上げたのに腹を立てて、すっぽかそうってんじゃァないだろうな?

「あの、このホテルに宿泊してる『岸辺露伴』は、外出してますかっ!?」

焦る気を宥めながら、フロントに立つ女性に訊ねる。

「は、はいっ!? い、いえ、多分、お部屋にいらっしゃると思いますが……」

俺の剣幕に気おされながら、女性がそう言った直後。エレベーターの戸が開く。

「……なんだ予定より早いじゃないか」

現れたのは、いつもののらりくらりとした表情を浮かべた、岸辺だ。
バカ野郎、あれだけ慌てていたんだ。ちょっとぐらい早めに出てきやがれ。

「で、僕のスタンドが必要な非常事態ってのは、一体なんだ? 悪いが、つまらないことだったら協力はしないぞ」

つまらないわけが無い。何しろ、俺の妹が、突然見違えるほど大人びた美少女へと変身してしまったというんだ。
そいつに『矢』にやられた記憶は無い。もしかしたら、誰かにスタンドで攻撃されて、そうなったのかもしれない。
しかし、本人はその記憶も、自分がいきなり『成長』しちまっているっていう記憶もないらしい。

「……『成長』させるスタンド。……なるほど、僕にその『妹』を『読んで』くれってわけだ。
 しかしな、キョン。本人が『自覚』してないなら、『ヘブンズ・ドアー』には記されないんだ」

「ああ、知ってる。前に聞いた。でもな、あいつは『精神』まで成長しちまってるようなんだよ。
 小6にしちゃあやたらと子どもっぽかった俺の妹が、今時の大人びた少女になっちまってんだ。
 その精神の変化に、何か鍵があるかもしれない。あんたは『精神』を読めるんだろォ――!?」

「……ふむ」

俺の言葉に、岸辺は何やら考えるようなそぶりを見せ……

「いいだろう。お前の言うことは実に筋が通ってるぞ、キョン。
 僕の『ヘブンズ・ドアー』で、お前の妹を『読んで』やるよ。
 ただしな、キョン。僕の『ヘブンズ・ドアー』は、本人の秘密にしたいことまで『本』にしちまう。始めてのキスがいつで、どんなものだったか。
 他人に体を触られたことがあるかどうか、とかな。
 隅から隅まで読んで、お前の妹の『精神』に、おかしな点がないかを調べるとしたら、そんなことも『読んじまう』ことになるが……」

にやり。と、気味の悪い笑みと共に、岸辺が言う。
……どこまで悪趣味なんだ、この男は。間違いなくサディストだな、こいつは。

「悪いがなァ―――、『岸辺露伴』! 俺の妹はまだ小学校6年生だ!
 そんな乱れた経歴は持ってねェ――――よ!」

「ははっ、どうだろうな? 今時の小学生は進んでいるんだぞ、キョン?
 まあ、そんなことも、僕の『ヘブンズ・ドアー』で『読んで』やれば分かる事だ。
 で―――お前の『妹』ってのは、何処にいるんだ? 雨の中、お前の家まで足を運べだとかは、簡便だぞ?」

ああ、その心配は無い。ちゃんと、このロビーに…………

「……いねェ」

「……何だ?」

んな、馬鹿な。たしかに、あいつは――――此処からも見える、ロビーの待合席に、座っていたはずだッ!!

「『妹』がいねェ―――んだ! 『ありえない』!! ちゃんと自転車の後ろに乗せて、連れてきたんだ!!
 なのに―――なんで居ないんだよォ―――!!?」


――――


……一体、何だって言うんだろう。
只でさえ、あたしは今日、せっかくの友達とのプールを、雨なんかに邪魔されて、イライラしてたのに……
雨に濡れて返ってきたら、『キョン君』がいきなり、あたしをどこかに連れてくとか言い出して……
もしかして、また『ハルにゃん』がらみかな? と、思って、黙って着いてきたけど。
行き着いた先は、『ホテル』。……こんなところに、何の用があるって言うんだろう。
あたしには果てしなく縁の無い場所じゃない? こんなところ……
ああ、レインコートが濡れててうざったい。

……見ると。キョン君が、エレベーターから降りてきた、私の知らない人と、何かを話している。
何、あの人。わけ分からない服着てて、ヒョロヒョロしてて……もしかして、あれがキョン君の言ってた知り合い?
だとしたら、冗談じゃない。あの人とあたしが、何で関係あるんだろう? つれてこられたからには、あの人とあたしが、何かさせられるのかな……
何かって……何?

……不意に、思い出す。あたしが『忘れたい』と、何より思っていたこと。
この間、友達から言われた……キョン君が、『女の子』と一緒に、自転車に乗っていたって言う話。
……あたしのお兄ちゃんだった、キョン君。そのキョン君が。女の子と仲良くしてる。
それも、あたしや、クラスの子たちとはぜんぜん違う……もっと、大人な『女の人』と。
そして、あたしも気づいてる―――キョン君が、どんどん、お父さんや、町で見かける『男の人』のように……大人になっていること。

「……やだ」

あたしの口から、何か、言葉が零れる。
ふと。あたしの前を、知らない男の人と、女の人が横切る。
……ホテル。そういえば、友達から聞いた。『恋人』は、『ホテル』に行くものだって。
そこで『恋人』は、『セックス』をするらしい。まだ『保健体育』の授業は受けていないから、あたしには、よく分からない。
でも、それは――――それをすることは、『大人』になったしるしらしい。

……キョン君。
キョン君は、自転車に乗せていたっていう人と『恋人』なんだろうか?
キョン君は――――背がうんと伸びて、体が硬くなってきたキョン君は。
その人と、『セックス』するんだろうか――――?
それじゃ、あたしも――――いつか、『大人』、『セックス』できるようになるように、『成長する』―――?

ふと。あたしの目に、ホテルの窓枠が目に入る。
家にあるような、ただの鉄じゃない。まるでカガミみたいに綺麗な窓枠。
そこに―――『大人』の女の人が、映っている。
その人は、かがみごしに、あたしと、バッチリ目が合っている。
あれ、おかしいよね? あたし、『自分』を見てるのに――――

「これ――――あた、し――――?」

……なに、これ。まるで、『大人』みたいじゃない? 背がおっきくて、胸があって――――
そう、まるで、これじゃ、『ミヨキチ』みたい……小学六年生には、とても見えない。
……あれ? あたしって、今、何年生だっけ?
小学六年生……うん、そうだよね。じゃあ……『キョン君』は?
あれ、おかしいな、あたしとキョン君は、ずっと歳が離れてるはずなのに……なんで『キョン君』が、『中学生』なんだろ?
あ、そうだ。キョン君はもう高校生で、ハルにゃんたちと仲良くて……あ、あれ、じゃあ、あたしは?
あたしは――――三年生、じゃなかったっけ?
あ、でも、違うよね。あたしは六年生で――――
あ、れ―――?

――――


「おい、落ち着け『キョン』!! 僕はワケが分からないってのに、ワケが分かってるお前が取り乱してどうするんだよォ――――!!」

……岸辺の叫び声が、俺を『正気』に引き戻す。
――――そうだ。俺は取り乱しちゃいけない。『妹』の異常を知っているのは、俺だけなんだ。

「わ、悪ぃ、岸辺……いや、俺は『妹』を連れて、此処まで来たはずなんだァ――――!! なのにィ―――『妹』が、居ないんだ! このロビーの、何処にもッ!!」

「あ、あの――――」

不意に、耳に入った、女性の声。俺と岸辺が、一度にその方向を向く。
その先に―――フロントに着く、女性の姿がある。

「あの、もしかして、その『妹』さんが、そこの席に座っていらした女の子のことでしたら……
 ついさっき、『出て行かれ』ました。耳をふさいで、なんだか、その―――『逃げる』ように」

「何ィ――――!!?」

馬鹿な、ついさっきまでの『妹』は、渋々ながらも、俺の言うとおりにしていてくれたのに――――!!

「―――どうしよう、『岸辺』!! あいつは、やっぱり、『敵スタンド』の攻撃を受けていたのかもしれないっ!!
 それで『操られ』て、『さらわれ』ちまったのかも――――」

「だからァ――!! 『落ち着け』って言ってるのがわからないか、『キョン』!!
 いいか、もし『敵スタンド』の攻撃で逃げ出したなら、『逃げる』ように出て行ったってのは不自然だ!
 お前の妹は、確かに自分の意思で『逃げた』んだ!! ―――ああ、どっちにしろ! まだこの街の何処かに『居る』のは確かだ!!
 『妹』が心配なら――――『探せ』よ!! ちくしょう、こうなったら僕もそれに付き合ってやる!
 そうでなけりゃ、お前の『スタンド』にボコられそうな勢いだからなァ―――ー!!」

――――


どうして、あたしはこんなところに居るんだろう?
あたしは、『キョン君』に連れられて、ホテルのロビーに居たはずなのに……
ああ、そうだ。あたしは、怖くなって――何に?
そう。『自分』が鏡に映った、その姿が怖くなって―――逃げ出したんだ。

「はぁっ、はぁっ…………」

……此処って、何処なんだろう?
わからない。闇雲に、適当に走ってきたから―――

「―――なあ、姉ちゃん。ちょっと、俺たちと『遊ば』ないィ?」

……見知らぬ男の人の声が、私の背後から降り注ぐ。
振り返ると―――ああ、間違いなく。この人は、『大人』の人だ。
あたしとはちがう――――いや。そうだ、あたしは、さっき見たとき――――『大人』みたいな姿をしてた―――

「お、おい、こいつ、『ガキ』じゃね―――? さすがにこれは、やばくねェ―――か?」

「は? いや、それが良いんじゃん。……なあ、『こんなトコ』にいるんだからさァ――。『分かってる』んだろ? いいだろ?」

……何、これ。怖い。なんだかわからないけど、怖い。

ああ、もしかして、あたし―――『大人』になっちゃったから。この人たちに、『セックス』されるの?
え、どうして? あたしは、『大人』なんかじゃ――――ミヨキチみたいな、大人なんかじゃ、なかったはずだよね?
あれ、でも、さっき見たあたしの『姿』は―――――

「『嫌』ァァァァァ―――――ッ!!」

――――


ちくしょう。何故、僕がこんな目に合っているんだ?
降りしきる雨の中、僕は『キョン』と共に、傘も差さずに歩道を走っている。
ああ、ちくしょう――――結局のところ、僕は。仗助のようなクソ野郎は居なくとも、『スタンド使い』に引きずり回される運命なのか――――

「おい、『キョン』!! お前の―――」

……『お前の妹は、どんな性格になったのか。行きそうな場所は、ないのか?』
そう訊ねようとした、僕の言葉は……隣を走る、キョンに発生した、『非常事態』に掻き消された。

「うぐゥゥゥッ!!?」

突如、走る足を止め、地面にうずくまる『キョン』。
見ると―――腹を押さえる手の間から、紛れの無い『血液』が、滴っている。

「何ィ―――――!!?」

何だ。まさか、キョンが、この場で、腹を切ったって言うのか?
こいつが刃物を持っていた様子はなかったが――――いや、それ以前に。妹を探しているこの状況で、キョンが腹を切る必要が何処にある!?

「ちっ、がうっ、岸辺ぇぇぇえぇっ!! 俺はっ、何ッ、もっ……う……」

うずくまるキョンが、やがて、うめき声を途切れさせ始める。
何だ? もう死んじまったってのか―――そう思った矢先。『キョン』が、体を起した。

「何だ、今のはァ――――!! 体が、腹が『裂けた』と思ったら、急に――――傷が、消えたッ!?」

起き上がったキョンが、自分の血にまみれた両手を見つめながら、言う。

悩む理由は、もはや無い。『突然腹が裂け』、『傷が癒えた』。
そんな芸当をできるのは―――『スタンド』しかありえない!!

「キョン! いいか、お前の『妹』は、やはり『スタンド使い』だったんだ!!
 その『スタンド』は―――理由はわからんが、お前を標的としている!!
 いいか、正直に話せよォ――――『キョン』!! お前、何か妹に『うらまれる』ようなことはしてないだろうなァ――――!!?」

僕の声に、痛みから解放されたキョンが、熾烈な睨み付けを添えながら、反論する。

「ふざけるんじゃねェ――――!! 俺があいつに恨まれるような要因なんざ、何一つねェ――――はずだァ!!
 あいつはな、俺を仇名で呼ぶわ、俺の部屋に無断で入ってくるわ、鬱陶しいぐらいの『親密』な妹だったんだよォ――――!!」

なるほど。『キョン』に言わせれば、そうだったわけだ。
ならば――――残る答えは、一つ。
『キョン』にとっての、『キョン』に対する『妹』の認識と―――
『妹』にとっての、『キョン』に対する『妹』の認識に、差がある――――そういう訳だ!!

「『キョン』、お前の妹は、察するに、間違いなく『スタンド使い』だァ――――!!
 問題は―――その『能力』だ!! 『スタンド能力』を創るのは、『本体』の精神――――
 どうやら、お前と妹のあいだには、大きな『壁』があるようだな――――――それを、『壊させて』もらうぞ!!」

まったく――――何故。
この、岸辺露伴が、他人を取り持つような役を買って出なければ為らないのか。
こいつらの相手をしている古泉たちは―――さぞかし、大変だろうな。
眼前に立ち並ぶ、夜の街を目に、僕は、そんなことを思っていた―――――――。



本体名 - キョンの妹
スタンド名 - ???


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スタンド名 - 「???」
本体 - キョンの妹(3歳)【この年齢は旧暦のものであり太陽暦で換算するとおよそ11歳】
破壊力 - ? スピード - ? 射程距離 - ?
持続力 - ? 精密動作性 - ? 成長性 - ?

能力 - キョンと露伴の目を盗み、ホテルのロビーから逃げ出せるスタンド。
       ホテルのフロントからしても、『逃げるように』としか察知出来ない。

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最終更新:2009年09月22日 20:21