……降り頻る雨の中。
その男は、ただ、凍りついたような無表情で―――俺を見つめていた。
両腕で、俺の『妹』を抱え……その背後に、巨大な体躯の『スタンド』を従えて。

この男が―――俺たちの前にいる、この『男』が!

「『小野大輔』ェ――――!!」




キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第15話『西宮市はラブホテルのきらめきで彩られる③』




「……知っているのか。君たちは、僕を」

……そいつの言葉には、一切の抑揚というものがなかった。
頭の中に完成している文章を、ただ読み上げているかのような、不気味なまでの無感情さが、その男にはあった。

「小野……マジかよ、こいつが―――俺たちの敵、大ボスだってのかァ―――!?」

まさか――向こうから、俺たちの前にやってくるなんて―――!!
『妹』を……こいつは、俺の『妹』を『助けた』のかっ!?

「……君は、この娘をどう思う?」

沈黙の果てに、男が、俺を見ながら、そう言った。
この娘。ってのは、やつの腕の中の『妹』の事だろう。

「何だ……? どうってのは、どういう意味だ! テメェ――、妹に何かしようとしてみろ! 生きて返さねェ―――ぞッ!」

「『何か』? 何かって、何だい? たとえば、この娘の人生を―――運命を、滅茶苦茶にしてしまうような、何かの事かな?

その言葉とともに、『小野大輔』は、初めて表情に変化を見せた。
まるで、古い友人に話しかけているかのような―――とても柔らかな、微笑みを浮かべたのだ。

「安心してくれ。僕はそんな真似をするつもりはない。―――僕は、君とは違う」

何だと?

「この娘の運命を狂わせたのは、君のほうだ」

ゆっくりと、一言一言を確かめるように。小野は言った。

「未だ精神の幼いこの娘に、君が『スタンド』を与えた……その幼さの表れのような、悲しい『スタンド』をね。
 『ローテク・ロマンティカ』。それが、この娘の『スタンド』……自らの精神と肉体の成長を『停留』させる能力」

……同じだ! ついさっき、『岸辺露伴』から聞いたのと、全く同じ―――!
しかし、何故こいつが、そんなことを知っているんだ―――!?

『ジャスト・ア・スペクタクル』に、記されないものは無いんだよ。
 僕の『スペクタクル』には、スタンドと、その使い手の『全て』が記されている。
 僕は、この世でたった一人―――その『スペクタクル』を『読む』事ができる。
 そして、この世でたった一人。『スタンド』を『蘇生』できる」

いつぞや、古泉から聴かされた推論と、ほとんど同じ話だ。
『ジャスト・ア・スペクタクル』……それが、こいつの『スタンド』か。
今、こいつの背後に現れている、この『スタンド』が、その『ジャスト・ア・スペクタクル』なのだろうか。
それとも、其れによって『蘇生』された、何か別のスタンドなのか―――

「そいつに……俺の『妹』に何をする気だ、てめェ―――!!
 いったい何のために……そいつを『助けた』んだァ!?」

「人を助けるのに、理由が要るのかい?」

ふと、小野の顔面から、微笑が消え去った。
また、先ほどと同じ、凍りついたような無表情に変わる。

「僕はこの娘を助けたかった。死なせたくなかった……この、君の『スーパー・ノヴァ』に運命を狂わされた、悲しい少女をね。
 だから、『ストレンジ・リレイション』は『破って』しまった。そして、こいつを『蘇生』したんだ。
 この娘を助けるために。そして――――」

男は、一呼吸を置き――――

「『ジョン・スミス』。君を『殺す』ために」

そう言った、直後! 男の『スタンド』が、動き出した―――!!

「『ヘブンズ・ドア―――』!!!」

それと同時に、俺の隣に立っていた岸辺が、こちらへと駆けてくるスタンドにめがけて、『攻撃』を放つ!
しかし――――ヘブンズ・ドアーの攻撃があたる直前に、小野大輔のスタンドが、『消えた』!!

「ぐッ!!?」

同時に、岸辺がうめき声を上げる。その方向を見ると――――
何だ、こりゃァ!? たった今、線路を横切ろうとしていたはずの『スタンド』が、俺の隣に立って―――岸辺の首を、締め上げているッ!?
バカな、『瞬間移動』したってのかよ!?

「違うっ、キョン!! こいつは、『時』を……!? まさか、この『スタンド』は―――ッ!!」

小野のスタンドが腕を振るい、岸辺の体を線路の上へと放り出す。
そして―――そいつは、『俺』を振り返った!!

「『ゴッド・ロックゥ』――――!! 『やれ』ェェェ!!」

『敵スタンド』の拳が迫ってくる。それを、俺の『スタンド』で受け止める……しかし!

「うごォォ―――ッ!!?」

防御の上から叩き込まれた一撃が……まるで、全身を一度に打ち付けたかのような衝撃に変わる!
何だ、このスタンドは――――『強すぎる』!!
俺の体は無残にも宙を舞い、岸辺同様、線路の上に投げ出された。
ちくしょう、全身が痛ェ。ギリギリ、何とか、立ち上がれるが……こんな化け物スタンド相手に、どう戦えってんだ!?

「キョン! こいつは―――『ザ・ワールド』だ! 承太郎の『スタープラチナ』に次ぐ、最強の『スタンド』……!
 こいつは―――『時』を、『止める』ぞォ―――!!」

岸辺がそう叫ぶ。……なるほど、時を止める。
そして、その中でこいつだけが動けるなら……止められた側からしたら、瞬間移動に見えるわけだ。

「クソ、『ピストルズ』!! 『本体』をやれェ―――!!」

ミスタが叫び、拳銃を構える。おい、それ、携帯してるのかよ。結果的に助かったが、普段やばいだろ、それ。
とはいえ、その判断は正しい。この『スタンド』がどれだけ強かろうと、『小野大輔』本人を倒せればいいわけだ。
しかし、もちろん……『ザ・ワールド』は、それをさせないんだろうが。

「ぐぅっ!!?」

ミスタが拳銃を放とうとした瞬間。その『ミスタ』の口から、うめき声が漏れ、後方へと吹き飛ばされた。
何だ。また『時を止めた』のか?

「ヤロォ―――……そうか、時を止めて、『ピストルズ』を叩きやがったんだなッ……!!」

「『イテェ―――』! イテェヨ、『ミスタ』―――!!」

「俺だってイテェんだよ! くそ、『戻って来い』!」

「『ムリ』ダ……マジデ『イテェ』……」

止まった時の中で、『ザ・ワールド』の攻撃を受けた『セックス・ピストルズ』が、あたりに散らばるように落ちる。
ダメだ……俺はこのザマで、岸辺のスタンドは通用しない。『本』にする前に、時を止められるだけだ。
『小野大輔』は、はじめの位置から一歩も動いてはいない。
ただ、妹を腕に抱えたまま、俺たちの戦いを眺めている。
いや……こりゃ、戦いというより、ただの『なぶり殺し』か……

「クソ……野郎……」

「……クソ野郎か。そいつは、自分のことを言っているのかい?」

『ザ・ワールド』が小野の元へと飛び、小野の背後に下りる。

「てめぇ……ハルヒを殺して、あいつの『スタンド』で、何をするつもりだよ……!」

苦し紛れに、俺が言うと、小野は、なにやら考え込むように、こくりと首を傾げた。

「……誤解があるみたいだね。僕は、彼女の『ザ・ユニバース』の能力を使って、『神』になろうなんて、これっぽっちも思っちゃいないさ」

……何、だと?

「僕はね……彼女を。『涼宮ハルヒ』を、『救ってあげたい』だけだ」

まっすぐに、地面に這い蹲る俺の目を見ながら。
小野大輔は、確固とした口調で、そう言った。

「救う……だと?」

「彼女はいつか、自分の能力に気づくだろう……今は君や、『セックス・マシンガンズ』の古泉、『メリミー』の朝比奈やらのお陰で、そんなことにはなっていない。
 しかし、それも時間の問題だ。……この娘が、自分の『スタンド』に狂わされ、『死』さえも望んだように。
 だから、僕は……『涼宮ハルヒ』が、そんな悲しい運命を知ってしまう前に。大きな力に飲み込まれてしまう前に。
 彼女を『解放』してあげたいんだ」

ハルヒを殺すことが……ハルヒを解放すること、だと?

「そうさ、そして―――古泉や朝比奈たちもまた、彼女を『制御』する役目から解放される……
 それは『幸福』というものだ。『幸せ』だ。僕は、一人でも多くの人に、『幸せ』になってほしい。
 かつて、多くの人々に、ひと時の『夢』を見せていたのも、その『夢』を見られることこそが『幸せ』だからだ。
 スペクタクルに記される人間に、『不幸』になって欲しくは無い。
 だから、僕は……あの日。随分ぶりに『イエロー・テンパランス』を『破って』、『スペクタクル』を読んだ時。
 君の存在が……『スーパー・ノヴァ』という、どこまでも愚かなスタンドの存在を知ったとき。とても悲しい気持ちになった」

……何、言ってやがんだ、こいつは?

「君の『スーパー・ノヴァ』は、誰のことも幸せに出来ないんだよ、ジョン君。
 だから僕は、君を『射た』んだ。その愚かな能力が、消え去るようにと。
 もうこれ以上、誰も『不幸』にならないように」

「……そういう、事かい。じゃあ、何だ? 『喜緑さん』は、どうだってんだよ。
 テメェの所為で、あの人は……!!」

「……よかった。彼女は、『幸せ』になれたんだね」

……俺の視線の先で、小野は、心の底から―――微笑んでいる。

「彼女は、最後に、とても素敵な夢を見られた。僕は、その夢を、どうしても、彼女に見せてあげたかったんだ。
 ……よかった。安心したよ。喜緑さんは―――解放されたんだね。終わりの無い、邪悪な運命から」

「…………テメェ―――――!!!」

俺が『命令』するよりも、ずっと早く。『ゴッド・ロック』が、俺の体から飛び出し、小野へと襲い掛かった。
しかし―――振り下ろした拳は、『ザ・ワールド』の右腕によって、押さえ込まれる。

「ぐゥゥゥ!!」

「……君は、僕にとって、この世で最も『在ってはならない』存在なんだ、ジョン君。
 『ジャスト・ア・スペクタクル』に目覚めた、この僕にとって……
 君の存在は、許されるものじゃない」

「うるせェ―――黙れ」

沈黙。

「……テメーの下らねェ―――話は……これ以上、聴きたくねえんだよォォォォ!!!」

『ゴッド・ロック』が、無数の拳を放つ!
しかし、『ザ・ワールド』は、其れを悉く受け止める!
二体の『スタンド』は、再び線路の上へと移る―――

「たとえ俺が『殺され』ようと! テメェに、『ハルヒ』だけは―――殺させねェェェェェ!!!」

殴れ!

「『ヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレ』ェェェェェ!!!」

何度だろうと、『ザ・ワールド』に向けて拳を放て!!

「『ゴッド・ロック』ゥ――――!! やれェェェェェェェェ!!」

「……無駄なんだよ、ジョン・スミス。君のスタンドじゃ、『ザ・ワールド』に、かすり傷さえ与えられないんだ」

煩い。黙れ。喋るんじゃねェ――――!!

「終わりにしよう、ジョン君。大丈夫、君の妹は、僕が……きっと、普通に生きていけるようにしてあげるよ。約束する」

声が聞こえた直後。
『ゴッド・ロック』の眼前から、『ザ・ワールド』が消えた―――
時が止まったんだ、また。『ザ・ワールド』は、何処だ――――ッ!!?
……背後だ! 俺の背後に……『スタンド』が居る!!!

「さようなら、全ての邪悪の根源。地獄でも、お元気で」

ああやられるのか。このまま、背中から腹までをぶち抜かれて、俺は死ぬのか。
ちくしょう。ハルヒ――――こんないかれた、『スタンド』なんてもんがあっても……俺は、お前を守れないのか――――

「クタバレェェェ!!」

「オリャァァァァ!!!」

「ドグサレガァァァァァ!!!」

……その、瞬間。
俺の体に穴が開く、一瞬前に。
どこかで、なにやら甲高い、人間離れした『叫び声』が聞こえた。
それと、同時に。『何か』が、『どこか』から、撃ち放たれるような音が、三つ、あたりに響き渡る。

「う……おおおおォォォォッ!!?」

続けて、うめき声。この声は―――『小野大輔』の声だ!!

「なっ……何だってェェェェェェ!?」

小野が、自分の右肩を抑えながら、叫んでいる。妹は、濡れたアスファルトの上に寝そべっている……
そして、小野の指の間から零れ出る……紛れも無い、血液。

「……『ピストルズ』……お前ら……」

小野とは反対側の道路で、ミスタが呟く。

「……まさかァッ!? 『砂利』……線路の『砂利』を、『撃ったのか』ァ―――!!?
 お前らは、弾にしか宿らないはずじゃ……
 何だこりゃァ……お前らッ! 『成長』してンのかァ――――!!?」

……地面から放たれた、三つの『弾丸』が。小野の体に、えぐりこんでいる。
右肩、左のわき腹。そして、右手の甲。

「うおおおおおッ……そんな、血がッ……!!?」

小野が大いにうろたえている―――今しかない!!」

「『ゴッドォ――――・ロ―――――――ック』!!! 『やれ』ェェェ―――――――!!!」

「なっ……
 『世界(ザ・ワールド)』ォォォ!!」

……傷を負った『ザ・ワールド』よりも、ほんの一瞬だけ。『ゴッド・ロック』の拳のほうが、早かった!!
『ゴッド・ロック』が、『ザ・ワールド』の体に、打撃を叩き込むッ―――!!

「ヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレ
 ヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレ
 ヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレヤレェェェ――――――――ッ!!
 『やっちまえ』ェェェェェ―――――――!!!」

「がっ……ハァ――――ッ!?」

小野の体が―――歩道に立つ小野の体が、後方へと吹き飛ぶ――――

「今だ―――『ピストルズ』! 撃てェ―――!!!」

ミスタの絶叫と共に、『銃声』が響き渡る―――!!
しかし、その『弾丸』が、小野の体に食い込む直前に!

「『ザ・ワールドォォォ』!! 時よ、止まれェェェェェェ!!」

……その絶叫を最後に。
『歩道』から、『小野大輔』が消え去った―――
そして、同時に。地面に横たわっていた、妹の姿も。

「ちくしょォォォォ――――!! 『小野大輔』ェェェェェ―――!!!」

絶対に―――何があろうと!

「テメェにハルヒは……誰一人も、殺させねえェェェェェェェェ――――!!!」





本体名 - 小野大輔
スタンド名 - ジャスト・ア・スペクタクル(ザ・ワールド) 逃亡

本体名 - キョンの妹
スタンド名 - ローテク・ロマンティカ 不明
to be contiuend↓

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スタンド名 - 「ジャスト・ア・スペクタクル」
本体 - 小野大輔(29歳)
破壊力 - - スピード - - 射程距離 - -
持続力 - A 精密動作性 - - 成長性 - -

能力 - 世界中のスタンド使いとそのスタンドが記された本のスタンド。
       記されている全てのスタンドの像を立体化できる。
       既に死んだスタンドのページを破りとることで
       そのスタンドを『蘇生』し、使役する事が可能。
       蘇生したスタンドは、基本的に本来の能力を発揮できるが
       一部の能力を発動する場合、本体が、手で『ページ』に触れる必要がある。
       スタンドを蘇生している間は、スペクタクルを発動出来ない。
       蘇生したスタンドを解除するには
       スペクタクルから破り取ったページを破り捨てる。
       破り捨てたページは元に戻せなく、二度と読むことも、蘇生することもできない。

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スタンド名 - 「セックス・ピストルズ」
本体 - グイード・ミスタ(20歳)
破壊力 - E スピード - C 射程距離 - C
持続力 - A 精密動作性 - A 成長性 - B

能力 - 銃の弾丸に宿り、その軌道を自由に変化させる。
       No.1~3と、No.5~7の六体で一組の自律行動型スタンド。
       ケンカをする・食事を取らなければ働いてくれないなど
       各々がそれなりに難しい性格をしている。
       また、弾丸以外のものでも、発射・軌道の操作ができるようになった。


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最終更新:2014年06月05日 01:14