「止まりなよ、『東方仗助』」
……『小野』の声が。破壊の限りに満たされた、ロビー内に、しみこんで行く。
名を呼ばれた『仗助』は……壁に背を預けながら、ゆっくり、ゆっくりと。廊下の奥を目指していた足を、ピタリと止める。
「まさか、『逃げられる』なんて思ってるんじゃないだろうな?
いいかい、まだわかっていないのなら、もう一度言ってやる」
ロビーの壁沿いに張り付くように並ぶ、忌まわしき『スタンド使い』たちに向けて。小野は、語る。
「『ヴードゥー・キングダム』は……今、この瞬間にだって。時を『止め』て、君たちの『スタンド』を『支配』することができる。
いいか、君たちは今、僕の『箱庭』の中にいるんだ……わからないかな?」
……答えるものは、いない。
まあ、いい。どちらにしろ……小野は。段取りのとおりに、淡々と、『裁き』を下して行くだけだ。
その第一の標的は……『クレイジー・ダイヤモンド』。それはもう、『決まった』ことなのだ。
……鎮魂曲は、続く。
「――――ドラァッ!!」
仗助が、動いた。やられるまでじっとしていることは無いだろうとは思っていた―――が。
『クレイジー・ダイヤモンド』が、後ろに飛びのく……その速度は、小野が予測していた以上のスピードだった。
そして、スタンドに伴い、仗助自身の体も、廊下の奥へと進んでゆく。……少し、急ぐ必要があるな。
……ロビーに残っている『受刑者』たちの位置からして……今回の『執行者』は、彼だ。
『セックス・マシンガンズ』、古泉一樹。
――――
……小野が意識した瞬間。『それ』は発動する。
時が止まると同時に、小野大輔の感覚の全ては、一時的に、『ヴードゥー・キングダム』に移る。
そして、『ヴードゥー・キングダム』は……時が止まると同時に、小野の決めた対象の『精神』を。
その『スタンド』を『支配』する。
『小野』は。『ヴードゥー・キングダム』は。
『セックス・マシンガンズ』と、その媒体の『古泉一樹』となり、止まった『時』のなかに舞い降りる。
『古泉』の肉体の痛みは感じない。『V・キングダム』は、彼の『魂』の中に居る。
一秒。
『古泉』は、『セックス・マシンガンズ』を手に、仗助の消えた廊下に駆け込む……彼の姿は、廊下の中ほどよりも、いくらか奥にある。
二秒。
『セックス・マシンガンズ』の銃口が、空中に静止した仗助に向けられ、引き金が引かれる。
放たれた弾丸は、空中にて『固定』される……
三秒。
先ほどマシンガンズに食わせた、『古泉の肉』が、いくらか残っている。
残弾を心配する必要ないだろう……が。どうせなら、一度に済ませてしまおう。
四秒。
『古泉』は、『マシンガンズ』の引き金を引きながら……
空中を咀嚼する『マシンガンズ』の口の中に、『右手』を突き入れた。
五秒。
バリバリと音を立てて、古泉の手首ほどまでが、一瞬で、マシンガンズの口内に消えてゆく。
六秒。
そろそろ時間だ――――
『V・キングダム』は『古泉』から離れ、『小野』の元へと帰ってゆく。
七秒。
時が―――動き出す。
「うぐ……うわあァァッ!!?」
まず、最初に響き渡ったのは、古泉の絶叫。
そして、僅かに遅れて、廊下の奥から、『仗助』の声がする。
はじめは、『マシンガンズ』の口で、仗助の頭を食い潰してやるつもりだったが……仗助のスピードが想像以上だった。
あれでは致命傷にはならないだろう……まあ、いい。とりあえず、一人再起不能にはしてやれた。
廊下にうつ伏せに倒れ付す『古泉』。そのまましばらく放っておけば、失血死するだろう。
「……古泉ぃぃぃぃ!!!」
「う、うわああぁぁ、いっちゃ―――ん!?」
瞬時に―――腕と腹から、血液を振りまきながら、倒れ付せる古泉を見て。
『ヘブンズ・ドライブ』の森と、『ネオ・メロ・ドラマティック』の榎本が、古泉の下へ駆け寄ろうとする。
仗助が、ロビーへと引き返してくる様子は、ない。
何か―――妙だ。逃走に『迷い』がない……
……まあ、いい。今は、『こちら』だ。
……再び。時は止まった。
静止した時の中で―――『榎本』が、動く。
一秒。
自分の僅か前方を駆ける、スーツ姿の女の前に回りこみつつ……手の中の『像』を構える。
二秒。
まず、胴体に一撃。ボディを食い込ませる。……この『森』は、実につまらない『スタンド』の持ち主だ。
生かしておいたところで、何の脅威になるとも思えないが―――『ジョンの仲間』である。ただそれだけで、『裁く』理由としては十分だ。
三秒。
膝の関節が逆に曲がるように、思い切り『ドラマティック』を叩き付ける。
……四秒。
最後に、頭でも殴っておくか……適当に意識が残る程度に。『榎本』は、『武器』を振り上げる。
五秒。
ゴン。頭蓋が割れたほどの手ごたえはない……これくらいが丁度いい。と、『榎本』は笑う。
六秒。
さて、時間だ。
時が動き始めたときに、『自分』が何をしたか、よく見えるように―――一歩、後退してやろう。
七秒。
「あぐぅぅゥゥッ……ッ」
醜いうめき声だ。と、小野は思う。
「え……な、森さ…………」
錐揉みになりながら、その場に、ボロ雑巾のように崩れ落ちる森。
その姿を見下ろし……榎本は、何が有ったのかわからないという表情を浮かべている。
そして、その表情が、『徐々に』青ざめてゆく……
「いやああああァ――――ッ!!?」
「……『小野』ぉぉぉ!」
小野に向けて、キョンが、喉の奥底からの声を発する。
そして、小野に向けて飛び掛ろうと、体をうごめかせる……だが。彼の両足はへし折れているのだ。既に、『戦闘不能』。
彼に残された道は。一人づつ、仲間が『裁か』れてゆくのを、見せ付けられる道のみ……
残りは……三人か。一人は『逃亡』中。やつのことは……後で良い。『治療』の力も、このロビーに立ち入ることが出来ない状態では、恐れるに足らない。
やつに出来るのは、小野に位置を特定されぬよう、ひたすら逃げ回ることくらいだろう―――
……そう。小野は―――仗助と共に去っていった、『彼』に―――気づいていない。
―――音を立てるな。自分の存在を、下階の、『ヤツ』に悟られるな。
『仗助』は、その一点に全神経を集中させながら……『二階』の廊下を進む。
『マシンガンズ』の弾丸に穿たれた全身が、燃えるように痛む……しかし、決して。未だ、『再起不能』ではない。
……『こいつ』の言っていることが、本当なら。
あの男の『スタンド』に立ち向かう、ただ一つの道は……仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』に掛かっている。
「……アアアッ!」
不意に。仗助の警帽のなかの『それ』が、声を上げる。
「マタダ……ドンドン『ヤラレ』チマッテルウウ!! 『コイズミ』モ……『モリ』モヤラレチマッタト、イッテイル!!」
畜生。廊下を、壁伝いに、ふらふらと進みながら、仗助は心中で歯を食いしばる。
一体、下の階では、どんな惨劇が繰り広げられているのか。
こうしている間に。彼らが手遅れになってしまうかもしれない……
しかし! 何と言うことだ……今!
『仗助』は、彼らが……ロビーに残してきた彼らが、『全滅』するのを『待たなければ』いけない!
「オ、オイ、ジョースケ!! ハヤク……『アレ』ヲオレニワタシテクレ! 『アレ』ガナキャ、『ダメ』ダッテイウンダヨ! 『No.2』ガ!!」
「ああ……そうだったな」
仗助は、人気のない廊下に、腰を下ろすと……『ポケット』から、『警察手帳』を取り出す。
「ヨ、ヨシ……『コレ』ヲトドケレバ…イイ、ンダヨナ!? ホントウニ……『アイツ』ニ、カテンダヨナァ――!!?」
警帽の中から這い出した、白い『像』は、仗助の手の中から『手帳』を奪い取ると。壁をすり抜けて、一目散へ、外界へと飛び出していった。
……頼むぜ、『No.5』。
仗助は……次の瞬間を待ち続ける。意識を失うことの無いように……『クレイジー・ダイヤモンド』を、研ぎ澄ましながら。
――――
「―――榎本さん」
「ひ……あああっ!! やめて……あたし、あたしじゃない!!!」
小野が、声をかけると。少女は……目の前で。自分の『スタンド』によって、全身を砕かれた女を前にした、少女は。我を忘れたように、取り乱し、首を横に振るう。
……小野は、想う。今からでも、決して遅くはない。……この『榎本』には。まだ、幸福になる権利があるはずなのだ―――。
「……榎本さん、僕はね。何度も言うが……君を『敵』にしたくないと、今でも思っているよ。
君は、その『ドラマティック』で、すばらしい能力を手にした……とてもラッキーな一般人。それでいいじゃないか。
……君は、僕が裁くべき相手じゃない。……ねえ? 今からだって遅くない……僕の『敵』になるのを、やめてくれないかい?」
……榎本の、絶望に染まった表情が……僅かに、揺れる。
「あ、たし……あたしは……」
「……後始末は、今日のうちに、ここで全て済ませるつもりだ。
君はなにもしてない。君が、そこの人を……なんてことを、知ってる人は、誰も居なくなる。
僕と君だけの『秘密』になるんだ。それは……素敵じゃあないかな?」
「あ……う…………」
「榎本センパイ……だめです、聴いちゃ……」
頭を抱え、蹲る榎本に、キョンが呟きかける。しかし、もはや。榎本に、そんな声は届いていない。
……もう、一押し。小野は囁きかける。
「そうだ、榎本さん。君の能力……あれを使って、彼を……『ジョン』の性別を変えてやってみてくれないかい?
『魔女』を裁く、なんてのも面白そうじゃないか……協力しておくれよ。
もちろん、僕は、君が協力してくれたことを、誰にも話さない……約束だ、僕らは、心の底から信頼しあえる『友人』になれる……ねえ、『榎本』さん?」
「あ……『能力』…………」
……『ドラマティック』の、、ネックの部分を握り締めていた両手が。
まるで、小野に誘われるように……演奏の体制に、変わってゆく。
堕ちた――――。小野は、心の中で、安堵する。
本当ならば。『処刑』などを目の当たりにしてしまう前に、『幸せ』を選んで欲しかったのだが……
「さ、聴かせてやりなよ、榎本さん」
「あ…………ああ、あ……」
……一歩、一歩。『キョン』へと近づきながら……榎本は、ギターを握り締める。
顔面全体に汗を滲ませ、荒く呼吸を吐きながら……
「恐れることは無い。君は彼を『傷つけ』なくていい。ただ……『性別』を変えてやるだけだ。
何の罪にもならない……裁くのは、僕だ。
簡単だろう? 大丈夫……君の今後は。全て、僕が責任を持つ」
「…………!!」
……更に。榎本が、一歩、一歩。ふらふらと、覚束ない足取りで、ロビーを歩み進めてゆく……
『小野』と『キョン』との、丁度間に位置する点にて、立ち止まると……『榎本』は、『ドラマティック』から、『ピック』を取り出した。
……小野は。演奏が始まるのを、待って、目を閉じた。
最後に。この『榎本』を、邪悪から引きずり出すことが、出来たのだ。
さあ、奏でてくれ。それは、『プレリュード』だ……君は、この『レクイエム』から開放されて。
『幸せ』の『前奏曲』へと、進むのだ――――
しかし。
『プレリュード』は、奏でられなかった。
その代わりに鳴り響いたのは……鈍く、とても近しい、『打撃音』。
……小野は、一瞬。何が起きたか、理解出来ない―――無様なことに。
「あああああ!!! 『ミスタ』ぁぁぁ!!! 撃って! 撃ってよおお!!!」
……目の前が、ゆがんで見える。視界の下半分が、桃色の何かに遮られて、よく見えない……
鼻の奥が熱く、歯茎が、釘を刺されたかのように痛む……
…………馬鹿な。
「うおおおおお!!!」
背後で、銃声が鳴り響く……馬鹿な! 『榎本』は……『堕ち』ていなかった―――!?
『馬鹿』なのか!? ……たとえ、不意打ちの一撃程度を食らわせられたところで!
今、この状況で! 小野に楯突くことの意味が―――わかっていないのか!?
激情の中で、時は止まる。
『榎本』は―――『ドラマティック』の『ヘッド』部分を、小野の顔面に叩き付けていた。
……致命傷に為り得る筈もない、無謀な攻撃。
一秒。
この女は―――その一撃で。状況が覆せるとでも、思っていたのか?
二秒。
『ドラマティック』を、見慣れない……自分の顔面というものから引き剥がし、どさくさにまぎれて、小野の後頭部に迫っていた、五発の弾丸を叩き落す。
三秒。
『ミスタ』。こいつには、恨みがある。……昨日の銃撃の痛みを思い出し、小野は一層猛る。
四秒。
時間があまりない。『ドラマティック』のボディを、『ミスタ』の腹に、力いっぱいにたたきつけながら。『ピック』を取り出す。
五秒。
この女には。もはや、何も期待しない……幸せになる権利があると感じた、小野のほうが間違っていたのだ。
六秒。
『榎本』は、両手に二枚づつ、『ピック』を持ち。自らの両目に突き刺す……深く。
小野の『救い』手を振り払った、この女には。もう、二度と―――『光』が、射さぬように。
七秒――――
「――――うわああああ!!!? 痛い、暗い、痛い、あああああっ!!?」
……耳に障る喚き声が、ロビーにこだまする。
小野は……榎本美夕紀を買いかぶりすぎていたようだ。
「センパイいいいい!!!」
……最後に残った。全ての元凶が、無様に叫ぶ。
しかし―――もう、そいつには、何の力も残っていない。
彼の『役目』は―――『ジャスト・ア・スペクタクル』を、『ヴードゥー・キングダム』へと、進化させた。
その時点で―――終わっているのだから。
「……さようなら。榎本さん。君は―――どこまでも。僕を『裏切っ』てくれた」
「―――あああアアアっ!!!」
『闇』と、『痛み』に、のた打ち回る榎本美夕紀。
そうだ。その姿を、『キョン』の前で、曝け出せ。見せ付けてやれ。
『邪悪』が生み出した、『不幸』な『運命』の有様を……
やがて。小野を『裏切っ』た、その女は。地面に倒れこみ、何も言葉を発さなくなった。
彼女の傷は、『致命傷』ではない……『恐怖』に、考えることを止めたのか。
……『ピストルズ』のミスタは、先の『榎本』の一撃で、既に、意識の闇の中へと旅立って行ったようだ。
……ロビーに残っているのは。二人。『裁くもの』と、『裁かれるもの』だけ……
呆気ない。と、小野は思う―――。
「……とうとう、君一人になったね、ジョン。……さて、どうしようか。
どんなことがされたい? 何か希望があったら言ってごらんよ」
……キョンは、ただ。憎悪に満ちた目付きで、小野を睨み上げるのみ。
ふん。小野は、心中で息をつく。『つまらない』。こいつは果たして、本当に『絶望』しているのだろうか?
目の前で、次々と仲間を再起不能にされて……こいつは、それについて、すこしでも、心にダメージを負っているんだろうか?
まさかこいつは、そういった、人間の基本的な感情が欠落しているんじゃないだろうな?」
……まあ、いい。ようやく―――この男を、『裁け』る。
「……君の裁き方は、実はもう、決めてあるんだ」
言いながら、小野は、古泉の倒れる場所へと歩み進める。
力なく倒れた古泉は……どうやら、まだ死んではいないらしい。
小野は、古泉のシャツのポケットから、『携帯電話』を取り出すと……まさに、その時。『着信音』が鳴り響いた。
表示された発信元を確認し……小野は、ほくそえむ。
「―――もしもし……こちら、『古泉』です」
「『イツキ』ですね? そちらは状態はどうですか? 僕らは、まもなく到着しますが……『小野』はどうなっていますか?」
……基本言語が違う点もあってだろうか。あるいは、小野の声真似が完璧である。の、一言に尽きるのか。
電話の向こうの男……『パープル・ヘイズ』の『フーゴ』は、電話の相手が古泉であると信じきっている。
「今、小野を追い詰めています。到着し次第、正門から突入してください、詳しくは、またその後で……」
「わかりました……もう一分足らずで、到着します」
……通話、終了。
あとは。フーゴが現れたと同時に、時を『止め』……『パープル・ヘイズ』を、『キョン』に食らわせる。
そのまま至近距離で、時が動き出すのを待てば、フーゴもろとも……『処刑』は、完了する―――。
――――
「……え……い、いま、何て……?」
……運転席に座った『フーゴ』の言葉を聞いて。『朝比奈みくる』は、フーゴの予想していた通りの反応を帰してきた。
……落ち着け。フーゴは、自分にそう、強く言い聞かせながら。もう一度。『勝利』のために必要な、『みくる』の役割を話す。
「あ、え……で、でも、そんな、痛そうなこと……わたし、無理です、できなっ……」
―――不思議だ。フーゴは、思う。
この女の……『みくる』の、どこまでも臆病で、煮え切らない性格を前にすれば。
すこし以前までのフーゴなら……今頃、我を忘れて、怒号を巻き散らかして居ただろう。
なのに。何故か―――不思議なほどに。今、フーゴは、冷静だった。
「……いいですか、みくる。それは『絶対に必要なこと』なんです……
僕自身のの『パープル・ヘイズ』には出来ない……
今、この場に居る、あなたにしか出来ない」
「…………」
みくるは、ただ、黙りこくる。
……この期に及んで、躊躇っているのか? いや、違う。
『みくる』は、今……『覚悟』を『築き上げ』ているのだ。
「……わかり、ました」
数秒の間を置いて―――みくるが、意を決したように、口を開いた。
「そして、その後……この、『写真』の人のところに行く……そう、ですね?」
「ああ、そうだ! ……時間がない、もう着きます! いいか……よく聴け! こちらからの『合図』が!
そして、君の『メリー・ミー』が、一瞬でもタイミングを外せば……『終わり』だ!
やれますね……『みくる』!」
「―――はい!!」
答えたみくるの目に―――『迷い』は、無い!
車は、開け放たれたままの門をくぐり、病院の敷地内へと滑り込む!
周囲に『破壊』された『SPW財団』のワゴンが、二台と、救急車が一台、止まっている……ワゴンの乗員たちは、おそらく、やられてしまったのか。
そして……正面玄関。ガラス製の両開きのドアは、無残に破壊されている―――その、向こうに―――『いる』!
フーゴは、その場でブレーキを踏み……
「みくる! さあ、僕を『やれ』! そして、『行く』んだっ!!」
「『メリー・ミィィ――――ッ』!!」
みくるは―――初めて。自らの意思で、『メリー・ミー』を操る―――
そこに、『躊躇』は――――無い。
「っうぐ……!! よし……行けぇ!!」
「はいっ!!」
みくるを振り返ることなく。車外へと飛び出し、フーゴは、走った。
『鎮魂曲』の鳴り響く、その場所へ向かって。
"―――チ・ヴェディアーモ(また会おう)。"
――――
――――
「ジョン、聞こえるかい。……君の『裁き』の時がやってくる音が」
小野は―――古泉の携帯電話をもてあそびながら、言う。
『音』。それは、キョンの耳にも聞こえている……そう遠くない場所から、こちらへと向かってくる、エンジンの音。
フーゴと、みくる……あの二人が。この地獄へやってくるのだ。
「……長かったよ、ジョン。そして、僕にとって、あまりにも過酷だった。
君という『悪』の存在は……。僕は、君を裁くために『スペクタクル』を、失ってしまった……
きっと。僕の、運命を『読む』ものとしての使命は。君を裁くことで、終わりを迎えるんだ。
そう思うと……すこし、さびしい。これから僕は、どうやって、人を幸せにしてやればいいのだろうかと、ね……」
まもなくして。急ブレーキをかける音が、破られた入り口の向こうから、キョンの鼓膜に飛び込んでくる。
『来た』―――運命の瞬間が。もうすぐ、やってくる。
「……安心しろよ」
「……何だ?」
キョンの呟きに―――外の様子を伺っていた小野が、こちらを見る。
その、内側に邪悪の詰め込まれた、聖人ヅラに向け……キョンは、言う。
「『安心しろ』と言ったんだ……お前の『スペクタクル』は……もうすぐ、還って来るぜ」
その言葉と同時に―――小野の表情が、変わる。
「『パープル・ヘイズゥゥゥ』!!」
小野が何かを言おうとした、その瞬間。その『声』が、ロビーに響き渡った。
――――
今。こいつは―――何と言った?
『スペクタクル』は、『還って来る』……小野の聴力に問題が無ければ、そう聞こえた―――
ただのハッタリか、気でも違ったのか―――
「『パープル・ヘイズゥゥゥ』!!」
! ―――入り口を目掛けて駆けてくる、『フーゴ』が叫ぶ―――
……何も問題はない。このまま、フーゴが入り口近くまでやってきたと同時に、『ヴードゥー・キングダム』を発動させる。
何人たりとも、それを阻むことは―――出来ない!!
ジャリ。
こちらへ駆けてくるフーゴが、ガラスの破片を踏む音がした―――距離は、十分だ!
「『ヴゥゥゥードゥゥゥゥ――――ッ・キングダム』ッ!!」
「『ゴッド・ロォォォォ――――ック』ッ!!」
時は、止まる―――あまりにも、容易く。
そして、『裁き』の七秒間が、今、始まる。
小野……『フーゴ』は。止まった時の中で、漆黒の『ゴッド・ロック』を背に座り込む、その男を見る―――
鎮魂曲は―――間も無く、終わる。
最終更新:2014年06月05日 01:29