―――不思議だ。
『小野』……『フーゴ』にとって。その『止まっ』た時は、あまりにも長く感じられた。
一秒。
『フーゴ』は、『パープル・ヘイズ』と共に。粉砕されたガラス戸をくぐり、院内へと侵入する。
二秒。
『裁き』の対象は……すぐそこに『居る』。
漆黒の『スタンド』と共に、壁に背を預けた少年。
全ては、この瞬間のために―――小野は、戦って来たのだ。
三秒。
『パープル・ヘイズ』のこぶしが。『ウィルス』が、この男に触れた瞬間。
小野は。小野大輔は、『勝者』となる。
ああ―――忘れてはいけない。もう一人―――『救わ』なければならないものが居た。
四秒。
『パープル・ヘイズ』は、『ジョン・スミス』の傍らに立ち、こぶしを振り上げる―――
……『涼宮ハルヒ』。
『スーパー・ノヴァ』によって生まれた、最大の『不幸』を。
彼女が『知る』前に。彼女を、救ってやらなければならない。
それが、小野の最後の使命だ。
五秒。
こぶしを、振り下ろす。
さようなら、『ジョン・スミス』―――
何だ、これは?
『パープル・ヘイズ』のこぶしは、確かに。ジョンの体を殴ったはずだ。
しかし……何故。『何も起きない』―――?
六秒。
何故だ。何故、何も起きないのだ―――『パープル・ヘイズ』のウィルスは。確かに、両手の甲に――――
「……何ィィ――――ィィッ!!?」
そこには―――ウィルスのカプセルなど、有りはしない。
それどころか。『こぶし』が……『手』が、無い!
『フーゴ』の手も、そうだ―――手首から先が、『切り落とされて』いる!!
何故―――これでは、まるで。
始めから、小野が。フーゴを支配し、ジョンを裁こうとしていたことが、分かっていたかのようではないか―――!?
時が―――動き出す!
その、瞬間!
「『イマ』ダァァァァァ!! 『No.2』、『No.5』ゥゥゥ!! 『ミクル』ニ伝エロォォォォォ!!」
―――この、声は―――小野は、ガラス戸の向こうを振り返る。
そこに、浮かんでいる―――白い亡霊の如き、小さな『像』―――!!
それは……『セックス・ピストルズ』―――!!?
「ディ・モールト・ベネ……『No.1』!」
『フーゴ』が呟く―――それと、同時に。
小野の目の前―――『ジョン』の傍らに! 一瞬の内に―――その『二人』が現れた。
『メリミー』……瞬間移動のスタンドを操る、『朝比奈みくる』―――そして、『東方仗助』!!
何が……起きているのだ?
小野は―――狼狽している。無様にも。
落ち着け―――『何』が起きていようと! 『ヴードゥー・キングダム』の前には、何ものも―――
時を、止めれば―――誰かを! この場に居る誰かを、支配すれば!
「時が―――『止まらない』……、だとっ!?」
「読みどおりだぜ……『時止め』ならよォ。『ブランク』があるよなァ……」
そう言ったのは―――『仗助』!
そして、その背後に……『クレイジー・ダイヤモンド』が、立っている―――そして、その、拳を!
『ジョン』に―――『ゴッド・ロック』に向けて、振りかぶっている!
「たとえ、それが数秒だろうと……『クレイジー・ダイヤモンド』が、『治す』のには―――十分すぎる時間だぜ!!!」
止まれ! 早く―――まだなのか!? ブランクは、どれだけあるんだ……
『時』が動き始めてから、何秒経った!? もう十秒は経った―――いや、まだ二秒も経っていないのか!?
「―――ドラァーッ!!」
小野の、目の前で。
『クレイジー・ダイヤモンド』の拳が―――『ゴッド・ロック』に触れる。
その―――数十分前。『世界』によって破壊された、血まみれの『左手』に!!
「……テメーの『レクイエム』は、『未完成』だと……気づいたのはよ……
テメーが、おれの『ピストルズ』が散開していることに、まったく気付いていねーらしい事というに、気付いたときだ」
「!」
不意に。背後から聞こえた声に、小野は振り返る―――
……『ミスタ』だ。気を失っていたはずのミスタが、体を起し……こちらを、見ている。
時よ……何故、止まらない? もう、十分に時間は経ったはずなのに―――!!
「そして……『オノ』。テメーは、やはり気付いていなかったようだな……『矢』に隠された『力』……『レクイエム』には」
「なっ……何だ、と……?」
腹部を押さえながら……ミスタが、ゆっくりと立ち上がる。……その体の周囲を浮遊する、一体の『ピストルズ』……『No.7』。
時は―――止まらない! 何故……何故!? 『ヴードゥー・キングダム』! 何故……発動しない!?
「『レクイエム』……『矢』と『スタンド』が『同化』したとき、そいつは『発生』する。
……まだ、おれにもいまいち、詳しいことは理解できてねーが……
『レクイエム』となった『スタンド』は、全ての『魂』を支配する『力』を持つ、『先』へと到達した存在になる。
だが……テメーの『ヴードゥー・キングダム』は、『其処』に到達してはいなかった。それが、テメー所為なのか……
それとも、キョンの『矢スタンド』の所為かしらねーが。テメーの『レクイエム』には、『自意識』がねえ……
テメーに『レクイエム』を完成させることはできなかったようだな……おれの『ピストルズ』がふらついているのにも、気付かないくらいだしよ」
「な……何だ、それは……何を、言って……『ヴードゥー・キングダム』!! 時を……時を『止め』ろォォォォ!!」
「そいつはもう、『無理』ってもんだぜ……何故ならよぉ。
こいつの『左手』は……おれの『クレイジー・ダイヤモンド』の能力で、もう『治り』はじめちまったからな」
次に口を開いたのは、『仗助』……『こいつ』と指差す先には、『ゴッド・ロック』の姿……
『ゴッド・ロック』の左手が、『治る』……それが、何と関係しているというのだ―――
「『レクイエム』は『進化』じゃあねえ。そいつは、必ず『解除』される……
取り込んだ『矢』と、分離した時に……だったっけか? なぁ……『ピストルズ』よ?」
そう言った仗助の傍らに……浮遊する、白い影―――!
「『セックス・ピストルズ―――No.5』!!
感謝するぜ……オメーがNo.7を通じて、おれにミスタの『作戦』を教えてくれなけりゃ。
おれはとても、この瞬間まで『プッツン』せずにはいられなかっただろうからよ……」
―――そして、もう一体―――『ピストルズ』が『ジョン』の肩口からも、顔を出す!
まさか―――! 小野は、『理解』する―――『セックス・ピストルズ』を介して!
こいつらは―――小野が、『裁き』を進めている間に、『計画』を練っていたのだ!
『ヴードゥー・キングダム』を―――『解除』する『計画』を!!
「……取り込んだ、『矢』―――まさか……!! その『矢』とは――――っ!!」
その、瞬間―――全身が、吸い寄せられるような感覚が、小野を……『ヴードゥー・キングダム』を、襲う。
『キングダム』が……吸い寄せられてゆく!! ―――"『ゴッド・ロック』の『左手』"に!!
「『クレイジー・ダイヤモンド』は、こいつの『左手』を、『治す』!! 『ツルツル』で『ピカピカ』の状態までな……
そして、欠けちまったパーツは『引き寄せ』る……『流れ出した血液』も、その例外じゃあねえぜ!」
そんな――――馬鹿な!!
「う……うああああああっ!!! ……『ヴードゥー・キングダム』が……っ!!
『力』が……『吸い取られ』てゆく――――ッ!!!」
見る見るうちに。『キングダム』の、赤い肉体が、綻び、『ゴッド・ロック』へと吸い寄せられ、失われてゆく。
『キングダム』。―――いや、違う!
"『スペクタクル・レクイエム』だったもの"が―――『消滅』してゆくッ!
「この為に……貴様らは、この為に―――!!
『クレイジー・ダイヤモンド』で、『ヴードゥー・キングダム』の『ブランク』を突くために―――!!
『フーゴ』と『朝比奈』の到着を、待っていたというのかあああああっ!!」
「『Appunto(そのとおりだぜ)』……はじめは、マジでだめだと思ったぜ……
うっかりとはいえ、『スズミヤ』の元に『ピストルズ』を『2人』置いてきちまったことに気づいたとき……
だが……『それ』が良かった! あいつらをフーゴたちの近くに残してきたおかげで、おれはフーゴたちに『作戦』を伝えることができた……
この『作戦』は……頭の悪ィ――おれが考え出した『作戦』は。
『ジョースケ』の『治す』力! 『ミクル』の『ワープ』の力!
テメーにキョンへの『とどめ』を空振らせ、『隙』を作るための『フーゴ』がいてくれなければ!
そして、そいつらにおれが―――『ピストルズ』たちで『作戦』を伝えられなければ、出来なかった!
『4人』の力がなければ、決して出来なかった―――おれはどうやら、『4』の不運を乗り越えたようだぜ―――!!」
――――――小野は! 『踊らされ』ていたというのか―――こいつらの『シナリオ』の上で!!
"―――オ前ハ―――『先』ヘユク『器』デハナカッタ―――"
「っ――――!!?」
不意に。小野の頭の中に伝わってくる―――声。
この声は―――『誰』の声だ!?
"―――オ前ハ、真ノ『支配』ヘトハ、辿リツケナカッタ―――『矢』ノ『意思』ハ。二度ト、オ前を『支配』ノ道ヘト導ク事ハナイ―――"
これは―――小野の『魂』へと語りかけてくる、この声は―――!!
「う……うわぁああああああっ!!!!」
――――
「『吸い取ら』れるなんて、人聞きの悪いことを言ってんじゃねえ……
おれは、テメーに間違って『貸し』ちまったものを、『返して』もらっただけだ……」
……床に膝を着いた小野に。左手の『治療』を終えたキョンが、言葉を投げかける。
小野の『キングダム』は―――『支配』の力は。
完全に。―――"消滅"した。
「……もう、終わりですよ。観念してください……これ以上は、『無駄』です。無駄なものは嫌いなんですよ……」
追い討ちをかけるように。手首を失ったフーゴが、苦痛に顔面を歪めながら、小野に語りかける……
「……『何故』だ……全ての『魂』の、『読み手』であった、僕が……
『何故』……『魂』の『支配』へと、辿り付けなかったんだ……!」
『レクイエム』……『魂』の『支配』。
小野は、猛る。
何故……『スペクタクル』には、『レクイエム』の存在などは、記されていなかった―――
『スペクタクル』は―――『全て』を『読む』事は、出来なかったというのか―――
―――『スペクタクル』―――。
「――――『スペクタクル』……!!」
そうだ―――『キングダム』は、『スペクタクル』が『進化』したスタンドでは、無かった!
――――『レクイエム』が、解除された―――ならば!! 『スペクタクル』は―――小野の元へ、『還って来る』――!!
どさり。
「なっ……!?」
まさに。小野が、『それ』に……最後の『希望』の可能性にたどり着いた、瞬間だった。
『スペクタクル』は……『ヴードゥー・キングダム』の立っていた、その場所に。
『小野の背後』に―――『還って来た』!!
「―――うおおおおっ!!!」
『それ』に気付き、声を上げる『キョン』……しかし。キョンの体は、まだ『治り』きったわけではない。
小野は、背後を振り返る―――手を伸ばせば、届く場所に! 『スペクタクル』は、在る!!
「そいつに、『それ』を拾わせるなあぁぁぁぁっ!!」
「何ィぃッ!?」
『仗助』だ。仗助が、キョンの声に反応し、小野の行動に気付いた!
しかし、いくら『クレイジー・ダイヤモンド』のスピードが速いとしても! 小野が、目の前の『本』を拾い、『ページ』を破りとるだけの時間は―――ある!
そして、新たな『スタンド』を、『蘇らせ』る―――まだ! 小野に『希望』は残っている―――!!
『運命』は!! まだ、小野を『見捨て』ては、いない!!
「テメェェェェ!! 何してやがんだァァァ―――!!」
背後から襲い掛かる、仗助の声! 小野の心臓が、跳ね上がる!
手を伸ばし、『スペクタクル』―――その『本』の表紙に、小野の手が―――『触れた』――――!!
――――
――――
……『本』は……どこだ?
「…………ここは……ッ?」
――――小野は。周囲を見回し、呟く。
……病院のロビー。小野は……そう。この場所で……『スペクタクル』を拾おうと……
……そう。表紙に触れたのだ!! 小野は……『スペクタクル』に、たどり着いた!
しかし……何故。『本』が無い……『スペクタクル』は、どこに行った!?
「……ちょっと、待て……なんだ、此処は?」
四つんばいになった体制から、体を起し。初めて、小野はその事実に気付く。
小野の居る空間……先ほどまで、『ジョン』たちと戦っていたロビー。
しかし―――そう。今、小野の居るロビーには。何の『破壊』の痕跡も無いのだ。
『ヴードゥー・キングダム』を慣らした際に、薙ぎ払った待合椅子や、観葉植物……粉砕された玄関のガラス戸までもが。
それらの全てが、まったくの元通りに『治って』いるのだ。
「……何だ、これは……『クレイジー・ダイヤモンド』が治したのか?
! ……そうだ、ヤツらは……何処だ……?」
……ロビーには。小野以外に、人影は見当たらない。
……おかしい。少しづつ。小野は、自分が置かれている状況が、『ありえない』状況であることに気付き始める。
「……な、何があったんだ……僕は、本に届いて……そうだ! 『本』、『本』は何処に行った……」
―――その、『声』は。小野の背後から、静かに……空間にしみこむように、聞こえてきた。
「本、本、五月蝿い奴だな……少しは落ち着けよ、見っとも無い」
「っ!?」
無人と思われた、その空間に、その男は、居た。
男は……待合席の隅に腰をかけている。……この位置からでは、陰になっていて、顔を見ることが出来ない。
「だ、誰だ……いつから其処に?」
「三十分ぐらい前から、ずっといたよ。……病室に居たら、いきなり『下』が五月蝿くなったもんでね。
こりゃ、もしかしたら、お前が最期に、『ここ』に来るんじゃないかと思って、待ってたんだよ……僕の予想どおりだったな」
こちらを振り返りながら……男は言う。
……その声に。小野は、聞き覚えがある―――そうだ。こいつは……!
「お前は……『岸辺露伴』ッ……!?」
……『露伴』は。動揺する小野を、つまらなそうに一瞥し……ため息をついた。
「何故、お前が……いや……待て。『ここ』は……何処だ!?
僕のいた『ロビー』じゃない……! 」
「……『夢』の中だよ。自分で作らせておいて、忘れちまうとは、随分無責任だな」
「夢……?」
夢の中―――その、短いフレーズが。小野の記憶から、『それ』を引き起こした。
……小野が『矢』で刺した……『七年間目覚めずにいる少女』の存在を―――!
「『ラ・ドゥ・ダ・ディ』……まさか、ここは! あの少女の『夢』の中……!?
馬鹿な! どうして……僕が夢の中なんかに居るんだ!?
僕は……そうだ、『本』だ! 『本』に手が届いて……それで、何故、いきなり……『夢の中』に居るっていうんだ!?」
「……イカレた奴ってのは、どいつもこいつも、『死に際』を都合よく忘れちまうもんなのか?
似たような『最期のシーン』を、二度……なんて、とても僕のネタにはできないな」
不意に。露伴が口を開く。……小野は、その言葉の意味を、理解することが出来ない。
「何だって? ……死に際と、今……言ったか? ……い、いや、それより……『本』は……」
「ちっ……さっきから、本、本と五月蝿い奴だな!
さっきから後生、大事そうに握り締めてる、その右手のものは何だ!?」
「え……」
……その言葉で。小野は、初めて気付く。
自分の右手の中に、握り締められている……折りたたまれた、『紙』の存在に。
これは―――!
「ぺ……『ページ』だと……っ!?
『スペクタクル』の『ページ』……僕は……もう、『本』を『拾い終わって』いる……ッ!?」
そうだ。小野の記憶に―――閉ざされていた、その『先』が、思い起こされてゆく……!!
「僕は……『運命』は、もう一度僕に『本』……を掴ませてくれた!!
しかし、時間が無かった……選んでいる時間はなかった……『仗助』が、来ていた!」
「ハァ? 仗助? なんであのクソッタレの名前が出てくるんだ?」
そう。小野は―――『賭け』たのだ。『運命』に任せて……最初に掴んだ『ページ』を、破りとった―――そして、どうなったんだ!?
「……『そいつ』を見てみれば、分かるんじゃないか? 『運命』とやらが……お前を、どう導いたのかが」
露伴が指で示しているのは……小野の右手の中の、『ページ』……
「『運命』が……僕に、つかませたのは……何……だ……った……!?」
……手が。震えている。全身から、脂汗が染み出す……
右手の中で、握りつぶされた『ページ』を。ゆっくりと……開く。
……目の前が滲んで、よく見えない……汗が、目に入っているのか!?
「あ……ぐ…………見えな……」
ページに顔を近づける……何故! どうして『読めない』!?
何故……『目の前』に、『何もない』んだ―――!?
「――――……う……ああああああああっ―――――!!!
……『思い出した』!! これは……『運命』が、僕につかませた『スタンド』はあああァァ!!」
破れ! 今すぐ―――この『スタンド』は!! すぐに『破り捨て』なければ―――!!
しかし―――何故! 『破れない』……『手』の中に、『ページ』が無い!!
ちがう――――『手』が、無いイィィィ!!?
「これはァァァッ!! 『パンナコッタ・フーゴ』の手……『右腕』はっ!? ……あああああっ!!
『食われている』……!! 『脇腹』もだッ!! これは、『古泉』の傷……!!」
熱い液体が、体から流れ出しているのが、感覚のみでわかる。
何故、前が見えない……『立てない』!! いつのまにか、小野は『倒れて』いる―――!!
「ぐああああっ!! これは、目……『榎本』だ! 榎本の目が……傷が……ぼ…くに……『移って』いる……!!
立てない……足……は……『森』の足……がっ…………『腹』……なん、だ……この、はらにっ……『穴』…………だとっ!?
あぐ……が……これ……は……『橘』の……『スタンド』…………!!?」
「……ひっでぇな、こりゃあ。せっかくの機会だから、最期に、お前を『取材』させてもらおうと思って待っていたが……
さすがに、こんな状態の人間を『読む』気にはならないな……まったく、とんだ無駄骨だ」
―――露伴は、数多の傷を、その身体に『移し』―――轢殺死体の如き姿となった『小野』を見下ろし、ため息をつく。
「『本』が……何故、僕に……このような、運……命を……!?
何故……僕……は……『本』はっ……」
「チッ…………『本、本』と、うるさいと言ってんだろォーが!!
そんなに『本』が好きなら―――お前が『本』になれ!!」
露伴の言葉と共に―――その体から、白い『像』が浮かび上がる。
もっとも、その姿は。もはや、『小野』には見えないのだろうが―――
"「『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』!!」"
『像』が、小野の体に触れる―――その瞬間から。
『小野』は、『本』となる。人の姿を失った肉体から――-血の流れない、情報と、意識だけの存在へと。
「……僕は…………僕が……『悪』……だったの……か……?」
……『本』となった小野の口が。―――少しづつ、『透明』へと変わりつつある、その男が―――最期に、呟く。
「そんなもん、僕は知らないな。…………お前が『どっち』に行くかで分かるんじゃないか?」
露伴は、小野を見ない。消えてゆく……『現実』でなくなってゆくものに、露伴は、興味を抱かない。
「お前の末路なんかに、興味はない―――勝手に『逝く』んだな……『小野大輔』」
露伴は、再び、待合席の隅に腰をかけ―――目を閉じる。
そして、いずれ訪れるであろう、『目覚め』の時を。一人、待つことにした。
――――
「ん……」
……長い。長い、夢を見ていた気がする。
目を開けたハルヒの視界に入ってきたのは―――天井。
……何故、自分は――いつから、何処で眠っていたのだろうか。
「ここは……?」
「私の部屋」
……誰にとも無く呟いた、ハルヒの声に。反応を返す、冷たく、仄かな声が在る。
身体を横たえたまま、ハルヒは、首だけを動かし、その声の聞こえた方向を見る……
「……有希? あれ―――なんで、あたし……たしか、『不思議探索』をしてたはずなのに……」
ハルヒの傍らに―――長門有希が居た。
……そうだ、たしか、ハルヒは―――『不思議探索』で、みくると共に、西宮のデパートに出向き……
…………その先が。どうしても、思い出せない……たった一つだけ、覚えているのは。
洋服を見ていたハルヒの視界が、突然、暗闇に包まれたことだけ……
それが、何故。いつの間に―――どういったいきさつで、長門の部屋に居るのだろうか―――妙に頭が痛む。この不思議な意識の揺らぎは、何だろう?
「……明日は、日曜日」
長門が、呟く。ハルヒは、何かを口走ろうとする……しかし。重たい瞼に邪魔をされ……それを口にすることが出来ない。
「今日の分は……明日、もう一度。不思議探索をすれば良い……だから、今日は、眠るべき」
そう言った、長門の表情が―――
……少しだけ。微笑を浮かべているように見えたのは、ハルヒの気のせいだろうか。
「そうね……あした……いつもの場所に、だからね……遅れちゃだめよ……有希、みんなも……
そうだ……キョンのやつ、明日こそは……ちゃんと、来るかな……ねえ、有希?」
「来る」
長門は、そう呟くと同時に。視線を、ハルヒから、カーテンの無いベランダの方へと向けた。
ハルヒもそれにつられ、眠たい瞳を動かし、窓の向こうを見る。
夕暮れだ。今は―――何時ごろなのだろうか?
「私たちは、あなたの傍にいる。これからも、ずっと」
「そう……よね……」
窓の外に広がる、茜色に染まる、光陽園の空を見つめながら。
やがて、ハルヒの意識は―――再び、暖かい眠りの渦の中へと、溶け込んでいった。
本体名 - 小野大輔
スタンド名 - ジャスト・ア・スペクタクル(ヴードゥー・キングダム) 死亡
―――――――――――――――――――――――――
スタンド名 - 「ヴードゥー・キングダム(スペクタクル・レクイエム)」
本体 - 小野大輔(29歳)
破壊力 - C スピード - A 射程距離 - C
持続力 - C 精密動作性 - D 成長性 - -
能力 - ジャスト・ア・スペクタクルが
ゴッド・ロックの血液を取り込んだ事で変化したスタンド。
他者のスタンドを支配する能力を持ち、未完成ではあるものの
「レクイエム」に分類される。
発生初期は、真紅に染まったスペクタクルの姿をしていたが
発生から数分で、世界(ザ・ワールド)と
ゴッド・ロックを掛け合わせたような像を得た。
世界(ザ・ワールド)同様に、時を止める能力。
また、止まった時の中で、本体の至近距離に在るスタンドと
その媒体となる人間を支配し、自由に操る。
止めた時の中では、本体とそのスタンド自身が行動することは出来ず
必ず、他のスタンド使いの精神に乗り移らなければいけない。
他のレクイエムと異なる点として、このスタンド自身に自意識は無く
あくまで本体の意思の元でなければ、他者のスタンドを支配することはできない。
時止めの持続時間は、人型の像を得た時点で、6秒~7秒。
このスタンド自体の自体の身体能力は決して高くない。
―――――――――――――――――――――――――
最終更新:2014年06月05日 01:30