「上等、よッッ!! 」
フリアグネの悪意の叫びを開戦の合図だと解したシャナの右手が黒衣の内側に伸びる。
戦慄の美を流す大太刀、贄殿遮那を抜き放つ為に。
その刹那、
ズズズゥゥゥンッッッ!!!!
激しい爆裂音が真下から屋上全体に向かって鳴り響いた。
ついで巨大な何かが障害物に激突して爆砕したような重低音が轟き
破壊の余波が足元から伝わり靴の裏が揺れる。
(!)
シャナは反射的に自分の足下を見つめた。
その原因が誰なのかは考える間でもなかった。
”アイツ ”だ。
「あ……」
口元から思わず漏れた怒りや憎しみとは対極の感情が篭もった声。
アイツもいま、戦っている。
自分と同じように。
同じ場所で同じ相手と。
『自分と一緒に戦っている』
ただそれだけの当たり前の事実に、心で渦巻く幾重にも渡り複雑に絡み合った
負の感情にも勝るいとおしさを抱いたシャナは、一瞬安堵の表情を浮かべ、
口元にも笑みが刻まれる。
しかしそのシャナの様子を老獪に見据えていたフリアグネは、
すぐさまに冷徹な言葉を少女に向けて浴びせた。
シャナに味方するものは例え音ですら許さないとでもいうような、
DIOから譲り受けたドス黒い精神の残虐さで。
「おやおや? 下では随分派手にやっているようだな?
どうやら私は居る場所を間違えたようだ。早々にこのくだらないフレイムヘイズの小娘を
片づけてマリアンヌを迎えに行ってやらねばね……」
フリアグネはそこで言葉を句切り、さらに周到にも一拍置いて、
その表情を何よりも兇悪に変貌させてシャナに言い放つ。
精神的に限界に近い今の少女には何よりも残酷な言葉を。
「”白い巨星を鮮血の落日に染め上げる為に”あの方もお歓びになられる」
そう言ってフリアグネは心底愉しそうにクスクスと嗤った。
狂った光の宿るパールグレー流し目でシャナの一番純粋な部分を陵辱するかのように。
「!!!! 」
その言葉が終わるよりも速く、シャナの中で理性の箍が数十本まとめて弾け飛ぶ。
精神の最後の主柱が音を立てて崩れ落ちた影響で、
シャナの心の中で渦巻いていた様々な負の感情と同時に
それとは別に湧き上がっていた対極の感情とが混ざり合い、
正と負が煮え滾り心の局が無明の渾沌と化す。
「!!?? 」
その瞬間(とき)。
シャナの中でナニカが弾けた。
シャナ自身ですら自覚の無い、しかし少女の中で静かにその覚醒の刻を
待ち侘びながら胎動していた決定的なナニカが。
脳裏の中、その頭蓋の深奥で一瞬の閃光の後、
紅い光暈(こううん)が網膜全てを見たし、そして己が全存在を輝きながらも包み込む。
その刹那、シャナの灼眼に変異が起こった。
深紅の双眸に宿るいつもの燃え上がるように鮮烈な色彩は完全に消え去り、
代わりに熔解した灼紅の鋼を瞬時に凝結したかのような
超高密度な色彩へと変容する。
虹彩に宿る紅蓮の光はいまは完全に消え去り、
否、変異した瞳の発する引力によって光は全て外部には脱出出来ずに
吸い込まれ一片の光の存在すらも赦さない無限の虚空へと変貌した。
”トランス(逸脱)状態 ”
今のシャナの姿を言葉で現すのならその一言に尽きた。
その己の変貌に、張本人であるシャナだけが気づいていない。
しかしそれは当然と言えた。
”シャナ自身すら知ることの無い力だったのだから ”
今だ嘗て無いほどの激しい正と負の感情にその心身を灼かれ、
その他色々な要素が複雑に絡まり合って半ば偶発的に目覚めた能力なのだから。
「……………!!」
シャナの未だかつて見たことの無い変貌振りに、誰よりも少女を良く知る
アラストールまでもが驚愕の余り言葉を失う。
シャナ自身が知り得ない力の本質を一心同体であるアラストールも
また知りようがない。
突如訪れた特異点とでもいうべき、無常の不確定要素により
戦局は誰の予測も付かない事態へと陥った。
”ヤ・キ・ツ・ク・ス!!! ”
シャナは純粋に、ただソレだけを想った。
通常の彼女の灼眼を使命と闘志とに燃ゆる修羅の瞳と譬えるならば、
今のシャナの灼眼は破壊と滅亡とを司る羅刹の瞳。
(楽には……滅さない……! おまえの犯したその罪……!
私が灼熱の劫火で断罪するッッ!! )
何よりも強く心に誓い硬質な色彩を浮かべる無明の色彩を宿した
その真・灼眼でシャナはフリアグネを真正面から貫く。
(”アイツ ”には指一本触れさせないッッ!! おまえなんかに絶対にッッ!! )
無明の双眸と化したシャナの全身から発せられる、その存在自体が
圧搾されるような凄まじいプレッシャーにフリアグネは寒気を覚えながらも
「ほう? なかなからしい表情になったじゃないか?
少しは楽しめそう、かな? 」
そう言って聞こえるか聞こえないか解らないほどの薄い口笛を
奏でると純白の長衣を清廉に翻した。
(チッ……少し煽り過ぎたか……憤怒が回帰し過ぎて意識の円環を突き破り
ソレが精神の未知の部分を覚醒させて少し「冷めた」ようだ。
”あの方 ”から聞かされていた性格とは大分違うな。
こんなに激情家だとは想わなかった。
フッ……でもまぁ良い。予定と少々違っても『やる事は変わらない』
少しくらい力が上がろうと『私はフレイムヘイズ相手なら絶対に負けない』
そうだろう ?マリアンヌ? )
心の中でそう最愛の燐子の恋人にフリアグネは問いかけ、その口唇に
耽美的な微笑を浮かべると、いきなりその視線を矢を番えた弓の弦のように
キリリッと引き締め、左手で長衣を真一文字に大きく翻した。
純白の長衣が滑らかに空間を半円状に撫でるのと同時に、
シャナを取り巻いて数十もの薄白い炎が、広い屋上に次々と湧き上がった。
どうやら純白の長衣には召喚、或いは空間転移の自在法が編み込まれていたらしい。
その白い炎の内から武装した等身大のフィギュア達が姿を現す。
どれもシャナの2頭身以上の長身で全て少女型。ペット樹脂の上にクロームでメッキされた滑らかな身体のラインに、
目立たない形で関節が仕込まれている。
着ている服装は古今東西種々折々で、ストリート・ファッションからセーラー服、
アーミールック、ゴスロリ、デカダン調のドレス。更にブランド物のスーツ姿や
無意味に露出多い武闘着、更に浴衣や晴れ着など主の倒錯したセンスを象徴したかのような混沌振りだった。
それら、まさしく頽廃の趣味の産物が、可愛らしく描かれた笑顔のまま、
スチール製の関節を軋ませながらシャナに詰め寄ってくる。
「フッ……!」
己の自在法が正確に起動した事を確認すると、フリアグネは軽やかに背後へと
大きく跳躍し長衣を翻しながら屋上奧に設置された
固定梯子付きの給水塔の上へと着地した。
「クククククククク…………どうだい?ご期待に添えたかな? お嬢さん? 」
得意げなフリアグネの声が、その武装フィギュア達の包囲の向こう側、
そして頭上からシャナにかかる。
「良い趣味してるわ……!虫酸が走るくらいにね……! 」
吐き捨てるシャナにフリアグネは
「つれない感想だねぇ。せっかく記念すべき今日という日に備えて、
手によりをかけたというのに」
そう言って給水塔の縁に右足をダラリと下げ左膝を両腕で抱えて座り込み、
纏った純白の長衣の裾を頭上の封絶から発せられる白い気流に靡かせる。
「まぁ、良い。開戦の宣告にしては少々物足りないが、さぁッ!! 始めようかッッ!! 」
フリアグネは再びDIOが乗り移ったかのようなサディスティックな微笑を
口元に浮かべると、今度は長衣の裾を鋭く斜めに翻した。
その合図と同時に武装フィギュア達の盲目の瞳が白く発光し、
サーベルやレイピア、スティールウィップやライトスピア、
ジャベリン、クロスボーガン等の女性でも扱える軽量の、
しかし殺傷能力は充分の武器を携えたフィギュア達が、
シャナへの包囲網を徐々に狭めていく。
表面をクロームで覆われたフィギュアの群は、開かない口から
それぞれ同じ機械合成音のような無機質な言葉を
全く同調のトーンで口走りながらシャナに詰め寄ってきた。
「行かせない……」
「ご主人様を……」
「キズつけるものは……」
「誰一人……」
「どこにも……」
「ここから……」
「行かせない……」
「フレイム……」
「ヘイズ……」
「炎髪……」
「灼眼……」
「討滅の……」
「討滅の……道具……」
金属の関節の軋む耳障りな音がシャナの苛立った神経を更にささくれ立たせ、
その苛立ちが更に己の使命感と破壊欲とを激しく燃え上がらせる。
ようやく訪れた、約束の時。
フレイムヘイズの崇高なる使命を果たす事に胸が高揚した。
同時に目の前に存在する全てを粉々に破壊してしまいたかった。
そう、なにもかも。
恐らくは自分自身すらも。
そんな矛盾した心象を心の中で併せ持ちながらも戸惑いは微塵も感じなかった。
頭の中は限りなく透明に澄み切っていた。
心の中では草原を翔る清廉の涼風と廃墟で吹き荒れる破滅の乱風とが
同時に混在している。
「世界の果て」
今のシャナの心象の在り様を一言で言えばその表現こそが適当だった。
シャナは顔を俯かせたたまま、歯を食いしばらせそして黒い熱の籠もった声で呟く。
「冗談……じゃないわ……!どこにも……行かない……ッッ!!」
そう良いながらその細く可憐な手の先を黒衣の内側に入れる。
再び出てきた掌には件の妖刀、贄殿遮那ではなく
煌々と光る存在の灯火、”トーチ ”の塊が乗せられていた
決してフリアグネの挑発に乗ったわけではない。
ただ今の自分には炎が必要だった。
自分の心象の有り様を余す事なく顕現させる事の出来る紅蓮の炎が。
「例え一匹でも……この私が……おまえ達を放って……素通りすると思う……!?」
言葉の終わりと同時に掌のトーチが激しく渦巻く紅蓮の炎へと変貌する。
炎は自在法の練度が鈍っている為、制御を離れて気流に靡き、シャナの黒衣の
肩口をチリチリと焦がす。
シャナはそんな事など意に介さず黙ってこれから発動させるべき炎の自在法を
精神の中で編み上げ始める。
確かに自在法の練度は鈍っていた。
しかし『そんな事はどうでも良かった』
先程から自分の内部から絶え間なく沸き上がる、
得体の知れない黒い力。
心の深奥から滲み出て、神経を介して全細胞を駆け巡りやがて
雨露のように冷たく全身へと染み渡る。
その冷たく硬質で、しかし何よりも危険で甘やかなカオスの感覚が
シャナの心の中の弱みを一切残さず全て吹き飛ばした。
同時に上がる凛々しく猛々しい鬨の声。
「虱っ潰しよッ!! どけなんていわないッ!!
おまえ達を一匹残らず焼き尽くしてッ!!
私はアイツを討滅するッッ!! 」
シャナのその勇ましき喊声と同時に20を超える武装フィギュアが
一斉にシャナへと襲い掛かり、
更に十体以上が空中に飛び上がり頭上から襲い掛かってきた。
「せりゃああああああああッッ!! 」
シャナはまず跳躍のエネルギーを使い切り自由落下へと陥った武装フィギュアに
右の掌から無数の火炎の連弾を撃ち放った。
己の内で炎の弾丸を瞬時に量産し次々に射出するシャナの身体は
まるで戦闘機に搭載された機銃ように微細な振動を繰り返す。
射撃の精密性は無きに等しいが暴風のような炎弾の狂瀾に、
重力に縛られた空中での自由が利かないフィギュア達はまさに炎の篭に囚われた
雛鳥も同然だった。
鉄製の刺付いた鉄球を持ったブレザー、セラミックのメスを構えたナース服、
カスタムされたスタンガンを持ったゴスロリ等が手と顔面、ついでに胸と武器を撃ち抜かれ瞬く間にグロテスクなジャンクへと変わる。
「うりゃあああああああああッッ!!」
すぐさまにシャナは視線を前に移すと交差した左の掌で同じように炎弾の嵐を一斉放射し、チャイナ服やランジェリー姿等の殺戮兵器(キリング・マシーン)の群れを
蜂の巣にして爆散させる。
まるで炎髪の撒く深紅の火の粉の向こうに無数の機銃と副砲、
そして爆弾を搭載した重戦闘機のシルエットが視えるかのような
壮絶な姿だった。
武装フィギュアの斬り込み部隊を遍く炎弾の乱舞で即座に壊滅させたシャナは、
その虚空の視線で解れた包囲の空洞の横で二の足を踏む後方支援部隊、
そしてその奧で、給水塔の上で片膝を抱えて優雅に座っているフリアグネを鋭く貫く。
(おまえ?さっき言ったわよね? ”私の焔儀が見たい ”と)
硬質な無明の色彩と化した瞳が重く光る。
(みたい、の……?)
シャナは仇敵に言い聞かせるように心の中で小さく呟く。
「そんなに見たけりゃ魅せてあげるわッッ!! 」
そして激高したシャナは手の中のトーチを全て紅蓮の炎に換えた。
(おまえは一つ、大きな勘違いをしている……
私は炎の「自在法」が苦手なわけじゃない……)
やがて右手に宿った炎が火勢を弱め、その減った分の炎が左手へと移る。
(贄殿遮那で斬り倒した方が手っ取り早いから使わないだけよッッ!!)
開いた両手で炎を両脇の位置に抱えた少女は、心の中でフリアグネに
向けて叫んだ。
「はあああああああああああぁぁぁぁぁ!!」
猛りと共にシャナの両脇に広げられた手に二つの炎が
一切の過程を省いて瞬時に変容する。
右手に波濤が渦巻く業火の炎。
左手に静謐に揺らめく浄化の炎。
シャナはその二つの炎の塊が宿った掌を、固定されたリズムと軌道で
何度も何度も目の前の空間で撃ち合わせる。
静と動の火花が何度も何度もシャナの眼前で弾けて交錯した。
そして混ざり合った属性の違う炎はシャナの目の前で深紅の炎の球となり
宝玉のような神聖さで煌めきながら宙に浮く。
(恐悦の歓喜に咽び啼けッ!! おまえがッ!!
フレイムヘイズ炎髪灼眼最大最強炎術最初の討滅者だッッ!! )
渦巻く紅蓮の炎が心の内で顕現したかのような魂の慟哭。
シャナの誓い。
紅く輝く炎の球は、砕けた白刃のように凶暴な火走りの余波で
空間を切り刻みながら自身は静かに発動の刻(とき)を待つ。
(思い知らせてやる……!)
シャナの両手に宿った二つの炎は、その密度を薄めつつも
尚も激しく互いに炎の球に撃ち付けられ、その身を軋ませながら融合し膨張していく。
(フレイムヘイズをナメるとどうなるかッッ!!
私をナメるとどうなるかッッ!!それにッッ!)
シャナの脳裏に一人の人間の姿が浮かんだ。
揺るぎない己への信念と強靭なる意志によって磨かれた
水晶の瞳の輝きをその身宿す清廉なる正義の断罪者。
(モタモタなんかしてられないッッ!)
二日前に少女の心の中に宿ったまだ小さい、しかし他の何よりも
強い輝きを放つその存在の篝火が、少女を、シャナを、
己の黒い炎に呑み込まれるのをギリギリで踏みとどまらせていた。
「”アイツ”がッ!! 「下」でッ!! 待ってるのよッッ!! 」
己の決意をシャナが叫ぶと同時に、右と左、属性の違う炎が互いに混ざり合い
極限まで引き絞られた炎の球は眼前で生き物のように蠢き、そして胎動する。
まるで弾けるその時を待ちかねているかのように。
シャナは炎撃術発動の構えを緩やかな動きで執りながら、
巨大鋼鉄球を番えた大弩弓の弦のように尖烈な無明の瞳で
前方を射抜いた。
炎弾を警戒して寄ってこれないフィギュア達ではなくその奧にいる主、
殺戮の狩人、フリアグネを。
「くらええええぇぇぇぇぇぇッッ!!」
勇ましき掛け声と同時にシャナは両腕を撚りながら目の前で
素早く交差し、直角に折り曲げられた左肘に顔を埋めるようにして視線は
やや標的(フリアグネ)から降ろす。
そして交差されたシャナの腕の指先には、いつの間にか
仏教徒が結ぶ印のような不可思議な形が結ばれていた。
その動作に呼応するように今は無明の煌熱をその身に宿す、
カーディナルレッドの灼眼が初めてキラメキながら何よりも強く輝いた。
その輝きに同調(シンクロ)するかのように、
炎気を極限まで超圧縮して凝縮された高密度の真紅の球は、
周囲に火花と放電とを狂暴な音を立てて撒き散らしながら徐々にその身を
巨大な北欧高十字架(ケルティック・ハイクロス)の型に変容させていく。
シャナが執った術式は地上にまだ歴史が存在しない
悠久の遙か太古より紅世に伝わるフレイムヘイズ専用戦闘大系の中の一つ。
遍く幾千もの炎を集束して高め、そして爆発的な威力で刳り出す為にアラストールを
始めとする紅世の王達と優れたフレイムヘイズ達によって幾重にも渡る
淘汰と研磨による進化と深化の相剋の果てに創り出された究極の綜合汎用焔術自在法。
【紅堂伽藍拾弐魔殿極絶無限神苑熾祇
(ゾディアック・アビスティア・アヴソリュート・エクストリーム)】
その中の一体系、「流式(ムーヴ)」によって結合された反属性同士の炎はシャナの目の前でさらに激しく燻る。
「”紅蓮珀式封滅焔儀(アーク・クリムゾン・ブレイズ)” ッッ!! 」
己の執行する焔儀の御名を猛々しく叫んだシャナは、
八字立ちで指の印を振り解きながら交差した両の腕(かいな)に撚りを加えて
鳳凰の羽ばたきのように勢いよく大きく広げ全身から真紅の火の粉を撒くと、
「炎劾華葬楓絶架(レイジング・クロス・ヴォーテックス)ッッ!!」
絶叫した。
術式発動の言霊の叫声と共に閃光とスパークとに揺らめく火の粉を
花弁のように飛ばしていた灼熱の炎架は、
ドギュッッ!!という爆発的な加速音を立てて白い封絶で覆われた空間を駆け巡った。
狂嵐の焦熱地獄。
唸りを上げて武装フィギュア達に迫る灼熱の炎架はまるで錯乱した兇天使のように
縦横無尽に踊り狂い、誰の予測も付かないランダムな軌道で
高熱の巻き起こす余波と共に暴れ廻った。
ガジュウウウウッッ!!!
樹脂の灼ける音。
鉄の焦げる匂い。
内部に編み込まれた無数の操作系自在式によって空間に紅く精密な幾何学模様の軌跡を
描く「炎の高十字架(フレイミング・ハイクロス)」は防御も回避も、
視認すらも出来ないフィギュア達に情け容赦なく激突し、そして蒸散させていく。
シャナの内なる精神の火勢を代弁するが如く。
70体以上いた筈の武装燐子フィギュアは気がつけば残り僅か数体、
内無傷なものはたったの3体のみ。
残りは必殺の大太刀、贄殿遮那を温存したままの怒れるフレイムヘイズ、
炎髪灼眼の討ち手の凄絶なる焔儀によって全て焼き尽くされた。
術の反動、そして射出の勢いで宙に舞い上がったシャナは、
その身を中空で反転させ軽やかにコンクリートの上に着地する。
目の前の視界。
白い火花を放つ燐子の残骸がそこかしこに散乱した、
見る者によっては阿鼻叫喚の地獄絵図を想起させるような
惨々たる光景をシャナは無表情のまま、虹彩はいつもの深紅の煌めきをなくした
無明の双眸で見つめていた。
今し方発動した輪舞型の操作系自在式はあくまで
視界を明瞭にする為に編み込んだもの。
武装しているとはいえ燐子如きが何百体集まろうとシャナの眼中には
端からいないも同然だった。
そのシャナの脇に術者の命令を忠実に果たした紅蓮の炎架が
主を護るガーディアンのように静かに舞い降りた。
シャナはその一切の光を宿さない無明の双眸で、給水塔の上で
笑顔のまま拍手をしているフリアグネを冷酷に見据えると、
人間の関節可動域を完全に無視して複雑に絡められた、
自在式発動印が結ばれた右手を静謐に肩口に掲げ、
そして咎人を断罪する執行法務官のような清廉な動作で、
勢いよく印を振り解きながら真下へと振り下ろした。
その動作に合わせ炎架の内部に編み込まれた突貫型の操作系自在式が発動し、
炎架の中心部に埋め込まれた灼熱の炎玉がより紅く発光した。
「ッッッけぇぇッッ!!」
シャナの叫びが終わる前に深紅の炎架は迫撃砲が発射されたかような
爆裂音を轟かせながら超加速し、笑みを浮かべて拍手を続ける
フリアグネに向かって一部の狂いもない正確な命中精度で襲い掛かった。
(灰に!なれ!!)
空間に紅蓮の軌跡を残す火炎の疾走を見送りながらシャナは強く心の声で
「灰になれええええぇぇぇぇッッ!! 狩人フリアグネエエエエェェェェッッ!! 」
そして現実の声でそう叫ぶと、自分が認める二人の血統の男達と同じように
右手を素早く逆水平に構え標的を、フリアグネを射抜くように鋭く指差した。
←TO BE CONTENUED……
次回予告。
突如シャナの中で覚醒した能力、”真・灼眼 ”
その力の汎用性は炎術だけに留まる事のない
強靭無比な能力だった。
しかし、それすらも戦慄の狩人、フリアグネにとっては
掌中の権謀術数の一端にしか過ぎなかったのか?
そして窮地に陥ったシャナが取ったある意外な選択とは?
次回、連載コラボSS
ジョジョの奇妙な冒険×灼眼のシャナ
*STARDUST¢FLAMEHAZE*
【
CHAPTER♯17 戦慄の暗殺者Ⅲ ~ Don't leave you~】
御期待下さい……!
”一人じゃ、ないッッ!! ”
『炎劾華葬楓絶架(レイジング・クロス・ヴォーテックス)』
術者名-空条 シャナ
破壊力-A スピード-B 射程距離-B
持続力-A 精密動作性-B 成長性-C
能力-業炎と浄炎。異なる二つの属性の炎を自在式によって融合させ、
相乗効果によって増大した存在の力を高架型に変容させて
相手に撃ち込む炎の戦闘自在法。
高架に様々な自在式を編み込むことによって、
その軌道や属性を複雑に変化させる事が出来る剛柔一体の焔絶儀。
弱点は発動までの所要時間が長い事と、存在の力の消耗が大きいこと。
最終更新:2007年08月26日 17:33