監視彼女

(「偽装彼女」シリーズ)

「サキさぁん、そんな風におっぱいデカく見えるブラってない?」
 入店した俺の第一声に、その豊かな乳房を揺らしつつ出迎えてくれた顔なじみのランジ
ェリーショップの店長はこおりついた。
「…営業妨害で通報して良い?」
「ごめんなさいごめんなさい。でも今客居ないから許してください」
 深々と頭を下げつつ反省の見られない俺のセリフに、別の店員がクスッと笑った。
 年上に年下にと、お互いに守備範囲外なので、俺が何度も彼女を変えて連れて来てもサ
キさんとは良い関係を保てている。
「久しぶりに来たと思ったら、何言いだすのよ」
「いやー、ほら、前連れて来たのがさぁ」
「ユカちゃん!?」
 いわゆる「エロカッコいい」彼女の目がギラッとしたのは気のせいだろうか。
「いや、今日は来てないです」
「なんだ……で、男性お一人様が何か用?」
 サッと髪をかき上げた手を下ろし、肩を落とすサキさん。ガバッと開いたニットから、
ぱよよんぽよんな胸が半分見えてる。
 彼女の言う「ユカちゃん」だって男性お一人様なのだが、以前来店した黒髪セーラーの
美少女が、俺の同級生であるイケメン優等生がノーパン女装した姿だとは夢にも思ってな
いようだ。
「だから、あいつの下着探しに来たんだけど」
「いらっしゃいませ!何をお探しですか!?」
 にわかに瞳を輝かせるサキさんには、この界隈の女子高生に「サキ姉」と慕われる姐御
ぶりは微塵もない。ろくに会話もしてないくせに、奴は何という破壊力なんだ。
「んでさ、あいつ胸ちっちゃいじゃん?それ気にしてるみたいだから何か良いのないかな
あって」
「シンちゃんが勝負下着以外を買いに来たどころか、女の子のことを気にかけるだなんて
…」
 ゴージャスな付け爪した手で器用に涙を拭く真似をしてみせるが、聞いてるだろうか?
「サキさんこーゆー下着詳しいだろうから、底上げ以外で何か良さげなの知らない?」
「お姉さんに!お姉さんの胸にユカちゃんの胸はまかせなさい!」
「あの、ブラだけで良いです」
 鼻息荒く自らの胸を叩くサキさんと、ぱよんぽよんと弾む巨乳。須藤つぶれるだろ、絶
対。


「ていうか、なんで張本人のユカちゃんじゃなくてアンタが来るのよ?」
 不満そうにグロスでツヤツヤした唇を尖らすサキさんに、何と言って誤魔化すべきか。
「前回の罪悪感でまた勃起しちゃうし、あなたの胸にドキドキしちゃうので無理です」と
はとても言えない。
「あー、その、家が厳しいみたいで、あんまこーゆートコに慣れてないみたい」
 「なんでそんなお嬢様がお前と付き合ってるんだ」と彼女の心の声が聞こえてきそうだ
が、まあ良しとする。
「残念ねえ…ユカちゃん家はココから遠いの?もし来てくれたら、ユカちゃんにその…ピ
ッタリなのを探してあげられたりとかできるのに」
 俺が入店してから、何度もあいつの名前を出してるんだろうか、サキさんは。
 女装して買いに来た挙句、試着室で射精してしまいビビりまくりだった須藤がよっぽど
お気に召したようだが…この人彼氏居るはずだよな、すげー車乗ったゴ○ゴっぽいおっさ
ん。
「…サキさん、女の子はあーゆータイプが好みなの?」
 素朴な俺の疑問に対し、大げさなほどにキョドるサキさん。
「べっ、別に一緒に試着室入って『胸の成長のためにも、ちゃんと採寸しなくっちゃね』
『そんな…サキさんみたいなおっぱい大きい人に見られちゃうなんて、わたし恥ずかしい
ですぅ…っ!』『何言ってるのよ…ほら、こんなにぷるんとして可愛いじゃない…あら、
ごめんなさい』『きゃん!や、やだぁっ!』とか、あわよくばスーパー銭湯誘って女同士
裸のお付き合いで、『ほらユカちゃん、お姉さんが揉んでおっきくしてあ・げ・る』『あ
ん…サキさん、わたしとっても恥ずかしい、恥ずかしいけど…ああっ!』なんて考えてな
いから!」
 他人の彼女(設定上は)に、なんて妄想かましちゃってるんだこの人は。あと、後半の
は完全にエロ親父の思考です。俺もまんま同じこと言ってたが。
 言葉も出ない俺と、妖しく悶えるサキさんに、店員が静かにアドバイスした。
「店長、フロントホックなら寄せて上げる分水増しされますよね?」
「あ、そうそうそれなら自前ので十分谷間を作れるんじゃない!?」
 寄せて上げるモノがちょっとないんですが。


「んじゃそれのちょっと大きいのちょうだい」
「大きいの?まだ高校生なら、あんま詰め込んでも形悪くなるんじゃない?」
「まあちょっと目ぇつぶってあげてよ…俺の知り合いが巨乳ばっかでさあ、『慎吾クンが
恥ずかしくないような女の子になりたいの!』って、一生懸命なんだよ」
 口から出まかせの俺のセリフに、わなわなと肩と乳を震わせるサキさん。今度はどんな
世迷い言を口走ってくれるのか。
「あ…あたしなら絶対『そんなキミのおっぱいを愛でたいんだ』って言うのに!」
「うんうん、ちゃんと伝えとくから。『貧乳萌えのおねーさんが居るから自信持て』って」
 レズ疑惑な巨乳店長のサービスはあきらめて、店員がいくつか持って来てくれたブラシ
ョーツセットを吟味することにした。
「ほとんどが後ろで留めるので…前留めはこれだけです」
 たしかに、たまにその時の彼女が着けてたのは知ってたが、店で見るのは初めてだ。身
体が硬くて自分で後ろのホックが留められない奴には、最初っからこれにしといた方が良
かったのかもしれない。
 平気な顔して女物の下着の品定めをする俺に面食らったように、店員が見てくる。前回
はもっと挙動不審な美少女(男)が来たんですよ、お姉さん。
「んじゃあ、コレで」
 白地に緑や赤で小花模様が刺繍されたのに決めた。そして、AAからどどーんとCカッ
プに増量。
「お客様、その…パッドはよろしいですか?」
 財布を出す俺に、言いにくそうに店員が尋ねる。
「あ、中身はもうあるんで、大丈夫でっす」
 兄貴名義で先日通販購入したブツを思い浮かべ、俺は満面の笑みで答えた。

 яяя

 女向けのオナニー道具を、まさか男に買ってやるとは思ってもみなかったと、届いた時
は部屋で商品を取り出しつつ感慨にふけった。
 「本物そっくりな形と感触によるバストアップ効果と、たまらない吸着力によるフェロ
モン効果で意中の彼をメロメロに!プリティメロン」は言ってみればヌー○ラの肉厚版っ
て感じの、胸パッド型大人のオモチャだ。


 乳頭のないお椀形の擬似乳房は特殊シリコンだかなんだかで絶妙な弾力があり、肌に触
れる面はそこがささやかな膨らみだろうと洗濯板だろうとぴったりフィットするようにプ
ヨプヨしている。
 従来の吸盤型の乳首責めオモチャと違うのは、その手触りの良さとリアルさに相手も楽
しめ、ニセ乳を動かされる度に揉みしだかれているような感触が装着した本人にも伝わる
というところらしい。カレもアタシも大満足☆ってやつか。
 売り文句の書かれたパッケだけを丁寧にはがし、専用ケースだけに入れた状態で見せら
れた奴は首を傾げ、その直後に真っ赤になった。
「今日だけおっぱい大きくなろうね~」
「な…なに馬鹿なこと言って…っひゃあ!?」
 立ち上がってしまう前に奴を仰向けに床に押さえつけ、背中に差し入れた手でブラを外
してしまう。
 俺の部屋に来るなり下着を残してストリップショーを強要された奴は、すでに乳首を勃
たせてしまっていた。
「はーい、動かないでね~」
「やめっ…あ……っ」
 ブラを引き上げ胸板を撫でられて、奴のペニスが反応しているのが薄いショーツ越しに
足に伝わってくる。左右の向きを確認して、ケースから取り出した左乳房を奴の胸板にく
っつけた。
「ひぅっ!?つ、冷たっ…!」
「はいはい、すぐあったまるからね~」
 暴れる奴の股間を膝でグリグリしてやりながら、右側も慎重に貼りつける。垂れすぎず
上すぎず、自然な上向き美乳がチンコ付き美少女の上半身に出現した。


「はい、できあがり~」
 すんなりした二の腕を掴んで起こしてやると、あきれたように溜め息をつく。
「…ったく、いきなり何出すのかと思ったら……っ…え?」
 ふるん、と揺れるそれに早くも肌を吸われたのか、困ったように俺を見上げた。大人の
オモチャ…それも女用のオナニー道具なんて奴の知識にはないようで、馬鹿馬鹿しい変な
モノに反応してしまう自分に戸惑いを隠せてない。
「うん?どしたん?」
「いや…な、何でもない…」
 気付かないふりで無邪気に尋ねる俺に「なんかビンビン感じちゃうんだけど、これ何な
の?」とは聞けないのか、奴は頬を赤らめつつ首を振った。俺の視線に慌てて胸の上に押
しやられていたブラを下ろすのだが、CどころかDくらいありそうな擬似乳房が納まるわ
けがなく、下乳をさらして頼りなく浮いてしまう。
「あらら、ブラに入りきらないみたいだねぇ~」
「じゃ…じゃあコレ、取って良い?」
「大丈夫!それに似合う服も用意してあるから!」
 さっそくブラの中に手を突っ込んだ奴の前に、真新しい下着とグレーのセーターにクリ
ーム色のキャミ、焦げ茶のショートパンツを放る。少しの沈黙の後、渋々奴は手を出した。
「そのブラなら一人で着けられるだろ?」
 今まで手にしたのとは違う形に戸惑いを見せたが、半裸で俺に胸を突き出して背中のホ
ックと格闘した挙句「エッチなわたしにブラジャーを着せてください」とおねだりさせら
れずに済むと分かると、ホッとしたような顔をする。
 しかし上半身裸になって新しいブラの肩紐を通したところで、須藤は再び俺の目を気に
し始めた。
 大きな乳房…というかモノを押し込まねばならないので、両脇ずつ軽く支えなければな
らない。奴が手に力を入れると、リアルにふるふるするシリコンを伝って密着した肌に刺
激が伝わる。
「…ん……っん…はぁ」
 ちょっと息が上がってるのは、俺の前で着替えてるせいだけではないだろう。「プリテ
ィメロン」とやらの威力はなかなかのようだ。「メロン」って「メロンみたいな乳」って
意味なのか、「エログッズでメロメロ」って意味なのか、どっちなんだろう?


 どうでも良いことを考える俺の前で、正座した足も崩れへたり込みながら彼はどうにか
こうにか前のホックを留めた。
「うっわー、ボインボイン」
 自分の物でもないくせに恥ずかしげに俯いてしまう須藤。白い肌に対しブラから覗く乳
房が不自然なテラコッタなのを無視すれば、華奢な肩や腰に対し挑発的な胸という、かな
り反則なボディラインの美少女がそこにあった。
「じゃあ次はこれな」
「っ……うん…」
 むぎゅうっと柔らかく胸を締めつける感触に眉をひそめつつ、何でもないようなふりを
してキャミを受け取る須藤。本当は身じろぎする度にない乳を揉みしだかれ大変なことに
なってるんだろう。薄桃のショーツの前が、スカート脱がせた時よりも盛り上がってる気
がするが、俺はあえて気付かないふりだ。
 渡した白いキャミソールは、鎖骨の真下あたりまでコットンのレースが被さる重ね着用
のもの。見えない部分は身体にフィットするよう薄くシンプルなデザインだが、ストラッ
プやデコルテには細かな刺繍がたっぷり施されている。
 ストラップとは別に肩に付いているホルターネックの飾り紐を残して奴が裾を下ろすと、
胸元がぱつんとした「女の子」の下着姿になった。
「後ろ結んでやるよ」
 「要らないっ!」と逃げられてしまう前に奴の背後に回り込み、セミロングの黒髪をか
き上げてやる。あらわになった白いうなじに息を吹きかけると、ほっそりした肩がブルリ
と震えた。
「ゃ…やだ、早く……」
「うん?早く可愛いの着たいの?」
 服を脱いだり寝かされたりして少し乱れた髪を梳いてから、紐に巻き込まないよう両側
に流す。浮き上がった左右の鎖骨をからかうようになぞってやってから、飾り紐を首の後
ろで結んでやった。下向いたりすることも考えて、きつすぎないところで可愛くリボン結
び。
「はい、バンザイして~」
「……?はい」
 何の疑いもなく両腕を上げた奴の脇から、キャミを押し上げるたわわな胸をわし掴みに
した。


「ひゃうっ!?な、何す…っ!あ……っぁ」
 服の上から触る分には何の問題ない…というか、かなりリアルな弾み具合だ。もにゅも
にゅと両手で揉みあげると、肌やすでに勃起していた乳首を引っ張られるのか俺の胸に密
着した須藤の身体が震える。
「ほら、自分でも触ってみ。ホンモノっぽくね?」
 抗うように俺の手に重ねてきた両手を逆に掴み、自分の乳房に押し当てる。技術大国日
本万歳と叫びたくなるようなシリコンのやわっこさに、手のひらで覆った奴のしなやかな
手がビクンとした。
「…本当の女の子みたいですねぇ~」
 奴の手の上から、今度はゆっくりと円を描くように揉みあげる。
「……ぅ…んんっ……ん!…」
 堪えるように下を向いた奴の耳たぶを唇で噛むと、むき出しの腿がもぞ、と動いた。
「……あれ?なんか染みちゃってない?」
 後ろから奴の肩越しにショーツを覗くと、キャミとは違うモノでぱつんぱつんになった
そこの色がちょっと変わっていた。パステルピンクの頂点に、ちょっと濃いピンクの水玉。
「く…くすぐったかったから…っ」
「くすぐったいって、このパッドが?感じちゃった?」
「!…ちがっ……」
 これの本来の用途を知らない彼は、こんな「道具」なんかに快感を見出だしてしまう自
分の身体を認めたくないようだ。正直に言えば教えてやらなくもないのに…まぁ外しては
やらないけど。
 必死に頭の中に萎えネタを駆け巡らせているだろう奴から、俺は身を離した。
「じゃあなおさら着替えなくっちゃね。オソロのパンティー汚すなよ」
 気を使って後ろを向いてやる気配のない俺に悔しそうに唇を噛みしめつつ、悩ましい巨
乳キャミ姿の優等生は同級生の見ている前で脱いだショーツで濡れたペニスを拭う。こい
つの剃毛フルチン姿なんかを知ってるのは他人では俺だけだろうと思うと、素晴らしく愉
快な気分になった。
 まだ興奮冷めやらない様子ではあったが、ブラと同じ白地に乙女な刺繍飾りのショーツ
に足を通し、スエードみたいな手触りのショートパンツを引き上げる。


 グレーのセーターを手に取り広げると、案の定どこから着るのか迷ってたので思わず笑
ってしまった。赤くなった目元でキッと睨みつけてくるが、身構えた拍子にプルルンと揺
れる乳房に再び膝を擦り合わせる。
「分かんないなら手伝おっか?」
「だ、大丈夫…」
 熱っぽい息をつき、あきらめたように袖を通す。今までなかった双丘に引っかかるセー
ターに四苦八苦しながら裾を下ろし、胸元で編み上げになったピンクのサテンリボンを結
んで、どうにか奴は着替えを済ませた。
 こないだサキさんが着てたみたいなオフタートルのニットは、両肩からぎりぎり滑り落
ちるか落ちないかといったデザイン。落ち着かないのかしきりに肩口を引き上げるが、盛
り上がった胸やほっそりしたウエストを強調する身頃に対し袖はかなりゆったりしている
ので、奴の細い腕にすぐ遊んでしまう。
 ふだん着せてるのはピンクだのフリルだのリボンだのと可愛らしさを前面に押し出した
モノなのだが、今日は胸があるので極めて大人しめな色合いにした。俺の見立て通り、身
体の線を見せつけるデザインの割に下品さのない、見た目だけは清楚な奴にふさわしい「
女の子」ができあがる。


「かーわいい、ユカちゃん」
 言って、ぴったりとしたセーターの上から形の良い乳房をぷにぷにつつくと、恥ずかし
そうに身をよじらせて逃げようとした。
「ぃやあ……っ!」
 この触感と過敏反応では、そうと知らなきゃ俺でも偽物とは分からないだろう。正直安
い買い物ではなかったが、ここまでで十分元は取れそうだ。
「…じゃあ、ちょっとお出かけしよっか?」
「ん、ぁ…………え?」
 胸板への刺激に喘いでいた奴の顔が固まる。気付かないふりで、俺はにっこり笑ってう
なずいた。
「せっかく可愛いカッコしたんだから、ユカちゃんと一緒に外行きたいなあ、俺」
「あの……こ、この、まま?」
「何か問題でもある?」
 あくまで疑問形ではあるが、奴に決定権がないことは二人とも…奴自身が熟知している。
「………ない、です…」
 そんなわけで、誰もが羨む美乳彼女を連れて家を出た。

 яяя

 電車に乗って、以前行ったのとはまた別のカラオケボックスへ。
 腕を組んだ奴とドアをくぐると、二組五人ばかしが会計だか案内待ちでフロアに居た。
カップルと、中坊の三人連れ。
 受付で名前を書いてから、俺のダウンジャケットにピンクのマフラーを巻いた須藤の頬
が上気しているのに今さら気付いたようなふりで声をかける。
「暖房暑い?上着脱げよ」
 そのせいではないことや、上体を動かせばかえって辛い目に遭うことは分かりきってい
るだろうに、腕を離し優しい彼氏の顔で俺に言われて渋々うなずいた。
 本人的にはたかが「ただの胸パッド」で自分が感じてしまうとは、俺は夢にも思ってい
ない設定なのだろう。わざと奴の胸に触れた腕を揺すったり動かしたりする度に、不自然
に息を詰めつつも一言も発さなかったのだ。
 自分自身の羞恥心が災いして、さらなる責め苦を味わってしまう相手が哀れで哀れで…
非常に楽しい。


 のろのろとマフラーを外し黒いジャケットを脱ぐと、奴の可愛らしい顔に、こちらをチ
ラ見していた男が目を見張るのが分かった。うっわ超うけるわ。
 まあ大人しそうな顔して上着脱いだらぽよんぽよんの乳が出てきちゃったら、凝視しち
ゃうのが男の性だろう。おまけに色白キャシャリンな美少女とくれば、それこそそれなん
てエロゲ?なステータスだ。
 彼女に訝しい目で見られ、慌ててつつも未練がましく男が店を出て行く。しかし今度は
中坊ズがチラ見してきた。顔から先に見た奴も胸から先に見た奴も、結局は奴に釘付け。
 当の本人はといえば、俺と並んでソファにかけたはいいが上着を前に抱えてはそれにた
わむ乳房が、横に置いてもぷるるんぷるんするそれと周りの目が気になる。ガキの不躾な
視線に奴が気付かないわけがない。
 結局彼は膝下ロングブーツまで生足の腿に上着を置き、両手をその上に乗せた。足の冷
たさは和らいだだろうが、今までなかった膨らみに勝手が違うのか、肘を曲げたり伸ばし
たりと落ち着きがない。その度に編み上げリボンが窮屈そうな、はち切れそうなニセ乳が
たゆんたゆんした。
 「わぁ…」と丸聞こえの感嘆の声をあげる彼らに負けないよう、つとめて無神経に須藤
の顔を覗き込んだ。
「…ブラ、小さいんじゃね?」
「……っ!…」
 「可愛い巨乳お姉さん」に夢中になってたガキどもの目がそこに集中したのか、視線を
さまよわせ結局俺を睨みつける。カッと赤らめた目元と潤んだ瞳は、羞恥のためだけでは
ない。
「な、なに言って…っ」
 「プリティメロン」の吸着力はなかなかのようで、絞り出す声は上擦り掠れていた。真
っ最中ん時の喘ぎみたい。
 もう少し楽しみたい気もしたが、部屋に案内された中坊に続き受付から名前を呼ばれた
ので、ビクンと肩を震わせる奴の腕を引き立ち上がった。

 яяя


 「お二人様」にあてがわれたのは、逆L字型にソファが置かれた縦長の個室だった。
 さりげなく室内を見回して、ちょうど角っこの短辺側に俺が座り、長辺側に奴を座らせ
る。受付のカウンターからチラ見したものを思い出し、位置を微調整。こんなもんだろ。
 薄暗い室内で皓々と光るテレビ画面には、CMでアイドルグループが歌って踊っている。
あ、あの左から二番目のって、こないだ女子が「須藤クンにちょっと似てるかも」と騒い
でたイケメンじゃないか?
 インタビュアーの女に爽やかな笑顔で接する彼と、黙って入室時に店員に運ばれたジュ
ースを飲む奴と見比べてみる。
 うーん…どうだかなって感じ。
 画面の中の男はたしかに美形だが、形の良い上唇はやや薄くビロビロしている。それに
対して、ストローを咥える赤い唇は程良い厚みがあり、胸とは違う次元でプリプリッとし
ていた。
 極めつけはちょくちょく耳にする芸能ニュース。「須藤クン似」のイケメン君は女には
良い顔するがメンバーに対してはそうでもないのか、しょっちゅう掴み合いになっただの
大御所に苦言を呈されて逆ギレしただの、良い噂を聞かない。対してこいつは、この女装
趣味とマゾっ気さえなければ老若男女問わず頼りにされ尊敬されている、眉目秀麗文武両
道品行方正なでき過ぎ君だ。
 アイドルの彼がハウス栽培農薬王子様なら、こいつは路地モノ天然王子様ってとこか。
 満足感に浸る俺を、ジュースを置きつつうさん臭げに見やる須藤。せっかく心の中で褒
めてやったのに、なんて恩知らずなんだ。
「…どうしたの?『こんな近くで改めて見ると、村瀬クンってカッコいい…濡れちゃうぅ
っ!』?」
「そんな口がきけるおめでたさに、ある意味感動する」
 顔をそむけ冷たく吐き捨てる天然女装王子。その拍子にぷるるんと揺れる、セーターに
包まれた乳房。
「ダメだなぁユカちゃん。こーんな可愛いおっぱいでそんなこと言っちゃうなんて」
「ひゃ、んっ……やめ……っ!?」
 指を立てツンツンつつくと慌てて逃げようとしたので、肩に右腕を回し引き寄せた。


「ちょっと世間話でもしよっか?」
 顔を近付けて耳に息を吹きかけると、性感帯である胸を長時間刺激され敏感になってい
た身体から力が抜ける。
「っん……な、何、だよ…?」
「お前、オナニーする時って手コキ?」
「………どこの世間の話だよ」
 すっごい軽蔑したような目で見られ、モロ感状態の奴の様子に興奮してきていた俺の息
子がくじけそうになる。
「…まあそれでさ、女ってチンコないからさ、代わりに色々お道具使って楽しむんだって」
「………」
 突然何を言いだすのかと首を傾げる須藤。間近でポヨンと弾む美乳。
「お前も知ってそうなバイブとローターの他にさ、どんなのがあると思う?」
 俺の言葉にそれを思い浮かべたのか頬を染める美少女。こんな清純派になお責め苦を与
えちゃう自分の罪深さに、俺大興奮。
「……たとえば、自分の代わりにおっぱい可愛がってくれるオモチャとか」
「………?」
 俺にじっと見つめられ、戸惑いつつも不思議そうに俺の顔を見てくる。見つめ合う男女
(設定上)。
 狭い室内にしばし沈黙が訪れ、優等生の賢いおつむがフル回転しているのが分かった。
そして、
「!なっ……」
 肩を抱かれたままではあるが、弾かれたように奴は俺から身を離した。
「うわ、何だよ?」
「じゃ…じゃあコレ、も?」
 セーターをパツンパツンに押し上げるそれをおずおずと指差し、尋ねてくる。ようやく
気付きましたか。
「おっぱいプルンプルンされて、気持ちよかったでしょ?」
「……っ!?」
 かあーっと耳まで真っ赤になる黒髪美少女。今なら胸もチンコも付いてきます。
 ニヤニヤする俺にすべてを悟ったのか、ふるふると擬似乳房と肩を震わせながら須藤は
下を向いた。
「さ…最低、だ……っ」
 その「最低」って、分かってて気付かないフリをしていた俺に対してかな?それとも「
ただの胸パッド」ではありえないだろう刺激に反応しちゃったのは、モロ感なカラダのせ
いだと思っちゃってた自分自身に対してかな?まあ十中八九前者だろうが。


「…もうそこまで言われちゃうと、非常に申し上げにくいのですが」
「なんだよ……今度は何する気だ…?」
 虚勢を張る必要がないと分かったので、たゆんと乳房が揺れる度に唇を震わせながら睨
んでくる。
「いや、俺は何もしてないんだけど」
 言って、細い肩に回した右腕を曲げ、ぱよんとした擬似乳房を弾いた。
「ひぁっ!?」
 ぷるぷるるんという感触はダイレクトに自前の胸へ伝わるらしい。偽物とは思えないほ
ど派手な悲鳴があがった。
「ココさぁ、評判なんだよ」
「ひゃ、ぅ………っ何、が…?」
 もにゅもにゅと揉みながら続けると、喘ぎつつも先を促す須藤。
「フロントに丸見えなの」
「…………はあ?」
「…さりげな~く、俺の斜め上見てみ?」
 素直に目だけを動かした奴の顔が強張る。無事防犯カメラを捉えたらしい。
「なっ…な、何考えてるんだお前!?」
 ここは「やだぁ、○○が見てるぅ」「見せつけてやろうぜフヒヒッ」という会話を楽し
みたかったのだが、優等生にはそんな応用力はなかった。○○には月でもマリア様でもご
自由に。
 位置的に奴の顔や上半身は見えるが、そこから下は俺の身体で見えない…はず。ちょっ
と暑いが、念のため上着は脱がないでおこう。
「友達の友達がココでバイトしてたみたいでさぁ、フロントのモニターから丸見えなんだ
って」
 陶酔しきってデュエット歌う夫婦とか、本番行くんじゃないかってくらい熱烈なスキン
シップ交わすカップルとか、どこまで本当かは知らないが地元では結構有名らしい。
「じょっ…冗談じゃない!俺はそんな、み…見せたりする趣味はない!」
「今さら何言ってんだよ。お前これまで俺にどんなカッコさらしてきたよ?」
 引きはがそうとしてくる奴の頬をつつき顎へと滑らせる。この仲睦まじい光景を、ちゃ
んと盗み見てもらえてるだろうか。
「ば、バレたら……ぁ…」
「んー、だから上手くやろうねってことで」
「うまくって……や、ぁ…っ!」
 逃げようとする奴のショートパンツの裾から左手を差し込む。
「この、おっぱいおっきな女の子のままで、気持ち良くなろうね?」


「っ…あ……やだ、ぁ…んっ…」
 右手で細い顎を上向けさせながらショーツの縁をなぞると、目の前で紅唇を震わせ息を
ついた。中へ指を入れようとすると、慌てて膝を閉じてくる。
「だ…ダメ!こんな……こんな、とこで…」
「『こんなとこで』、ノーパンでビンビンだったくせに」
「…っ!……や、だぁ……っ」
 俺の胸を押していた両手で耳をふさぎ、いやいやと首を振る。ショートパンツから抜い
た左手で太腿を撫でながら、奴の豊満な胸のリボンを引っ張った。
 一番上で蝶結びにしていたそれがほどけると、編み上げられている胸元がほんの少し楽
になる。しかしそこが動く度に愛撫されるような刺激を与えられる彼にしてみれば、これ
は甘やかな拷問でしかない。
「……っぅ………」
 力の抜けた膝を割り、左足のロングブーツに手をかけた。
 ファスナーを引き下げると、チェックの透かし編みの薄いハイソに包まれた細いふくら
はぎが覗く。利き手は乳房を撫でているのでなかなかうまくいかないが、どうにかブーツ
から嫌味なくらい長い足を引き抜けた。
「はぁ~い、ちょっと上げてねぇ~」
 左足をソファに上げさせ、片足だけM字開脚。暗い室内にも白くするんとした内腿が、
付け根ぎりぎりまであらわになった。
「っ…やだ、見え……っ…」
「見えない見えない」
 擦りガラスのドアの向こう側を気にする須藤を「変に動く方が覗かれちゃうよ」と牽制
する。その間に俺の右手は奴のセーターの裾から中へと入り込んでいた。
「…っひゃ!?あ、ちょっと……ひ、ぅ…っ」
 くびれたウエストを親指でくすぐり、引き締まった腹を胸に向かって撫でてやってから
、自宅でしたようにキャミの上から右胸を掴み上げる。セーターに俺の指が浮き上がって
いて、その動きがはっきりと分かって卑猥。超エロい。
「つくづくリアル。すっげーリアルなんだけど」
「ぁ…っあ、やめろ……っ馬鹿!」
 言うに事欠いて馬鹿ときましたか。


 この手触りの素晴らしさを知ってもらうため、左の内腿を撫でまわしていた手で須藤の
左手首を掴む。華奢な腕は必死に振りほどこうとするが、抱え込まれているのとキャミの
脇をつつかれるのとで力が思うように入らないようだ。
「もっかい自分で触ってみろよ、ほら」
「っいらない!や…いや…っ!」
 グレーのセーターを形良く押し上げるそこに、本人の手をぐっと押さえつけた。
「あ…ん、んっ……っく……」
 手のひらを柔らかく押し返すそこが、下の自分の胸に刺激を伝える。俺ん家でそうした
時と違い、用途を知ってしまったから余計に感じちゃうみたいだ。
「ほらほら、女の子みたいっしょ?」
「っぅ……知るかよ…っ」
 覗き込む俺から顔をそむける須藤。首痛くならないのかな。
 まあこんな下世話なセリフに、これだけ恥ずかしがってくれるから楽しいんだけど…っ
て、
「…あ、もしかして本物触ったことないとか?」
「………」
 黙ってはいるが、俺にされるがまま自らの乳房を揉む指が強張る。
「須藤くぅ~ん?」
 も一度覗き込むと、さらにぐぐーっと反対側を向かれる。ホルターネックの紐が飾る、
きれいな首筋。
「あらららら。図星でしたかぁ~?」
「お…お前と一緒にするな!」
「そっかそっか、清らかなカラダのままこーゆー趣味に目覚めちゃったんだ」
 意に介さず「こーゆー」ってとこで両胸を(片方は奴の手越しではあるが)揉みあげる
と、身を竦ませつつも健気に反抗してきた。
「さ、最低だ!ほんとに……ほんとに最低だっ!」
 いわれもないことでなじられるのはごめんだが、こんだけの美少女になら金払ってでも
罵られたい男が腐るほど居るだろう。
「そんな『最低』さんに感じちゃってるのは、どこのどなたですかねぇ~?」
 レディコミかBLに出てくるような、「ちょっとキチクなカレ☆」なセリフを吐きなが
ら奴の左手を自由にしてやる。聞くのはウザいが、言うのはすげー楽しいわ、これ。新発
見。てゆーか、ちょっと鬼畜って、どう「ちょっと」なんだろうか?
「そうだよねぇ、ユカちゃん自分のおっぱいがこんだけ可愛いんだから、他の子のなんて
どうでも良いよねえ?」
「…あ、あ……ひゃ、やめ…っ!」
 いったん胸から手を離し、今度はキャミの裾から肌へと直接手を突っ込む。ソファには
したなく立てた左膝がビクリと震えた。


 室内の効きすぎな暖房と興奮とで汗ばんだ身体を撫でる。びくんと奴が身震いする度に、
俺の目の前の双丘が跳ねた。
「胸が弾ぅ~むわぁ~♪」
 耳元に歌いかけると「マジ死ね、氏ねじゃなくて死ね」ってまなざしを向けられる。だ
けど涙が出ちゃう、気持ち良いんだもんっ。
「……っん…ん、ぁ…だめ…ぇ…っ」
 俺の手がブラに到達すると、弱々しく肘を掴んできた。気にせず貴重な「下着に収まり
きらない乳」をブラの上からふにふにする。
「あんっ!………っ」
 谷間から直接シリコンに指をかけると、思いの外高い声があがった。慌てて両手で口を
ふさぐが、もう遅い。
「やっだ。カワイー声出しちゃって」
「っ………し、知らない……っ!」
 真っ赤になって首を横に振るが、デコルテに息を吹きかけると押さえた手の向こうから
小さな声がもれる。
 「もっといっぱい気持ち良くなろうねぇ~」と笑いかけて、俺は真ん中のホックを外し
た。途端にぽよよんと弾む胸。柔らかいそれとキャミに挟まれてきゅうきゅうになる俺の
手。
「……っふ………ぅ…っ…」
「ほらほら、楽になったでしょ~?」
「や……ぁ、あっ…は、はずしてっ!取って…んんっ!」
 肌とは異なるゴムだかビニールっぽさはあるが、指に吸いつくようなシリコンを両手で
揉みあげ、こねまわす。その度に、電流でも走ったかのように腕の中の身体が跳ね悶えた。
「こんなに感じてるみたいなのに…どうして?」
「……え?」
 俺が無視すると思っていたのか、ワンテンポ遅れて聞き返してくる。
「コレ、気持ち良くない?てゆーか、キモいのに演技しちゃってくれてたの?」
 ちょっと悲しそうな声で尋ね、ゆっくり大きく円を描くように揉むと、モゾモゾとソフ
ァにかけた腰をくねらせ、奴が唇を震わせた。
「ひゃ…ん、ぅ……そんなん、じゃ…っあ…」
 あちゃちゃー、やっぱり正直に来ちゃったよこの人。やっぱりこいつ、根っからのマゾ
っ娘(男)だ。


「じゃあ、気持ち良いの?」
「…ん……あ、き……気持ちぃ…です……っん!」
 清く正しい女装っ子の乳房を下から手のひらで持ち上げ、手を離す。タプタプっと弾む
様子がセーターの上からもよく分かった。
「気持ち良いのに、なんで外して欲しいなんて言うのかなぁ?」
 小首傾げて顔を合わせると、羞じらうように睫毛を伏せつつ赤い唇を動かす。
「ん………で、でちゃう、から…っ……」
 羞恥に口ごもりながらも射精しそうなことを告白した奴に、俺はニッコリ笑いかけた。
「よく言えたねぇ、ユカちゃん」
 左手を出して、汗で額に貼り付いた前髪を払ってやる。そのまま優しく頭を撫でてやる
と、不穏な動きをする右手に眉をひそめつつも彼はホッとしたような顔をした。
「でもダメ。取ってあげない」
 ちょっと掬い上げてどん底へ。きれいな面はどっちも絵になるなあ。こいつは「最低」
と言ってたが、俺の気分は最高だ。
「そ……な、だって」
「だって俺、財布しか持ってきてないから、ソレ取っても隠せないもん」
 二人ともバッグなんて持ってないので、むき出しで持つにはどう考えても怪しいこれを
隠す方法がない。まあ言い訳だけども。
 しばし呆然としていた須藤だったが、賢い頭はわりかし早くに復活した。
「じゃ、じゃあなおさらだ!もう出よう、早く帰ろう!」
「いんや。ちゃんと後始末はすっから、遠慮なくイっちゃって良いよ」
 これで「はい、そうですか」とドピュドピュする恥知らずなら問題ないのだが、淫乱だ
けど人一倍恥ずかしがり屋さんな奴には余計にプレッシャーみたいだ。
「…で、できるか!……そんな…ひと、の前なんかでっ……」
「お前、どんだけ俺にイき顔見せつけちゃってんの?」
 俺のセリフに動揺しつつも、堪えるように唇を噛みしめる優等生。俺も胸が弾ぅ~むわ
ぁ~!
「あーあと、?せっかく防音なんだから、いっぱい可愛い声聞かせてねえ?」
「っ………」
 黙り込む優等生。胸がしぼぉ~むわぁ~。俺の。
「……マイク取ってきていい?」
「待っ…!…や、やめて……っぅん、ぁ…」


 慌てて口を開けるが、都合よくよがり声が出るわけでもなく唇が震えるだけ。もともと
アンアン叫ぶタイプじゃないみたいだから、演技することもできないみたいだ。
「無理しなくって良いから、気持ち良いとこになったら教えなよ?…ユカちゃん?」
「!………は…はぃ……っ」
 俺の猫撫で声に身震いしつつ答える須藤。なんて失礼なんだ。
 しかし俺はどう考えても言いがかりな器の欠けにケチをつけてきた客にも頭を下げるく
らい心が広いので、気を取り直して胸責めを続けることにする。
 片手に収まりそうで収まらない乳房をムギュムギュ握ると、奴の手が服の上から控え目
に押さえてきた。
「…ぁ、あっ……そ、それっ!…それダメぇ…っ…」
「ダメ?ダメんなっちゃうくらい気持ち良いん?」
「いいっ…きもちぃ、です……あ、あ………もっと…っ!?」
 思わず口走ってしまった言葉に慌てて唇をふさごうとした奴の左手を、俺の左手が掴み
あげる。
「…俺は両手ふさがっちゃってるから、『もっと』はユカちゃんにお願いしようかな?」
「……やだ、ぁ……っ…!」
 奴の手をセーターやキャミの裾に差し入れ、手付かずだった左乳房を触らせる。
「ほら、こうしてギュッギュするのが良いんだろ?自分でもやってみろよ」
「……っは………ぁ…」
 俺が右手と一緒に包み込んだ左手も動かすと、立てられた膝が内股に寄せられた。密着
した身体からは暖房以外からくる熱や高鳴る鼓動とともに、奴の興奮が嫌というほど伝わ
ってくる。
 自分から指を動かすのを待ってから、俺は引き抜いた左手を再びショートパンツの中に
滑り込ませた。


「…っひぁ、あ、あんっ!……っ」
 じっとり湿ったショーツの中に押し込められたペニスは、今にも達しそうなほど熱を持
ち、ヒクヒクと震えている。ちょっと触ったらほぼ胸だけでイけちゃいそうだ。
 テーブルからジュースと一緒に置かれたペーパーナプキンを両方取り片手で広げる。六
分の一に畳まれていたそれを四分の一にして、濡れたショーツとペニスの間に滑り込ませ
た。
 こんだけグショグショなら変わらない気もするが、一応約束は守っといてやろう…今後
言うこときかせるためにも。
「おまたせ。良いよ、イっちゃいな?」
 優しく耳に吹き込むと、それにすらビクビクしながらも奴は緩く首を振ってしまう。
「ぁ……いや、いや…」
「どうして?気持ち良いんだろ?セーエキいっぱい出しちゃえよ」
 いっぱい出されても困るが、ここはゲタを履かせとこう。
「ほら、どっちも触ってやるから」
 シリコンにめり込むほど乳房を揉む指に力をこめ、包んだ亀頭をグリグリ刺激する。自
らの左胸を包む奴の手は動きを止めてしまっていたが、右手はせわしなく上下して…すが
るように俺の右手を、セーターの上から掴んできた。
「ぃあ、あ…だめ、あ……っ!」
 胸を揉みしたがれながら下着の中、俺の手に射精する少女の顔は平常の楚々としたそれ
からは想像もつかないほど淫らでだらしなく…それでもやっぱり恥ずかしそうなところが
可愛らしかった。

 яяя


 くってりした身体を支えてやりながら、下着の中に白濁を受け止めた紙ナプキンを滑り
込ませ汚れが広がらないようにする。
 相手はすっかり存在を忘れていたであろうカメラの位置を気にしながらブラを留めてや
り、リボンを結んだセーターを下ろしてやる頃には、ずっと上げたままだった左足を自分
でブーツに突っ込むくらいには回復していた。
「歩ける?」
「……グチュグチュする」
 ブーツのファスナーを引き上げる俺にも、その青臭さはよく分かる。せめて今が乾燥し
た冬であることを、日本と俺に感謝しろ。
「トイレ行って、そん中の捨ててよーく拭け。あと中から紙タオルかウェットティッシュ
何枚か持ってこいよ」
 カピカピの左手を示すと熱の引いてきた頬をまた染めてうなずいたが、困ったように俺
を見てきた。
「………あの」
「うん?なんか問題でも?」
「…その、この…中のって、流せるかな?」
 下着の中の紙ってことだろうか。
「女子トイレなんだから、個室ん中にゴミ箱あるだろ?それに捨てろよ」
「………」
 本来使わないところに、よりにもよって精液まみれのブツを入れることに抵抗があるの
だろうか?女子トイレに入ってる時点で、そんな倫理観捨てちまえよって言いたいが。
「あのさ、汚物入れの中身や匂いをいちいちチェックする店員なんて、そっちのがヤバい
だろ?そんなこと気にする暇があったらパンティーそれ以上グチャグチャんなる前に、さ
っさと行きなさい」
 理詰めで攻めた方が、優等生は動くみたいだということが分かった。

 яяя

 奴が言われたことをこなして戻るまでに、終了前の確認内線が入った。きれいな方の手
で受話器を取りつつ、「見た?どうだった?」と聞くか聞くまいか非常に葛藤。聞かなか
ったけど。
 こいつとカラオケボックスに入るのは二度目だったが、またしても一曲も歌わないまま
部屋を出ることとなった。


 今度は人が居なかったので、巻いたマフラーを垂らした須藤の胸の辺りをやけに凝視す
る店員にすぐに会計を頼むことができた。恥ずかしいのか早く出たいのか出入り口側に立
った彼は、言われた通り俺と腕を組みつつもそっぽを向いている。
 店員が預かり金額を言ったところで自動ドアが開き、途端にガヤガヤとやかましくなっ
た。見れば俺らとタメくらいの男子高校生五人で、詰め襟のラインに見覚えがあった。学
区的には俺やこいつの出身中学にまたがってる私立高。
「知り合い居る?」
 冗談で耳打ちすると、そちら側を向いていた須藤の肩が硬直し、
「……どしたん?」
 掴んでた俺の腕の反対、店の奥側に移動し、下を向く。
「………いた」
 マジですか。
 俺にぴったりくっつく奴の本心なんざ知らない店員が、「甘えんぼの彼女」を気にしつ
つ釣りを返したところで、その高校生集団がどっとカウンターに押し寄せた。
 ぐぐいっ!
「五人っ!学割歌い放題でっ!」
 ああそっか、そうすれば時間気にしなくて良かったんだぁと思う俺は、財布を掴んだま
ま胸に奴の顔をうずめられていた。ハグですね。俺の背に両腕を回して身体を密着させる
、これはいわゆるハグってやつですね、須藤君?
「……」
 入店時の中坊ほどではないが、突然の熱愛シーンに奴のおそらく同級生含む若者たちも
、プルプル揺れる美乳に見とれてた店員も思わず注目。
 顔を見せたくないのか俺に抱きついたまま、ずーるずーると移動する美少女。されるが
まま自動ドアへと向かう俺。見えてないのにすごいなあ。
「…胸当たってんだけど」
「うるさい黙れっ」
 押し殺した声で言いながら、ぎゅううっと俺の身体に回した腕に力をこめる。体力測定
は男子の標準値だったはずなので、当然痛い。


 仕方なく財布をパンツのケツに突っ込んでから相手の両肩に手を置くと、やっぱり小さ
な声がする。
「いいか?このまま出ろよ?もし離したら…ええと、ぶつ!ぶつから絶対!」
 喧嘩沙汰とは無縁そうなふにふにの拳が、俺の背で固められるのがわかった。痛そうだ
なあ、棒読み。
「あの、それじゃあどうも」
 頭ぶつけないよう後ろに手をつっぱりつつ言うと、慌てて店員は業務に戻り、歌い放題
予定の彼らも生徒手帳を提示しだした。
「…どったの?たぐっちゃん」
 ピクリと細い肩が震えたので、さりげなく彼らを見る。ドリンクメニューを持った茶髪
が、それに目を向けないスポーツ刈りに呼びかけたみたいだ。
「いや…女の子の方、なんかどっかで見たような気がしたんだけど」
 ほうほう、こいつが元同級生か。旧交を温められなくって、さぞかし残念だろう。人気
者は困るね。
「はぁ?…あんなんと知り合いだったら、俺らと映画なんか観ねーだろ」
「だよなあ、知らない子だった」
 馬鹿笑いする彼らはもう他人の女には興味をなくしたようで、あーでもないこーでもな
いとドリンクを注文しだした。
 自動ドアをくぐり、暖房恋しい往来へ。
「…お店出ました。中の奴らは見てませんが、通行人の注目の的です」
 店内とは恐らく別の意味で、須藤の肩が震えた。
「…っ悪かったな」
 カッコ良いセリフとともに、ぱっと身を翻し俺と距離を置こうとして…慣れないブーツ
のヒールに派手にコけ、その先の通行人に激突する。思わず差し出された手がその美乳に
ジャストミートするという、双方ドッキリアクシデント付きだ。
 正直腹筋切れそうなほど笑いを堪えているのだが、爆笑してる場合ではない。
 奴がぶつかった男の、巨乳美少女とのフラグをへし折らなければならないからだ。

 (おしまい)



【おまけ】

 風邪予防なのか何なのか、外から帰ったらとりあえずうがい手洗いというのが優等生の
習慣らしい。
 須藤の脱いだ女物のロングブーツを、どうしたら姉貴のと混ざることなく玄関で保管で
きるか悩む俺にダウンジャケットを押しつけると、彼は先に洗面所へ行ってしまった。
 あの、俺今んとこ家主なんですが。
 水音を聞きつつ、とりあえずブーツには古新聞丸めたのを突っ込んで、ダウンと俺の上
着は部屋に放っといた。後で何とかしよう。
 蛇口を閉める音がしたので使おうと奴の居る洗面所に入りかけ、半開きの扉の前で足を
止める。
 キャミを合わせたオフショルダーのセーターに、白く長い足を見せつけるようなショー
トパンツ姿の美少女…それも今は挑発的な上向きバストを持つ女装優等生が、目の前の鏡
に向かっていた。
 顔に汚れでもついたのかな?とも思ったが、服越しにもプリンとした尻を突き出すよう
にして姿見に映る自身を見つめるやつは微動だにしない。
 …見入っちゃってる?
 そりゃもう、洗面台に手をついて身を乗り出すようにしてじーっと見ていた。
 改めて模範生たる彼の倒錯したご趣味を実感しつつこっそり観察していると、奴は飽き
たのか鏡から離れた。
 もう入ろうかとも思ったが、今度は腰から映る自分の素敵バディをご鑑賞なさっている
みたい。どんだけですか?


 もはやオチャ根性丸出しで、それでも奴に気付かれないよう注意しながら見ていると、
奴の視線が下方に動いた。鏡面に映るのと交互に見てるのは…胸、で良いのかな?
 きゅっと小さな口を引き結び、奴は白い右手をゆっくりと持ち上げた。
 そろ~りと持ち上げられたそれは、セーターを悩ましく持ち上げる双丘へと向かう。そ
して、やっぱり慎重すぎるほどの速度で、自身の右乳房に触れた。
 ああ、焦れったいけどそれがイイ!
 下の胸板に伝わる刺激に、わずかに赤い唇がほころぶ。ぷよん、と押し返す感触の本物
っぽさは、値段と俺の折り紙付きだ。
 マジというか神妙な顔をしてしばらくぷにぷにして、何をうかがってるのか上目遣いに
鏡を見る。映るのは、もう片方の手も自身の乳房へと運ぶ黒髪美少女今ならチンコ付き。
 可愛らしい「女の子」になる自分の姿が、同級生である俺にさんざんいじめられてもイ
きまくっちゃうくらい大好きな女装っ子は、それをさらに魅力的にしてくれている美乳が
たいそうお気に召しているようだ。
「…それ、気に入った?」
 とっても前衛的な悲鳴をあげてくれた巨乳優等生(男)をどう料理してやるか考えながら、
俺は改めて技術大国に生まれたことに感謝した。

 (おしまい)



【おまけ2】

 さんざん楽しんだ「プリティーメロン」を外す前に一つだけお願いがあるのだと俺に頭
を下げられ、優等生は困った顔をした。
「こ……これ以上何する気…?」
 黙って立ち上がり部屋を出て行く俺を、不安げに追う須藤。身じろぎする度に吸い付き
振動を与える擬似乳房に、慣れることなく小さく喘いだ。
「ちょっと待ってな」
 階段の踊り場に奴を残し、一階まで下りる。そして、
「……?」
 しゃがみ込んだ俺に首を傾げる巨乳っ娘(男)を見上げた。外ではずっと腕を組んでい
たので、初めて離れた低い位置から見ることになる。
「ああ、この角度だとおっぱいでユカちゃんのお顔が見えないっ!」
「馬鹿かっ!?」
 俺の意図が伝わったのか途端に機嫌が悪くなる。勘が良いのも考えものだ。
「うん、バカでいいからさ、そっからちょっと下りてきてよ」
「はあ?何言って…」
「お願いっ!」
「………もう……っ…」
 ためいきをつきつつも、ノーと言えない日本の優等生は言われた通りにしてくれた。
 たんたんたん、と細い足がステアダウンする度に、ぱゆんぱゆんぱゆんとセーターに包
まれたそこが跳ねる。
 ああ、もうちょっと我が家の天井が高かったらもう数段分楽しめたのにっ!
「っ……な…何が望みだよ…」
 乳房に揉みしだかれた胸板をかばうようにしゃがみ込み、潤んだ瞳が睨み上げてくる。
「ええと、あと二、三回上り下りしてくれる元気ない?」
「俺は昇降運動しに来たんじゃないっ!」
 女装エッチするためですよね。
 しかし、俺だって譲れないものはある。それは奴に対しての絶対的立場と、崇高にして
普遍的なる男の浪漫だ。
「おっぱいはね、皆の希望を乗せて上下だけでなく左右斜めにも揺れるんだっ☆」
「知るかっ!」
 あれほど喜んでくれたのに、彼はその場でその胸ごと服を脱ぎ捨ててしまった。

 (おしまい)

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最終更新:2013年05月03日 17:45