桃色彼女
「…っ……もっ…無理、い……っ!」
上気して桜色になった肌の上で、目にも鮮やかなショッキングピンクがサテンの光沢を
放つ。白いドットプリントがちかついた。
俺の部屋に持ち込んだ、姉貴から拝借した大きなスタンドミラーは、その扇情的な姿を
偽りなく映しだしていた。
「ほらほら、外すのはできたんだから頑張れよ」
同級生にして成績優秀眉目秀麗な須藤豊くんがミニのプリーツスカート一枚といういで
たちで、身に着けたホルターネックのブラのホックに四苦八苦している。
正確には、首にだけ引っかけたブラのホックを留めるため、硬い腕の筋を叱咤しながら
動かしているのだ。
「一つ大人になったんだから、一つ何かできるようになりなさい」
声音だけは優しく厳しく言ってやると、花の17歳になった女装優等生は屈辱と興奮に美
しい顔をゆがめた。
「誕生日おめでとう」
「は…?」
自前のセーラー服の上に羽織っていたコートを脱いだ彼は、部屋に入って最初の俺の発
言にきょとんとした。
十二月も半ばで寒いからと、奴が着替える駅まで持って行ってやったのだ。俺って超優
しい!
「十二月十日。誕生日だったんだろ?」
期末試験終了後の週の半ばの昼休みに、女子がキャンキャンしながら奴の席に集まって
お菓子だのコンビニのデザートだのを持ち寄っていたのを、あの場に居て忘れる奴なんて
いるのだろうか。
「食べきれないから、皆で食べようよ」と非の打ち所のない微笑みに、僻みも忘れてそ
ばの席の野郎共まで女子らと仲良く奴を囲んで食っていたのを思い出し……非常にムカつ
いた。
しかし、奴に手作りプレゼントか何かと共に特攻して告った後輩が、後になって自分か
ら「あたし、彼のこと好きになって良かった…!」と言っちゃえたくらい紳士に、かつ丁
重にお断りしたという噂も思い出し、ぐっと堪えて笑顔を作る。
「早く教えてくれれば良かったのに」とやんわり続けると、裏のなさそうな優しい言葉
を俺にかけられたことのない彼は赤くなってオロオロした。
「ぇ…あ、ごめん…なさい……」
そのセーラー服も、下に着ているだろうブラやパンティーも俺の命令なのに、思わず謝
ってしまう。
嫌われているわけではないが、あまりに生真面目で住む世界が違うと距離を置かれてい
る模範生のこんな顔は、俺しか知らないはずだ。
そして、
「遅くなったけど、プレゼント。着てみなよ」
俺が差し出すクリスマスを意識した真っ赤な紙袋と、下心見え見えの発言に困惑してい
た顔が凍りつく。
さっき謝罪した自分を思いっきり責める悔しげな表情も、俺だけがさせているのだ。
そんなこんなで、冒頭に至る。
ホックが一つだけなのもあり(最初に買った薄桃は二つだから、まだちょっと難しそう
だ)、どうにかこうにか須藤はホルターネックのブラを着け終えた。
「おー、似合うじゃん」
「み…みないで……っ…」
ド派手な色や柄なんだから水着だと思えばいいのに、きれいな黒髪や大人しげな顔に合
わないデザインに、恥ずかしげに胸を両手で覆ってしまった。
まあすぐ使うハメになるから、好きなだけ羞じらわせといてやろう。
「袋ん中にもう一個あるだろ」
泣きそうになりながら渋々奴はそれを取り出し、首を傾げた。
「……?…」
三角に折ったバンダナを二つ組み合わせたような、展開図が幅広の砂時計なそれ。
ブラと同じ布地の、いわゆるヒモパンだ。
「片方先に結んで穿くと良いよ」
それとも一緒に結ぼうか?と尋ねると、ようやく行きたくもないだろう合点が行ったの
か、勢いよく首を横に振った。
逆らうのは無駄というか、余計にまずい状況に陥ると知っているので、彼は速やかかつ
乱暴にスカートと、毛がないだけで形も大きさも申し分ないペニスがきゅうきゅうになっ
ているパンティーを脱いだ。
完全に勃ってはいないが、ほんの少し傾斜を持ったペニスが揺れる。
積極的に誘ってくるのは好きではないが、過程を見られたくて焦って脱ぐ様は、それは
それで鑑賞し甲斐があるので、どっちにしろ俺を喜ばすだけなのに優等生は気付かない。
「あーそうそう、一人でやるんだねえ。おりこうさんだねえ」
サイドのリボンは蝶結びできる長さなのに、ほどけないようにと不器用に固結びにして
しまう。服に浮いちゃうだろとは思ったが、初めてなので目をつぶってやることにした。
「反対側は、穿いたらチョウチョ結びにしろよ」
経験を考慮して譲歩してやったのに、恨みがましく睨んでくるなんて恩知らずな奴だ。
それでもさすがに初めての形に躊躇してから、そろりそろりとパンティーを引き上げた。
すべすべの白いお肌を、どぎつい水玉ピンクが滑り上がっていく。
「……っ……う…」
さっきまで穿いていたモノに比べたら伸縮性がないので、緩く結ぶと落ちてしまう。熱
を持ったペニスを押し込むようにして、ギュッとサイドを結んだ。俺のオーダーどおり、
可愛い可愛いリボン結び。
扇情的な下着姿で、須藤は俺の目の前に立った。
美少女のパンティーの前が膨らんでいる異様さと卑猥さは、ボディビルダーのビキニパ
ンツがもっこりしてるのとはわけが違う。
「えっろーい」
穿く前より気持ち大きくなったそこを隠すように、両手を前に重ねた。
「ほら、手は身体の横!隠さない」
ぴしゃりと命じるとビクリとして直立不動になる。股間もそれに倣おうとして、窮屈な
布に押しつぶされた。
潤んだ目で何か訴えてくる須藤に、俺は尋ねてやる。
「どうした?」
「……ぬがせて…ください…」
おやおや、自分からお願いしてくるなんて、よほど辛いのだろうか。
「どうして?ただ下着を着替えただけじゃん」
「く…苦しいから……」
とは言いつつも、前面にプリント以外の模様がにじんできているのは誤魔化せない。
「あっれぇ~?フリーサイズだから女の子なら合わないわけないのに、ナニが苦しいのか
なぁ?」
おおげさに首をかしげて目の前にしゃがみこんでみせると、少しためらってから奴は再
び口を開いた。
「ま…前、が……」
「前?ユカちゃんはお股の前に何があるんですかー?」
今この瞬間、殺してやりたいほど俺が憎いだろう。
「女の子なのにお股の前がきついなんて、おかしいですねぇ~」
「………ぅ……」
とうとう両手で顔を覆ってしまった。ぐずぐずとパンティーと瞳を濡らして、座った俺
の前で上下とも下着姿のまま立ち尽くしてしまう。
優しく寛大な俺は、助け船を出してやることにした。
「『モロ感のオチンチンがギンギンです』って、言ってみな」
短いセリフに最大限に卑猥な単語を盛り込んで、低く言ってやる。
奴の頭は、初めて口にさせられる淫語でクラクラになっているのだろう。それでも下半
身の欲求には勝てず、震える紅唇をみずから動かした。
「…も……も…かんの…お………ぉ……んち……が……っ」
ベロチューも何もしたことなさそうなピンクの舌にこんな言葉言わせてるのが俺だなん
て、これ以上の興奮はないだろう。
セリフの途中だが、たまらず俺は片側の紐を乱暴に解いた。
スルリと足を伝って落ちるパンティーの中から、押さえつけられていたペニスがブルン
っと起き上がる。
「……ギンギン、だな」
俺の慈悲深さに感動したのか、ショッキングピンクの水玉ブラ一枚の美少女は、その大
きな瞳とペニスから涙を流しながら俯いた。
(おしまい)
最終更新:2013年05月04日 18:43