奉仕彼女

(「偽装彼女」シリーズ・短編)

 寝苦しさを感じてはじめて、自分が眠っていたことに気付いた。
 身体は疲れ切っていたが、かぎ慣れない匂いに意識ははっきりしてくる。壁に寄りかか
り、足を投げだしているようだ。
「…ぅ……ん……?」
 そうだった、今日は高校の文化祭。自分のクラスは喫茶店をする事になって、女子のウ
ェイトレスの衣装作りに一番時間がかかって…ギリギリまで今自分が居る、模擬店出店ク
ラスにあてがわれた普段は生徒に開放していない倉庫の中で、皆で作業していたのだ。
 重い瞼を持ち上げた途端目に入ったのは、白いニーソックスの先にある自分の上履き。
 ……ニーソックス?
 ガバッと起き上がると、眠る前とは明らかに肌に触れるモノが変わっていた。
 冬服のブレザーを着ていたはずが、半袖のパフスリーブブラウスを着ている。
 ぴったりとしたエプロンが、腰をぎゅうぎゅうと締めつけていた。寝苦しかったのも無
理もない。
 下半身にはパニエでボリュームを持たせたパステルブルーのフリルスカートに、最初に
目に入った白のニーソックス。
「こ…これって、」
 ついさっきまで女子らが着ていた、クラスの模擬店の衣装だ。
 例によって誰もやりたがらないので買って出た実行委員は、それだけやる気があるなら
代わってくれと言いたくなるくらい女子らがこれを着た姿を見ることができた。
 外では自分の趣味を隠してはいたが、可愛らしい服にやはり胸の奥が疼いたのは事実。
 そして、少し前の景気づけに皆で乾杯した時に「一着余ってるんだけど、須藤クン着て
みる?なんちゃってー!」などと言われて、表向きには苦笑しつつも高鳴る鼓動を抑える
のに必死だったのも。
 受け取ったジュースを一口飲んだら急に文化祭の準備や、本来の図書委員の仕事での疲
れが押し寄せてしまい、開場までちょっと休もうと座ったのだと思う。
 顔を上げると皆の鞄や空の段ボール、飲んだ後の紙コップ等が散らばる床に、なぜだか
大きなスタンドミラーがあった。演劇部から借りてきたのだろうか。


 たちの悪い冗談に、後でクラスメイトを何と問い詰めようか考えつつも、ふらふらと姿
見に向かう。なんだか頭が重いし、耳がくすぐったいが、気にしてなどいられなかった。
 誰も知らない、明かすわけにはいかない自分の趣味。皆に羨まれ尊敬される、模範生の
自分の女装趣味。
 今は仕方ない。だって、皆が勝手にいたずらして、寝ている自分を置いてさっさと出て
行ってしまったのだもの。
 言い訳をしながらも鏡の前に立ち、自分の姿を正面から見た。
「……っ!…」
 ほう、と思わずこぼれたため息には、学校にはそぐわない情欲が混じっている。
 普段はそんな素振りを見せていないが少女めいた自分の顔は、その可憐な衣装によって
華やかに演出されていた。
 均整のとれた華奢な身体を、愛らしいウェイトレスの制服が飾っていた。
 半袖のブラウスは胸を強調するようなダーツの入ったデザインだが、襟にはスカートと
同じ水色の千鳥格子柄の大きなリボンが付いているので、薄い胸板の自分が着ていてもお
かしくはない。と思う。
 フリルの多いエプロンは、引き締まった腰のラインを強調させるように後ろできつめに
結ばれている。向きを変えて見ると、細い腰で蝶結びにされたレースの幅広リボンがスカ
ートの裾に垂れ、身動ぎに合わせてヒラヒラと揺れていた。
 少し屈んだら中が見えるのではと思うような、ふんわりしたミニスカートから伸びる、
脂肪も筋肉の凹凸も少ないすらりと長い足は、白というある意味下半身には反則とも言え
る色のニーソックスを、問題なく穿きこなしていた。
 極めつけは、本物のように見えるよく出来たツインテールのウィッグである。
 胸のそれ同じパステルブルーのリボンで結ばれた地毛と同じ黒髪が、わずかに顔を動か
す度に耳の横でゆらゆら揺れる。これでは頭も重いはずだ。
 鏡の中の少女にしばしみとれてから、我に返る。こんなところ誰かに見られたら大変だ。
 「馬鹿馬鹿しいことをするな」とクラスメイトに見せるためのお堅い委員の顔を努めて
作り、携帯が入った自分の制服や鞄を探す。


「……あれ?」
 他人の荷物がごちゃごちゃと散乱している中、自分のものだけが見つからない。それど
ころか、もともと着ていたはずの服すら、影も形もないのだ。
 ちょっと不安になってスカートをめくり上げる。大丈夫、下着までは着せ替えられてな
い。というかそこまでやったらマズいだろう。
 エプロン姿なのはあきらめて、せめて髪だけは直そうとツインテールを掴む。文字通り
後ろ髪を引かれる思いだが、嫌がっているのをアピールしなくてはならない。
「……あ、あれ…?」
 どこかピンで留まっているはずなのだが、リボンや生え際の当たりを探しても指にその
感触がない。少々乱暴にツインテールを引っ張ると、外れるどころか地肌が痛くなった。
 手の込んだいたずらに肩を落とし、仕方なく倉庫を後にした。露出した腕や太腿が涼し
いが、寒いと言う程ではない。
 廊下に出ると、臨時開放ということで今日入ったばかりの倉庫なこともあり一瞬どちら
に行けば良いのか迷った。一度来た道は忘れないはずなのに、まだ寝ているみたいだ。
 必死に数時間前の記憶を手繰り寄せていると、少し離れた部屋から何か音が聞こえてき
た。腕時計を見るともう開場時間なのに、誰だろう。
「……?」
 あんまり見られたい格好でもないので足を忍ばせてその部屋の前まで行き、開いた扉の
陰からそっと中をうかがう。


 自分の服装とは別の意味で、カラフルな面々が溜まっていた。
 招待券制とはいえ、規制しろよと受付係に言いたくなるような柄の悪い輩三名が、引き
払った教室の机や椅子の置き場である部屋でたむろしている。髪を真っ赤に染めた背の高
いのと不自然に日焼けした鼻ピアス、白っぽい金髪に剃り込みを入れた細身。
 すべて若い男だが、気怠げな表情と肌のくたびれ具合から同年代より少し上といったと
ころか。煙草をふかしながら下品な笑い声をあげている。
 正直しり込みしたが、火事でも起こされたらかなわない。散々な日だとため息をついて
から、扉を完全に開けた。
「お客様。喫煙所なら職員室前にございますよ」
 声音ににじみ出る棘を隠すことはできただろうか。驚いたように一斉にこちらを見た三
人と視線が合う。少しだけ自分の行動を後悔した。
「…誰?アンタ」
煙草を咥えたまま色黒が尋ねる。
「…ここの生徒です」
「こんな子の居たクラスなんて、あったっけ?」
「あのカッコだから、模擬店じゃね?」
「誰だよつまんねーから店はパスつった奴!」
 幸か不幸か、やはり第三者には自分は女子だと思われているようだ。理性や警戒とは別
の感情が高まるのを抑えつける。
 このまま女生徒だと思わせたまま退去させて、すぐに受付に文句を言わなければ。でも
その前にこの格好をどうにかしないと…
「こ…こちらは関係者以外立ち入り禁止と書いてあったはずです。お引き取りください」
 考えつつ言葉を継ぐと、火の管理はきちんとしているのか床に落とした煙草を念入りに
踏みつけて三人が立ち上がった。
「キミ、一人?」
 金髪が馴々しく手を伸ばしてきたので、思わず後ずさる。黙るのを肯定ととったのか、
三人の笑みが深くなった。
「冷たいなあ。話しかけてきたのはそっちなのに」
 こりずに伸ばされた手が、自分の肩を掴んだ。
「っ…やめてください!」
「まあまあ、そう言わずに」
 色黒に後ろに回り込まれ、文字通り逃げ場がなくなる。警戒が具体性を増した。


「あのっ!」
「胸だけ不合格だなあ」
 真正面から自分を観察しながら、赤髪がつぶやく。値踏みされるように頭のてっぺんか
ら白いニーソックスに覆われた足まで眺め回され、場違いにも鼓動が高鳴る。
 自分の性癖にうんざりしつつ、精一杯毅然とした声をあげた。
「ぁ…当たり前です!俺男ですからっ!」
「はぁ!?」
 間の抜けた声が三様にあがる。
「今さら何言ってんのさ。アンタそのカッコで…」
 後ろから胸を押さえてきた色黒が黙ってしまった。
「どうしたよ?」
 面倒臭げに促す赤髪に、色黒がおずおずと続ける。
「…貧乳すぎてブラしてないとか?」
「何言ってんだお前、これで男なら」
 あきれ声を上げる赤髪に、金髪も掴んだ自分の腕を上げて訴えた。
「マジじゃね?時計もこれ、男物だし」
「………」
 訪れる沈黙に内心胸をなで下ろした。
「…分かったら、離していただけますか?お客様」
 同性に好まれる容姿をした自分は好きだが、男女問わず恋愛感情は抱けないし、正直気
持ち悪い。今まで自分を女だと思って声をかけてきた男達は皆、そうと分かれば離れてい
った。
 今回もそのはずなのだが、掴まれた腕や囲まれた状況はなかなか変わらない。
「あの……?」
「お前さ、なんでそんなカッコしてんの?」
 不意に赤髪が顔を寄せてきた。かぎ慣れない紫煙の臭いに顔をしかめそうになるが、ど
うにか堪える。
「その…いろいろあって、こんなにされました」
 引きつりつつも愛想笑いを浮かべたが、赤髪は興味をなくしたように仲間に声をかけた。
「ふぅん……なぁ、ゴム持ってる?」
「女とするつもりだったから、ねーよ」
「俺も」
「そっか。じゃあケツは使えねーなぁ」
 不穏な会話と、自分の腕を掴む力が緩まないのに不安になる。
「…あの、」
「まぁこんだけ顔が良ければ、それなりに楽しみようもあるだろ」
「な」
「それなりもなにも、俺的には十分」
 三人の含み笑いに、「まさか」という不安が現実味を帯びてきた。


「俺らさー、ナンパしに来たんだけど、ココの女って良い感じなのは皆彼氏持ちなのな」
「へ…へえ……」
 そんなこと知るか、さっさと手を離して出会い系でも漁ってろと言いたいが、舌が強張
りうまく動かせない。
「でも、こんな可愛いウェイトレス見つけちゃったから、テキトーなの引っかけなくて良
かったよ」
「俺たち『お客様』なんだろ?接待してくれるよね?」
「まあとりあえず、そこ這いつくばれ」
 畳みかけられるように話しかけられ頭が混乱したが、最後の赤髪のセリフで現実に引き
戻された。
「ふ…ふざけるな!離せっ!」
 乱暴に腕を振りほどこうとすると、色黒に両肩を掴まれてしまう。
「あーあー、そんな怖い声出さないでよ。もったいないよ~?」
 柔らかな語調の割に強い力で、金髪が腕をひねってきた。
「痛っ!……っなにす…!?」
 赤髪に胸倉を乱暴に掴まれ、言葉を継ぐことができない。
「うるせーよ」
 ギラギラとした目で睨まれ、腹の底がスッと冷える。紛れもなく、自分は怯えていた。


 抵抗がなくなったことに金髪がようやく腕を放してくれたが、かすかに震える肩には先
程のように力は入らず、後ろから掴まれていなければ座り込んでしまいそうだった。
「あーあー、怖がっちゃってるじゃん」
「そんくらいでちょうど良いだろ」
 吐き捨てる赤髪に笑いかけてから、金髪が自分の前に立つ。
「今日は何も用意してないからさ、あんまヒドいことしないから、ね?」
「お前それ説得力ねーよ」
 色黒も笑うのが、掴まれた肩から伝わった。
「…やめて……っ」
 「やめてください」と言いたかったのだが、金髪の指がブラウスのボタンにかかるのに
思わず息を呑んでしまった。
「やめるよー、終わったらね」
 鼻歌さえ歌いながら、リボンの付いた第一ボタンとエプロンのかぶさった所以外のボタ
ンを外していく。
「ひゃ…ぅ……」
 あらわになった胸板の中心を自分と違う体温の指が撫でるのに、思わず声が漏れた。
「イイ声じゃね?」
「ねー乳撫でくり回すシュミねーよ」
 興味をなくしたように離れてしまった赤髪のすげない返事に、金髪が自分と背後の色黒
にだけ見えるように舌を出してみせる。
 そして、あろう事かそのままブラウスの間からのぞく自分の肌を舐めてきた。
「!ぁ…だ、だめ……っふ!」
 ヌルヌルと生温い生き物のような触感に、嫌悪と共に甘い痺れが背筋を走る。
「うわぁ、すっげスベスベしてる」
「は…ぅ………っ!?」
 気持ち悪いような良いような、とにかく奇妙な感覚から逃れたくて色黒の方に寄ると、
片手で肩を掴まれたまま尻を撫でられた。
「締まり良さそうだなぁ、ほんとゴム持ってくりゃ良かった」
 スカートの上から谷間に指を突っ込まれ、恥ずかしさと発言内容の恐ろしさにブルリと
震えてしまう。


「あっれぇ?」
 不意に金髪がスカートの前を押さえつけてきた。
「……っ!?」
 下着の中で、自分のペニスが熱を持っていることに今さら気付き、そしてそれを相手に
指摘されたことに堪えがたい怒りを覚える。
 なんでこんな状況でそうなるんだ!?
「胸とお尻、どっちで感じちゃったのかなぁ?」
「っうぅ………あ、」
 下卑たからかいに目を伏せて耐えていると、後ろからスカートを捲り上げられた。
「うわー。こりゃイカンよ」
 色黒の発言に金髪もその視線の先を追った。
「ほんとだ。パンツもちゃんと着替えろよなー俺白希望」
「ここは黄緑の縞パンだろ」
 好き勝手文句をつける二人に挟まれ、胸と下着をさらされている。赤髪は面白くなさそ
うにこちらを眺め、自分と目が合うと小馬鹿にするように口の端を持ち上げた。
「間とって、脱がしちまえよ」
「あ、そっかそっか!頭イイ~!」
「というわけで、こんな無粋なモノは脱いじゃおうね~」
 赤髪の提案に二人は子供のようにはしゃぎ、自分の下着に手をかけてきた。
「支えてろよ」
「おう」
 先程のように色黒に肩をしっかりと掴まれて、金髪に下着を下ろされる。
 しゃがみ込んだ金髪を蹴り飛ばしたい気持ちは山々だが、視界の端に映る赤髪の冷たい
視線に足が竦んでしまい、何もできない。
「あ、今チンポぷるんってしたよ。でっけぇなあー!」
 窮屈なボクサーから飛び出たペニスを笑われ、消えてしまいたくなる。それをのぞき込
もうと、色黒が掴んだままの肩に自分の顎をのせてくる。ツインテールと男の息が耳や頬
に当たって、くすぐったい。
「何?お前よりデカい?」
「バカ言え。でもこんな可愛い顔して、ナニはデカいって反則だよなー」
「スケベだからじゃね?ほら、女でも処女ぶってる奴のがよっぽど淫乱じゃん」
「あーあーありえるぅ!」
 軽口をたたきながら金髪が自分の両足から下着を抜いたところで、色黒が自分の首筋に
顔をうずめてきた。鼻のピアスが当たってヒヤリとするのだが、本人は痛くないのだろう
か。


「あーなんか、やわこくて良い匂いするんだけど」
「ひゃ……ゃ、あ…っ」
 喉の薄い皮膚を吸われて、頭が真っ白になる。初めての刺激は痛みよりも「汚されてい
る」という甘美な…普通の人にしてみれば異常な感覚に強く訴えかけた。
「…でも、他は皆可愛いのにココだけってのもなんだかなあ」
 エプロンごとスカートをめくり上げ、先走りをにじませる自分のペニスをしげしげと眺
めていた金髪が、「あ」と嬉しそうな声をあげる。
「ウェイトレスさん、それちょーだいっ!」
 言って、首のリボンに手をかけた。蝶結びにされただけのそれは、あっさりとほどけ金
髪の手に渡った。
「……?…」
「何すんの?」
 わけが分からない自分と色黒に笑いかけてから、金髪は上向いたペニスの先をちょんとついた。
「っ!?」
「このチンポ、可愛くしてあげようねぇ~」
 息を詰める自分にお構いなしに、淡い水色のリボンをむき出しのペニスに巻きつけだし
た。わざとなのか不器用なのか、やけにゆっくりとした手つきで蝶結びにしていく。
「…へったくそ」
 赤髪がぼそりと評した通り、長さが余っている割には不格好な縦結びで、ペニスをパス
テルブルーが飾った。
「だって、あんまキツくしたら可哀想じゃん」
「掘るならその方が締まりそうだけどな」
 たしかに、と大声で笑う三人。この声に気付いて誰かが来るだろうか。というか、自分
は来て欲しいだろうか。
 男になぶられて、隆起したペニスにリボンを巻かれた、女装をしている自分を?
「可愛いなあ。ねぇ、ウェイトレスさん?」
 金髪がリボンをちょいちょいと引っ張るのだが、充血したそこをぞんざいに扱われて自
分はそれどころではない。
「ひぁう…っや、やめて……」
「んもう、イヤイヤばっかり言っちゃって!」
「俺ら客だぜ客」
 こんなサービスをする高校の文化祭があるのなら、ぜひとも教えてもらいたいものだ。
絶対糾弾してやる。


 こんな最低な輩に涙は見せたくないので、怒りで必死に恥ずかしさをこらえていると、
自分が本能的に恐れている低い声がかかった。
「いいかげん、おせーぞ」
 赤髪の苛ついたような声に、「おおコワっ!」と耳元で色黒がささやく。ウィッグと他
人の吐息に耳や首筋をくすぐられ、リボンを巻かれたペニスが疼いた。
「はぁい、ごめんごめん」
「美味しいトコどりなんだから、カンベンしてよ」
 あまり反省していない声で、二人が自分から手を離した。恐怖と恥辱に力が入らず、ガ
クリと膝と手を床についてしまう。先程自分が拒んだはずの、情けない格好。その上今は
下着すら身に着けていないのだ。
「ダセえから、こーゆーとこでやるのは嫌なんだけど」
 ぼやきながら再び自分の正面まで来た赤髪がしゃがみ、下を向いた自分の顎に手をかけ
た。
「フェラしたことある?さっきあんだけヨがってたから、後ろもイけるとか?」
 頭が耳に入ってくる言葉を理解することを拒否しているのか、何を言われているのか分
からない。
 ただ、顎を上げられ無理やり合わせられた赤髪の瞳がひどく冷たく、それでいて凶暴に
光っているのに、自分が怯えきっているのは嫌というほど理解できた。


「お願い……はなし、て…」
 震える声でどうにかこうにか懇願するが、背後で閉められる扉の音にかき消された。
「閉場まで、ココは使わないだろ?」
「んーでも、念のため」
 金髪の問い掛けに色黒が答えるのが聞こえる。
 黙ってじっと自分の目を見つめていた赤髪の顔が、不意に和らいだ。
「…顔は、すげー好みかも」
「『顔は』ぁ!?」
「お前どんだけワガママなんだよ?」
 呆れ声を出す二人を「うるせーよ」と睨みつけてから、赤髪が手を離す。
「口開けろ」
 膝立ちになりズボンの前を緩めながら言われて、自分が何をされるのかがようやく分か
った。
「っ!?……ぃ、っ!」
 顔を引こうとしたら鼻をつままれる。驚いて口を開けたところに、赤髪の肉棒を突き入
れられた。
「ぁぐっ!?…っふ、ぅうんっ!」
「噛んだらブッ殺すぞ」
 前髪を乱暴に掴み上げられながら、冷めた声で命令される。
「ぅ、ぐ……っぅ!」
 生臭い味や臭い、腔内いっぱいに頬張らされたモノへの生理的な嫌悪に吐き気がする。
うめきとともに、あれほど耐えたと言うのに涙がこぼれてしまった。
 悔しい…悔しいっ!
「しゃぶれ。イかせたら抜いてやるよ」
「まぁ、次は俺らだけどねえ~」
「余力残しといてよ」
 赤髪に続き金髪と色黒が自分の両腕にそれぞれ手をかける。わけの分からないまま、な
んだか生温い、ヌルリと硬いモノを握らされた。
「あ、あ…やっぱお手てもスベスベして、可愛いっ」
「ちゃんとシゴけるかなぁ~?」
 握らされた上から手を重ねられ、はじめて触る他人の性器…それも、自分をいたぶるた
めのモノを無理やり擦らされている。


「おい、舌使えよ。ゲロ吐かすぞ」
「ぁぐっ!?…っう、う……っ」
 喉奥を抉るように赤髪が腰を突き出してくるのに思わずえずくと、二人が同時に声をあげた。
「ちょっとやめろよ、そんなトコ突っ込みたくないって!」
「次の人のことを考えてくださーい」
 「うるせー」と毒づきつつも、赤髪は腰を引く。
「っは!はふっ……は…っ」
 空気を求め肩と胸を上下させる自分の背を、色黒か金髪が撫でた。
「初めてだったら仕方ないよねえ、喉はいいから、頑張ってペロペロしなね」
「先っちょが狙い目だから、こいつ」
「好き勝手言ってんなよ、早くしゃぶれ」
 赤髪に追い立てられ、恐ろしさにたまらず舌先でそろりと口腔にあるそれをなぞる。味
だとか感触だとかなんて、もはや構っていられない。彼らを怒らせたら…それだけは避け
たい。
「…ん、んっ…ぅ……っ」
 言われた通り歯を立てないよう気をつけて、必死で乏しい雑誌やネットによる知識を思
い出しながら肉棒をしゃぶる。
「ウェイトレスさーん、手がお留守ですよう」
「他のお客様にも構ってくださーい」
 両側からの声に、慌てて両手を動かす。手探りどころか自分のモノでもない性器を慰め
るには、どうしたら良いのだろう?
「下手くそ」
 冷たくかけられる赤髪の声に震え、一度口を離して舌を突き出す。尖らせた舌先で根元
から裏筋をなぞり上げると、目の前に立つ膝がわずかに震えた。
「…できんじゃねーか」
 ここで初めて赤髪が穏やかな声を出した。ゾリゾリと顎や鼻の下を擦る陰毛に眉をひそ
めてしまったが、気付かれなかったのか怒りを買わずに済む。


「ふぁ…っん…ん、む……っ」
「んー、手は口ほどにモノをしごけないなあ」
 両手で二人の肉棒をしごくのは…特に利き手ではない左手でそれをするのは、どうして
も単調に手首をひねるだけになってしまう。
 金髪のぼやきに、どちらの手か分からないがビクリと震えてしまった。この状況で機嫌
を損ねられたら…そして、これ以上ひどい目とはどんな事をされるのか、想像もつかない。
「っご……ごめんなさ……っん、ぅ…」
 しゃくりあげながら、涎と赤髪の先走りまみれになった唇で亀頭を咥え込む。両手をギ
ュッと握りしめて、指に絡むヌルヌルしたものを二人の肉棒に擦り付けていくと、左右か
ら尻を撫でられた。
「っ…あ、ダイジョブダイジョブ。上手だよ~」
「それ、もっとギュって……ぁ」
 色黒が小さく声を上げると、尻を撫でていた手を止めスカートを掴んだ。
「はふっ……む、ぅうんっ……っ!?」
 顔を上下させて赤髪がうめくところを重点的にしゃぶっていたのだが、急に尻を外気に
さらされ動きを止めてしまう。
 そして、
 ぱぁんっ!
「んぅっ!?……っう!」
 おそらく色黒の手のひらが、むき出しの自分の尻を打った。衝撃に思わず口の中のモノ
に吸いつき、両手を強く握りしめてしまう。
 どうにかこうにか、歯や爪を立てずに済んだのは不幸中の幸いだろう。
「あー、かっわいそ~」
 金髪が非難の声をあげるが、加減したのか音の割には痛みはひどくはない。それどころ
かじんわりとした痺れが尻たぶを伝って…浅ましく勃起したままの自分のペニスを刺激し
た。
 家畜のように尻をぶたれて、屈辱的な命令に従わされている。そんな自身の境遇に、場
違いにも酔っている。
「っ…でも、お前らも良かったろ?」
 色黒のセリフに答えない二人。まさか、と嫌な予感がした。
「はぁい、もう一回!」
 ぱぁん!
 楽しげな声とともに尻に下ろされる平手に、ビクンと背がしなる。


 自分の痛みに伴う反応がお気に召したのか、スパンキングが止んだのは自分でも何回目
か分からなくなってからだった。
「いいかげん…っ出そう、なんだけど」
「あ、待って待って」
 赤髪のわずかに掠れた声に、やはり上擦った金髪の声が重なる。
「ウェイトレスさん頑張ってくれたから、ご褒美あげないとねぇ~」
「?ふ、あ……っ!?」
 金髪の手が先程平手を受けた尻を素通りして、股間に来た。そして、
「はぁ~い、クチクチしたげようねえ~」
 ずっと放っておかれてはいたが、この異常な状況下においてなお高ぶり続けていたペニ
スを握られ、リボンごと上下に動かされた。
「あふっ!…ん、ぅうっ!んんっ!」
 ちゅぷちゅぷという自分の舌や唇のたてる湿った音に、リボンを巻いたペニスからの粘
着質な音が混じる。
「お前…ほんとマメだなあ…っ」
「っ…でも、ほら、俺らにも返ってくる、し!」
 呆れ声もはしゃぎ声も、食いしばった歯の間から漏れる息も、切羽詰まったものになっ
てきている。
「…ぁむ……ふ、ぅ…んんっ…っ!」
 自分の亀頭を抉られた時、咥え込んだ赤髪の肉棒も、両手にある二人のそれも我を忘れ
て締めつけてしまった。
 リボンで飾られたペニスから精液を吐き出しながら小刻みに震える自分の口腔に赤髪が、
むき出しの腕やニーソックスに覆われた足などに二人が、それぞれ自分たちの劣情を放っ
た。
 もはや自分の身体は、彼らに汚されていないところを探すのが難しいくらいだろう。


「…おつかれさん」
 達してから最初に声を発したのは、自分の口を犯していた赤髪だった。
「え?続けねえの?」
「インターバルおいてやれよ」
「あー、自分がヌいたからって余裕~!」
 あーだこーだ言いつつも三人から突き放され、とうに支える力を失っていた身体はくた
りと床に横たわる。
「次さあ、俺お口もらっていーい?」
「ああ、二回やったらいい加減慣れるだろ」
 頭の上を飛び交う会話に、まだ続くのかと気が遠くなる。
「たどたどしいのが可愛いんじゃん…あーあー、いっぱいひっぱたかれちゃったね。かわ
いそ~」
 さんざん叩かれて赤くなった尻を、金髪が労るように撫でてきた。
「手コキもなかなか良かったよ、えーっと…」
「そういや俺ら、名前も知らなかったな」
 何がおかしいのか色黒が馬鹿笑いする。
「…あ、踵に書いてた!えーと、須藤ちゃん、だってさ!」
 上履きに気付いた金髪が歓声をあげた。
「へぇー、須藤クンって言うんだ」
「須藤ちゃ~ん、どこのお店なんですかぁ?」
「…今はほっとけよ」
 赤髪の言葉に、金髪も色黒も首を傾げる。
「こいつと同じ服着たクラス行って、メアド聞き出せば良いだろ」
「そっかあ!アッタマ良い!」
「ケツダメにする前に、よーっくしつけないとな!」
 どっと笑う三人は、今度は自分たちの携帯で思い思いに凌辱対象…自分の痴態を撮り始
めた。
 だらしなく開いた口の端から流れる精液や自身の唾液を無意識のうちに舌先で掬いなが
ら、ツインテールのウイッグを無理やり外さなくて良かったと思う。
 この被虐がしばらくは続くのだという悦びに、知らず浮かんでくる笑みを隠すことがで
きるからだ。

 яяя


「…っていう夢をみたんだけど、どうよ一人だけ女装喫茶!?」
「却下!」
「えー?だってウチのガッコにゃ倉庫だってないし、都合良くバイのチンピラが登場する
とか、俺がなぜか全方向ビデオポジションだとか、夢でしかありえないだろー?」
「とにかく却下!」
 結局うちのクラスの模擬店は、無難なお好み焼き屋になった。

(おしまい)


 おまけ
「…っていうか何なんだよ始めの俺の自己陶酔しきった独白部分は!?お前どれだけ俺の
こと馬鹿にしてるんだ!?」
「そうだよなあ、ユカちゃんなら絶対『ご主人様ならもっとヨくしてくれるのにぃ…っ!』
ってモノローグ入れるよなあ」
「ご主人様って何だよご主人様って!?」
「んじゃ『慎吾くぅん』」
「呼ぶか!」
 すっかりご立腹な奴の桃尻を膝に乗せたまま(たぶんこれも不機嫌の理由だろう)、む
きだしの太腿を撫で回す。
「そうだよなあ~。俺だったら絶対、真っ先にお前のところに駆けつけるもんなぁ」
「……はぁ?」
 やってることにそぐわない、男気溢れる俺のセリフに怪訝な顔をする須藤。しかしすぐ
に困ったように可愛い唇を尖らせ視線をそらせてしまった。ちょっと嬉しいんだ?
「だって、そんな貴重なプレイにゃ参加しなかったら損だろ損!?」
「………」
 せっかく姉貴のツテで借りた、ピンクのアン○ラ制服を脱ぎ捨てられる前に、俺は下着
の中へ指を伸ばした。 
(ほんとにおしまい)

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最終更新:2013年04月27日 14:43