監視彼女対面式

(「偽装彼女」シリーズ・短編)

 ジャージを脱ぎながらクローゼットを開け、自分の服と奴に着せる上着を見つくろう。
 扉に付いた鏡には、セーターを魅力的に押し上げるUFO(未確認ふくよか物体)に落
ち着きをなくしているイケメン優等生の姿がバッチリ映っていた。
「…あの、外寒いから別に今日出かけなくても……良いんじゃない、かな?」
 なんとか理由を付けて外してもらおうと必死な奴には悪いが、擬似乳房に胸板こねくり
まわされて上気した肌を冷ますなんて、そんなもったいないことを受け入れる気はない。
 無意識だろうがそんな可愛く小首傾げてくれたって、俺はお前と違っておねだりされる
より泣かす方が大好きな筋金入りのSなので無駄だ。
「何言ってるのーユカちゃん。せっかくそんな可愛い…」
 そこまで言ったところで肝心なことを忘れていたのに気付き、俺は半脱ぎ半着かけの状
態で慌てて廊下に出た。
「いいか?すぐ戻るから脱ぐなよ逃げるなよ?」
「…この格好で逃げられるかよ……」
 念を押す俺に対し、恥ずかしそうに自分の胸に視線を落とす須藤。さぞかし見通しが悪
いことだろう。
 狭い我が家を往復し、姉貴の部屋から長辺三十センチくらいのスタンドミラーを失敬す
る。バレたら半殺しとまではいかなくても殴られるので、あとで指紋をきちんと拭かなけ
れば。
「ほらユカちゃんおまたせ!」
「……何持ってきてんだよ」
「鏡!」
「見れば分かる」
 じゃあ聞くなよと返したいが、目の前にいるのは同級生の須藤豊ではなく恥ずかしがり
屋さんの「女の子」なのだ。


「せっかくそんな可愛いカッコしたんだから自分で見たかったんだよね!気付かなくって
ごっめん!」
「何を馬鹿なことを…」
 テンション落とされてしまう前に、俺は奴の前に膝をつき、姿見を構えた。
「ささっユカどの、この角度だとなかなかの迫力でありますぞ!」
「む…ムッ○に謝れっ!」
 俺的には軍曹さんのつもりだったんだが、こいつの幼少時代はポン○ッキみたいだ。
 まあともかくも、彼は俺の掲げる鏡を見下ろしてくれた。
「………っ!」
 奴の前にひざまずいた俺は、巨乳優等生の美しいお顔の変化をつぶさに拝むことができ
る。
 つまり、「はうっ!?」となって、「これ自分!?ねえ自分!?」となって、ビクつい
た拍子に震える乳房を「うわぁ……」と凝視しちゃう過程を。
 お目々ぱっちり唇プリプリほっぺたつるりんっな美少女は、自分の胸にすっかり見入っ
ちゃっていた。
 サキさんの巨乳を大注目してた時も思ったが、免疫ないだけなのかやっぱり野郎だから
なのか知らないけど、この反応の仕方はかなり面白い。
「……お気に召しましたか?」
 鏡の中の自分の姿は気に入ったかと、暗に揶揄されたことで彼は我に返った。
「っ……で、出かけるんじゃなかったのか!?」
「あれ?さっきあんまし乗り気じゃなかったよね?」
 俺のセリフと、誤魔化すように怒鳴った拍子にたぷん、と揺れた乳房に唇を噛む。
「そ…そういうわけでは…」
「じゃあぜひとも、ご自分で見た感想でも聞こうかなあ?」
「…………」
 UFO(未確認以下略)による胸責めに耐えるか、他ならぬ自身の美乳を見せつけプレ
イさせられるか。
「…出かけたい?も少し居たい?」
「………出かけたい、です」
そういうことになった。

(そしてカラオケボックスへ)

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最終更新:2013年04月27日 14:56