通話彼女

(「偽装彼女」シリーズ・短編)

『……寝とけよ』
 それが昨日から学校休んでるクラスメイトに対する、優等生の第一声だった。
「あーあー、今週のデート中止になったからって、ユカちゃん冷た~い」
 温くなって粘着力の弱まった冷え○タを剥がし、潜り込んだベッド脇のゴミ箱に落とす。
それと同時進行で、午前授業の後まっすぐ帰っただろう相手をなじったのだが、彼の反応
は冷たいものだった。
『期末近いんだからさっさと治せ。お大事に、以上』
「うん、もうほとんど良くなったんだけど、ユカちゃんに『看護しちゃうゾ☆』って言っ
てもらいたくって電話しました」
『……切って良い?』
 雲行きが怪しくなったので、俺は必死で自分の境遇をアピールする。
「だって今俺一人っきりなんだけど!弱ってるのにそんなこと言われちゃ、さみしくって
死んじゃうっ!肺炎んなっちゃう!」
 『それだけ滑らかに話せるならその心配はないだろ』と一蹴しつつも、病人相手に一方
的に電話を切るなんて冷たい真似はできないみたいだ。それは好都合。
「というわけで、ユカちゃんに看病してもらいたいのですが」
『断る。風邪もらいに行く気は毛頭ない』
 毎週女装エッチしには来るくせに。
「ご機嫌斜めですねぇ…もしかして一週間たまった分、もう一人でやっちゃった系?」
『っ…そんなわけ、ないだろ……!』
 今ちょっと詰まってませんでしたか?
「そっか。じゃあちょっとお着替えしてもらおうかなあ…どうせ今普段着だろ?」
『はあ!?』
「せっかくだからナースっぽく、白い下着着て欲しいなっ!あったでしょ?ブラもパンテ
ィーもオソロでリボン付いたやつっ!」
 買い揃えたそれらを思い浮かべながら言うと、しばしの沈黙。
『………ふざけるな』
 うわぁ、お顔が見えない分ハスキーボイスがとっても怖い。
 たしかに怖くはあるが、敵ではないので俺はわざとらしく溜め息をついた。
「あぁ…俺今病み上がりで手元が不如意だからさ、うっかりアドレス間違えてお前じゃな
い人にお前の大事な大事な画像送っちゃいそう」
『…っ!』
 ガタンッと、椅子から転がり落ちるような音がする。冷静沈着頭脳明晰な須藤君にある
まじき動揺っぷりだ。


『……き、着るからっ!着ます!…白で、白で良いんだろ!?』
「あ、そう?そんだけ乗り気なら上にスリップも着て、鏡の前行って欲しいな。無料通話
少ないからさっさとしてね」
 言うだけ言って携帯を枕に乗せると、俺はリビングまで降りて冷え○タの新しい袋を取
ってきた。奴の性格的に俺からの応答がなければ、自分から言い出した以上命令をこなし
てくれるだろう。
 枕元に置きっぱのエ○アンを飲んでから、フィルムを剥がしてプルプルのジェルを額に
くっつける……気持ち良い。
 うっとりしながら再びベッドに寝っ転がり、掛け布団を肩まで引き上げてから悠々と携
帯を掴んだ。
「……用意できましたかぁ~?」
『…き……きた……』
 あらら、もう屈辱たっぷりな声出しちゃって。
「鏡見える?」
『……見える…』
「んじゃあ分かるよね。何を着ましたか?上から順に答えてください」
『っ…お前が、さっき言った通りだよ……!』
「えぇ~?だって電話だし、本当にユカちゃんがそうしてくれたか見えないから分かんな
いもん。答えてくださぁ~い!」
『…元気じゃないか』
「ああ、熱で手元がっ」
『っし、白っ!白いの着てるっ!』
 清純派で攻めてくれてることを宣言してくれた相手に、さらに問いかける。
「白いの?白い…ナニを着てんの?」
 気分はイタ電話野郎だ。しどろもどろと、俺が流した言葉を繰り返す須藤。
『…す……スリ…プ、と………その、ブ……ジャー……』
「あとは?」
『…………した、を…』
 下着もチンコも「下」だなんて、お前はどこの処女だ。
「下を?どうしてんの?まさかパイパン気持ちいいからってスッポンポン?」
『ちがっ……ぱ…………ぱんつ、はいてる…』
 短いセリフを、上擦った声でどうにかこうにか絞り出した。
「ふぅん…その可愛い可愛いおぱんちゅは、今そっから見えてますかぁ?」
 思いっきり馬鹿にしたように尋ねると、悔しげに唇を噛むのが分かった。
『……隠れて、る………』
「そう。じゃあちょっとそのまま膝立ちになって、スリップの裾上げてってよ」


 「ゆっくりね」と注文をつけたところで、もう一つ思いついたので追加。
「…俺にも分かるように、今どこまで見えてるか中継してね」
『なっ………何言って……』
「何って、たとえばパンティーのエッチなお山が見えてますとか、おへそ見えましたとか」
『…………』
 ためらう「女の子」の背中を、俺は優しく押してやることにした。
「……あー、熱で目まいが」
『ぁ…足っ!…見え、てる……その、下着、も………出た…』
 鏡の前、片手で携帯を耳に当てながらスリップを捲り上げていく少女の…それもショー
ツの前にありえない隆起のある、そんな美少女の姿を思い浮かべる。それこそ熱でもある
んじゃないかってくらい頬を赤く染めて、自分の痴態に見入ってしまっていることだろう。
「んんー、ごめんねぇ。一生懸命言ってくれてるのに、直接見てあげられなくってー」
『っ……よく、言うよ………ぅ、上まで、いった…』
「上?上って、どこまで?」
『どこまでって、その……むね、のとこ……』
 ごにょごにょと言葉を濁すが、許すわけがない。
「胸って?白ブラ見えてんの?」
『……はい…』
「つまりユカちゃんは、一人っきりで鏡に可愛いブラとパンティーを見せつけちゃってるんですか?」
『………は……ぃ……』
 自らの意思でそんな格好をしていることを、馬鹿正直に実感させられたのか、蚊のなく
ような声が返ってくる。
「…じゃあ今度は、そのままパンティー下ろしてごらん?膝まででいっから」
 当然ながら「はい分かりました」という色良い返事はもらえない。
 先程のように急かすのも悪くないが、同じ手を使うのは芸がないので趣向を変えてみる。
「そうだねぇ…ユカちゃんから可愛いお股がよっく見えるように、スリップを口で押さえ
てから、やってもらえるかな?」
「っ…わ、わかった!わかりました……っ!」
 黙っていれば恥辱が重なるだけだと察知したのか、今度は慌てて同意してきた。
 違いに無言のまま、奴の衣擦れの音だけがする。携帯を持ちながら、片手でたどたどし
くスリップやショーツを掴んでいる想像が膨らむので、これはこれで楽しい。


『っふ………ぅ……っ』
 くぐもった吐息は、多分言われた通りスリップの裾を咥えているからだろう。ワンピの
時寒そうだからと着せてたのだが、思わぬ便利アイテムになった。
 すらりとした腿に絡みつき、丸まっているのだろう可愛らしいショーツの前は、はたし
て濡れているのかいないのか。
「ひ……ひやひたっ…」
 何言ってんのか分からないが、すでに泣きそうな声なので突っ込まないでやろう。
 清楚な黒髪美少女が、白い下着を自ら引き上げて、その滑らかな肌を、ブラを身に着け
た胸板や剃毛ペニスを鏡面にさらしている…なかなか絵になるじゃないか。
「……はい、口放していいよ~」
『…っふは………ぁ…』
 息を詰めていたのかしばらく相手が呼吸を整えるのを待ってやってから、俺は口を開い
た。
「……で、どうなってる?」
『どうって……』
「可愛いスリップが、なんか変なモノで上がってませんかあ?」
『………っ!?…っそ、そんなこと……』
 あらら、黙っちゃった。
「…どうなの?なんともないのか……勃っちゃってんのか」
 ノーパンスリップ姿で鏡の中の自分と向き合う優等生は、はたして何を考えているのだ
ろう?
「………ユカ?」
『…った……たってる、たってます……!』
 震える声を耳に心地よく迎え、俺は目を閉じる。第三世代ケータイは相手のかすかな息
遣いが切羽詰まったものになってるのまで、それはもう忠実に伝えてくれていた。
 やっぱこいつ、根っからの変態だ。こんな、いくらでも誤魔化しようのある命令に従っ
てしまっただけでなく、あまつさえ勃起してしまったことすら俺に伝えているのだ。
 快哉を叫びたくなるのをどうにか堪え、俺は気のない声を作る。
「……あっそ。じゃあ俺、疲れちゃったんで失礼!電話ありがとっ」
『え!?あ、あの…ちょっと!?……』
 慌てふためく相手の声が聞こえるが、ためらうことなく電源ボタンを押し通話終了。
 はじめはあれほど嫌悪丸出しな声だったくせに、最後にはすっかり引き止めるようなも
のになっていたことに一人笑いだしてしまいそうだ。
 疼く身体を持て余しているだろう相手を想像して、俺は気分良くもう一眠りすることに
した。

 (おしまい)

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最終更新:2013年04月27日 14:59