教演彼女
「ええと……ちょっと、小さいんだけど…」
そう言って須藤は黒縁眼鏡の向こう側から俺を見た。勉強ばっかしてるくせに視力が良
いだなんてつくづく反則な優等生なのだが、これはこれで眼鏡男子大好きな女子たちが鼻
血噴いて喜びそうなハマり具合。
ただし、着ている服は午前中の男子制服ではなく、すべて通販で買ったエログッズなの
だが。
「ああ、良いの良いの。似合ってるよ」
異様にピタッとした白ブラウスに、これまたボディコンシャスな黒いタイトスカート。
オプションとしてブラウスやスカートに浮いて見える黒ブラショーツに、今奴がかけてる
伊達眼鏡、さらには伸びる指示棒(ボールペン付き)まで付いてる出血大サービス具合。
ベージュのストッキングも欲しいところだが、「あこがれのイメクラプレイ☆女教師編
台本付き」セットにそこまで求めるのは贅沢ってもんだろう。
俺の褒め言葉に耳を貸さず、ブラウスに透ける黒い下着に頬を赤らめる美少女は床にぺ
たりと座り込み、妙にスリット深いミニ丈のスカートを押さえている。スラリとした腿の
形がはっきり分かるほどぴったりした布地では、萎えた状態でも股間のモノを隠せないん
だろう。
俺の家に来るなり目の前で着替えを命じられた彼がそれに従うのは、ひとえに俺のジャ
ージのポケットに入った携帯のためだ。正確には、そん中に入ったこいつの変態女装趣味
の動かぬ証拠。
これが俺の手からなくならない限り、秘密の遊びを暴かれた須藤豊くんは「女の子」と
して俺に服従しなければならないし、逆に言えばこれがある限り俺はこの、顔だけは最高
に可愛いイケメン優等生で存分に遊ぶことができる。
もっとも最近は恥ずかしがりつつも女物の服に慣れてきたようで、俺個人に対してはと
もかく、この遊びを本気で嫌がってるようには思えないんだけど…あ、つか歯向かったら
もっと恥ずかしい目に遭うからか?まあ結果オーライということで。
「じゃあ、今日はコレで遊ぼっか!」
「………は?」
満面の笑みで俺が差し出した冊子…「乱れる女教師~淫楽の課外補習・女性パート」と
表書きされたものを見て、コスプレ優等生の顔が強張る。表紙でこいつと同じ格好をして
机の上で足を組んでいる、微妙に薹が立った女優と目でも合ったのだろうか?
「な、何それ……?」
「何って、台本。これお前のな。俺はこっちの生徒編使うから」
「乱れる女教師(以下略)」ごっこをしようという分かりやすい提案を、賢い頭が理解
するのには結構な時間が必要みたいだった。
「…………馬鹿かお前!?なんでそんな…」
全身で拒否りつつもなぜだか頬を赤らめてるのは、女教師に何かエロい思い出でもある
のか?
「まあまあそう言わずに」と構わず奴の前にピンク基調の台本を置き、ブルーの野郎パ
ートをパラパラめくる。
「シチュは教室エッチだから、ちょっと狭くなるけど椅子くらいは出そっかね?」
「…………」
ガタガタと学習机から椅子を持ち出す俺を、レンズの奥から軽蔑しきった目で見つめる
須藤。ちょっとわざとらしい黒縁伊達眼鏡は、かけ慣れないモノだというのにめちゃくち
ゃ様になっていた。元が良い人は何でも合わせちゃうんですね。
「それ、生徒の名前が空欄になってるから、適宜『ああん、村瀬クンっ』て呼んでね」
「断る!こんなくだらない真似できるかっ!」
にべもなく吐き捨てられるが、せっかく自腹切って買ったのに使わないのはもったいな
い。
「そこをなんとか!ガラスの仮面をかぶって付き合ってよ!」
「別にかぶりたくないし…」
埒が明かないので、俺はジャージのポケットに手を突っ込んだ。そして、
シャラーン。
「な………っ!?」
耳慣れた撮影音に白い面が青ざめ、黒い双眸が自分に向け構えられた携帯を呆然と見つ
める。
「…撮っちゃった。ユカちゃんの女教師姿~!」
「………っ…そんな……!」
抜きざまにシャッター切ったから、俺に向いた画面には見事なピンボケ画像が映ってい
る。だが、そんなの知らない相手はうろたえまくって俺の手元を注視していた。
「遊んでくれなきゃ、コレどうしよっかなあ~……ねえ?須藤クン?」
「わ…分かった、分かったから!読めば良いんだろ読めば!そしたらそれ消せよ!絶対消
せよ!」
本来ならこいつにそんな権限はないのだが、どうせ何も写ってない画像なので俺は素直
にうなずいた。
「はいはい、分かりましたよ…今度はきちんと決め顔で撮ってあげるね!」
「要らない!」
ぴしゃりと拒絶しつつも、奴的には写ってもいない恥ずかしい画像を消去する約束にこ
ぎつけたのが嬉しいのだろう。さっさと終わらせようと受け取った台本を開いた。
「やる気満々で嬉しいなあ…んじゃあ俺座るから、ドアんとこからスタートな」
「…分かりました」
不本意そうな奴の返事でクランクインと相なった。
椅子に座り、机に見立てたベッドに足を乗せた俺は台本を開く。面倒臭いから導入は端
折って、いきなり生徒が襲いかかるシーンからにしよう。
不良生徒に補習を命じたは良いが、忙しさに自分が施錠する時間になるまで忘れてた女
教師が、ようやく教室に着いたところ。部屋のドアに素足で立った須藤は俺の発言を待っ
ている。
「…んじゃ16ページからな。『待たせたからには、ちゃんと補習してくれるんだろ?先生』」
「ええと…『な、何を言っているの?もう下校時間よ』」
ぺたぺたと裸足で椅子の横まで来る。真面目な彼らしく、やるからにはきちんと演じて
くれるようだ。もっとも、ほれぼれするほどの棒読みだったが。
「『今の今まで可愛い生徒ほっぽっといて、よく言うよ』」
「『だからそれは謝るわ…だいたい、あなたがあまりにも目に余る態度だからいけないの
よ』…って、ひどい教師だな。生徒も早く帰れば良いのに」
エロ台本片手に憤慨してくれるが、こんなんにマトモな筋書きを求めちゃいけないと思
う。
「『ふぅん?』」
言って立ち上がり、相手をまじまじと見る。羞じらうように台本を黒ブラ透けた胸元に
寄せてくれるので、演技にも熱が入るってもんだ。
「…『……ど、どうしたの?』」
近くで見るとタイトスカートの両脇に、下着のラインがくっきり出ちゃっている。この
ぱつんぱつん具合は、後ろ姿を見るのが非常に楽しみ。
「『先生知ってた?俺、前からアンタのこと…』」
「………」
「…次、そっちだろ」
「え?……あ、カッコ遮って、『知ってるわ、私のことが疎ましいんでしょう?いつもそ
うやって…』はい次」
「カッコは言わなくていいから『それは違うなぁ…先生』」
言って相手に急接近し手を伸ばすのだが、振り払われてしまった。その動きは台本外だ
ぞ。
「何するんだよ!?」
「ナニって、『ここで生徒、教師の顎を持ち上げる』って書いてあるんだもん」
「え?……あ、ごめん」
台本を確認しつつちょっと顎を上向ける。本人は次の自分のセリフを追うのに夢中なの
だが、黒髪眼鏡な美少女がそんなことすると、角度的に「チューして」だ。
細い顎に指をかけ顔を寄せれば、無理やり視線を合わせられた須藤は困ったように目を
閉じてしまう。ほんのり上気した頬を包むように撫でながら、俺は続けた。
「『…スケベなカラダしてるなあって、ずっと見てたんだよ』」
演技とはいえ俺も本人も思い当たりまくりなので、微妙な沈黙が流れる。
「………っ『な、何を馬鹿な…私は教師よ!あなたは…』……って、本当にいつまでこん
な馬鹿なことやってんだよ!」
耐えきれず俺から逃げる須藤。パツンとしたスカートなので、案の定後ろを向くとショ
ーツのラインがバッチリだ。極端に布面積が小さいので、服の上からだと紐だけ穿いてる
ように見える。やーらしい。
「いつまでって、最後のページまでだけど…それとも最初っからやり直したいわけ?セ・
ン・セ?」
「………っう……!」
甘えるように尋ねれば身震いしつつも、あきらめたように俺のそばに戻る。台本通りブ
ラウスのボタンを二つだけ外しながら、唇を噛みしめる相手にささやきかけた。
「『おっと…声出しちゃ、困るのはアンタだよ?こんな人気ないとこで生徒誘惑して…』」
「や……『やめなさい…あっ!』」
ぴちぴちのブラウスは、留めるものがなくなれば簡単に前が開いてしまう。安っぽいテ
ラテラの黒ブラを掴み揉む真似をして、やっぱりペラペラのスカートが包む小さな尻に左
手を回した。
「っ…ひゃ……ん…っ『い、いや…………そんなこと…』」
「『ははっ……アンタ、本当教師にゃもったいねーよ。イイ乳してんじゃん』」
カップの中に指を突っ込んで乳首をつねり、台本にはないけれど尻たぶをもにゅもにゅ
する。画像のためか必死にセリフを読み上げるのだが、声を詰まらせるのは演技だけだろ
うか?
「ほらほら、次お前だってば」
「ん、ぁ……あ、しゃ、しゃべれな…っ離して!」
ぷりぷりした尻を揺すって俺の胸を押してくる。片手に台本さえなければ、それこそA
Vみたいなポーズだ。ブラの下の乳頭は、すっかしコリコリになっちゃってるし。
「『離して』って、これ遊びなのに本気で感じちゃってんの?ユカちゃんは」
「っう…うるさい…っ!」
両手を離すとフラフラしながら後ずさり、何とかセリフを続ける。
「『あぁ…許して、村瀬君』ええと、ここで机に乗っかる?」
「ないからそこ乗っちゃって」
台本では生徒が「荒々しく」机に押し倒して服を剥ぐのだが、それじゃあせっかくの眼
鏡が外れちゃいそうなのでパス。
代わりに、他人のベッドということでお行儀よく浅く腰かけたコスプレ優等生の足を抱
えあげ仰向けにしてやった。
「ぅわっあ!?な、何して……!?」
「はいはい、まだ俺のターンだよ~?…『やらしいの着けて、誘ってんのかよ?センセ』」
白い足の付け根に覗く黒いショーツを指し、下品な笑い方をする。断っておくが、あく
まで演技だ。
着せられたものだというのに恥じ入るように頬を染める須藤は、下着の意味がないくら
い小さなクロッチからはみ出たナニやらナニやらを必死に隠そうとする。股を開かされた
せいでスカートはずり上がり、片手には台本を持ったままなのでなんの役にも立たなかっ
たが。
「早く次のセリフ言えよ」
「え…あ……『そんなぁ……お願い、見ないで!』ほんとに見ないでくれ…っ!」
知ったこっちゃないので左手で右膝の裏を掴みあげ、大きく開いた腿の付け根をなぞっ
てやる。
「×××に指を差し込み…って、真似だけな『……なんだ、もう濡れてるじゃねーか』」
正直それじゃあただの痴女だと思うのだが、時間内に撮影を終わらせるには強引な展開
も致し方ないんだろう。
ちなみにこっちの「先生」のペニスは、ショーツの脇から飛び出た竿がタイトスカート
に押しつぶされてて、かなり苦しそうだ。淫乱度はどっこいどっこいってとこか。
「『どうして欲しい?せぇ~んせっ?』」
「…ひぅっ…さ、さわ…ないで……っ!」
ショーツに収まらないと無毛の睾丸をつつけば、台本を取り落としかけながらいやいや
をする。ここはお堅い女教師が教師の仮面をかなぐり捨てる大事なシーンだから、きちん
と演じてもらわなければ。
「…違うでしょ、次のセリフは?」
「『あ、あ………オ』………お?」
その格好で小首を傾げられても。
「…伏せ字が分からない。何この『オ××コ』って?」
「…………」
思わず手を離してしまった俺に、「ほら」と起き上がって台本を見せてくる。「泣き叫
びながら生徒にすがりつく」はずなのだが、これでは勃ったモノも萎えそうだ。
「一文字増やせば『女の子』もしくは『男の子』?でもどっちにしろ後に続く『してぇ~
!』とは合わない気がするんだけど」
至極真面目に台本とにらめっこする優等生。
はだけたブラウスから黒ブラと色付いた乳首を覗かせ、捲れ上がったスカートもそのま
まに悩ましく眉根を寄せている。
天然、おそろしい子…!
答えを教えてやって恥ずかしがるのを見るのも楽しそうだが…さて、どうしたものか。
「なあ、おい……?」
反応しない俺の袖を引っぱってきた白い手を掴み、ちょっと考える。そして、
「ひゃっ!?」
もう一度仰向けに倒した。
「な…何するんだよいきなり!?」
「理屈じゃない、感じるんだ!」
「え?あ…何それわけ分からな……んっ!」
慌ててページを見直す須藤の足の間に手を突っ込み、ショーツを引き下ろす。そんな一
生懸命読んだって、「生徒、教師のペニスをわし掴みながら」なんて指定はないっての。
もう片方の手も再び黒ブラの中に突っ込みながら、俺はレンズの向こうの黒瞳にニッコ
リ笑いかけた。
「ええと、次の俺のセリフは…『補習はまだまだこれからだぜ、先生?』!」
「それじゃあジャ○プの打ち切り漫画じゃないか!」
大丈夫。台本はまだまだ続いている。
(でもおしまい)
教演彼女おまけ
「お疲れさまぁ~…ユカちゃん?」
ベトベトになった股をカーペットを汚さない程度に拭いてやって、汗で曇った伊達眼鏡
を外してやりながら声をかけると、はっと我に返った相手は俺から逃れるように身を縮め
てしまった。
前面に細長い三角の布が付いてる程度の黒ショーツを引き上げ、揃いの黒ブラが半分飛
び出てしまっていたブラウスの前をそそくさと合わせる。汗ばんだ肌はまだほんのり桜色
で、しとやかな仕草にそぐわないことこの上ない。
途中から台本を大幅に無視したプレイにはなったが、「乱れる女教師(以下略)」ごっこ
はなかなか刺激的だった。
黒ショーツを膝に引っかけて「ああ…だめ、村瀬君」とたまらないセリフを吐きながら
イってくれた「先生」が俺の目から肌を隠すことに躍起になっている間に、ベッドの前に
置いていた椅子を戻すことにする。
「っ……と、と…」
奴ほどではないとはいえ、不安定な姿勢でアレコレしてたせいで立ち上がった足がもつ
れ、机の角に椅子をぶつけてしまった。ゴチャゴチャと積ん読状態だった予備校のプリン
トが、その衝撃で数枚落ちてしまう。
「…あ……」
俺が椅子を置き直す間に、身繕いを一応は整えたらしい須藤がそれを拾い、俺に渡して
くれた。この見た目が行動の美しさにそのまま反映されちゃってるところも、女子やら後
輩らに崇拝される一因だろう。
「さんきゅ」
「待って、そこ、足のとこにもう一枚…」
力なく座り込んでいたのに腰を浮かせて机の下に手を伸ばす。白いうなじに汗が一筋流
れているのが目に入り、喘ぎまくった挙句のかすれ声と合わせてまだ抜いてない俺には非
常に煽情的だ。咬みつきたい。
「はい…………ん?」
ぺたりと座り込んで拾ったプリントを俺に差し出そうとした須藤が、その内容に目と動
きを止める。
「……どしたん?」
たしか予備校の小テストとかまとめプリントとか、そのあたりのものだったと思うのだ
が、何かあったのか?
首をひねる俺の前に立ち上がる細い足は、長時間不自由な姿勢を強いたせいかひどくよ
ろよろとしていた。
「……なんだ、これは?」
男にしては細い声が、さっきまでの熱が嘘のような冷たさと、地を這うようなすごみと
を持って発される。
向けられたのは案の定昨日の小テスト。
実に正解率二割という、関係代名詞穴埋め問題十五問である。ま
あ試験の度に全科目において成績上位者の筆頭におられる優等生には、マジありえない点
数だろう。
「悪かったな、初めて見る数字にビックリですかね?」
「点数なんかどうでも良い!この単元は先月終わったはずなのに、今週のテストでなんで
こんな間違いだらけなんだ!?」
上部の日付を指差しながら詰問する女教師は、なかなかご立腹の様子である。しかしで
きないものはできやしない。
「そうはいってもさあ…わけ分かんねーんだからしゃあないだろ?第一関代ってナニがth
atになるか全然さっぱプーなんだもん。俺だってそんなんでもそれなりに考えたんですぅ
ー!」
「じゃあこの五問目、明らかにモノなのになんでwhoになってるんだよ!?」
腰から下フラフラだろうに、毅然と答案を突きつけてくる。
「ああ、それ書いてる途中でウトウトしちゃってた。そこはアレだろ?所有格だからフー
ズだかなんだかだろ?」
「っ……だから、せっかく分かってるのになんでそれを活かさないんだって聞いてるんだ
!」
ちょっとムッとはしたが、相手の目尻にまだ乾いてない涙の跡を見つけ溜飲を下げる。
保健体育の実技が英語に変わっただけだ、話くらい聞いてやろう。
悄然と見えるよう黙ってじっと相手の顔を見つめる。しばらくすると奴の方が視線を逸
らした。
「……これ、裏使って良いか?」
プリントの何も書かれてない面を指し尋ねてくる。
「どうぞどうぞ。お好きなように」
他人事のような俺の態度に眉をひそめつつ、裏返した答案を机の上に置く。何か探すよ
うにキョロキョロしたと思ったら、使わないまま放置していた指示棒を手に取った。
銀色をした伸縮式のそれは、こいつの着てる服を含めたイメクラセットの付属品である。
先っぽがボールペンになっていることに、目聡く気付いたのだろう。くるくるとキャップ
を外し、白い紙に何やら記入し始めた。
「……何してんの?」
「ちょっと座って待ってろ」
座った方が良いのはそちらだと思うのだが、指示棒を握った手はぶれることなく美しい
直線を引き始める。直訳すると「邪魔すんじゃねえよ」か。
戻したばかりの椅子に腰を下ろし、真横で立ったまま作業する須藤を眺める。屈み込ん
でいるので、後ろに突き出されたぷりっとした小さな尻が見放題だった。今触ったら怒ら
れそうだな。
黒いタイトスカート越しに、ショーツの両サイドのゴム紐がねじれているのが分かる。
どうせすぐ着替えるからと、とりあえず引き上げたんだろう。
薄い肉付きながらまさしく桃尻という呼び名がふさわしいそこは、それこそ何かの公式
があてはまりそうなシンメトリーな曲線を二つ描いている。腰部に浮き上がった下着のラ
インは、なるほど、だからTバックなんですね!と膝を打ちたくなるくっきり具合だった。
しわだらけになってしまったブラウスからはホックの外れた黒ブラが透け透けで、うっ
とうしげにかき上げても汗で幾筋か首や額に貼りついている黒髪とあわせて、非常になま
めかしい。エロ教師万歳だ。
「……はい」
俺が視姦していることにも気付かず書き物を終えたらしい相手が、そのプリントを向け
てくる。
右上に教科書に載ってたのと同じような、格と先行詞の表があり、十分な余白をとった
その下に、表の問題が書き直されている。罫線も定規もないのに、えらく読みやすい。
「もう一度解いてみろ」
「うえっ!?マジで?」
こいつと違って「出来なかったところは当日中に復習」だなんて習慣はないから、自分
で答え合わせしたとはいえできそうにない。むしろ前より取れない自信あるぞ。
しかも十五問をシャッフルしてくれちゃってるので、裏透かしてカンニングもできない
ときたもんだ。早くも「はぁーーーっ!」という溜め息と軽蔑しきったようなこいつの顔
が目に浮かんでくる。
「……前より悪い点でも怒らない?」
受け取った指示ボールペンは奴の体温でほんのり温まっている。この程度の優しさで良
いからと願いを込めて見上げてみると、
「怒るも何も、これから一緒にやるから」
思いがけないセリフに思わず相手の顔を凝視すと、「こっち見るな」と冷たくあしらわ
れてしまった。
「よく見ろ」
言われた通り、ご本人と同じく端正な文字の並びを眺める。
「……うん、右上がりで中心線が通っている。粒も揃っていて、とてもきれいな字だ」
「違うっ!文字じゃなくて文章を見ろっ!」
褒めてやってるのに、なんてつれない奴だろう。
「……見てますよ」
「文頭以外でカッコの二つ前にtheがあるものを探して、丸付けろ」
有無を言わせぬ口調に仕方なく、先程亀頭責められてアンアン啼いてた優等生のおっし
ゃるとおりにする。
「…ええと、三つ前のも入れる?ザ・オンリーパーソンって書いてんの」
「ザじゃなくてジ。それもonlyを四角く囲って丸つけろ…うん、よく見つけた」
さりげなく褒めてくれるのは、たぶん女子に教えてあげる「須藤クン」モードの名残だ
ろう。
「じゃあその丸付けた問題にはthatを書け」「…えー………っと、はい」
「次は先行詞にallが付いてるもの、主部が人とモノや動物の組み合わせのものを丸付け
ろ」
おお、なんか指示内容がレベルアップしたぞ。ご期待に応えられるかな。
「………そう、そうしたらそれにもthatを書き込む」
素直に作業に取り組む。
「この問題に限ってはこれだけチェックすれば大丈夫。あとは表見ながらで良いから、好
きなように当てはめてみろ」
こいつのおねだりリップから「ハメて」だなんて、できればさっき聞きたかったものだ。
「………ん……埋まった!」
「じゃあ、裏返して答え合わせしてみろ」
「はぁい」と気のない返事をしつつ、赤ペンでなぐり書きした解答と照らし合わせてみ
た。
………なんということだ。
「…全問正解」
「ほら、ちゃんとできたじゃないか。だから基本は分かってるんだか…っら!?」
こともなげに俺の感動をスルーし、また説教に戻りかける須藤の袖を引っ掴む。
「あなたが神か!?」
「先月先生が言ってただろ!?板書までしてたじゃないか!」
ああ、書いた覚えも聞いた覚えもないので、おそらく寝てたんだろう。
それをいうと乱れ髪もセクシーな女教師はあきれ顔で嘆息した。
「ったく……できるはずの問題ができないなんてもったいないだろ?今言ったのを右上の
表に書き込んで、見ながら朝晩一通り全文書いてみろ。今みたいに俺が言わなくてもでき
るようになる」
そりゃあそんなに真面目に取り組めば嫌でも身に着くだろう。
そうは思いつつも思わぬサービスをしてくれたことに感謝して、俺は魅○のように答案
用紙を掲げ持って相手を見上げた。
「わぁい、ユカちゃんの愛情が一画一画に詰まったプレゼントだあ☆うれちぃなあ~!」
「詰まってないしお前気持ち悪い!」
俺の○ラは女装Mっ子でツンツンみたい。
「…まあ冗談はともかく、やっぱ俺英語ダメだから無理だわ日本人だし」
「日本で英語勉強してんのはほとんどが日本人だろ…中学生みたいなこと言うなよ」
「だいたい覚える単語も似たスペル多くてさっぱりだっての。こないだもガッコの小テス
トに出てたサティスファクションにサクリ…フェイス?ファイス?まあそのへんの、よく
分かんねー」
俺的には深刻な悩みなのだが、日々コツコツ型の優等生は理解できないのか眉をひそめ、
それでも悩める同級生に応えてくれた。
「そんなの、もう無理やり覚えるしかないだろう……それだったらたとえば『サティに満
足』とか、自分で文にすれば?」
「………は?」
何を言ってんのかと、至極真面目な顔をしたコスプレ優等生を凝視すると、きょとんと
して見返してきた。
「…だから、サティ何とかかサクリ何とかの違いだから、出だしで覚えれば良いだろ?サ
ティ知ってるよな?あれで」
「…………っ」
駄目だ!
悪いとは思いつつも、俺は盛大に噴き出してしまった。
「……え?あ、どうした…」
「さ、さくっ……サティだって!?そっか、そうだよねえっ!く…うくく……っ!」
俺の声音からどうやら笑われていることに気付き、にわかに白い面を紅潮させ睨みつけ
てくる須藤。
「なっ……なんだよ、何がおかしいんだよっ!?」
わけが分からないと言わんばかりに憤慨しているが、いつも澄ました顔した模範生の彼
が、予備校の参考書みたいな語呂合わせをしてくれちゃってることに腹筋が崩壊しそうだ。
「…ぅ……く……ふ、ぷぷ…」
「え?なんでそんな…え?…ぁ………っ!」
悶え続ける俺の様子に自分の言動をフィードバックし、合点がいったのかいよいよ「先
生」のご機嫌は途端に急降下。
「っ…お、お前が聞いたから答えてやったんじゃないかあっ!」
俺に射精をねだっていた時とは違う意味で瞳を潤ませ拳を振り上げる。しかし暴力沙汰
と無縁な白い手が「生徒」に下ることはないことを俺はよく知っているので、構わず無防
備になった美尻に手を伸ばし撫でさすりはじめた。さんざんお預けくらわしてくれたそこ
は、ご褒美ででもあるかのように絶妙な弾力で俺の手のひらを楽しませてくれる。
「ひゃ、う……っん!」
ああ、やっぱり見て良し触って良し聞いて良しな素晴らしい臀部だ。
「…んじゃあさ、他のむぢゅかし~いのも、教えてくださいよぅ~…セ・ン・セ?」
「……っなんでいつもいつもお前はそうやって………っ!」
クシュン、と可愛いくしゃみをした優等生を風呂場に追い立てたので、彼が帰るのは普
段よりもさらに遅くなってしまった。
(おしまい)
最終更新:2013年05月14日 00:49