迂闊彼女

(「偽装彼女」シリーズ・短編)

「はい、どうぞ……………ピョン…」
 学生街のファミレスに、そのふざけたセリフは地味に響いた。
 指示通り向かいに座った俺にシーフードピラフを盛ったスプーンを差し出してくれてる
のは、ウェイターも先客の野郎もわざわざ振り返って熱視線を送っている美少女。今日は
風が強いが、ピンクのカットソーは店の中でこの空間だけ華やぎ三割増にしてくれている。
 まっすぐな黒髪が白い頬にかかる、いかにも清純派で大人しそうなこいつが、「今日一
日語尾に『ピョン』付けられたら、画像一枚消去してやる」という俺の提案に乗ったイケ
メン優等生だなんて、それこそ悪い冗談みたいだ。
 自分の発言によって注目を浴びているのが分かったのか、赤い唇をキュッと噛みしめて
須藤は俺を睨んでくる。
「うん?どうしたの?ユカちゃん」
「っだ……だから、早く食べろよ………ピョン」
 幻聴ではないことが分かり、俺たちの座るボックスに一番近いカウンター席にいた学生
集団があからさまにガン見してきた。羞恥と情けなさに震える相手に対し「それは語尾で
はないだろう」と思いつつも、俺は冷める前にピラフにパクつく。
 …うん、冷凍じゃなくてちゃんと店で炒めたパラパラ感がたまらない。
 日付に気付けてない哀れな「女の子」に「ウソだピョン」と言うタイミングをどうすべ
きか悩みながら、とりあえずもう一口「はい、あーん…………ピョン」してもらうことに
した。

 (おしまい)

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最終更新:2013年04月27日 15:12