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新学期。三年生になった私は軽音部へと入部することになった。
現在軽音部の部員は私と梓、憂の三人。
あと一人部員がいないと、軽音部は廃部になってしまう。
ここは何としても新入部員を確保しないといけない。
そのために私たちは音楽準備室で新入部員を迎えるための準備をしていた。

「あーほんとにどうしよう」

頭を抱えながら梓が困ったような声を出した。

「もし誰も来なかったら……」
「大丈夫だよ梓ちゃん、きっと誰か入部してくれるから」

せっせとお茶とお菓子の準備をしている憂。
なんでもこの日のために手作りクッキーを用意したらしい。
まさかそのお茶菓子で一年生を釣ろうとしているのだろうか…。

「新歓ライブもバッチリだったし。ね? 純ちゃん」
「そうそう、悩んでもしょうがないんだし気楽にやろうよ」

梓を励ますついでに憂のクッキーをつまんでみた。
相変わらずの美味しい。

「あっ、純ちゃんダメだよ。それ一年生の子にあげるやつなんだから」
「やっぱり一年にあげるつもりだったんだ……」
「うん、喜ぶと思って」
「こういう部員勧誘ってありなの? 梓」


本来は演奏とかで部活の魅力を伝えないといけないのに、こういうやり方はどうなのだろうか。
梓に聞いてみた。

「え? いいんじゃない?」

以外にも平然としている軽音部部長。

「えっ、いいの?」
「うん、もうなりふり構っていられないし!」

そう言うと梓はぐっと拳に力を入れた。
かなり気合が入っているみたいだ。
気合の方向を間違えなければいいけど……。

「よしっ、がんばるぞー!」

梓が鼻息を鳴らすと、どこからかフンスという音が聞こえたような気がした。

「梓……すっかり軽音部に染まってたんだね」


・・・・・

二十分ぐらいが過ぎた。
一年生はまだ一人も来ていない。

「誰も来ないね……」

私が呟くと梓の体が一瞬ピクリと動いた。
先ほどまでの気合はなく、意気消沈としている。
やっぱり内心は不安みたいだ。
しかしこれといってやる事もない。
暇なのでクッキーをつまむ。やっぱり美味しい。

「私、ビラ配ってくるね」

憂はそう言うと、勧誘のチラシを手に取り準備室から出ようとした。

「あ、待って憂」

梓が引き止める。

「ビラ配りに行くなら……」

そう言い梓は準備室の奥の部屋へと行った。
私と憂は不思議そうにその後を目で追う。
ビラ配りをする時の秘密兵器でもあるのだろうか?
しかしそんな期待とは裏腹に、戻ってきた梓の抱えているものはニワトリの着ぐるみだった。

「憂、これ着ていって!」

梓はその着ぐるみを憂に渡した。
受け取った憂いは、どうしたらいいのか分からず困っている。

「梓……なにそれ」
「え? 去年もビラ配りのときはこれ着てたし……」
「あのさ梓、こう言っちゃ何だけど……それ着てビラ配ってる姿を見てみんな引いてたからね」
「えぇっ!?」

まさか、というリアクション。
本当にこんな調子で大丈夫なのだろうか、梓部長。

「私、これ着たほうがいいのかな?」

憂が決意を固めそうな顔でニワトリの着ぐるみとにらめっこしていた。
憂のことだから「お姉ちゃんが着ていたんだから私も!」とか言いかねない。

「や、やっぱり着ないで!」

梓が慌てて憂から着ぐるみを取り上げた。

「確かに、これ着るのは私もおかしいと思ったんだけど…」
「ならなんで渡したの」

私の質問に梓は答えを返さず、顔を赤くしてそっぽを向いた。
自分でも思い返すと変だと思ったのだろう。
私は呆れつつも梓の行動を楽しいんでいた。

その時、コンコンと準備室のドアからノックの音が聞こえた。
私たち三人は一斉にドアへ注目する。

ドアが少しずつ開いていく。

「う、憂! お茶の準備を!!」
「うんっ!」

梓の指令が飛ぶ。

「梓、私はなにをしてればいい?」
「純はとりあえずそこに座ってて!」
「いや…もうちょっと何かないの?」
「じゃ、じゃあ私と一緒に新入生に挨拶を……」

突然の来訪に慌てふためいている梓。
はたから見ているとその光景は面白い。

「じゅ、純、早く早く!」
「はいはい、分かってる」

ドアが完全に開いた。

「いらっしゃいませー!」
「け、軽音部へようこそー」

ようやく来た新入生に笑顔いっぱいで迎える私と梓。
しかしドアの向こうにいたのは一年生ではなく、緑のリボンをした二年生だった。
それも私の良く知っている顔の二年生。

「あの……純先輩」

おどおどとしながら私の名前を呼ぶ女の子。
彼女は私がジャズ研にいたときの後輩だった。
ちなみにパートは同じベースだったので、他の後輩より親交が深かったりする。

「ど、どうしたの急に?」

まさか転部しに来てくれた?
それなら嬉しいけど……。

「わ、私……!!」

普段は気の弱い後輩だが、今日はいつもより声が大きい。

「純先輩を、ジャズ研に連れ戻しに来ました!」
「えっ」

思わず声が漏れてしまった。

「純先輩、戻ってきてください!」
「い、今さらそう言われても……」
「お願いします! 私…純先輩がいないとダメなんです!!」
「でも……」
「純先輩のためにゴールデンチョコパンも買ってきました! どうかこれで!!」

必死に頼み込んでくる彼女に、私は心動かされた。
というより、ゴールデンチョコパンが私の心を動かそうとしている。
けど、今ここで戻ったら軽音部は……。

「ちょ、ちょっとまって!」

梓が彼女を止めに入った。

「純は私たち軽音部の部員なの。だから、その……悪いんだけど…」
「で、でも純先輩はもともとジャズ研の部員だったんです! それなのにあなたたちが…」

二人に腕を引っ張られながら、私は困り果てている。
この状況、どうしたらいいのか……。

「純先輩は私のものです!」
「純は私の…!」
「純先輩、ゴールデンチョコパンは食べたくないんですか!?」

その言葉に私の耳が反応した。

「ゴ、ゴールデンチョコパン……」

憂が応戦する。

「純ちゃん、こっちには私手作りのクッキーがあるよ!」
「う、憂のクッキー……」

よだれが出てしまった。

私はいったいどうすれば……。

「純!!」
「純ちゃん!!」
「純先輩!!」

「あーもう!! こうなったらみんなまとめて愛してやる!!」

私は三人を抱きしめた。
そうだ、喧嘩することはない。みんな仲良くしよう。
同じ音楽を愛するもの同士……。

「だから私にパンとクッキーをください!!」



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純「っていう夢を見たの」

梓「ふーん」

純「夢の中の私ってモテモテでさぁ」

梓「ふーん」

純「ほんと参っちゃった、みんな私を求めるんだもん」

梓「どうせ夢でしょ?」

純「夢でもいいもーん、嬉しかったし」

梓「はいはい」

純「梓も嬉しいでしょ? 私が軽音部に入って」

梓「そ、それは……」

純「素直に言いなよ」ニヤニヤ

梓「ま…まぁまぁ嬉しい」

純「まぁまぁって…」

梓「と、とりあえず今は次の新歓ライブに向けて練習しないと! 純、早く準備して」

純「はーい、梓部長」

梓「部長……むふふ」

純「梓…顔がにやけてるって」

憂「おまたせー。ごめんね、遅れちゃって」

純「あっ、憂。大丈夫大丈夫、まだ練習始まってないから」

憂「そっか、よかったぁ」

梓「じゃあ三人そろったことだし、お茶でもしよっか?」

純「……え?」


おわり

最終更新:2011年04月13日 16:22