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夕焼けで赤く見えてるわけじゃないのはすぐに分かった。
唯先輩の頬を染めているのは夕焼け色じゃなくて、
もっと柔らかい感じの――、そう、この季節に似合った桜色だったから。
ほんのりとした桜色だったから――。


――私、勘違いしちゃってたのかな。


言おうとしてた言葉を止めて、私はいつの間にかそんな事を考えていた。
唯先輩は私の事や、誰かの事をちゃんと誉めてくれる。
いいと思った事を認める素直な心を持っている人だ。
だから、自分の好意を簡単に伝えられる人だと思ってたんだよね。

でも、それはちょっと違ってたのかもしれない。
唯先輩はちゃんと私達に『大好き』って伝えてくれる。
それが唯先輩の凄さと魅力だと思ってたんだけど、本当はちょっとだけ違ったのかも。
唯先輩の凄さは――、唯先輩の魅力はひょっとすると――、
私達に『大好き』と伝えられる勇気を持てる事だったのかもしれない。
誰かに『大好き』だって伝える事は、簡単みたいでとっても難しい事だもんね。
私だって澪先輩に『大好き』だなんて伝えた事は無い。
誰だって、誰かに好意を伝える事には勇気が必要なんだよね。
勿論、唯先輩だって――。

唯先輩は色んな物を好きだって言ってる。
でも、簡単な気持ちで言ってるわけじゃないんだ。
ちゃんと自分の気持ちと向き合って、
好きだって実感してから、気持ちを私達に伝えてくれてるんだ。
『好き』だって気持ちを誰かに伝える事は大切な事だって知ってるから。
胸に湧き上がる照れ臭さや恥ずかしさを、勇気で乗り越えて。
それが――、このほんのり桜色の頬の意味なんだよね――。

当たり前だけど、それは私の勝手な想像だった。
今、唯先輩が頬を染めてるのは、単に私にくっ付き過ぎて熱くなっただけかもしれない。
もっと他の理由で赤くなってるだけかもしれない。
だけど、今の所は私は唯先輩をそういう人なんだ、って思う事にした。
そっちの方がずっと素敵でカッコいいと思うし、
もしも違ったって、その辺の違いは少しずつ埋めていけばいいんだもん。
二人で一緒に――。
また色んな話をしながら――。


「純ちゃん……?」


急に私が黙り込んだのが気になったのか、唯先輩が首を傾げた。
頬をほんのりと染めたままで。
私ははにかんでから、唯先輩に手を伸ばす。
握手しようと思って伸ばしたはずなのに、
気が付くと私は唯先輩のモコモコを触ってしまっていた。
戸惑ったように唯先輩が苦笑する。


「もー、どうしたの、純ちゃん?」


「あ、いえ……、つい可愛いなって思ってしまいまして」


「でしょでしょー?」


「それと、今日は唯先輩に凄く弄られたんで、
そのお返しにちょっとだけ私も弄っておこうかなと」


「何それー」


苦笑から笑顔に変えて、唯先輩が私のモコモコを掴む。
モコモコを掴みながら唯先輩が桜色を少し濃くして、私も頬が熱くなるのを感じる。
桜の季節に、二人して頬を桜色に染めていく。
なーんて、ちょっとカッコ付け過ぎかな?
でも、桜色に包まれながら、私達は桜色に笑った。




「あの、唯先輩……」


「どうしたの、純ちゃん?」


「今度、二人でセッションしてみません?」


「セッション?」


「はい、私達、ギターとベースでパート分け出来てるじゃないですか?
丁度いいなって何となく思い付いたんです。
折角ですし、セッションして梓達の前で披露しちゃいましょうよ。
前、唯先輩は梓と『ゆいあず』ってユニットを組んだんですよね?
だったら、『ゆいじゅん』ってユニットを組むのもいいと思いません?
梓と憂、私達がそんなユニット組んだって知ったら、きっと驚きますよー?」


それは勝手に口から出た思い付きだった。
別に何でもよかったんだけど、また唯先輩と会う口実が欲しかったんだよね、
その口実に丁度いいのがセッションだったわけなんだけど、単なる口実ってわけでもなかった。
澪先輩だけじゃなくて、私は『放課後ガールズ』ってバンドに憧れてる。
その憧れのバンドのメンバーと組めるなんて、そんな素敵な事は無いと思うもん。
勿論、唯先輩がよければになるんだけどね。


「うーん……、それはちょっと……」


唯先輩が苦笑して首を横に振る。
駄目だったんだ……、と落ち込み掛けた時、真剣な表情で唯先輩が続けた。


「『モコモコガールズ』ってのはどう?」


「……はっ?」


「ユニット名だよ、ユニット名ー!
『ゆいじゅん』だと私達の特別なユニット名って感じがしないでしょ?
だから、『モコモコガールズ』!
私も今の髪型にして、純ちゃんと二人でセッションするの!
これなら私達っぽいし、素敵だと思わない?」


「それじゃあ――」


「うんっ!
私はもうすぐ寮に入っちゃうけど、時間が合えば連絡するね!
準備が出来たら皆も呼んで、『モコモコガールズ』のセッションを聴かせちゃおうよ!」


「はいっ!
ありがとうございますっ!」


唯先輩と顔を合わせて笑う。
笑顔で、私達の未来について考えていく。
うん、すっごくワクワクして楽しくなってくるよね!



と。


「ただいま、お姉ちゃーん。
誰か来てるのー?」


「唯先輩、すみません、失礼します」


不意に聞き覚えのある声――、憂と梓の声が玄関口から響いた。
そう言えば、夕方には帰って来るって唯先輩が言ってたっけ。
私と唯先輩は顔を合わせて、お互いのモコモコを掴んだ状態で笑顔になる。
ちょっと照れ臭いけど、今はそれを誤魔化さなくてもいいよね。


「あれ、純ちゃん?」


「ちょっと純……、唯先輩もそんな髪型で何をしてるんですか?」


リビングに入って来た梓達から不思議そうな声が上がる。
私と唯先輩の組み合わせなんて意外だろうし、
増して二人でモコモコを掴み合ってるんだから、何事かと思うよね。
でも、今日は教えてあげない。
教えてあげるのは『モコモコガールズ』のセッションの後、
私達の演奏を聴かせて驚かせてあげた後なんだから。
その時に伝えてあげるよ。
梓と憂が大好きな唯先輩の魅力に、今日、私も気付けたって事を。


だから、今は唯先輩と二人で――










「内緒っ!」









ほんのり桜色に頬を染めて、笑顔で言っちゃうんだ。





最終更新:2013年03月08日 08:17