エアコンの効いた快適な自室で白詰草茶をゆったりと飲みながら、カード会社から送られてきた利用明細を見る。
いったん視線を外し、深呼吸。そして手元を改めて見る。
「……まぁ、ここ最近は何かと使ったからなぁ」
ふう、とため息を一つ。遠い目(チベスナ顔)をしているのはご愛敬だ。

北上信夜、26歳。ただいま現実逃避中。


ひょんな事で幽霊(な)部長と関わり合ってから、やがて二ヶ月が経とうとしている今日この頃。
気付けば貯蓄のおよそ一割近くが消し飛んでいた。


「…いや待て、流石に使い込み過ぎだろ俺…ッ!!!」
頭を抱える。そりゃもう思いっきり。冷や汗ダラダラってレベルじゃない。
「いや、確かに先月はPCパーツ探したり何なりで…つか内訳の割合的には例のウェッジウッドが大半占めてっから仕方ないっちゃあないんだがそれでも限度ってもんがあんだろがよ……」
例のウェッジウッドとは、友人の本田が経営している喫茶店「モルガナ」でアルバイトを始めた雛代が割ってしまったカップやらソーサーやらを"どうかこの子をよろしく頼む"と(迷惑料代わりに)自ら進んで弁償したのだが…

『おい、流石に金額が金額だから無理するな…そもそも不用意に触らせた俺にも責任があるんだからな?』
『そうは言っても、放っておけない数やらかしちまってるし……ンな高い奴もやっちまってるなら尚更だろ』

「まさかよりによって店に置いてある一番高いヤツも割ってしまってたなんてなぁ…ティーカップで10万以上が消し飛ぶなんざ予想外だったぞ……」
そのお値段、カップ・ソーサー一セットで20万以上。もちろん全部が全部この価格帯のものというワケではなく、いわゆる特別の一杯(紅茶)の為に準備していた代物だったらしい。…尤も、安いものでも5千円台がザラにあるメーカーなので総額は…という感じなのだが。

「…とはいえ、だ」
この間の福引きで手に入れた航空券で旅行──それも初めての沖縄──に行くことが決まっているのだ、折角の旅行でケチケチなんぞしていられない。
まぁこういう時の為に普段は貯蓄に回している部分もあるから、そこまで深刻になる必要はないのだが……
「…しばらくは食費切り詰めねぇとだなぁ」
幸いな事に実家から野菜が定期的に送られてくるので、それをメインにした作り置きのおかずを…といった所か。あと、もやし大正義。
「…と、そうだ。佐倉から送られてきた干しダラがあんだったな……今日の晩飯は干しダラ使ったスープにすっか」
乾物を使うなら、時間的にもそろそろ夕飯の準備をしだした方がいい。
早速キッチンに向かい、干しダラを一尾取り出してまな板に。四分の一くらいの部分でぶつ切りにして、水を張ったボウルにいれて戻し&塩抜き。残りの四分の三は使わない(食べきれない)ので元の場所に。そして柔らかくなるのを待っている間、タブレットでレシピを検索。
「んー…クック○ッドに乗ってるのは大抵がおつまみのヤツを使う奴が大半だな……お、ノルウェー風のやつがある。これやってみるか…生クリームは…まぁ無くてもなんとかなんだろ……いや、やっぱ買いに行くか」

「…ん、良い感じに戻ってるな」
買い物──タイミングよく特売になっていた玉子ともやし、バゲットも買った──を終え、戻した干しダラをボウルから出して水気を絞り、手で一口大に裂いていく。それが終われば次は野菜だ。ジャガイモとタマネギを1cm角にカット。タマネギは書かれている分量より少し減らして、その分ジャガイモを多めに。
カットが終わればその次は炒めるターン。バターを引いた深鍋にタマネギを入れ、焦げ付かないように透明になるまで弱火でじっくりと炒める。タマネギが透き通ってきたらジャガイモとタラを入れ、また少し炒め、水をいれてじっくりコトコト。
ジャガイモが柔らかくなったら牛乳を加え、塩こしょうで味を調える。タラからも塩気が出るので塩を入れるのは心持ち控えめに。仕上げに生クリームを入れ、沸騰しない程度に暖めて完成。

スープを深めの皿に移し、予め暖めておいたバゲットと一緒にテーブルへ。
「さてと…いただきます」
しばらくは不要な出費を抑えないとなぁ…と考えながらスプーンを口に運んだのだった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2019年11月20日 22:13