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術伝流一本鍼no.19 - (2010/08/04 (水) 21:01:18) の編集履歴(バックアップ)



術伝流一本鍼no.19 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(1))

内科系にも応用


(1)はじめに

 いままで、先急の一本鍼というテーマで、おもに運動器系を中心に一本鍼に
よる応急処置を書いてきました。

 基本的には、「手足甲に引き鍼しながら運動鍼」と「動作鍼」が中心です。
手順で書くと、以下のようになります。

1.診察

2.準備
  手足の甲への引き鍼(+運動鍼)

3.患部の基本刺鍼や動作鍼など

4.後始末
  ⑴頭散鍼(陽のみのときは省略)
  ⑵手足甲への引き鍼

 この方法は、運動器系だけでなく、内科系の急性症状にも応用できます。
ただ、内科系の場合には、いくつか考慮する必要のあることが入ってきます。
そのおもなものを3つ挙げておきます。

1.上衝をおさめる

2.手足陰経に引く

3.陽に引く

 この3つについて、説明していきます。

(2)上衝をおさめる

 「上衝」というのは、漢方の用語で、腹のほうから頭のほうへ、邪気が
衝き上げている現象をいいます。内科系の病変の急性期には、必ずといっ
てもよいほど見られる現象です。

 具体的には、熱が出たり、頭が痛くなったり、めまいがしたりという、
表位、つまり、肩甲骨・鎖骨から上の内科系の症状のことを総称している
というか、それらの原因となっている現象のことです。

 上衝は、多くの場合、体の内部(とくに腹部)の水毒や悪血から漏れ出
した邪気が頭のほうへ衝き上げることによって起こります(図1)。

図1

 また、虚火上逆といって、腹部が虚している反動として上衝が起こる場
合もあります。更年期障害にみられるノボセなどは、その典型例です。

 『薬徴』には、「桂枝、上衝を主治す」とありますし、桂枝が多くの漢
方薬に使われているのを見ても分かるように、上衝をおさめることは、漢
方治療の基本の一つです。

 そういう上衝という現象は、鍼灸で内科系の急性期を応急処置する場合
にも、考慮する必要があります。つまり、上衝をおさめるのが、内科系の
応急処置のまずはじめの目標です。

 前に書いたように、運動器系の応急処置でも、陰経に鍼灸すると上衝が
起こる可能性があるため、後始末では、頭の散鍼や手甲への引き鍼をした
りしました。

 内科系の急性期には、鍼灸する前から上衝が起きていることが多いので、
それを前提にして、準備の段階から、上衝を考慮する必要があります。

 そのために、まずはじめに、頭をさわって熱い部分と経絡的に関係する
手の甲に引き鍼をします(図2)。頭の中でもハチマキをするあたりで、
いちばん熱いところを探します。 具体的には、まずは左か右か、そして、
そのなかで、前側なら手陽明、横なら手小陽、後ろなら手太陽のという見
当をつけて、手甲をしらべ、出ているツボに引き鍼します。

図2

 こうすると、上衝をおさめることができますし、治療中に動かしてしまっ
た邪気も手の甲のほうへ流れていきやすくなります。

(3)手足陰経に引く

 運動器系の応急処置では、肩腰など胴体やそれに近い部分の症状を、経
絡的に関係する手足のツボに引きました。内科系の応急処置でも、その内
科系症状を、症状が出ている部分や、その原因となる邪毒がある部分と、
経絡的に関係する手足に出ているツボに引きます。

 そういう点は、運動器系と同じですが、違う面もあります。

 内科系の症状は、運動器系の症状よりも、体の内側に関係していること
が多くなるので、運動器系よりも陰経を使うことが多くなります。ご存知
のように、体の内側の状態は、陰経に反映することが多いからです。

 そういうわけで、内科系症状は、その症状を起こしている器官のある場
所や、その症状の原因となっている邪毒のある位置と関係する手足陰経に
出ているツボに引きます。

(4)陽に引く

 内科系の場合には、「手足に引く」だけでなく、「陽に引く」こともよ
く使います。

 「陽に引く」というのは、体内部の症状を陽側のツボを使って改善する
ことです。症状の出ている部分にうごめいている邪気を、症状の出ている
部分より陽側に出ているツボから引き出すことによって、改善していきま
す。また、症状の原因となっている邪毒のある部分の陽側に出ているツボ
に引くことで改善したりもします。

 典型例は、瑜穴(瑜は王へんが無い字)治療など、症状の出ている部分
の背中側に出ているツボに引くことです。それ以外にもいろいろあります
が、それは、症例を解説するときにくわしく説明していきます。

(5)内科系の応急処置の手順

 いままで書いたことを考慮して、内科系の応急処置は、基本的には、以
下のような手順でしています。

1.診察

2.準備:上衝をおさめる
  ・手甲に引く

3.手足に引く
  ⑴手足陰経に引く
  ⑵必要があれば、陽経にも引く

4.陽に引く
  ⑴熱かったら散鍼
  ⑵陽側に出ているツボに引く

5.後始末:上衝をおさめる
  ⑴頭の散鍼
  ⑵手甲に引く

 細かく書くと、いろいろ出てきますが、大雑把にはこんな感じで、やっ
ています。

 また、簡単な症状だと、2.の準備だけ、あるいは、2.と3.の
「手足に引く」だけで、症状が治まってしまうこともあります。

 「4.陽に引く」で、熱かった場合に、まず散鍼するのは、出ているツ
ボの周辺が熱い場合に、いきなり刺鍼すると、痛みを強く感じるなど、症
状がひどくなることがあるからです。

(6)和方鍼灸の基礎理論を目指して

 すこし脱線しますが、私は、和方鍼灸の共通点として、以下3つが考え
られるかなと思っています。

1.阿是穴治療

2.手足に引く

3.陽に引く

 この3つを組み合わせることで、先急、つまり、応急処置もしています
し、養生、すなわち、慢性期治療もしています。

 そして、このあたりと、筋肉の機能性病変という石川の加茂先生たちの
考え方や、杉山真伝流などの江戸時代に書かれた鍼灸文献の考え方を組み
合わせていくことで、和方鍼灸の基礎理論ができていくのではないかなと
考えています。

 阿是穴とは、筋肉が機能性病変を起こしているところだと思いますし、

「邪気ある時は何れの所にも鍼を用ゆ、病なきは何れの穴にも鍼を禁ず」
(葦原検校)

「鍼刺すに、心で刺すな、手で引くな、引くも引かぬも指にまかせよ」
(杉山和一検校)

という言葉もありますし。

 また、和方鍼灸のいろいろな流派の方々が、それぞれ基礎理論と思うこ
とを持ちよることで、共通の基礎理論を作っていければよいなとも考えて
います。そうすることで、和方鍼灸が学びやすく伝承されやすくなると思
いますし。

 そして、将来的には、そうしてできた和方鍼灸の基礎理論が、世界に和
方鍼灸を広めていくために役に立つことを夢見ています。

(7)救急医療との連携

 さて、内科系の応急処置を鍼灸でする場合に注意してほしいことがあり
ます。

 鍼灸で応急処置できるのは、基本的には、機能性病変ということです。
もちろん数ヶ月かけて養生していけば、組織の逆変性が起きて、器質性病
変も改善することも多いです。

 しかし、応急処置のような短時間で改善できるのは機能性病変だけです。

 それで、鍼灸で応急処置しても、改善できなかったり、一度改善しても
同じ程度にまで症状が復活した場合には、器質性病変をうたがい、救急医
療と連携することを考えてください。

 私は、 現在、数時間以内に半分以上症状が復活した場合には、器質性病
変の可能性も考慮することにしています。鍼灸で機能性病変を改善できた
場合には、少なくとも半日程度は効果が続くことが多いからです。

 今までに私が経験した例では、腹部大動脈瘤と急性膵炎があります。ど
ちらも2時間以内に同じ程度に痛みが復活したということで、救急医療に
おまかせしました。

 そういう病変の場合でも、患者さんがお腹が少し痛いとしか言わず、し
かも、鍼灸した直後は良くなってしまうことが結構ありますので、注意す
るようにしてください。

(8)症例:3日前から咳がつづく

1.診察

 まずは、症状について話してもらいました(写真1)。

写真1

3日前から咳が続いているとのことでした。そのあと、咳のときによくツ
ボが出る列缺と上尺沢を押してみました(写真2、3)。

写真2

写真3

 まだ3日のせいか、列缺には圧痛がありましたが、上尺沢には圧痛があ
りませんでした。上尺沢は、咳が長引いたときによくツボが出るところです。

 そして、左右を比べると、左側の圧痛のほうが強いことも確認し、体の
左側の状態が悪い可能性が高いなと思いました。

2.準備

 まず、準備のために頭にさわってみました(写真4)。

写真4

左側の額が熱かったので、額は前側なので陽明経だろうと見当をつけまし
た。合谷あたりをさがし、ツボが出ていたので、刺鍼しました(写真5)。

写真5

 この場合、熱が出ていたあたりを見ながら刺鍼したほうがよいです。ま
ぶたが動く、つまり、まばたきをしたりすることが、鍼が効果をあげてい
る目安になることが多いこともありますし、額の変化がわかることもあり
ますので。

3.手足に引く

 つぎに、もう一度、左列缺のツボをていねいにとり、刺鍼しました
(写真6)。

写真6

 この場合も、この刺鍼が効果をおよぼすだろうし、咳に関係すると思わ
れる、胸上部からノドにかけてを見ながら、刺鍼しました。

 この刺鍼で、ノドから胸にかけて、すっきりし、呼吸がラクにできるよ
うになったとのことでした。

4.陽に引く

 つぎに、咳に関係するノドや気管の背中側にもツボが出ていないか、大
椎から胸椎3あたりを中心に調べていきました(写真7、8)。

写真7

写真8

 そして、左側に出ていたツボに、順に刺鍼しました(写真9)。

写真9

 この場合は、さわって熱さを感じなかったので、散鍼は省略しています。

5.後始末

 頭をさわって、熱さを感じたところに散鍼しました(写真10)。

写真10

 そのあと、手の甲を調べ出ていたツボに刺鍼して仕上げました(写真11)。

写真11

5.予測と違っていたら
 この症例では、はじめに診察したときに列缺に出ているツボが左側だっ
たので、体の左側の症状がつよい可能性があると予測しました。そして、
2.の頭の熱いところも左側、3.の陽側の背中に出ていたツボも左側で
したので、素直なツボの出方といえると思います。

 ときには、場所によって、左右が異なって出ている場合もあります。そ
ういう場合は、他のことも原因となっている場合があります。そういう場
合には、患者さんに再度くわしく質問してみると、聞けてなかったことを
話してくださることも多いです。新しい情報をもらったら、それも考慮し
て治療するようにしてください。

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 症例を少しずつ増やして、ゆくゆくは深谷先生の「お灸で病気を治し
た話」の写真入り版のような感じにしていきたいと思っています。

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