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術伝流一本鍼no.21 - (2015/08/21 (金) 10:30:32) の編集履歴(バックアップ)


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術伝流一本鍼no.21 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(3))

表位陽明経の急性期

ニキビ、モノモライ、前頭部痛、真夏の老人の譫語、疳の虫、カゼのごく初期など


 今回は、陽明経を中心に書き、カゼの初期などのときに太陽経
にも異常がある場合を付け足します。少陽経に関しては、次回説
明します。

(1)処置の基本

 既に頭に上がっている邪気を少なくすること、邪気を体の外に
引き出すことが、基本になります。手足の末端に引くことと表位
の散鍼が具体的手段です。

 陽明の場合には、手の拇指、示指と、その続きの手甲のツボ
(合谷など)を使います。

 太陽の場合には、薬指、小指と、その先の手甲のツボを使いま
す。

 それぞれ、少しズレて、隣の指周りにも出ることがあります。

 表位の散鍼は、触って熱さを感じる所にします。熱さが冷めた
後で、過緊張状態の筋、つまり、コっている筋肉があれば、弛め
ます。

 手早い刺鍼が大切で、邪気の波が来終わった時点で抜鍼するの
がコツです。次の波が来てしまうと、また上衝を引き起こし、症
状が復活することが多くなります。

 このため、表位の急性症状には、灸も効果的で、指周りのツボ
への熱めの灸1壮、せいぜい2壮で大きく変わることが多いです。 

(2)実技と手順

 姿勢は、基本的には、座位が望ましいです。寝て刺鍼した場合
には、刺鍼した後で起きあがったときに症状が復活しやすいから
です。症状が復活したときには、座位で、もう一度表位に散鍼し
てから手甲に引き鍼します。

 手順の基本は、次の通りです。

1.診察

2.準備:上衝を治める
  ・手甲(手指)に引く

(3.手足に引く          )
( ⑴手足陰経に引く:出ていれば引く)
( ⑵必要があれば、陽経にも引く  )

4.陽に引く
  ⑴表位の熱いところを散鍼
  ⑵陽側に出ているツボに引く

5.後始末:上衝を治める
  ⑴頭の散鍼
  ⑵手甲に引く

途中で状況に応じて必要な処置を付け加えたりします。

1.診察

 前回も書いたように、表位の急性症状の診察で、先ず見たいの
は、どの経絡を邪気が衝き上げているかです。その目安になるの
は、主に3つ、症状、頭の熱さ、八邪の厚みなど指周りの異常で
す。

 また、カゼのときなどは、陽明と太陽の両方に異常がある場合
も多いです。

 いずれにしろ、1番目と2番目に異常な感じの経絡を選びます。

 今回は、それで、主に陽明経が異常だと判断した場合です。

2.準備:上衝を治めるため手甲に引き鍼

 先ず初めに、頭に上がった邪気を少しでも降ろすために、手甲
のツボに引きます。

〈ツボ〉
 カゼの発熱や熱中症など前頭部が熱いときや、口唇ヘルペスな
どの場合には、1,2間の合谷の可能性が高いです。

「面目は合谷におさむ」

 頭のハチマキをする辺りを触って一番熱い所と経絡的(前・横・
後ろ)に関連する手甲のツボを選んでもよいです。隣の指や指間
に出る場合もあります。

 症状の出ている場所、頭の熱い所、手甲や指にツボの出ている
所、その3つが経絡的関係で同じなら良いのですが、違っていた
ら、理由を考えるようにしてください。

 理由が分からず迷ったら、手甲や指に出ているツボを先ず優先
します。患者さんの身体の歪みの関係で隣の指に出ることも多い
からす。出ているツボを使った方が効果があがることが多いです。

〈刺法〉
 瞬き、顔の赤み、声のトーンなどを参考に上衝が治まるように
刺鍼します。

 刺法は、基本的には、速刺除抜です。邪気を感じたり、瞬きが
始まったりしたら、深さを変えないようにします。抜く方向に力
を加えながら、横揺らし、旋捻などし、来ている邪気を、全て、
体の外に引き出すように刺鍼します。

 そして、繰りかえしますが、邪気の波が来終わったときに抜く
のがコツです。

 この刺鍼技術は、二日酔いのときやカゼで熱があるときなどに、
合谷に刺鍼して症状を軽くできるように練習します。

 抜く方に力を入れながらというのは、実際に、押手を離したら、
鍼に釣られて皮膚が持ち上がってくるような状態にするというこ
とです。押し手の皮膚に近い側は皮膚に押し付けるようにしてい
ますが、皮膚に遠い側は、鍼をすこし持ち上げ気味にします。

 この刺法は、釣りに似ています。魚がエサに食いつかないうち
に引き上げても無駄です。魚が食いついたら、上手く合わせ、しっ
かり食わせてから、引き上げ始めます。引き上げるときも、急に
抜きすぎてもバレてしまいますので、適度な張りを保ちながら、
抜き上げます。

 急に抜きすぎると、痛いだけで、邪気を引出しつくすことは、
できません。適度な張りを保ちながら、横揺らし、旋捻、弾鍼な
どの手技をし、邪気を体の外に出しつくすように抜鍼していきま
す。邪気が残っていると、症状が消えません。

 ただし、余りユックリやっていては、次の邪気の波が来てしま
います。この辺りの加減が難しいところです。

 そして、以下は無理としても、だんだん近づくようにしましょ
う。

「鍼刺の要は、至気を以て、有効の時となす。・・・
 邪気の至るや緊にして疾く、穀気の至るや徐にして和す」
           (杉山真伝流皆伝之巻「鍼法撮要」)

 二人組での練習を沢山して、コツをつかんでください。練習の
ときにも、色々なタイプの方と練習できると、上達が早いです。

 特に、体の中の邪気の動きに敏感な方と組んだときには、邪気
の動きなど体の中の変化を言ってもらい、それに合わせて刺せる
よう稽古します。そうすると、邪気を心で意識できなくても、だ
んだん指が邪気に合わせて動くようになっていきます。

 そして、いずれは、以下のようになれるとよいですね。

「鍼刺すに 心で刺すな 手で引くな
   引くも引かぬも 指にまかせよ」
                   (杉山和一検校)

 線維筋痛症の患者さんには、邪気の動きが分かる人が多いので、
そういう人を治療させてもらうときにも言ってもらい合わせるよ
うにすると、だんだん上達していきます。

〈灸〉
 お灸の場合には、拇指や示指の骨空、井穴などを使います。

 カゼや発熱などの場合は、井穴が向くようです。モノモライな
ど目の表面の状や、ニキビなど顔まわりの炎症には、経験上、骨
空が効くように思います。

 指周りが多いので、運動器編の「指周りの痛み」のときと同じ
ように、糸状灸が使われます。糸状灸を素早く作れない場合には、
手指用糸モグサが便利です。

〈これだけで症状が治まることも〉
 症状が軽い場合は、巧く行けば、この1回の刺鍼や施灸で、顔
の赤みが減り、声のトーンが落ち着き、熱や痛みなどの症状も減
らすことができます。その場合には、後始末に行きます。

 お灸の場合には、症状が治まっていれば、後始末も省略するこ
とが多いです。

3.手足に引く

 上衝が酷く頭の熱感が冷めないときには、手の陰経にも逃げ道
を作ります。腹から頭へ行く途中で胸を通るので、胸と関係が深
い手陰経に引くわけです。

 表位の症状の場合は、列缺を使うことが多いです。

「頭項は列缺にたずね」

 同じ表位でも、体の表面に近い側は、陽経の合谷と関係が深く、
体の奥は、陰経の列缺と関係が深いということだと思います。つ
まり、邪気が体の奥の方にも衝き上げていそうなら、列缺が引き
鍼の候補になります。

 ただし、2.準備で、上衝が少しでも治まっている場合には、こ
の刺鍼は省略します。特に、初心者のうちは、省略した方が無難
です。抜き時を間違えると、上衝が復活することがあるからです。

 手甲のツボや手陰経手首近くのツボへの刺鍼でも、表位の症状
が治まりきらない場合には、もう一度陽経を使います。

 この辺り、詳しいことは、上焦の急性症状のときに説明します。
上焦の急性症状では、列缺に引くことをよく使いますので。

4.陽に引く

4.1.表位の熱い所を散鍼

 先ず表位を触って熱い所があれば、刺鍼する前に散鍼します。

 カゼの初期などの場合には、背中側だけではなく、鎖骨周囲も
熱い場合もあり、そういう場合には、胸上部〜鎖骨周囲〜前頸部
も散鍼します。

 ただし、鎖骨周囲も熱い場合には、既に表位だけでなく、上焦
の症状も混じっているということで、本来は、上焦の急性期と考
えた方がよいと思います。

4.2.表位陽側に引く

 それから、症状の出ている表位の背中側に出ているツボに引き
ます。

 ただし、表位のごく軽い症状の場合には、手足への引き鍼だけ
で症状が消えてしまう場合も多く、そういう場合には、陽に引く
ことを省略する場合もあります。

〈ツボ〉
 各症状の出ている横輪切りの 背中側にツボを探します。目鼻な
どなら、その真後ろの後頭部が候補です。

 また、首から上の病では、後頚部にツボが出ていることが多い
です。例えば、天柱風池への刺鍼で眼圧が低下したという報告も
あります。

 ある説では、額中央が頸椎2番、眉間が3番、鼻中央が4番、
上唇が5番、下顎が6番、ノドが7番あたりに関係すると聞きま
す。

 それと、表位の症状のときは、陽位の代表である大椎周囲の筋
肉が硬く強ばっていることが多いです。そしたら、その辺りも弛
めた方が良いです。

〈刺法〉
 陽位の刺鍼は、基本的に、陽経と同じく速刺徐抜です。繰り返
しになりますが、蠢(うごめ)く邪気を抜き出せるよう、また、
次の邪気が来ないうちに抜鍼するようにしてください。

5.仕上げ

5.1.頭の散鍼

 頭の散鍼は、片手で頭を撫でて熱い所を探し、もう一方の手で
熱い所を散鍼をします。

 いつも言っていることですが、置く方はユックリでもよいから、
離す方を速くするように散鍼することに特に注意してください。

5.2.手甲に引き鍼

 終わりに、もう一度、手甲に引き鍼して仕上げます。手指、手
甲、八邪を調べ、一番悪そうな手甲のツボに刺鍼します。初めと
同じ指間になったら八邪を使います。

 一つのツボで引ききれないときには、2,3,4番目にも引き鍼
します。

(5)代表例

1.カゼの初期

 表位の処置だけで治まるのは、カゼのごく初期で、頭重や発熱
があっても、咳はまだ出ていない状況の場合です。

 カゼのときは、陽明だけでなく太陽経も関係していることが多
いです。特に、葛根湯証系カゼのときには、大椎周囲など肩首が
コっています。

 判断するには、項(うなじ)から肩甲間部に手平を入れ、汗ば
んでいるかどうかを確かめます。汗ばんでいなければ、葛根湯証
系です。汗ばんでいれば、桂枝湯証系のカゼで、肩首のコリは少
ないことが多くなります。

 自分のカゼには、カゼかなと思ったときに、小指と親指の井穴
を調べ、ツボが出ていれば、糸状灸をしておきます。手指用糸モ
グサで灸したり、マグレインなどを貼っておいてもよいです。

 大椎周囲は自分ではしにくいので省略しますが、ごく初期のカ
ゼなら手の親指小指の井穴に灸するだけでもよいことが多いです。
上手くいけば、一晩でカゼが抜けていきます。

 井穴など指のツボは、鍼柄くらいの太さのもので探すと見付け
やすいです。くわしくは「術伝流一本鍼no.14指まわりの痛みに
糸状灸」を読みなおしてください。

 私自身、カゼかなと思ったときには、この施術をしています。
「遊風の養生日記」の観病のカテゴリーにのせていますので、参
考にしてください。

2.モノモライ(麦粒腫)

 モノモライには、骨空への糸状灸がよく効きます。同側の手を
使います。目頭辺りなら親指、瞳辺りなら人差し指、目尻辺りな
ら中指の可能性が高いですが、隣の指に出ることもあります。

 出ていたツボに糸状灸や手指用糸モグサ灸をします。たいてい
1壮で症状が消えますが、残っていたらもう1壮します。数時間
後に復活したら、また灸します。

 ここ2,3年、年に1,2回モノモライをしました。その時の施術の
様子も、「遊風の養生日記」の観病のカテゴリーにのせています
ので、参考にしてください。

3.ニキビ

 ニキビも同側の手の骨空への灸がよく効きます。中心線近くな
ら拇指、瞳辺りなら示指、目尻より外なら中指の可能性が高いで
す。

 深谷伊三郎先生がニキビに効くと書き残している肩隅への灸と
併用するとよいです。ただ、私の経験では、肩隅と同じ高さで前
側の肩関節の窪みの方が効果的でした。

 その場合には、まず肩隅、それから骨空の順ですえます。灸は、
すえあげないことが原則のため。丁寧にするなら、骨空、肩隅、
指端か井穴の順で灸するのも良いと思います。

 エステで20万くらいかかると言われたという、額の主に左側に
沢山出ていたニキビが、肩隅、骨空への2回の灸で良くなり、大
変喜ばれたことがあります。試してみてください。

4.真夏の老人の譫語

 以前3年位続けて、梅雨明け直後の暑い日に、お年寄りが肩が
辛いと喚(わめ)いているという電話が掛かってきたことがあり
ます。

 こういうのは、昔から「真夏の老人の譫語(せんご)」と言う
そうです。

 歳をとって、下腹が虚してしまって(臍下不仁)、真夏の暑さ
で煽(あお)られて、虚火上逆が極端な形で出ると、こういう症
状になるとのことです。外からの邪気で煽られて生じる上逆のた
め「客気上逆」と呼ぶようです。

 顔が少し赤みをさしていて、興奮した口調で早口で話されるこ
とが多いです。

 両手の合谷を調べ、厚みや痛みがある方の合谷に刺鍼します。
顔を眺め、瞬(まばた)きや顔の赤みや口調の変化を目安に刺鍼
します。この合谷への刺鍼だけで、顔の赤みがなくなり、口調も
落ち着いたものになることが多いです。

 その後、肩などのコリがあれば改善してから、仕上げの頭の散
鍼や手甲への引き鍼をします。

 ご本人よりもご家族から感謝されることが多かったです。相手
にするのが大変だったのでしょう。

5.疳の虫

 疳の虫は、小さい子が多いので、鍼は刺しません。手の母指・
示指の井穴を挟んで痛くすると治まります。とても痛いせいか、
我が家の子供たちは「指を出して」と言っただけで治まるように
なりました。

6.口唇ヘルペス

 前に、講座参加者の方で、疲れると口唇ヘルペスが出るという
人で、講座の日にちょうど出ていたので、合谷の鍼して軽減した
ことがあります。

 別の人では、合谷と拇指の示指よりの井穴に順に刺鍼し、軽減
したこともあります。この場合の井穴への刺鍼は、指の痛みなど
の治療のときと同じですので、「術伝流一本鍼no.15」を読みな
おしてください。

 また、ニキビなどと同じように、拇指、示指の骨空や井穴など
に灸しても良いと思います。

8.その他

 小鼻が腫れたり、舌先が腫れたりした例も「遊風の養生日記」
の観病のカテゴリーにのせていますので、参考にしてください。

(6)写真つき症例

1.口角炎

 口角(上唇と下唇のつなぎ目部分)に割れ目ができ炎症を起こ
していて(写真1)辛いという人。

写真1

 位置から見て、拇指か示指かなと思い、ツボ探し用ステンレス
棒で骨空を押してみました(写真2)。押したときの痛みの強さ
を言ってもらい、また、押した痕のヘコミの深さ、広さ、赤黒さ
を比較し(写真3)拇指骨空を選びました。

写真2

写真3

 手指用糸モグサを灸点墨に突き刺して(写真4)墨を付けてか
ら、ツボ探し棒で押した痕に立てました。

写真4

 この方が、押した痕に灸点墨をつけ糸もぐさを立てるよりも、
立ちやすいです。手でヒネった糸状灸を立てるときには、糸状灸
を灸点墨に突き刺すのは難しいので、ツボ探し棒の頭の方で痕に
灸点墨を塗ってから、糸状灸を立てますが。

 そして、点火し施灸しました(写真5)。

写真5

2.肌荒れ

 下顎の奥の方の肌荒れの人(写真6)。

写真6

 ニキビに近い症状かなと、ニキビの名灸穴の肩隅の辺りを調べ
たら(写真7)、圧痛がありました。位置から指のツボを予測し
骨空を調べたら、同側の中指にツボが出ていました(写真8)。

写真7

写真8

 肩隅(写真9)、骨空(写真10)の順で、施灸しました。

写真9

写真10

3.カゼの初期の方

 カゼの引き始めで、まだ咳は殆ど出ていない状態という人。

 親指と小指の井穴を順番に調べ、ツボが出ている所を探しまし
た(写真11,12,13)。

写真11

写真12

写真13

 その後に、ツボの出ていた井穴に順に施灸しました(写真14,15)。

写真14

写真15


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