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術伝流一本鍼no.14 - (2010/07/31 (土) 13:32:16) のソース

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(1)先急一本鍼  (運動器) 指まわりの辛さ
#contents
*(1)基本的に
 応急処置の原則は「遠くに強く引く」でした。

 患部が胴や頭などの体幹部にあるときには、「遠く」として手足の甲が使わ
れますが、患部が指まわりのときには手足の甲は「遠く」とはいえませんし、
手足の甲を使っても邪気を体の外に引けません。手足の甲のほうが胴体に近い
からです。

 また、指まわりは、鍼すると痛がられるので、鍼は使いにくいことが多いで
す。接触鍼なら可能ですが。そのため、鍼の場合には、巨刺を接触鍼でしたり
しますが、調節が難しくなります。

 指まわりや手のひら、足の裏などの辛さには、灸、とくに硬く細くひねった
糸状の直接灸が効きます。

 突き指、指の捻挫、使いすぎによる指まわり、手のひら、足の裏などの炎症、
腱鞘炎による指の痛みなどに効果があります。手首足首などの痛みにも効果が
あります。

 手首足首などではほかの方法もありますので、患者さんと相談して適切な方
法を選んでください。

 灸の熱さに弱い方の中には、指まわりでも鍼のほうが良いという方もいます。

*(2)ツボ探し、糸状灸の作り方、立て方
**ポイント1.鍼柄くらいの太さのものでツボを特定する
 この方法のポイントのひとつは、ツボ探しです。指まわりのツボは細かいの
で、達人ならともかく、普通の人には指では探せません。鍼柄くらいの太さの
もので探します。術伝では、直径1.5mmのステンレス棒を加工しツボ探し棒を
作りました。

 ツボの出てそうなあたりをその太さのもので縦や横にたどってみて、いちば
んペコペコしてヘコんでいるところを探します。そこをその太さのもので押し
てみて、ツンという感じ、ピリビリという感じで痛かったら、そこがツボです。

 角度によっては感じないこともあるので、押す角度を工夫してください。い
くつか候補があった場合には、押した痕が広めに赤黒く深くヘコみ、なかなか
ヘコみが浅くならなくて色が薄くならないほうを取ります。

 鍼柄の太さで探しにくかったら、すこし太い直径3〜5mmくらいのもので探
してから、鍼柄くらいの太さのもので探すとみつけやすいです。

 竹串の先端を鍼柄の太さくらいのところで爪切りなどで切り落としてから、
両端を爪ヤスリなどで丸めると、ツボ探しの道具ができ上がります。指、竹串
の太いほう、竹串の細いほうの順で探せば、誰にでもみつけられます。

 この道具は、円皮鍼や皮内鍼、またはマグレインなどの粒鍼を貼るときのツ
ボ探しにも使えます。耳鍼のときには、先端を痛くない範囲でもうすこし細く
したものを使います。エゴマ油やビーワックスなどを塗ると汚れが付きにくく、
使いやすくなります。

**ポイント2.モグサを細くひねる
 もう一つのポイントは、艾を硬く細くひねることです。底面の直径は0.5mm
以下を目指します。

 それ以上太いと熱くなりすぎるし、痕が残りやすくなります。また、ピンポ
イントで施術したほうが効果が上がりやすくなります。0.5mm 以下なら、黒
く痕になってもしばらくするとポロッとはがれ落ちて、痕が残りません。

 細く作るコツは艾をつまむときに薄くはぐようにつまむことです(写真1)。
#image(DSCF0687.jpg)写真1

そして、力をいれて一度ひねれば、硬い糸状灸ができます(写真2)。
#image(DSCF0694.jpg)写真2

もっとも子供用は、同じ細さで力をいれずにふんわりとしたものを作ったほう
が良いです。

 長さはすくなくとも5mmは必要で、あまり短いと線香を近づけるときに熱
いと言われます。

 細くて立ちにくいので、灸点墨をツボにつけて立たせます。ステンレスのツ
ボ探し棒の頭のほうを使って墨をつけています。細い灸を立たせるのに紫雲膏
やオイルを使う方もいますが、どちらも油が使われているため必要以上に熱く
なりやすいので、あまりおすすめできません。

 糸状灸が上手に作れない方は、手指用糸もぐさを使うとよいです。しかし、
糸状灸に比べると大変熱いですから、途中で消すこと(八分灸)が必要な場合
が多いです。手指用糸もぐさの場合は、糸もぐさそのものを灸点墨のなかにさ
しいれて墨をつけてから立てても良いです。

*(3)手順
 鍼による応急処置の手順と基本的には同じです。

 まず、どういう動作でどのあたりが辛いかよく確かめます。また、指まわり
以外に辛さを感じている場所があるかどうかも確認します。

 肘膝、腰肩などにも辛さがあるときには、さきにそちらの治療をしたほうが
よいです。胴体よりを治療したあとに邪気を末端に引いてくると、また指まわ
りが痛み出すことがあるからです。

 治療は井穴から。もっとも痛い場所の延長線上の井穴に灸点墨をつけ硬く細
くひねった糸状灸を1壮します。これは鍼の手足の甲への引き鍼に相当します。

 つぎに、その井穴ともっとも痛むところを結ぶライン上のツボを探します。
指関節まわりの窪みなどでペコペコとヘコんだところが狙い目で、もっとも痛
むところよりもすこし胴体よりの手首足首ちかくにもツボが出ていることもあ
ります。

 胴体にいちばん近いツボから井穴のほうへの順で、灸点墨をつけてから、硬
くひねった糸状灸を1壮します。たいてい1壮で充分ですが、痛みが残ってい
るときには、もう1壮します。

 痛むラインが2,3本あるときは同じように灸します。

 痛むラインの灸を終えたら、ためしに患部を動かしてもらいます。動かして
痛みや辛さがのこっていたら、痛む直前の格好で痛むあたりを、鍼柄ほどの太
さのものを縦横に動かして、いちばんヘコんだところを見付け圧痛があったら、
灸点墨をつけてから灸をします。

 鍼の場合の動作鍼にあたる方法です。施灸後また動かして痛むようなら、同
じようにツボ探しをして、灸をします。動かして痛むところが無くなるまで続
けます。

 状態によっては、動かすと前腕・下腿など胴よりに痛みが出てくることもあ
ります。指を動かす筋肉の筋腹や起始は前腕の肘よりや下腿の膝よりにあるし、
指を動かすときには肩甲骨や骨盤や背骨もいっしょに動いているからです。

 また、手指の痛みの場合でも手指を使う姿勢によっては足腰にも辛さが出て
くる場合もあります。そういう場所の治療は鍼でしてもよいでしょう。今まで
説明してきた、動作鍼の方法で施術してください。

 おわりに、施灸したところの延長線上の指の井穴を押してみて、いちばん痛
いところに灸をします。指が何本かあれば、それらの井穴の痛さを比較してい
ちばん痛いところを選びます。

 はじめに灸したところと同じ井穴になったら、指端や骨空に灸をします。鍼
の場合の最後の引き鍼に当たる方法です。

 足の親指の井穴の場合には、陰経側なので、そこで止めずに陽経側の足指か
手指の井穴のなかから次に痛いところをみつけて、灸して終わります。

*(4)多いのは、親指の辛さ
 こういうお灸の仕方は、指だけでなく手首足首までの辛さにも使えます。

 いちばん多いのは、マッサージなどのバイトのし過ぎで親指を痛めたという
例ですが、残念ながら撮らせていただいた写真がピンぼけでした。そこで、親
指の痛い方で治療中の写真を撮らせてくださる方を募集しています。そういう
方は術伝事務局までメールをくださるようお願いします。

 今回は、写真がとれた手首の橈屈で痛みが出る方と遠位指関節捻挫の方の例
を紹介します。

*(5)手首の橈屈が辛い例
 左手首を橈屈すると、指で示した部分が辛い方の例です(写真3)。
#image(DSCF0442.jpg)写真3

 小指の外よりの井穴から順に、井穴と痛むあたりを結ぶ線上でヘコんだとこ
ろをツボ探し用ステンレス棒で押してみて痛い場所を探し、青い丸印を書きま
した(写真4)。念のため、そのラインを肘近くまで調べましたが、前腕には
あまりツボが出ていませんでした。
#image(DSCF0443.jpg)写真4

 まずは、小指外よりの井穴に灸しました(写真5)。
#image(DSCF0444.jpg)写真5

 そのあと印をつけたところを前腕よりのほうから指のほうへの順で灸してい
きました(写真6、7、8)。
#image(DSCF0450.jpg)写真6
#image(DSCF0451.jpg)写真7
#image(DSCF0452.jpg)写真8

 はじめに痛かったところの施灸を終えたあと、試しに橈屈をしてもらったら
(写真9)、新たに2カ所痛む場所が見つかったので、そこに赤い丸印をつけ
(写真10)、そこに灸しました(写真11)。
#image(DSCF0456.jpg)写真9
#image(DSCF0454.jpg)写真10
#image(DSCF0458.jpg)写真11

 もう一度橈屈してもらったら痛む場所がなくなったので、小指骨空に灸して
しあげました(写真12)。
#image(DSCF0461.jpg)写真12

*(6)突き指で指を曲げられない例
 左手薬指を突き指して、痛くて指が曲げられないとのことでした(写真13)。
#image(DSCF0462.jpg)写真13

 左手薬指を調べ、痛むところに灸点墨で印をつけました(写真14)。
#image(DSCF0465.jpg)写真14

 あまりにも指先なので、その指の井穴では遠くとは言えないので、巨刺に準じ
た方法でやってみようかと右薬指を調べたら、左よりは少ないですがツボが出て
いたので(写真15)、順に灸しました(写真16、17)。
#image(DSCF0466.jpg)写真15
#image(DSCF0468.jpg)写真16
#image(DSCF0470.jpg)写真17

 そのあと、左薬指をツボ探し棒で調べ直したら(写真18)、ツボが減っていま
した。このツボの出方からすると、小指よりを突いた可能性が高いと思います
(写真19)。
#image(DSCF0478.jpg)写真18
#image(DSCF0480.jpg)写真19

それらのツボに順番に灸し(写真20、21、22、23)、最後に小指側の薬指井穴
に灸して仕上げました(写真24)。
#image(DSCF0484.jpg)写真20
#image(DSCF0486.jpg)写真21
#image(DSCF0488.jpg)写真22
#image(DSCF0489.jpg)写真23
#image(DSCF0493.jpg)写真24

そしたら、他の指と同じくらい曲げられるようになりました(写真25)。
#image(DSCF0494.jpg)写真25

(7)おわりに
 指は、経絡の末端であり、指への灸で全身の経絡的歪みを調整できたりもしま
す。逆に言うと、指の辛さがその指と経絡的に関係するところ(体幹部内の臓器
もふくめて)の歪みを大きくさせてしまうことも考えられるかなと思います。

 また、指の辛さで肘膝までを診ることと、肘膝から先に手足の要穴が多いこと
を考え合わせると、指の辛さは、その指の延長の手足の要穴に関係していること
になりますし、また、それら要穴と経絡的関連のある体幹部のまだ顕在化してい
ない歪みや変動の反映の可能性もあります。

 指の痛みをほっておかずに、できるだけ早く辛さを解消したほうが良いと考え
る理由の一つですし、他の肘膝から先の辛さにも同じようなことが言えるのでは
ないかと考えています。

 筆者は、治療中は、おもに息の深さで効果的かどうかを観てさじ加減し、治療
直後は、喜んでもらえたか、嬉しそうな表情になったか、足取りがかるくなった
かなどで有効かどうか判断し、その後は、次の日の朝の寝覚めが良かったかなど
で効果を上げたか判断しています。

 局所治療をしても、治療中に息が深くなり、治療後に喜んで嬉しそうな表情を
していれば、全身治療としてみても、かなり効果的だったと考えてよいのではな
いかなと考えています。息が深くなったり、嬉しそうな表情をするのは、全身的
なことだと思いますので。

 このあたりの判断は、「鍼は引き鍼」内の「治療は対話」にくわしく書きまし
た。(「鍼は引き鍼」も、そのうち掲載したいと思います)

 逆に、辛さが減り可動域が改善しても、喜んでいただけないときには、さじ加
減を間違えたかなと思い、次はもう少し工夫してみることにしています。これは、
全身治療するときも同じです。

 耳、手、足裏、肘膝から先だけで治療する流派の人もいるし、このあたりの全
身と局所の相関関係は、東洋医学のおもしろいところだなと思ってみています。

 今回書いた方法で、指の痛みは、かなり解消できると思います。 試してみてく
ださい。 

 また、この方法で解消できなかったり、改善できてもすぐにぶり返したりすれ
ば、単なる運動器系の病変ではない可能性が高くなるということかなと考えてい
ます。

 そういう場合は、腹診などふくめて全身の慢性期の養生が必要になると思いま
す。そういう場合の処置は、「養生の一本鍼」というテーマで別途書きたいと思っ
ています。逆に言えば、この方法で解消できれば、単なる運動器系病変の可能性
が高く、そういう意味で、判断の一つに使えるのではないかと考えています。

   つぎへ>>>術伝流一本鍼no.15

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