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術伝流一本鍼no.20 - (2010/07/26 (月) 14:05:45) のソース

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&color(green){術伝流一本鍼no.20 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(2))}
&bold(){&size(24){&color(green){表位の急性期、概要}}}
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#contents

*(1)はじめに
 先回は、内科系急性期の1回目で大雑把なことを説明しました。今回から、より
くわしく、表位、上焦、中焦、下焦に分けて説明していきます。また、刺鍼法や施
灸法についても細かく説明していきます。

*(2)体の横輪切り分類
 鍼灸の世界では、経絡という形で、体を、立ち姿勢で縦割りに分類してみること
が多いです。比較すると、漢方の世界では、立ち姿勢で横割りに分類するほうが多
くなります。鍼灸の世界でいうと、臓腑論や兪募穴などに見られる体の分類の仕方
です。

 内科系を鍼灸で治療していく場合には、運動器系よりも、漢方に近い見方、つま
り、体を立ち姿勢で横輪切りに見る見方も取り入れたほうが分かりやすいことが多
くなります。

 具体的にいうと、体を以下の4つに分けます。

1.表位:肩甲骨・鎖骨から上

2.上焦:1.の下で横隔膜より上

3.中焦:2.の下でヘソより上

4.下焦:3.の下側の胴体部分

 細かく書くと、表位というのは、「表」という字がついているくらいで、肩甲骨
・鎖骨から上でも、表面に近い部分をさします。

 こういう横切り分類と経絡の縦切り分類を組み合わせていくことで、内科系の病
変が理解しやすくなります。

 とくに、表位の場合は、陽明経と少陽経のものが多く、それに太陽経が加わりま
す。体の前側におもに症状の出る場合と、体の横側におもに症状が出ることが多い
ということです。

*(3)表位の内科系急性症状
 内科系の急性症状は、病を未病と発作に分けた場合には、発作に分類される現象
です。先回も書いたように、基本的に、腹の邪毒・虚から頭にむかって邪気が衝き
上げる「上衝」という現象が見られます(図1)。この様子は、どぶろくを作り冷
蔵庫で保管したあと、暖かいところにしばらく出しておいてから栓を抜いたときの
様子に、よく似ています。

&ref(doburoku-hyoui.jpg)図1 

 ですから、頭にいく邪気を少なくすること、邪気に頭をつかせないように体の外
に引き出し、それによって上衝をしずめることが基本的な処置になります。

 上焦、中焦、下焦に歪みが少ないときには、邪気はそのまま表位にのぼり表位の
急性症状を引き起こします。

 上焦、中焦、下焦いずれかに、歪み、邪毒があるときには、歪みのあるところで
急性症状を引き起こす(図2)ので、表位の症状はそのぶん軽くなることが多いで
す。逆にいえば、 表位の症状が目立つときには、上焦、中焦、下焦に歪みが比較的
少ないことが多くなります。

&ref(naikakei-kyuusei2.jpg)図2

 表位の急性症状の特徴は、すでに頭に邪気が上がっているので、顔や頭はじめ、
肩甲骨・鎖骨から上の表位に、熱や痛みをはじめとするいろいろな症状が出ている
ことです。

**1.表位陽明経の急性症状
 邪気が陽明経を衝き上げれば、体の前側の症状が出ます。

 前側の症状の例は、ニキビ、モノモライ、前頭部痛、カゼのごく初期の前頭部発
熱、真夏の老人の譫語、疳の虫、口唇ヘルペスなどです。

 邪気が陽明を衝き上げるときは、体の左右差があまりないことが多いです。

 この場合の養生は、 腹の邪毒、歪み、虚を少なくすることです。

**2.表位少陽経の急性症状
 邪気が少陽経を衝き上げれば、体の横側の症状が出ます。 

 横側の症状の例は、めまい、耳鳴り、突発性難聴などです。聴覚に関係する耳や、
体の平衡に関係する三半規管が、体の横側にあることに由来すると思われます。

 「小陽の病たる、口苦く、ノド乾き、目眩(くるめ)くなり」(傷寒論)

 邪気が少陽を衝き上げるときは、体の左右差が大きい場合が多いです。体の左右
差が大きいため、邪気がまっすぐ上にむかわず、横にずれて上衝することになり、
その結果として少陽経病症になるようです。言い換えれば、体の左右の歪みが大き
いので、上焦した邪気に左右差の歪みが影響されて、少陽経の症状が出やすいとい
うことかなと思います。

 そのため、この場合は、応急処置で治まっても、体の左右差を少なくしないと、
再発することが多くなります。ですから、慢性期の養生では、陽明経病症のときに
した、腹の邪毒、歪み、虚の改善に加えて、 左右差の改善を試みます。

**3.表位太陽経の急性症状
 典型例は、葛根湯証系のように首や肩がこわばるカゼの、初期のものです。

 この場合は、その表位後側の筋の過緊張によって、上衝をおさめにくくなってい
ます。そのため、上衝をおろす以外に、表位後側の筋の過緊張をゆるめる必要があ
ります。ただし、カゼも咳も出るようになると、表位だけではなく上焦の症状も混
じってくるので、上焦の症状への対処も必要になります。

*(4)診察で経絡病症を区別するには
 表位の急性症状の診察で、まず見たいのは、どの経絡を、邪気が衝き上げている
かです。その目安になるのは、おもに3つ、症状、頭の熱さ、八邪の厚みです。

 症状は、(3)に書いたことを参考にしてください。

 頭の熱さは、先回書きましたように、頭のハチマキをするあたりの熱さをくらべ
ます。まずは左右、つぎにその中で前横後ろを比較します(図3、写真1)。

&ref(atama-keiraku3.jpg)図3

&ref(DSCF1432.jpg)写真1

 八邪というのは、手の指の根元の水かき状の部分のことです。関係する経絡に異
常があると、その部分の筋肉が、他よりも厚くなります。この部分の筋肉が機能性
病変をおこし過緊張状態になっているためです。

 親指と人差し指ではさんで厚みや圧痛をしらべます(写真2)。手を開いたとき
に指と指の感覚が狭かったり(写真3)、井穴を押して異常を感じたり(写真4)、
指を反らせてピリピリビリビリする感じがしたり(写真5)などでも判断できます。
このあたりは、運動器編の「手足甲のツボで運動鍼」で詳しく書きましたので、見
直しておいてください。

&ref(DSCF1228.jpg)写真2

&ref(DSCF0924.jpg)写真3
&ref(DSCF0926.jpg)写真4
&ref(DSCF0925.jpg)写真5

 この3つ、症状、頭の熱さ、指の異常が一致していればよい(写真6)のです
が、一致していないときには、理由を考えるようにしてください。

&ref(DSCF1405.jpg)写真6

 私は、基本的に、体の自然の状態を重視するという立場に立っています。その
ため、3つが一致していないときには、指への刺鍼では、指の状態をいちばん重
視し、頭への散鍼では頭の状態をいちばん重視します。

 患者さんが訴える症状、あるいは、鍼灸師がいま目標にしている症状とは、別
の症状や歪みが関係して、その症状の状態と少しツボが出ていることは、よくあ
ります。そのため、指の状態を中心にして刺鍼施灸するところを決めても、目標
にしている症状が消えることが多いです。

 まぁ、どうしても症状が消えない場合には、症状に合わせて、刺鍼施灸すると
ころを選ぶこともありますが。

 また、カゼの初期のときなどは、陽明と太陽の両方に異常がある場合も多いで
す。とくに、葛根湯証系のカゼの場合には、うなじに手のひらを入れて確かめて
も汗ばんでいないことが多く、肩首はじめ、表位の後側のコリ、つまり、太陽経
の異常と見ることができます。

 いずれにしろ、1番目と2番目に異常な感じの経絡を選びます。1番目の経絡
に出ているツボへの刺鍼施灸から施術をはじめます。

*(5)表位は、陽経病症が多くなる 
 表位は、体の中では、陽位ですし、体の横輪切り4分類の中では、上にあるの
で、ほかの3つ、つまり、上焦、中焦、下焦よりも、陽位の要素が強くなります。

 そこで、以下のように、手足陰経に引くことを省略することが多くなるという
か、しなくてもよい場合が多いです。繰り返しになりますが、陰経というのは、
体の内側、つまり陰位に関係した経絡ですから。

1.診察

2.準備:上衝をおさめる
  ①手甲に引く

(3.手足に引く)
(①手足陰経に引く)
(②必要があれば、陽経にも引く)

4.陽に引く
  ①熱かったら散鍼
  ②陽側に出ているツボに引く

5.後始末:上衝をおさめる
  ①頭の散鍼
  ②手甲に引く

 先に書いたように、準備では、診察でいちばん異常を感じた経絡のツボを選ん
で施術をはじめ、後始末では2番目に異常を感じた経絡のツボを選んで施術とい
うことが多いです。

 ただし、後始末のときに、指まわりを調べて、はじめの診察のときと様子が異
なっていたら、後始末の診察のときのほうの状態を重視し、そのとき異常な経絡
のツボを選んで施術します。

 3.1.の「手足陰経に引く」で、もし使うとすれば、列缺だと思います。

c.f.「頭項は列缺に尋ね」

 列缺の使い方や、その後に必要ならばする3.2.の「陽経に引く」の使い方につ
いては、列缺を使うことの多い上焦の病のときに説明します。というのも、列缺
を使う必要があるなら、表位のみの症状というよりも、上焦の症状もすこし混じっ
た状態と考えたほうがよいと思うからです。

 たとえば、カゼの初期と思って、手甲手指に刺鍼施灸しても症状がおさまらず、
列缺に刺鍼したら症状が軽くなった場合には、もうすでに上焦にもカゼの症状が
及んでいる状態と考え、施術をしたほうがよいと思います。

*(6)手陽末端で軽減したら終えてもよい 
 そういうわけで、表位の症例で、初期の場合や、軽い場合には、手甲や指のツ
ボの施術だけで、症状が消えてしまうことがけっこう多いです。

 そうした場合、私は、それ以上の施術はせずに様子を見ます。軽くなったのに、
手陰経などに施術すると、症状がぶり返すことが、けっこう多いからです。

 治まらなかったら、それ以降もしてみるという感じで、ご理解いただければよ
いなと思っています。

 また、すこしていねいにするなら

1.診察

2.準備:手甲手指のツボに引く

3.陽位:陽位の熱いところに散鍼

4.始末:頭の散鍼
     手甲手指のツボに引く

ということも多いです。

 このあたりは、患者さんによって、あるいは、同じ患者さんでも時と場合によっ
て、また、施術者の得手不得手や熟練度によっても異なってきますので、経験を積
んで、判断力をみがいていってください。

 次回は、表位の陽明経病症を中心に、カゼの初期など、それに太陽経病症がすこ
し混じったものも書きます。次々回に表位の少陽経病症について書いていきます。

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