このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです
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514 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/23(日) 03:52:10 ID:SKm6XGvy
「ちょっとだけって言ったのに……」
 私に体を預け、静かに寝息を立てる唯先輩をちらりと見て、私はため息をひとつ吐いた。

  ~

 時は放課後。珍しく、他の先輩方は個々の用事で欠席するとのことだった。仕方ないので、残った唯先輩と私で
ギターの練習をすることにした……けど、先輩の集中力がそう続くはずもなく、30分も経たず、私に抱きついて休憩を訴えた。
「あずにゃーん、ちょっとだけ! ちょっとだけ休憩したらぎゅいんぎゅいん弾くから!」
「……本当ですか? じゃあ、ちょっとだけですよ?」
「うん! いやっほーぅ!」
 ということで、ソファにふたり座って、軽く息抜きをする……はずだったのに、唯先輩はいつのまにか眠りに落ちていた。
そのうえ、私に寄りかかってきたものだから、私まで身動きがとれなくなってしまっている。背丈的には逆の立場であるべきじゃないんだろうか……
 とはいえ、気持ちよく寝ているところを無理に起こすのもためらわれる。結局のところ、私は先輩の体を受け止めるしかなかった。
「もう……」
 相変わらず、呆れるひとだと思った。でも、もしかすると、このとき私は笑顔を浮かべていたのかもしれない。確かめようはないけれど、なんとなくそんな気がした。
右を向く。唯先輩の頭がすぐ目前にある。軽く茶色がかった、軟らかそうな髪の毛が私の肩に流れている。
 なんとなく少しだけ近づいてみる。
 薄いけれど、とても甘い香りがした。少なくとも私にとってはそうだった。
 これが先輩の匂いなんだと思うと、どうしてかいっそういいものに感じる。
「どんなシャンプー使ってるんだろ……」
 いつのまにか、私は先輩の髪に顔を埋めるほどに接近してしまっていた。眼を閉じて、その香りに集中する。もっと嗅ぎたい。
 ……そういえば、唯先輩のお家には行ったことがあるけど、部屋にはお邪魔したことがなかったような気がする。
 部屋の中もこんな匂いで満たされているんだろうか。だとしたら、ベッドなんてすごく良い香りがしそうだ。
 もし泊まりになんか行ったら、強引な先輩のことだ、きっと「一緒にお風呂入ろうよ!」なんて、気軽に誘ってくるんだろう。
 そうして、お風呂で香りがより強まったあと、同じように「一緒に寝ようよ!」と無邪気に言って腕を引っ張られるのが容易に想像できる。
 そうなれば、私は一晩中先輩の匂いに包まれることになる。私の全身にそれが移ってしまうかもしれない。ふたりで同じ匂いになるんだ。
 ふたりで寝るのは少し暑いかもしれないけど、唯先輩はきっと汗の匂いも甘いに違いない。
「んー……は、ふー……っ!?」
 思わず大きくなってしまっていた自分の息遣いを自覚して、私は急速に正気を取り戻した。
(う、うわぁ……私、なに想像して……)
 血が上って、顔が熱を持っていくのがわかる。きっと真っ赤になっているだろう。いまさらになって羞恥心がこみ上げてきた。
 匂いがどうこうなんて、まるで変態みたいなことを……
 これ以上匂いを嗅ぐのはまずい!
「すいませんっ」
 私は先輩の頭を持ち上げて、自分の太腿にゆっくりと落としこんだ。膝枕というやつだ。これはこれで恥ずかしいけど、さっきまでの状況よりは
いくらかマシになったはずだ。
「もう、先輩が悪いんですからね」
 たまに先輩がやっているように、びし、と指先を突きつける。先輩はいまだ目を覚ますことなく、むしろ快眠状態にある。
 私がこんなに苦労しているというのに、なんでこのひとはこんなに気楽なんだろう。
「……」
 指の先には、唯先輩の柔らかそうなほっぺたがある。やはりなんとなく、私はそれを軽く突っついた。
 まるで餅のように、私の指は先輩の頬に沈む。ほどよく水分を含んでいて、吸い付くようだった。
「わぁ」
 普段を適当に過ごしているような先輩も、やっぱりこうした女の子らしいケアはきちんとしているのだろう。すごく綺麗な肌だ。
 あらためて見ると、鼻も高くはないけれど小さく整っているし、睫毛もわりと長い。
 ……いつも私のことをかわいいかわいいと言うけど、このひとが一番かわいいのではないだろうか。
 少なくとも私が男の子だったら、放っておかないような気がする。
「……って、またなにを考えて……わ」
 そのとき、先輩が軽く頭を動かした。唇が私の指のすぐそばに来ている。
 リップをこまめに塗っているのか、カサつきのまったくない、滑らかで柔らかそうな、小さな唇だった。少し開いていて、空気が出入りしている。
 その様子は、同性の私にとっても魅力的で、思わず唾を飲み込んでしまった。
515 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/23(日) 03:53:52 ID:SKm6XGvy
「……ごく」
 意識的か無意識的かは、もう自分でもわからなかった。
 辛い体勢だけど、少しずつ顔を近づけていく。あるところで、吐息が私をくすぐるようになる。
 やっぱりいい匂いだった。唯先輩はなんでも甘い匂いがする。
 先輩との距離は何センチもない。あとほんのちょっと顔を落とせば……
(……落とせば?)
 そこで、私は動きを止めた。私はなにをするつもりだったのだろう?
 決まっている。こんな体勢で思い浮かぶことなんてひとつしかない。もし自覚的でなかったにしろ、私はキスをしようとしていたのだ。
 しかも寝ているひとにだ。あまつさえ同性にだ。
 でも、不思議と抵抗感はなかった。それは私がそういった趣味を持つからではない。
 そうだ、やっぱり唯先輩が悪いんだ。こんなにかわいい寝顔を見せられたら、こんなにいい匂いがしたら、だれだってそうなってしまうはずだ。
私は悪くない。こんなにかわいい唯先輩が悪いんだ。
 音楽用語もろくに知らないくせに。練習さぼってばっかりいるくせに。だけど、いざというときは頼りになる。
 こんな馬鹿なひと、だれだって好きになるに決まってる。
(うぅ……)
 しばらく固まってしまう。私の脳内を見られたとしたら、きっと欲と罪悪感が天秤にかかっていることだろう。
 顔を近づけはじめてから、もう何秒経ったか何分経ったかわからない。
 そのとき、
「んー、んぅ……」
 唯先輩がうめくような声をあげて、同時、私の後頭に負荷がかかった。それが先輩の手によるものだということに気付くには、1秒もかからなかった。
「へ?」
 そのまま、ぐい、と力がこめられる。

 ……なににおいても、終わりはあっけないものだという。
 経験のない音が小さく鳴って、私はこれ以上ないくらい赤面した。

  ~

「んーっ、よく寝たー! あずにゃん、膝枕ありがとー!」
「せ、責任とってくださいっ!」
「なんの!?」
 案の定というべきか、先輩にはさっきの覚えがないようだった。……ほんとうに、このひとは能天気だ。
 でも、そんな先輩が、私はだれよりも大好きなのだろう。
 これから、ゆっくりと責任をとっていってもらおう。時間はある。
 とりあえずとして、私は今度の休みに唯先輩の家へ泊まりに行くことを決めた。

「ね、あずにゃん」
「は、はい?」
 突然、先輩が私の後ろから抱き着いてきた。耳元に口が寄せられる。甘えるような声がした。
「……あれ、わたしのはじめてだよ? へへ」
「え!?」
「よーし、練習するぞーう!」
 え、ちょっと、まって、どういうこと? あれ? ええ!?






すばらしい作品をありがとう

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最終更新:2009年08月23日 04:20