「恋愛感情は精神的な病の一種」
この言葉はハルにゃんの受け売りでしかないのだが、実際の所私もそう思っている
私の場合、幼い頃から2次元の世界に入り浸りだったし
3次元つまり、現実世界において私のようなオタクと言われる人が世間から認められず
それを自負している私も人が好きになることは出来なかった
私は「恋愛はするだけ無駄」と言った感じでしかなかった
高校に、入学するまでは―――
かといって、高校に入ってからも「恋愛感情は精神的な病の一種」と言った概念は変わってない
恋愛感情を持ってしまった私は、その感情を持ち合わせてからと言ったものの、自分の趣味に没頭できなくなってしまった
それを相手の所為にするのは簡単だが、この感情は私が勝手に持ってしまったものであり、彼を攻める権利は、私にはない
原因は彼なんだけど
この感情さえ失えばまた趣味に没頭できる
そう考えてやり過ごそうとしても、結果彼のことを考えてしまっている
そんな自分がいた
「ちょっとこなた。どうしたの?」
そういわれて私はふと我に帰った
時刻は昼休み、いつもどおり4人でお弁当を食べている時だった
「ん?何が?」
「何がってアンタ……3分ほどボーっとしてたわよ?具合でも悪いんじゃないの?」
私の数少ない現実世界での友人、柊かがみは心配そうに私のことを見ている
そんなにモノローグの世界に意識が飛んでしまってたのかな
「大丈夫だヨ。いや~私のこと心配してくれてたなんて、嬉しいヨ、かがみん」
「バッ、誰が心配なんか……。それより、かがみんって言うな」
かがみは少しふてくされた様子で再び箸を取り弁当に手を伸ばした
そんなかがみを見ていると奥の方に彼がいた
彼は友達と3人で昼食を食べているらしい
……また、彼のことを気にかけてしまった
いつからだろう、こんなに彼のことが気になるようになったのは
あの後の授業も、寝て過ごし放課後にいつもの場所へ足を踏み入れる
ドアをノックすると中からかわいらしい声で「はぁい」と聞こえる
返事を聞いた後、ドアを開けるといつもどおりのメイド服姿のみくるちゃんがいた
やっぱり、かわいいな~。私とは天と地の差だよ
「お茶淹れましたぁ」
そう言ってみくるちゃんは私の席に湯呑みを置いてくれた
私はSOS団に入っている
原因は柊姉妹
「巫女で双子なんて珍しいにもほどがあるわ。SOS団に入れましょう」
とハルにゃんが言ったのが発端であり、その場に偶々居合わせた私とみゆきさんも入ることとなった
ここに入らなければ、彼に対しこんな感情を抱くことも無かったのかもしれない
みくるちゃんが入れたお茶を飲んでいると柊姉妹、みゆきさん、古泉くん、彼の順番で部室へと来た
因みに、ながもんは私が来た時から既に来ていた
「今日はハルヒの奴、遅いな」
彼はそういいながら古泉くんとオセロをしている
「そうですね。涼宮さんも、何らかの事情があるのでしょう」
さわやかスマイルの似合う古泉くん
一般基準では彼と古泉くんなら、古泉くんの方がカッコイイのだが、私はどうしても彼のほうに目がいってしまう
話は逸れるのだが、私には気になる事が一つある
彼は、ハルにゃんのことを「ハルヒ」と呼んでいる
元々彼はハルにゃんと付き合っていると言った噂もあった
彼に聞いた所「それは全くの嘘偽りだ。あいつにつき合わされるのは部活だけで十分だ」と全否定
実際、彼とハルにゃんは常々一緒にいたし、SOS団に入る前の私たちが話しかけても一切返事をしなかった彼女が彼にだけはしっかりと返事をしていた
そのため、彼に対し抱いた感情は半ば諦め気味だったのだが、彼の言葉で微かだが光が見えたことが嬉しく思えていた
なら、何故彼は彼女を下の名前で呼んでいるのだろうか?
かがみとつかさも下の名前で呼んでいるが、これは双子としての区別をつけるためで決して他意があるわけではない
私のことは「泉」
みゆきさんは「高良」
ながもんは「長門」
みくるちゃんは「朝比奈さん」
なのに、ハルにゃんは「ハルヒ」
私の中に何か変な悔しさ、怒り、悲しみの三つが合わさったような複雑な感情がわいてきた
……これが嫉妬と言うものなのか
やっぱり、恋愛感情は病の一種でしかない。こんな些細な事で、私は胸を締め付けられる思いをしているのだから
「なんでキョンキョンはハルにゃんのことハルヒって呼んでるの?」
学校からの帰り道、私はあの長い坂を下る途中で彼に話しかけた
「あー、何でだろうな。気が付いたらハルヒって呼んでたな」
「そうだよネ。最初は涼宮って呼んでたよネ」
私は一度彼が彼女の事を涼宮と呼んだのを聞いた事がある
専らそれは入学して早々の事であり、その一回きり以降私は彼が涼宮と呼んでいるのを聞いた事が無い
「そうだな。でも、何で急にそんなことを聞いてきたんだ?」
「いやサ、やっぱりキョンキョンとハルにゃんは付き合ってるのかナーって」
「前も言ったがそれは完全なる嘘偽りだ。俺たちはそんな関係ではない」
「だったら、ハルヒって呼ぶのやめた方が良いよ?勘違いされちゃうヨ?」
彼はその言葉を聴いて暫く黙り込む
「けど、いきなり呼称を変えても変に違和感が残るだけだしな」
どうやら、彼には本当に彼女に対する恋愛感情はないらしい
「だったら、私のこともこなたって呼んでよ」
「なっ、何でそんなことを……」
「ほらサ、私の事も下の名前で呼んだらハルにゃんとキョンキョンの関係に対する疑いは晴れるかもヨ?」
嘘だ。私はただ彼に下の名前で呼んでほしい
その為だけにこんな嘘をついた自分が恥ずかしく思える
「それもそうかもしれないが、お前のことをこなたと呼んだら逆にお前との関係に対する疑いを持たれるぞ」
私は別にいいんだけどネ。なんて言えるはずもない
それにしても彼はなかなか手ごわい、やはり彼はSOS団みんな(彼以外)が認めるとてつもない鈍感な男らしい
こういうときは、素直に呼ぶべきだろうに
「ムー、嘘だよ、嘘。実はサ、たまに泉って呼ばれてるのか、古泉って言ってるのか、わからないんだよネ」
「そうだったのか。確かに、ややこしいな」
「だからサ、はっきり区別つけるために私のこともこなたって呼んだほうが良いんじゃないかナ~ってネ」
彼は考え込んだ後、それもそうだなといってあっさりと了承してくれた
鈍感が故、正当な理由があったら遠慮なく女子の下の名前を言える彼は凄いと思う
その凄さのおかげで、私は嬉しくなれるのだが
あと、古泉と泉が聞き分けにくいって言うのも嘘
ゴメンネ、古泉くん。勝手に名前を言い訳に使っちゃって
坂道を下り終え、十字路に差し掛かった
「んじゃ、俺はこっちだから」
「私はこっちだネ」
「また明日な。泉」
もう忘れていますよ、彼は
「泉じゃないヨ」
「あっ、悪かった。じゃあな、こなた」
「そうそう。じゃあネ~」
もうとっくに胸を締め付けられる思いはなくなった
ほんの少しでしかないが、彼と私の距離が近づいた事が、私の病の治療薬となり私を少しだけ治療してくれた
今度はどうやって彼に近づこうか
そんな事ばかりを最近は考える日々が多くなってきた
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続編 『病の快方』