『病の快方』

『病に対する治療薬』の続編です。



「最近、アンタ機嫌良いわね~」
 みんなとの帰り道、かがみが私に聞いてきた
「そ、そうかナ?」
「そうよ。なんかこう……変わったわよ?」
 彼が私に対する呼び方を「泉」から「こなた」に変わってからかな
 けどそれ以降、未だ何の進展もない
 でも、その小さくも大きな進歩が私の機嫌を良くしていたのかも知れない
「実は……恋煩いでサ」
 なんてことは言えるはずもない
 私が恋愛で浮ついてるなどとはキャラ的にも問題があるからね
「気のせいじゃないかナ?私はいつもどおりだヨ?」
「そう?まっ、アンタのテンションが上がったらこっちにとっては良い迷惑だけどね」
 やっぱりかがみはツンデレだ。一緒に入れることを楽しんでるくせに
 モチロン、私も楽しんでいるけど
 結局、その日もいつもどおりの帰り道だった

 改めて思うと私のスペックは最低でしかない
『幼児体系でオタク』
 これこそ、一部の人に需要があるかもしれないが、彼は少なくともそんな人ではない
 寧ろ、そんな人だと知ったらこの恋は冷めるかもしれない
 一体どの要素で頑張れば彼は振り向いてくれるのだろうか
 はぁ、考えれば考えるほど憂鬱になっていく

「どうした?」
 そういわれ、再び前のようにモノローグの世界から戻ってくる
 今は部室、彼は古泉くんと将棋をしているようだった
「ん?何がだネ?キョンキョン」
 彼が会話を振ってきてくれている
 なるべく、長く続けて私の病の治療薬を増やさなければ
「いや、ずっと何か思いつめていた感じだったからな」
 あなたのことで悩んでます
「そう?昨日は機嫌よかったみたいだけど」
 隣でながもんと同じように本を読んでいるかがみが私の代わりに返事をした
 読んでる本の種類は全然違うけど
「そうなのか?こなた」
 彼がそういった瞬間、かがみがピクッと動いた感じがした
「自分でも自覚がないんだけどネ~。でも、さっきは考え事してたんだヨ」
「そうか。悩んでる時は色んな人に相談した方がいいと思うぞ。自分ひとりで塞ぎこむよりはな」
 人に相談……か
 この病はどのお医者さんに相談したらよいのでしょうか

 

「それより、キョン君は前からこなたの事こなたって呼んでたっけ?」
 一瞬、部室の空気が変わった気がした
 かがみん、そこは軽く聞き流しておいて欲しかった
「あぁ、どうやら泉と古泉が聞き分けづらいらしくてな。仕方なく、下の名前で呼ぶことにしたんだ」
 流石はキングオブ鈍感。呼び方を変えるなんて普通怪しまれるようなことでも動じないあなたは凄い
 まぁ、勝手に私がうろたえてただけなんだけどね
 ふ~ん、と納得したようにかがみは私を見てきた
 2秒ほど見つめあうとかがみは再び本を読み始めた
 なんだったんだろうあの間は……
 というか、もう彼との会話が終わっちゃったよ

 

「どうせなら、僕の事をイツキって呼んでくださったらよろしいのでは?」
「気持ち悪いから遠慮しておく」
「即答ですか……。んふっ、困ったものです」

 

 ながもんの本を閉じる音がして今日の活動は終了となった
 私が部室を出ようとすると、後ろから声をかけられた
「こなた、ちょっといいか?」
「ん?お姉さんに相談かネ?」
 本日二度目の彼からのお話
 今度こそ、長くしないと
「誰がお姉さんだ。そんなことはどうでもいい、今度の日曜暇か?」
 ん?ちょっと待って。今おかしな言葉が聞こえたような……
「何て?」
 思わず聞き返してしまった
「だから、今度の日曜日暇かって聞いてるんだ」
 これは、もしかしてもしかしなくてもデートのお誘い?
「うん。暇だよ、すっごい暇!」
「うお、いきなりテンション上げるなよ。じゃあ、買い物に付き合ってくれ」
 買い物?
「ああ、俺の家のパソコンがだいぶかたが来てな。そろそろ新しいのに買い換えようと思うのだが、なにぶんそういった機械には家族みんな疎くてな」
「だから私を頼ろうと?」
「そういうことだ。お前ならこういったのに詳しいだろ?」
 やっぱデートなんてあるわけないよね
 だって、キングオブ鈍感ですもの
 いや、逆にこれは鈍感を逆手にとって……
「それなりの対価は必要だヨ?」
「ああ、それぐらいわかってるさ。その日一日は何処でもお前の行きたい所にも行くし、昼食も奢らせてもらう。それでいいだろ?」
 これで少しはデートっぽくなったね
「う、そだネ~。なら、明後日付き合ってあげるヨ」
「ああ、ありがとうな。じゃ、詳しい事は明日の団活の時に言うから」
 そう言うと彼は足早と部室を去った
 ……それにしても、『オタク』というスペックがこういったところで活躍できるとは
 思わぬ伏兵だね。こりゃ

 

 土曜日
 今日も最後ではなかった
 最近は深夜遅くまでネトゲをすることも無くなってきたし、以前よりは規則的な生活が出来てきている
 これもひとえに彼のおかげなのかもしれない
 勝手なこじつけだけど

 結局最後は彼だった
 流石のハルにゃんも私たちが入ってから人数が多くなったので全額奢り、なんてことはなくなったけどそれでも相当な出費には変わりない
 かわいそうに。明日は私にも使うのにね
 因みに、9人になってからのくじわけは3人1組の3グループとなっている
 今日は私はかがみとつかさとのペアだった
 彼はみくるちゃんとみゆきさんと、ハルにゃんはながもんと古泉くんとのペアだった

 それにしても、彼のペアがSOS団の誇る巨乳の持ち主とは……
 これでもし彼がその属性に目覚められたら私は本当に望み薄だよ
 いや、その前から彼は彼女達の胸を見てたけどね

 ゴンッと音がなると同時に頭に激痛が走った
 おでこを押さえながら前を見るとどうやら私は電柱にぶつかったらしい
「ちょっとどうしたの?」
 かがみが私のことを心配そうに見てくれている
 はぁ、またモノローグの世界へジャンプしてしまってたらしい
 かがみの横ではつかさが落ち着かない様子でこっちを見ている
「アハハ、ちょっと下向いて歩いてたら当たっちゃってサ~」
「また考え事してたの?歩きながら考えるのはやめときなよ、そのうち怪我するよ。ってもう遅いか」
「そ、そだネ……」
 さっき当たった箇所を押さえながら返事をする
 それにしても、電信柱に当たるなんてゲームみたいなシチュ、あるなんて思わなかったよ
 やっぱり、痛いもんは痛いんだね

 結局その日は適当にぶらついて解散となった
 ハルにゃんたちが帰ってから彼は私のところへよってきた
「明日、10時にいつもの場所で良いか?」
「いいヨ。遅れたら、死刑だから」
 特技の一つであるハルにゃんのモノマネで彼に言う
「マジで似てるからやめてくれ。んじゃ、明日は頼むぞ」
 さて、明日の昼からのことについて考えておきますか

 

 デートの当日が来た
 いや、彼からしたらデートではないんだけどね
 10時少し前より集合場所へ着いた
 見たところ彼はまだ着てないらしい
「なーんてな」
 後ろから声が聞こえた
 振り向くと彼が木の陰から出てきた
「なっ、なんですとー」
 驚きの余り声を出してしまった
「その驚き方は失礼だな。今回は俺が誘ったんだし、こなたより遅く来るわけには行かないからな」
 その心意気が嬉しいな
 そう言う人に気が利くところが好きになったのかもしれない
「そうかネそうかネ。じゃっ、行きますかー」
「って俺先導じゃないのかよ」

 入ったのはよくある大型デパート
「ところで、いくらぐらいまでならオーケーなの?」
「ああ、予算的には15万ぐらいまでなら出せるぞ」
 そんな他愛のない会話をしながらパソコン選びを始める
 ノートかデスクかや一緒に買っておいたほうが言いソフトなど……そんな話でも十分楽しかった
 一緒にいれるだけで嬉しいのだから
「こんな感じでいいんじゃない?」
「そうだな。後は発送の手続きだけだな。ちょっと待っててくれ」
 そういって私を残して彼は窓口のほうへといった
 外に出て待とう
 そう考えた私は自動ドアをくぐり抜け彼を待った
 それにしても長いなぁ……
「悪い。いろいろと手間取った」
 暫くしてから彼は自動ドアから出てきた
 ふと時計を見る。ちょうど11時30分
「ちょうどいい時間帯だな。昼飯にでもするか」
 私はそだネ、とだけ言いどこか昼食を取れる場所を探した

「……で、結局はここなわけだ」
「まっ、無謀に挑戦するよりはましだとは思うヨ~?」
 来たのは有名なファーストフード店
 店を探したのはいいけれど、結局は無難なファーストフード店で昼食を食べる事となった
「それにしても、頼みすぎじゃないか?食べれるのか?」
「いいんだヨ。どうせ、キョンキョンの奢りだしね」
 そう言うと彼は財布の中身を確認した後落胆のため息をつく
 でも、確かに頼みすぎたかもしれない
 しかし、頼んだ物は仕方がない。完食して見せるさ

「うっ、もう食べられないヨ……」
 流石に頼みすぎた
 今さら後悔しても後の祭りだが、私はハンバーガーを半分残してしまった
「あれだけ頼んで残ったのはこれだけなのは凄いと思うぞ」
「ま、まぁネ~」
 おなかが苦しい。返事さえも曖昧になってしまう
「仕方がない。俺が食ってやるよ」
 そう言って彼は私のハンバーガーを奪い、食べ始めた
 ……アレ?
 これって俗に言う……
「間接キ……」
「ん?関節がどうかしたって?」
 思わず叫びそうになった
 そう、間接キスである
 まぁ、飲み物を同じストローで飲んだといったのとは違うけど
 私の食べかけの物を彼が食べたのだから、結果としては同じはず
 彼は私が間接って言ったのを関節と勘違いしたみたいだけど
「どうした?顔が赤いぞ」
 ハンバーガーを食べ終えた彼は心配そうに私の顔を見てくる
 ハッと気がついた私は頬に手を当て赤いのを隠そうとする
「それに関節がどうとか言ってたが……痛むのか?」
「い、いや大丈夫だから。心配しなくていいヨ」
「何をそんなに慌ててるんだ?」
 やっぱり彼は間接キスをしたことに気づいていないみたい
 流石はナンバーワンよりオンリーワンの鈍感君
 って意味が分からないか

 

「さて、無事昼飯を食べ終えたわけだし、何処に行きたいんだ?」
「フッフッフ、その言葉を待ってましたヨ」
 そう、午後からはようやく本格的なデート
 私はもう昨日のうちにシミュレーションはしているのさ
「じゃ、最初はあそこだヨ」
 そう言って指差したのはアニ○イト
 私の行きつけの店の1つだ
「げっ、あんな所に入るのか」
 やっぱり彼にも抵抗はあるみたい
「なんだいなんだい。私の行きたい所につれてってくれるんでしょ?」
「ま、まぁそうだが」
 とためらってたが後に
「約束もしたし、仕方ないか」
 と渋々了承してくれた

 中に入ってからもずっと彼と一緒に行動した
「この漫画面白いヨ?」
「何か絵が好かん。断る」
「ムー。ならこれは?」
「あからさまにこれはダメだろ。いろいろと」
「ならこれ」
「どれだけお前は俺に漫画を買わせたいんだ」
 私が漫画を薦めて、彼が拒む
 そんなやりとりが続いた
 途中、店員がいろいろうるさかったけど
「んじゃ、そろそろ次の場所へ行きますか」
「ん?お前、いろいろ俺に薦めといて自分は何も買わないのか?」
「うん。なんかいいものあるかなと思ってきたんだけど、別になかったからネ」
 そう言って店を出た
 店を出るときも店員がなんかうるさかったけど、まぁいいや

「で、次は何処だ?」
 彼は歩きながら私に聞いてくる
「ん~ここだヨ」
 次に来たのはゲームセンター
「ここなら俺も楽しめそうだな」
「でしょ?じゃはいろーはいろー」
「やれやれ、テンションが高いな」
 なんだかんだいって彼も乗り気っぽくてよかったよ
「うおりゃー」
「ぐっ……また負けた」
「いやーキョンキョン弱いネ~」
「俺も自信はあったんだがな……こうもコテンパンにされると自信も喪失する」
 彼と私は格闘ゲームをやっていた
 モチロン、私はこういった類は強いので彼の自信を粉砕してしまった
 少しかわいそうだったかな?
 彼の気晴らしのために何か別のゲームをしようか……
 そう思い辺りを見回すと1つのゲームが私の気を惹いた
「ねぇ、次はあれやろうヨ?」
 そういいながら彼の裾を引っ張り、例のゲームのほうを指差す
「ん?UFOキャッチャーか。よし、やろうか」
 彼は腕まくりをするフリをしてUFOキャッチャーの方へと向かっていった

「だあーっ。何で取れないんだよ」
 そう言って彼は台を叩く
 それにしてもさっきから100円玉をたくさんをつぎ込んでるのに何も取れないってのもある意味凄いと思うよ
 気晴らしになってないね。こりゃ
 さて、そろそろ本家本元の力を見せてやりますか
「こういうのにはネ、コツがあるんだヨ、コツが」
 こうやって、引っ掛ける感じでとって……
 ガコン、と何かが落ちる音がする
「ほらネ」
 戦利品を見せびらかしながら私は少し大きめのキーホルダーをポケットに突っ込んだ
「おお、すげぇな」
 彼は私の技術に感服したらしく、尊敬のまなざしでこちらを見ている
 それにしても、見つめすぎだよ。恥ずかしいよ
 この後、再び彼が挑戦するも幾度となく失敗し、結局何も取れなかったのは言うまでもない

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎるものである
 ゲームセンターから出ると空は少し赤みを帯びていた
「そろそろ帰るか」
 まだ帰りたくない。もっと1日が長ければいいのに
 そう思っても変わるはずはなく、仕方なく帰ることとなった
「家まで送ってくよ。流石に1人じゃ不安だからな」
「ん、ありがとネ」
 よかった。まだこの時間を楽しめる
 ただ、家まで行ってお父さんにばれたら大変だけどね

「ここだヨ」
 家を指差すと彼は家全体を見回している
「至って普通だな」
「なんだネ。普通じゃ不満かネ?」
「いや、別にいいんだがな」
「それじゃ帰るネ」
 そう言って玄関のドアを開けようとする
「あっ、ちょっと待て」
 彼が私を呼び止めた
 無言で振り向くと、彼は小さな袋を持っている
「お前に感謝の印だ。受け取ってくれ」
 感謝の印?何か感謝されるようなことしたっけ?
「もう朝のこと忘れたのか?パソコンのこといろいろ教えてくれただろ」
「ああ、そのことか」
 昼の方に夢中になりすぎてすっかり忘れてたよ
「そのことだ」
 彼はグイ、と私のほうへ袋を差し出す
 受け取り、中を開けるとキーホルダーが入っていた
「これ、何処で買ったの?」
「デパートで買ったんだ。少し選ぶのに時間がかかったがな」
 彼はニッコリと笑みを見せる
 遅かった原因はそれだったんだ
 それにしても昼は私に付き合ってもらったのにお礼をくれるなんて
 そういった人への優しさとかも好きなのかな

 私も、お昼の分のお礼をしないと
 服のポケットをパンパンと叩きあるものに気づく
 ソレを取り出し、彼に差し出す
「ゲーセンでの景品じゃないか」
「そ。私も昼はいろいろお世話になったし、これぐらいはお礼をしておかないとネ」
「いや、でもあれは俺も楽しんだしだな……」
「いいの」
 ズッと彼の目の前まで景品を押し出す
「女の子からのプレゼントはもらっておく物だヨ?」
「それじゃ、ありがたく貰っとくよ」
 彼はポケットへキーホルダーを入れる
「そうそう、それでいいんだヨ。それに今日は楽しかったよ。ありがとうネ」
 それに擬似デートも出来たしね。彼はそうは思ってないけど
「ありがとう、というのはこっちだ。じゃ、また明日学校でな」
 その言葉を聴いて私はドアを開けた
 彼は私が家の中に入り、ドアを閉めるまで見送ってくれていた
 それにしても、今日は本当にいい日だった
 またいつか、こんな日が訪れますように……

 

「あれ?あんたこんなのつけてたっけ?」
 次の日、いつものように登校しているとかがみが私の鞄を指差した
 指差した物は昨日貰ったキーホルダー
「ほんとだ。可愛いね~」
「ンフフー。新しく買ったんだヨ」
 とりあえずは誤魔化すしかない
 彼に貰ったなんていったらかがみにからかわれる事は必至だからね
「ふ~ん。それにしても、アニメキャラ以外のキーホルダーを買うなんて、珍しいのね」
 うっ、痛いところを突きなさる
「ま、まぁ気分だよ気分。早くしないと遅刻するヨ?」
 そういって逃げるように学校へと急いだ

 急いだおかげで結構余裕を持って学校へこれた
 途中かがみが「全然大丈夫じゃない」と怒っていたけど
 彼は既に来ていた
 彼の鞄には昨日私が上げたキーホルダーがついている
 こっちの視線に気づいたのかこっちを見てきた
 そして、私の鞄を見るとニコッと笑顔を見せてくれた

 病はだんだん快方へと向っていく――



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続編夢と現実

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最終更新:2008年09月15日 21:45
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