夢と現実

『病の快方』の続編です。



「私、キョンキョンのことが……好きなの」
 放課後、SOS団の活動が終わった後の部室、私と彼だけが残っている
 私は、一世一代の告白をした
 彼は私のいきなりの告白に戸惑ったのか、数分悩んだうちに返事をした
「……悪い。俺、実は付き合ってるんだ」
 え?

 そんなの初耳だよ
「い、一体誰と?」
「あぁ、それはだな……」
 彼が返事を鈍らせているうちに、答えがわかった
 廊下から彼を呼ぶ声がする。モチロン、聞き覚えのある声が
「おーキョン、こんなとこにおったんか。ん、何や泉も一緒やないか。何しとったんや?」
「いえ、ちょっと……ね」
「は、はい……なんでもないですヨ」
「そうか。ならいこか、キョン」
 彼の相手、私たちの世界史の担当であり、私のネトゲ仲間の先生は彼の腕に手を回す
「わかりましたよ、黒井先生。じゃあな、こなた」
「あっ、また先生言うたな」
 先生は頬を微かに膨らませる
「……だったら、俺のことも名前で呼んでくださいよ。ななこさん」
 んなっ、先生を名前で呼ぶなんて。私だってつい最近こなた、って呼ばれるようになったのに。ってそれどころじゃない
「オッケーオッケー。じゃあな泉、ネトゲもほどほどにしぃや」
 そうして二人は腕を組みながら部室を出て行った

 一人しかいない部室
 開いた窓から入る風によりカーテンが揺れる
 そのカーテンを背に、私は彼が出て行った後を眺めていた
 ハァ、と落胆のため息をこぼす
 ……それにしても、彼に年上属性があったなんて
 年上属性じゃ、私は無理だよね
 二十歳を過ぎても、幼児体系でありそうな私には


 彼が去ってから、どれくらいの時間が過ぎただろう
 私は依然、部室の中で一人立っている
 ガチャリ、とドアの開く音がする
「こなたー?なにやってんの?」
 どうやら、かがみが遅い私を心配して見に来てくれたらしい
「こなた帰るわよ……ってアンタ泣いてんの?」
 そういわれ、私は初めて頬を伝う涙に気がついた
「ちょっとどうしたのこなた?何かあったの?」
 私の肩を持ちかがみが聞いてくる
「実は……振られちゃってサ」
「キョン君の事ね」
 え?かがみは知ってたの?
「ええ、この前偶然一緒に先生と帰ってるのを見てね。そうじゃないかと思ったのよ」
 そうじゃなくて、何で私が彼のことを好きだと知ってたの?
「そんなの、すぐにわかるわよ。生憎、彼は気づいてないみたいだったけどね」
 そうだったんだ……なるべくポーカーフェイスを気取っていたのにね
 するとかがみはニッコリと母性を含んだ笑みで言った
「アンタにポーカーフェイスは無理よ。だって、今も泣いてるじゃない」
「そ、それは……」
「いいのよ、こういう時は。思いっきり泣くものよ」
 かがみは私を包み込むように抱いた
「自分の気持ちに、正直になることも大事なのよ」
 抱きしめながら、かがみは私に優しく言った
 私も我慢が限界に達し2人きりの部室で泣いた
 大声で、将来もう涙が流れないというほどに――

「……なた。こなた!」
 名前を呼ばれ、布団から起き上がる
 布団?ってことは……
「こなた、大丈夫か?結構うなされてたみたいだが、それに泣いてるぞ?」
 お父さんが心配そうに私に聞いてくる
 そうか、夢だったんだ。よかった
「あ、うん。大丈夫だヨ。嫌な夢見ただけだから」
「そうか。ならいいんだが。それより、急がないと遅刻するぞ」
 時計を見る、時刻は既に八時を回っていた
 私は慌てて制服に着替え、朝食も食べずに学校へと向った

 それにしても、結構リアルな夢だったのは何でだろう
 しかも、かがみが結構良いキャラだったのも何でだろう
 とりあえずは、夢であった事に安堵のため息をつく、私だった
 そして、正夢にならぬよう、こんなときにしか信じない神に祈った


 こんなに困るものならやっぱり誰かに相談したほうが良いのかな



「おはよー」
「おはよう、こなちゃん」
「おはようございます、泉さん」
 教室のドアを開け、一緒にいたつかさ、みゆきさんに挨拶をする
 彼を見ると、彼はいつものように谷口くんと国木田くんと一緒に喋っている姿が見える
「今日は遅刻スレスレだったねー」
 明るい笑顔を浮かべ、つかさは聞いてきた
「うん。ちょっといやな夢を見てネ。憂鬱な気分だったんだヨ」
 あんなのは私にとって悪夢でしかない
「へぇ~。どんな夢?」
 私が彼に告白して振られ、挙句の果てには黒井先生と付き合っていた夢とは言えない
「あんまり人には言いたくないかナ」
「そっかぁ。正夢にならないように気をつけてね」
「夢と言えば、人間は寝ている時にレム睡眠と、ノンレム睡眠と言った二つに分かれるのですが主に夢を見るのは……」
 みゆきさんがいつものように知識を披露しているとチャイムが鳴った
「あっ、一時間目は世界史だったよね。用意しとかないと」
 つかさはそう言って急いで自分の席に戻った。私も用意をしないと
 それにしても、いきなり黒井先生ですか……。出来れば今日は会いたくなかったんだけどね

「……私の扱いってやっぱりこんなものなんでしょうか?」

 授業も終わり放課後となった
 いつものように部室へ行こうとしている最中、ある考え事をしていた
 夢での出来事についてである
「私は今、ポーカーフェイスを気取れているのか」
 これが考え事の主な内容である
 夢でも現実でも、彼の事が好きだとばれないようにはしているつもりなのだが、ばれてしまっていたらどうしよう、とふと思う
 何故ばれたくないのか。と言うのは別にばれても言いと私は思っているのだけれど、何しろキャラがキャラな為に人を好きになった、とは言い難いものなのである
 夢の中ではかがみにはばれていたようだけど、あの言い方だと恐らくかがみ以外の人にもばれていたのだろう
 ただ、鈍感な彼は気づいていなかったらしいし、当面は彼にばれなければ問題はない
 そんな考え事をしているうちに私は部室へと付き、いつものように活動を楽しんだ。モチロン、彼との会話も

 パタン、とながもんの本が閉じられる音とともに活動は終了する
 それにしても、いつもながもんは時間に正確だね。おなかの中に時計でも携えてるのかな
 今日も私はいつものように部室でゲームをしていた。携帯ゲーム機を持ってきているのだ。最近は、これにも余り身が入らない
 彼は古泉くんと将棋を、かがみは読書、ハルにゃんはネット、つかさとみゆきさんとみくるんは3人で談笑していた
 これがSOS団のいつもの風景なのだ
 帰宅の準備をしていると、かがみが私に話しかけてきた
「ねぇこなた。相談があるんだけど……ちょっといいかな?」
 かがみが私にこんな下手に出るなんて珍しい。少し事の大きな相談なのだろうか
 今日はもう遅いし、明日の方が良いかと思うけど
「ゴメン、今日ちょっと見たいアニメがあるからサ。また今度にしてくれない?」と適当に嘘をつく
「ダメ、今日じゃないとダメなのよ。……お願い」
 これは本当に事が大きそうだ。それにしても、なんでかがみはこんなにもじもじしてらっしゃるのでしょうか?
「ムゥ~わかったヨ。そのかわり、ちゃっちゃと済ませてよネ?」
 私も渋々了解する。するとかがみはつかさとみゆきさんに先に帰るよう指示をし、部室は私たちだけ二人となった
 この状況、夢で見たような……

 二人きりになり、静寂した部室で私とかがみはお互い向き合うように座っていた
「実は、相談したい事があってね」
 相談事?かがみが私に相談って何のことだろう
「その何というか……恋の悩みって言うか」
「こ、恋っ!?」
 私は思わず叫んでしまった
「ばかっ、声が大きいわよ」
 やはりかがみも年頃なのだろう。私でも恋をしてるわけだし、かがみが恋するのも当たり前か
「ホホゥ、とうとうかがみにもこの時期が来たわけですな」
 とりあえずは、軽くあしらう。私も恋をしていることがばれないように
「なっ、いいじゃない。人並みに恋ぐらいしたって」
 かがみは恥ずかしそうに髪をクルクルと指で巻いている
「それで、何で私に恋愛の相談なんかしたの?」
「アンタ、いっつもギャルゲとかそういったのやってるでしょ?だから、そういうの詳しいかなって……」
 なるほど、かがみんは私の二次元での恋愛経験値を頼ってきたわけですか。最近はやってないけどね。
 と言うより、私の三次元での恋愛経験値には最初から期待してないんだね
 それよりも、気になることがある
「で、相手は誰なんだい?」
「アンタもよく知ってる人よ」
 知ってる人……ですか。嫌な予感がする
「古泉くん?」
「古泉君もかっこいいけど違うわよ」
「んじゃ谷口くん?」
「誰よ。知らないわよそんな人」
 谷口くん。君の知名度は意外に低かったよ
「国木田くん?それともセバスチャン?」
「その二人も知らないわよ。もっと身近に男子がいるでしょ?」
 それってもしかして……
「キョンキョン?」

「う……うん」
 彼の呼び名を言った瞬間かがみは顔を赤くさせた
 嫌な予感って当たるもんなんだね
「古泉くんの方がかっこいいんじゃない?」
「私には、キョン君のほうがかっこよく見えるのよ」
 かがみもどうやら引く気はないらしい
「何でキョンキョンの事好きになったの?」
「それは、キョン君は優しい所あるし、人の感情の機微に敏感なところとか……」
 かがみは話しているうちにうちにさらに恥ずかしくなったのかさらに顔を赤らめている
「で、でもさ。キョンキョン、鈍感だしさ、攻略は難しいと思うヨ?」
 私は少し動揺しているのが分かる
 かがみと恋敵になってしまったら、私は友情と愛情どちらをとれば言いのかわからない
 だから、なるべくかがみにはあきらめて欲しい。そう思うのは勝手な自己中心的でしかないのだが、私の彼に対する気持ちはかがみに負けているつもりはない
 するとかがみはフゥ、と一息ため息のように息を吐き一言言った
「……やっぱりね」

「え?やっぱりって……どういうこと?」
 私がきょとんとした顔でかがみを見ると、先程までの顔の赤さが嘘の様にかがみの顔はいつものようになっていた
「そのまんまよ。アンタ、キョン君のこと好きでしょ?」
「えっ、いや。そんなことは」
 動揺をさらに隠せなくなる
 こんな態度をとると、「そうですよ」と言っているようなものだ
「もう隠したって無駄よ。薄々感づいてたんだけど、やっぱりそうだったのね。さっきの反応でよく分かったわ」
 薄々感づいていたって……どこら辺から気づいていたんだろう
「まずはキョン君がアンタの事をこなたって呼んでからよ。あの時は理由に納得したけどね」
「それだけだったらわからないんじゃ……」
 そういうとかがみは机の上においてある私の鞄を指差した
「そのキーホルダー。キョン君に貰ったんでしょ?」
 え?なんでわかったの?
「あんたのキーホルダーに気づいた後、キョン君の鞄にも新しいキーホルダーが付いてる事に気づいたのよ。キョン君に聞いたらこなたに貰ったって、素直に言ってくれたわ」
 軽々と口を滑らしおってからに、やはり鈍感が故なのだろうか
「それだけじゃないわ。アンタ最近私にアニメとか、そういった話しないでずっとうわついていたでしょ。だから、ピンと来たのよ」
 凄い洞察力をしてるね。感服するよ
 すると、かがみは続けざまに言った
「自分の気持ちに、正直になることも大事なのよ」
 私が夢の中で聞いた台詞をかがみはそのまま言った
 正夢、と言えるのだろうか。違うのだろうが、その言葉は私を少し素直にさせてくれた
「分かったよ、認めるヨ。キョンキョンの事は好きだけど、それを知ってどうするのサ」
 するとかがみは、夢で見たような笑顔で言った
「さっきのも嘘だから安心しなさい。私はあんたを応援してるわよ」
 その言葉を聴き、私は安心した
 かがみが恋敵にならなくてよかったからだろうか。それとも、頼れる仲間が出来たからだろうか
 とりあえずは、私のこの病の主治医とも言える存在が見つかったことだけは確かである

「とはいっても、私もあんまり恋愛した事はないから、よくはわかんないけどね」
 かがみはこめかみ近くを人差し指で掻きながら言った






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最終更新:2008年09月15日 21:46
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