その日俺が部室へと足を運んだ時のこと。
扉を開けてすぐ気が付いたのは、どこかで聞いたことのあるようなメロディが
街中で音楽を聴いている人のヘッドホンから漏れるくらいの音量でシャカシャカと流れていたということだ。
その音源であろう四角い物体を両手で持ち、正面に付いた液晶画面を食い入るように見つめながら、
何やら一心不乱に手を動かしているのは、泉こなたであった。
流れてくるメロディと四角い物体と泉こなた。
この三つの要素に加え、ものすごい速さで動く手や、俺が入ってきたことに全く気が付かないほど、
真剣そうな眼差しを見るに、恐らく……いや間違いなく、こなたの手にしている物は携帯型ゲーム機で、
遊んでいるのはかの有名なパズルゲームであるはずだ。
ソロリソロリと近づいてみると、その画面に写っているのは案の定ブロックが四つ、
L字や棒状になって落下し、その下にはまるで砂時計のようにそのブロックが積まれていた。
「テトリスか」
「うわっビックリしたぁ! キョンキョン脅かさないでよ」
画面を覗いたまま話しかけてみると、こなたは驚いた様子で身体を震わせた。
それほど集中していたとは、この集中力を授業中に発揮できれば良いんだがな。
しかしビックリしたと言いながらその手を止めることが無いのは流石といったところか。
「けしからんな、勉強に関係のない物は持ってきてはダメなんだぞ」
「まぁまぁ硬い事言わずに見逃してよ」
もとよりそのつもりだ安心しろ。
それにしてもこのテトリス、これほどまで愛されたパズルゲームは無いだろう。
流石は落ち物パズルの元祖である。
老若男女、比較的ゲームに縁の無い人でもテトリスぐらいは知っている。
「ソ連の科学力は世界一ィィィィ!」
「なんのこっちゃ?」
「知らないの? これって元々ソ連の科学者が作ったんだよ」
こなたはことゲームに関してはものすごい知識を持っているな。
「逆にどうして知らないのか不思議なくらいだけど」
自分の常識が他人の常識だとは限らない。
「ねぇねぇ、勝負しようよ!」
向かい側の席に座る俺にゲーム機を差し出し、こなたは嬉しそうに笑う。
こうして見るとまるで小学生のようだ。
「ただやるだけじゃ面白くないから……負けた人は勝った人の言うことを聞くってのは?」
まだ俺が勝負を引き受けていないというのに、こなたは勝手に話を進めている。
別に断る理由はないし、そのつもりもないがな。
ただ一つ思うことは、俺は久しぶりにプレイするし、相手はこなたである。
これはまず間違いなく命令を下すのはこなたで、従うのは俺になるだろう。
「わかんないよ? やってみないことにはね」
ということで懐かしい音楽と共に俺の挑戦がスタートした。
俺の作戦というか攻略法は、恐らくほとんどの人が同じようなやり方だと思うが、
縦一列だけを残してブロックを積んでいき、棒が来たところでパイルダーオン! というやつだ。
それ以外に有効な攻略法は知らないし、なんといっても一気に四列を消すというのがこのゲームの醍醐味だ。
しかしこのやり方は一つだけ問題がある。
それは、棒がなかなか来てくれない場合にかなり焦るということだ。
初めは落下速度も遅く、余裕で対処できたのだが、段々とスコアが上がっていくにつれ、速度までも上がっていく。
さらに画面上方までブロックが迫ってくると、それに拍車をかけるようにBGMまで速くなりやがる。
お陰で鼓動までもが速くなり、気が付けば脱水症状にでもなるんじゃないか?ってほど手に汗をかいていた。
結局BGM速度上昇のボーダーラインを越えては何とか対処……したかと思えばまた越えて
という流れを何度か繰り返した後、俺の数年ぶりのテトリスは幕を閉じた。
久しぶりのプレイにしては大健闘だったと思うのだが、果たしてこなたはどこまでこのスコアを上回るんだろうな。
負けること前提で勝手に話を進めさせてもらってはいるが、こなたがクシャミをして手元を狂わせたりしなければ、
俺が勝つことはまずありえないだろう。
そう思わせるほど、最初に部室に入ったときのこなたの様子は只ならぬものがあった。
こっそり画面を覗き込んだときも、ものすごい速さでブロックが落下していたからな。
「はい、それじゃ私の番ね」
もう一度やりたかったが、こなたは俺の手からゲーム機を取り上げると、早速挑戦を開始した。
しかも「ハンデハンデ♪」と言いながらレベルを上げていき、最初からMAXスピードで挑んでいる。
考える暇も与えず流れ落ちてくるブロックは、目で追うだけでも大変だ。
というより、落ちてくる過程が見えないのだ。
それを鼻歌を歌いながら捌いていくこなたの姿はある種不気味な印象を与えるものだった。
先程俺が出したスコアを余裕で越え、それでもなお猛スピードでブロックが積まれては消えてゆく。
既に勝負は付いていたが、俺はただこなたに圧倒されてジッと画面を見つめていた。
ここにきて気づいたことがある。
それは俺の鼻をくすぐる、シャンプーの香りによって気が付いたのだが、
俺とこなたの距離がかなり近かったということだ。
初め俺と向かい合って座っていたこなただが、俺がテトリスを始めた段階で
サッと隣に移り、俺のプレイを眺めていた。
そして見事GAMEOVERとなった俺と交代してからは、今度は俺のほうがこなたの画面を覗き込んでいた。
別に何とも思っていなかったが、一度意識してしまうとどうも緊張してしまう。
俺の胸の内を知ってか知らずか、こなたは勝ちを確信して途中でプレイを中断し
身体を硬直させる俺に向かって「ニヒヒ♪ 私の勝ちだね」と満面の笑み。
……顔が近い顔が!
「どうしたの?」
「あっいや何でもないぞ!」
あははは……とワザとらしく笑う俺を、こなたは意味深な表情をして見つめる。
俺は自分の心の中を見透かされるような気がして、つい目を背けてしまった。
それが仇となったんだろう。
前々から思っていたことだが、こなたは人の心を読み取るのが上手いというか
言葉や行動からその人が思っていることを瞬時に見抜くことが出来る。
しかもその内容は大体にして、こちらが恥ずかしさから隠してしまいたいことであり
出来れば気づかずにいて欲しいのだが、こなたの鋭い目はそれを逃しはしない。
「あーわかった! キョンキョンってば私みたいな美女が隣に居たから緊張してたんだね」
「何いってんだよ」
「図星なクセに」
やれやれ、反論できない自分が情けなくなるなこりゃ。
どうも俺は隠し事が出来ないらしい。
「ま、それはいいとして……言うことを聞くっていう約束は守ってもらわないとねー」
「ちくしょう忘れてなかったか」
腕を組んで俺への命令を考えるこなた。
きっとハルヒ並にとんでもなく面倒くさいことや、とんでもなく恥ずかしいことを言われるに違いない。
やれ喉が渇いたからジュースを買って来いとか、やれ面白そうだからと俺を使ってかがみをおちょくってみたりな。
勝負に負けたのは事実であるからして、もちろん言われたことはやるが、出来れば強烈なのは避けて頂きたい。
「それじゃ」
何か思いついたのか、こなたはそれまでとは違った真剣そうな眼差しで俺を見た。
しかしその後のこなたの言葉を最後まで聞くことはできなかった。
「えっと……わ、私と! 私と……」
初め声を張り上げたこなただったが、徐々にトーンを下げて行き、仕舞いには下を向いて押し黙ってしまった。
「こなた?」
顔を覗き込んでみるが、こなたほど人の心を読むのは上手くはなく、
こなたが何を考えているのか、どうして黙ってしまったのか、俺には分からなかった。
「ねぇ」
「は、はい?」
やがて低いトーンのままで呼びかけられ、さっきとはまた違う緊張感に、
俺の心臓はまたも激しく脈動し、まさに手に汗握るといった状況である。
そんな俺をかまうことなく、こなたは言葉を続ける。
「何でも言うこと聞くんだよね?」
「そういう約束だしな」
「何でも?」
「男に二言は……多分無い」
こなたはまるで長門の真似をするように「……そう」と呟くと、また口を閉ざして、何かを考えるような素振りを見せた。
その顔は悲しそうでもあったし、寂しそうでもあった。
やがてこなたは俺の顔をジッと見つめたかと思うと、ふいに先程勝利を確信したときのような
飛びっきりの笑顔を見せてくれた。
それはもちろんカワイイに決まっているが、見せられた方の立場としては余計に頭が混乱してしまい、
そんなこなたに一体どういう顔をすれば良いのか分からなかった。
「キョンキョン」
一度だけ俺の名を呼ぶと、こなたはゆっくりと立ち上がった。
そんなこなたを見上げる俺の顔は一体どんな表情をしているんだろうな。
「負けたものは、罰として……」
こなたはその細く白い手で俺の顔を指差す。
そして……
「もっとダンチョーの気持ちに気付いてあげること、以上!」
あっけに取られる俺を他所に、机の上に置いてあった鞄を取り出すこなた。
とにかく早く出て行こうとしていることが、流石の俺にも分かった。
「さてと、見たい番組があるから帰るね。 楽しかったよ、ありがとうキョンキョン」
まくし立てるようにそう言うと、こなたはドアへと向かう。
「こ、こなた」
咄嗟に呼び止めては見たものの、こなたはこちらに背を向けたままで「じゃーねー」と、
ヒラヒラと手を振りながら部室から出て行ってしまった。
たった一人残された部室に、忘れていったのかワザと置いて行ったのか、
こなたの持ってきたテトリスのタイトルデモの音楽だけが虚しく響く。
しかし俺はそのことにすぐに気が付くことが出来なかった。
それほどまで俺の頭の中はカオスと化していたのだろう。
「あ、やべ!」
別にゲーム機は今日預かっておいて明日渡せば問題ないだろうが、
俺はどうしてもこなたを追いかけないといけないような気がしていた。
だから机の上のゲーム機を掴むと、半ば突進するようにドアへ向かった。
するとちょうどドアの目の前まで来たところで、ドアノブが回されるのが見えた。
が、時既に遅し。
ゴンッ!
鈍い音がして、俺の額に衝撃が走った。
「痛ってぇ!」
それと同時にドアの向こうからも声がする。
「アイタタタ」
その声から察するに、どうやらハルヒがいるようだ。
俺がドアにぶつかったことでハルヒも同じように顔を打ったのだろう。
「ったくアホキョン……なにやってんのよ!」
暴言を吐きながら、額を押さえながらハルヒが入ってきた。
その後ろで朝比奈が顔だけ出して、心配そうに様子を伺っている。
どうやら他のメンバーも後ろに待機しているようだ。
「だ、大丈夫ですかぁ?」
大丈夫じゃありませんよ朝比奈さん、どうか貴方のその優しい手で
痛いの痛いのとんでけーとおまじないをして頂きたいものです。
「団長に傷を負わせるなんて、団員失格よ!」
ハルヒは赤くなった額よりも更に顔を赤らめて、頬を膨れさせたまま涙目で俺を睨み付けた。
と思いきや、すぐにまたいつものハルヒの顔に戻って、俺にこんなことを聞いてきた。
「まぁそれはいいとして、さっきまでこなた居たんでしょ?」
「たった今までな」
「何かあったの?」
そう尋ねられれば確かに“何か”はあった。
しかしハルヒの言う“何か”と俺の思っているものが同じだとは限らない。
「何かって?」
「いや、それが……ねぇかがみ」
「そうなのよ」
話を振られたかがみが慌てて部室に入って来た。
つかさと高良もその後に続きかがみの隣に立つ。
「さっき私達がすぐそこまで来たときにこなたとすれ違ったんだけど、
私がもう帰るの?って聞いたら『見たい番組があるから』って行っちゃったのよ」
とかがみの言葉に、
「でね、なんだかこなちゃん元気なさそうに見えたから……」
つかさが続き、
「ここで何かあったのでは? と皆さんでお話してたんです」
高良が続く。
「そしたらアンタのお陰でオデコを打っちゃったのよ」
ハルヒ、一人だけずれてるぞ。
「何も無かったって言うんなら良いけど」
まさかハルヒ本人には口が裂けても言えないだろう。
しかしこなたは一体何故、俺にあんなことを言ったのだろう?
ハルヒの気持ちに気付いてやれとは、一体どういうことなのだ?
いや……俺は心の奥底で、それがどういうことなのか知っている。
ハルヒの気持ち……それも何なのか知っているだろう。
ただ、それをどうしてこなたが感づいていたのかということが不思議でならない。
これもこなたの得意とする、人の心を読むということなのかもしれないな。
「アンタ何持ってるの?」
ハルヒは俺が手にしていたゲーム機に気が付いたようだ。
「あぁこれは……っておい!」
俺が答えるまもなくハルヒはそれを取り上げ、早速スイッチを押した。
再度流れる懐かしいメロディに、映し出される玉ねぎ頭のお城。
「テトリスじゃなーい!」
ハルヒはオモチャを買い与えてもらった子供のように、目を輝かせてテトリスを遊んでいる。
結局本日の部活はテトリス大会という形で幕を閉じることとなった。
そういえば古泉の姿が見当たらなかったが、また何かあったのだろうか?
昨日こなたとの勝負に負けて、俺がその罰? としてハルヒの気持ちに気づいてやれと言われたこと
その一連の出来事が原因だったのかは分からないが、昨日の夜、あるちょっとした事件が発生したらしい。
俺がそのことを知らされたのは翌日、学校の昼休みでのことだった。
眠たい目をこすりながら、教室のドアを開ける。
一瞬クラス中の目が俺へと向けられ、俺とそれほど関わりのない、
あまり話さないような生徒は視線を戻し、
その他の生徒――たとえば
高良なんてのは、俺のひどく眠そうな顔を見ては目を細めて笑っている。
「キョンさん、おはようごさいます」
「あーおはよう」
人のイメージというのはコロコロと変わっていくものだが、
それまでとはガラリと違ったピンクの眼鏡も板についてきたようだ。
「どうしました?」
「その眼鏡もすっかり定着したと思ってさ」
「あ、だってこれはキョンさんが……」
と顔を赤らめる高良。 朝から良いものを拝ませてもらった。
高良の席は俺の斜め前にある。
そして高良の後ろ、つまり俺の真横がこなたの席となっている。
しかしそこにこなたの姿はおろか薄っぺらいカバンさえも掛かっていなかった。
あるのは机の中でギュウギュウ詰めになっている置き勉だけだ。
まだ来ていないのか……などと思いながら今度は後ろの席へと目を向ける。
いつもは頬杖を付いて外を眺めているハルヒだが、今日は机に突っ伏して眠っている。
コイツはこうして静かに眠っていれば可愛らしい女の子だが、
ひとたび眼を覚ませば、起爆スイッチが入ったかのごとき勢いで
次のイベントの計画やなんかをそれはもう嬉しそうに語りかけてくるわけだ。
それにこなたが加わればさぁ大変。
「どうどうどう」と暴れ馬の手綱を引く役を嫌々担わされている俺とかがみは、
「はぁやれやれ」と深い溜息を付かなくてはならなくなる。
そろそろハルヒも起きだすかというころ、教室のドアがゆっくりと開いていくのが見えた。
ドアの隙間からまず姿を現したのはウサギの耳のような黄色いリボンだった。
ハルヒ対するカチューシャのように、もはやトレードマークとなったそのリボンを付けたつかさは、
ちょうど入ってすぐに俺と目が合ったことで、眠そうな顔を見られた恥ずかしさからか、
少し照れたような笑みを浮かべながらこちらへ近づいてきた。
「キョン君おはよー」
「ようつかさ、眠そうだな」
「えへへ、そうなんだー」
いつも朝の学校で眠そうだなと突っ込まれるのは、徹夜明けの多いこなたであり、
本来ならつかさは欠伸をしているにも関わらず何も言われないのだが、
つかさ一人となると、この寝ぼけた顔は見逃すわけにはいかないという気になってくる。
そういえばこなたはどうしたのだろうか?
「こなちゃん? 今日は風邪引いて休んでるみたい」
聞けば姉のかがみと一緒にこなたが来るのを待っていたらしいが何時まで経っても現れず、
さすがに置いて行こうとしていた矢先にこなたの携帯からメールが来たという。
しかしそれはこなたの親父さんからで「調子が悪いようだから今日は休ませるよ」ということらしい。
俺はこなたが休んでいると聞かされても、風邪の具合を心配する以外は特に何も思わずに、
つかさと二人して自分が如何に目覚ましに気が付かないかを自慢し合い、
俺が妹に、つかさは姉に起こされてやっと眼を覚ますという話で盛り上がるだけだった。
そういうわけで、高良が教室の入り口で廊下側に立つ誰かと話していたことはまったく知らなかった。
高良はつかさが席に着いた後、俺の前に立つと、無言で小さな紙切れを渡してきた。
渡す際に後ろを窺ったということは、未だ眠っているハルヒには知られてはいけない内容なのだろう。
小さな紙切れにはただ“昼休みに文芸部室へ”とだけ書かれていた。
ある一件でこういうメモ紙にはトラウマがあるのだが、今回は大丈夫そうだ。
昼休みである。
腹を膨らした後の自由な時間は、教室で談笑したり、図書室でマンガを読んだり
元気の良い奴等は校庭でサッカー、体育館でバスケットを楽しんだりするだろう。
とにかく午後の授業が始まる前の自由な時間というのは勉強ばかりの学校で息抜きとなり
残り5,6限も睡眠学習を頑張るぞという気にさせてくれる大切な時間だ。
それなのに俺はどうして、昼休みには誰も寄り付かないような部室棟の奥、
7人も揃っているのに妙に静かな文芸部室にいるのだろうか。
まぁメモ用紙にそう書かれていたからに他ならないわけだが……。
俺が一番最後にここへ来てから数分のような気がするし数十分のようでもある。
その間誰も口を開くことはなく、あまりの沈黙さにいい加減嫌気がさしてきた俺が、
古泉に向かって、いったいぜんたいどういう理由があって俺達を集めたんだ?
と尋ねようとした矢先、その古泉が口を開いた。
「実は昨日の夜、閉鎖空間が……」
「ちょ、ちょちょちょっと待て古泉!」
俺が慌てるのも無理はない。
今この部屋にいるのは、全部で7人である。
その内古泉と長門に、それから朝比奈さんは別として、俺は俺達を取り巻く現実を知っている。
つまりハルヒのことを知っているのだ。
残りの三人と、今この場にはいないこなたを合わせた四人は、ハルヒのこともトンデモトリオのことも、
SOS団の団長及び団員だという認識でしかないのだ。
そんな奴に向かって唐突に閉鎖空間なんて不思議ワードを言ってみろ、
SOS団がここまでトチ狂った集団だったとは……と強烈にひかれてしまうだろう。
「心配には及びません。 お三人方には貴方が来る前に全て伝えてありますので」
「あぁそれなら良かっ……マジか?」
「えぇ、マジです」
咄嗟に隣に座る三人に目をやる。
別段取り乱す様子もなく黙って座っているが、俺にはそれが不思議でならなかった。
「三人とも、なんとも思わないのか?」
正直俺は初めに事実を知らされたときには、厄介な奴等に捕まったと思ったものだ。
「頭のネジが4,5本抜けてんじゃないか?とか、脳みそがペーストになってんじゃないか?とか……」
と三人に向かって述べている間、朝比奈さんは泣きそうな顔になっていた。
あぁ朝比奈さん、決して俺がそんな風に思っていたわけじゃないんですよ。
多少は頭が残念な人なんじゃないかなぁ? と思ったこともありましたけど。
「いえ、まぁ……その」
高良は“真に申し訳ありません”といったように答える。
「一応私達三人は保留という形で」
信じるとも信じないとも断言せず、保留か……それがいいだろう。
「話を続けます」
古泉の話を要約すると、こういうことになる。
昨夜、例によって閉鎖空間が発生し、古泉たち超能力戦隊エスプレンジャーが出動した。
しかし今回の閉鎖空間は今までとは多少違いがあったらしい。 どう違うかというと……
「ね、ねぇ古泉君、質問いいかしら?」
それまで口を閉ざしたままだったかがみが、古泉の話を聞いておずおずと手を上げた。
「今、巨大な魚だったって言ったわよね?」
そう、古泉は今回の相手があのジブリ映画に出てくるデイダラボッチのような
半透明の巨人が暴れ回っていたのではなく、魚の形をした巨大な飛行物体だったと言った。
「そうですね、言うなれば魚型の巨大戦艦といったところでしょうか」
かがみは小さく頷いて質問を続ける。
「色は金色で……鯛みたいじゃなかった?」
「えぇ、そのとおりです」
どうして知っているんだ? 俺がそう思ったように、
古泉も普段あまり変えることのない表情を変えて驚きを隠せない様子だ。
そんな古泉にまったく気付いていないかがみは、
「間違いないわね」
一つ一つの要素を確認するように何度も何度も頷いては、そう小さく呟いた。
……何か知っているのだろうか?
最終更新:2009年05月23日 08:57