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原点(かがキョン)4

391 名前:0IZUW5DJ0[] 投稿日:2007/07/19(木) 21:00:47.76 ID:w/g7Kxx00
前スレ>>887
こういう時の気の利いた答えというのはどんな答えなんだろう。
俺はあんな懐中電灯ごとき全く構いやしないが、今にも涙が決壊しそうな柊かがみの姿を見ていると、
彼女にとって俺が考えている数百倍はこの懐中電灯に価値があるって事だ。
「きっかけとか…聞きたいんでしょ」
俺は思わず頷いた。うつむいているかがみは部屋の隅っこに何故か正座して固まっている俺の方を
見てはいなかったが、沈黙を肯定と受け取ったようだ。
「無いわよ」
「は…?」
小声だが、開き直ったらしく、かがみは少しずつ語り出した。
最初に気になったのは一年の時で、ちょうど泉こなたが長門に興味を抱いてちょっかいを出し始めた
頃だそうだ。
必死に涼宮ハルヒという電波女を統制し、あらゆるイベントで大暴れ。挙句に生徒会と全面戦争と
なれば俺自身もかなり有名人にならないはずがない。
とにかく、自然と目で追っていたそうだ。もう少し色々と理由はある様だが、整理がつかなくて
話すのが難しいんだろう。
「そ、そうか。あ、いや、なんつーか、すっげえ嬉しいよ…あ、ありがとな。えと、まあ、懐中電灯
くらい構わんから、新しいのが欲しかったら言ってくれ。交換もありだ。気に食わなくなったら
新しいやつ買ってやるから、な」

394 名前:0IZUW5DJ0[] 投稿日:2007/07/19(木) 21:04:42.80 ID:w/g7Kxx00

391
気が付けば、部屋に夕日が差し込んでいた。夕焼け色になったかがみの顔に巻かれたアイスノン入り
タオルが、一層痛々しく見えた。
「ありがと」
先に冷静さを取り戻したのはかがみの方らしい。情けない限りだ。少しの沈黙。
「…昨日ね、喫茶店出た後ハルヒに会ってさ。あいつったらあたしとキョンがデートしてると
思ったんだってさ」
何という事だ。奴ならあっという間に算段を巡らせ、それをネタに遊び尽くす事だろう。
俺が見舞いメンバーに入ったのは金づるではなくこのためか。
「釘…刺されちゃった。下撲の独占はSOS団法第二千何条だかに違反するってさ。あはは…」
そんな法律あるわけがあるまい。第一俺は下撲ではない(と思いたい)。
「ま、でも今日は団長自らあたしが独占していいって許可してるわけだよね」
まあ、そういう事になるんだろう。
「…ウィットに富んだギャグは言えないがな」
「いいわよそんなん。じゃあ下撲、そこの縁から内側に入る事を許可するわ」
「あ、ああ。サンキュ」
取り敢えず狭いカーペットがない空間からは解放された。
「あたしの顔からタオルを外して、明日学校行けるくらいまで治ってるかよーく見てくれない?」
なんという事を言ってくれるんだ柊かがみ嬢…!一瞬躊躇したが、俺は正座でしびれた足を引きずり
つつ、ベッドに座るかがみの頭の高さまでしゃがんでタオルの結び目に手を伸ばした。
女の子の髪の毛なんて初めて触れる。随分細くて柔らかいもんだ。
「どう?」
「だ、大丈夫だと思うぞ」
「日が落ちて暗いんだからもっと近づいて良く見てよ」
灯りをつけようなんてのはルール違反なんだろうな。
背後で俺の携帯電話がバイブする。また俺の心拍数が臨界突破しているんだろう。
「お願い。もっと近くで…」
「あ、ああ…分かった」

397 名前:0IZUW5DJ0[] 投稿日:2007/07/19(木) 21:07:58.40 ID:w/g7Kxx00

391
高良さんの家が少々遠いせいか、他の連中は皆かがみの分以外のハーゲンダッツを喰いつくして
帰っていた。
長門達も既に退散してもらっている本当に面目ない。
夕日は神社を朱に染めていた。その階段に座り、膝に顔を埋めている俺のよく知っているやつの
身体も朱に染め上げていた。
普段なら一番早く帰るくせに何をしているんだ。
仕方ない。かなり距離はあるが、こいつの家までひとっ走りしてやろうじゃないか。
「帰るぞ、ハルヒ」
「あっち向け」
はいはい。俺は自転車に股がったまま、階段とは逆の方を向いた。自転車の後部がぐいっと下がり、
おれの腹部に女の細い腕が強めに食い込んだ。
「家まで行って。大通りの使用は禁止」
奇遇だな。俺も今は人目につく場所は通りたくない。
「アンタ、なんて答えたの?」
単刀直入だな。もう二言三言やりとりがありそうなもんだが。
ハルヒは知ってて今日の膳立てをしたのだ。俺がかがみと楽しくくっちゃっべっている姿を見て取り
乱したのだろう。下撲がかがみに取られるとでも思ったんだろうか。なかなかの独占欲だ。
かがみが休んだのは、自分が彼女を深く傷つけたからだと思ったんだろう。柊かがみが俺に対して
結構本気だったとは思わなかったんだろう。当事者の俺自身まだ信じられないくらいだ。
「ふん。あんなシチュエーション用意してやったのに、その様子を見るとなんにも無かったって
感じね。かがみの事押し倒しておいしくいただかなかったなんてダッサ。なっさけない。
キョン丸出し」

399 名前:0IZUW5DJ0[] 投稿日:2007/07/19(木) 21:09:58.17 ID:w/g7Kxx00

397
俺の背中に顔を押し付けたままで憎まれ口を叩く。なかなか可愛いことをしてくれるじゃないか。
「俺は紳士だからな。知らなかったか?もし俺がそんな事してたらどうする?」
「赤飯炊いてやるわ。めでたく柊かがみとゴールインってね」
祝福するってか?
「それはそれで祝福すべき事でしょ。アンタがそんじょそこらで時間を無駄にしてる高校生同様の
平凡でうたかたの幸せを手にしてね。かがみと」
なんでお前はそうヘソ曲がりなんだ。大人ぶってるつもりなのか?歓迎する?祝福する?ならお前に
質問したい事がある。
何故お前は泣いているんだ。
この質問を口に出す程、俺は馬鹿じゃないんだが。
「で、アンタはなんて答えたの?」
「別に。懐中電灯なら好きに使ってくれってだけだ」
「そう…アンタは大切な平団員なんだからね。色恋沙汰に血迷ってるヒマなんてSOS団には無いんだから」
「そうだな。さて、さっさと帰るか。今日はまだ月曜日だって事を忘れてたぜ」
ペダルに足をかけると、俺の体に巻き付いた腕に力が籠った。
「おい、そんなに抱きつかなくても振り落とされるような運転は…い、いや、よく俺が景気良く
ぶっ飛ばしたい気分だって分かったな。振り落とされんなよ」
なんて言ってはみたものの、俺は人が歩く程度のスピードしか出せやしなかった。やれやれ、ハルヒの
家まで何時間かかることか。
俺の視界も、ぼやけきっていてほとんど前が見えなかった。
今の俺には隠し事が今まで食ってきたパンの枚数をもし数えていたら、その数だけはある。
宇宙人未来人超能力者、我が家のシャミセンにまで秘密がある。しかもこの地球の行く末を
左右しかねんような秘密だ。
その秘密を守るためには、きっとハルヒが言う様に色恋沙汰に血迷ってる暇なんて俺には無い。

405 名前:0IZUW5DJ0[] 投稿日:2007/07/19(木) 21:14:24.47 ID:w/g7Kxx00

399
もし、これまで、そしてこれからの滅茶苦茶が全て片付いて、俺も嘘をつき続ける必要の無い時が来た
時、まだ柊かがみの気持ちが繋がっているとしたら、その時の俺は、どんな答えを出すんだろうか。
「ふらふらしないでよ!危ないじゃない!」
「悪い。ティッシュ…もらって…いいか?」
背後から一枚のティッシュが差し出された。ぐいぐいと顔を拭き、改めて道路を見据えた。
気持ちも連動して切り替わった。まあ、しばらくはこいつらと楽しくやっていくしかないみたいだな。
「なぁ、そういえばかがみと一つだけ約束したんだが」
「ふーん。名前で呼ぶようにしたわけ。ま、アンタにしては上出来だわ」
改めて言われると照れるぜ。
「どうせ普段と変わらないように接しろって事でしょ!」
大正解。心配して損した。
「遅い!もっと速くしてよ!お腹空いた。ファミレス寄って」
「仰せのままに」
夕日はもうほとんど見えなくなり、俺達を乗せた自転車は、ゆっくりふらふらと神社を離れていった。
俺が家にたどり着いた頃には、もう月9ドラマも終わっている時間だった。
ライトが消された真っ暗な玄関のドアの前で、俺はいつものように新調したミニ懐中電灯の出番と思い、
キーホルダーを引っ張りだしたが、そこにミニ懐中電灯の姿は無かった。
慌てて一番近くの街灯の下に行って確認してみると、懐中電灯を吊るしていたリングが、無惨に
引きちぎられた状態でキーホルダーにひっかかっていた。こんな事をするやつは、先ほどファミレスで
食事をたかったあいつしかいない。
まったく分からん。ま、いいか。
家に入ったら俺の方からかがみにメールをしてやろう。それくらい先にしないと男の面子が保てん。
さて、なんてメールを書いていいものか。



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最終更新:2007年07月24日 00:42
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