兔の歌1

496 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 12:02:22.27 ID:ajJuM7Rw0
 ほら、良くこんな事を感じた事は無い?
 居場所が無いって……
 教室でも家でもネット上でも……
 其処に、自分の居場所が無いって思った事無い?
 無情なまでに同じ事を繰り返す毎日。
 無情なまでに刺激のしの字もない毎日。
 何処かの誰かが言っていた言葉……
 平和すぎて絶望する。
 だが、その平和が、どれだけの代償を持って維持されているのかもわかっている。

 刺激を求めたいが、刺激を求めるだけの対価を払わず。
 平和に黙殺され嘆くのは、酷く滑稽な事。
 対岸の火事。燃えるまでは熱さ分らず……燃えてからでは遅すぎる。
 もしかしたら、もう直ぐ其処で火は来ているのかも知れない。
 私は、多分それから逃げる動物。
 自ら、刺激を避けている動物。
 もしくは……火の中に入れなかった燃え損なったモノなのかもしれない。
 そして、今日も平和で刺激の無い一日が始まるのだ。

497 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 12:03:54.60 ID:ajJuM7Rw0
「なに、ぼけっとして空眺めてんだ? 朝倉」
「ん? ちょっと考え事してただけ。それよりキョン君……涼宮さんと柊さんが、待ってるわよ?」
「うげ……」

 彼は物語の中心に居る人物。
 私は、物語の中心には居ない。
 どこかにこの物語の台本があるのならば……私は、通行人A以下の存在なのかもしれない。
 元々私は、とある人物のバックアップだった。
 しかしながら……私は、一度消滅している。
 原因としては、とある人物の派閥と対立する派閥だった私が起した行動により
 そのとある人物に、情報連結を解除され消滅した。
 でも、気がつけば……ただの人間として此処に居て……
 ため息を一つつく。

「私は、一体何の為に居るのかしら?」

 そんな言葉は、教室のざわめきに溶けて消えたのだった。

556 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 15:33:24.91 ID:ajJuM7Rw0
 そもそも私は、何故此処に居るのだろうか?
 元々私の存在は、人間ではないし……ただのバックアップだった。
 まぁ一度情報連結解除されてるけど……
 ヒューマノイドインターフェースとして、機能していない体。
 人間の性別上女として、機能している体。
 ちょっとした事で、傷がつく柔らかい体。
 何故、私は此処に居る?

 授業で習う事なんて、既に識って居る。
 身体能力も、専門の部活動をやっている生徒よりは有る。
 本当にわからない。
 私が、此処に居る理由。
 だから、私は尋ねる事にした。

「ねぇ、長門さん。何故私は此処に存在するのかしら?」

 長門有希は、ヒューマノイドインターフェースであり人の形をしているが人ではない。
 そして、私はそのバックアップと言う存在だった。
 でも……長門さんは、下手な人間よりも人間らしくなっている。
 それは、物語の中心に関わっているからかもしれない。
 前に、一度だけかなりのエラーを抱えそのエラーを消去しきれなくなり暴走した事がある。
 そのエラーが、人間の感情と言う膨大な不鮮明な情報。
 多分、数多のヒューマノイドインターフェースよりも人間を識っている存在。

557 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 15:34:35.98 ID:ajJuM7Rw0
「………貴女と言う存在は、情報統合思念体による観察対象………私が意図した物ではない………
 朝倉涼子と言う存在が、何を行いまた人と触れ合い……何を得るか……情報統合思念体はそう考察している」

 つまり、私は実験体みたいなものなのね……と、呟くと長門さんは本を読むのをやめ私をじっと見る。

「情報統合思念体は……貴女を束縛しない……貴女は、ある意味自由……私は羨ましいと思う……」

 最後に、長門さんが何かを呟いたが良く聞き取れなかった。
 自由……自由か……でも、私はそれを弄んでいる。
 使い方の分らないモノを、ポンッと渡されても困惑するだけだって……わからないのかしら?
 再び、本を読む事戻った長門さんを尻目に私は、その場を後にした。

 屋上にあるベンチに座り、何をする訳でもなく空を眺める。
 使い方の分らない自由。
 まるで、生きた屍の様に存在する私。

「……飲む?」

 不意に声をかけられ驚いて声の主を見れば、其処に居たのは女子生徒が一人。
 長門さんに雰囲気そっくりな女子生徒で、タイの色から見て後輩になるらしい。
 そんな、女子生徒が、私に缶ジュースを差し出している……訳がわからなかった。

558 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 15:35:36.51 ID:ajJuM7Rw0
「えーと……もらってもいいのかな?」
「どうぞ……」

 そういって、女子生徒から缶ジュースを貰うとその女子生徒は、私の隣に腰をかけた。

「誰か、待ち人かな?」

 私が、そう尋ねるとその女子生徒は小さく頷く。
 本当……長門さんに雰囲気ソックリな子。

「…………」
「…………」

 何も喋る事がない。
 ただ、今先ほど受け取った缶ジュースのひんやりとした冷たさが、手に広がる。
 それにしても、そんなに私は熱そうにみえたのかしら?
 と、缶ジュースを数秒ばかり見る。
 そして、最初に口を開いたのは私。

「ちょっと質問していいかな?」

 私の言葉に、女子生徒は小さく首をかしげる。



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最終更新:2007年07月25日 01:13
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