兔の歌3

831 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 21:03:53.72 ID:BOE6GXlJ0
 そう言いながら、泉さんはストローを加えたまま紙パックから手を離しながらに言う。
 中で固形状って……それって飲み物っていえるのかしら?
 結果的に言えば……そのジュースは、非常に不可思議な味がした。
 しばらく、私と泉さんは無言。
 風の流れる音や、鳥の囀り……子ども達の遊ぶ声以外なかった。

「……使い方の分らないモノを与えられたら泉さんはどうする?」

 そよそよとした風が、私の頬をなで行く中で、私は泉さんに尋ねた。

「モノによるよね。鋏だって最初わからないけど誰か使ってるのを見て使い方を覚えるでしょ?
 朝倉さんは、一体なんの使い方がわからないのかな?」

 泉さんの綺麗な瞳が、私の姿を映す。

「自由……かな? 正直、使い方がわからないの」

 私の言葉に、泉さんはポロッと紙パックジュースを落とす。

「自由の使い方ねぇ……朝倉さんって哲学者かい?」
「……? 別に哲学的な事を言っている訳じゃないの……本当に、わからないのよ」
「難しい問題だねぇ」

 うーむ。と、泉さんは顎に手を当てて何事かを考え始める。

832 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 21:05:25.92 ID:BOE6GXlJ0
「結局、私達って何が自由で何が束縛されているかわからないんだよ。
 だから、自由の使い方は人それぞれ。例えば私とかがみん……柊かがみね?
 まったく違う使い方をしているヨね」

 と、言う事は自由の使い方なんて誰も知らないのかしら?

「そうだろね。そもそも、自由なんて知らないンじゃないかな?
 毎日をこうやって過ごす事が自由なのに……それを認識できないんだよ」
「酷い矛盾した存在なのね……自由って」
「そうだね。親に束縛されてるから自由が欲しい。
 でも、その自由は何の為に使うの? って聞かれたら……
 きっと、それはくだらない事に使われる……でも、それは自由? と聞かれたらわからないだろうね」

 泉さんは、相変わらずのほほんとした表情のままに言う。
 そして泉さんの言う言葉に何処か頷いている私が居た。

「んーまぁ、人間にとっては一番身近にあって一番分らない問題かもね。
 自由の使い方に、何故生きているのか……何の為に生きているのかってね」
「難しいのね」
「そうだねー……でも、一番難しい問題で一番簡単な問題だって……
 これは、漫画の受け売りだけどね。そのとおりだと私は思うヨ」

 一番難しい問題で一番簡単な問題。
 確かにそうなのかもしれない……
 そもそも、自由の尺度によるのかもしれない。
 泉さんの言葉は、酷く的確で元ヒューマノイドインターフェースである私も知らない事。

835 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 21:06:25.09 ID:BOE6GXlJ0
「さてと、私はもう帰るヨ」
「そう……」
「それにしても朝倉さんが、そんな事で悩んでるだなんてね。青春だねぇ~」

 何が青春なのか? そう考える私を余所に泉さんは、紙袋を手に帰路につくのだった。
 元々私は、存在する理由が定められていた。
 だから、今悩むような事柄を「悩む」事は一切なかったのだ……
 でも、今の私は存在する理由を定められていない。
 確かに、情報統合思念体は、私を観察しているらしいが……
 でも、それ以外の事に関しては束縛すらしないと言う事。

 明確な理由が無い。
 曖昧な理由しかない。
 理由があって行動していた。でもその理由が取り除かれ行動しろと言われたら……
 何も出来ないのではないか?
 曖昧すぎる理由をどう行動に反映すればいいのか?
 分らない事だらけね……

 でも、泉さんの言葉は非常にタメになった。
 つまり何を行動するか。それが重要なのね……
 自分から卵の殻を破らないと何もならないのね……
 重要なのは、自分から行動。
 何をすればいいかは、まだ分らないけど……
 どうすればいいか。
 それが分った事は、非常に重要なモノだった。

493 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/23(月) 22:17:17.46 ID:AbK5GiXw0
 殻を破る事は、容易であって容易でない。
 今と言う現状のぬるま湯に浸かり切った者ほど
 その殻を破る事は容易ではないだろう。
 しかし、その殻を破らざる状況に陥ったら?
 殻にすがるか? それとも殻を破り外へでるか?
 現状を打破するには、何かしら行動を起さなくてはいけない。
 そう、そう遠くない過去に私が行なった事の様に……

「でも、その殻がなんなのか分らないって困るわよね」

 快晴の休日。公園のベンチに座りながらに思う。
 休日って事もあって、公園には子供づれの家族がちらほら。
 ちらほら……ちら……あれ?
 私に近づいてくる影が二つ。
 それも、見慣れた顔……

「ふむ。休日公園のベンチで黄昏る幽霊少女は朝倉だったか」
「正体分ればあっけないモノね」

495 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/23(月) 22:19:15.50 ID:AbK5GiXw0
 キョン君と柊かがみの二人だった。
 二人は、何故かそのままベンチに腰掛ける。
 丁度私を真ん中にして。

「さて、朝倉。何を黄昏ているのか教えてくれ」
「ちょっとキョン君。いきなり失礼よ?」

 キョン君のいきなりの言葉は、かがみさんにより窘められる。

「すまん。この炎天下の中で、頭が少しばかりおかしくなってるらしい」

 そういいながら、軽く頭をかくキョン君。

「で、提案だ。丁度其処に冷房の効いたスタバが在る。其処で時間つぶし……
 もとい、話でもしないか? どうせやる事ないんだろ?」

 本音が前面に出た発言をするキョン君。
 断る理由もないので、その提案に乗ることにした。
 かがみさんが、はぁとため息をついたが……一番先に動いたのはかがみさんだったりする。
 どうやら、かがみさんもこの炎天下の下は辛いと言う事らしい。

「トールサイズカプチーノソイミルクに変更エスプレッソショット追加フレーバーシロップにバニラ」
「トールサイズアイスコーヒーエスプレッソショット追加ホイップ追加」

 キョン君とかがみさんが、スタバに入るなりそんな注文を店員に言う。
 私は、とりあえずトールサイズのアイスコーヒーを頼んでおいた。
 そして、各々の頼んだものを受け取り椅子に座る私達。



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最終更新:2007年07月25日 01:14
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