兔の歌4

496 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/23(月) 22:20:24.16 ID:AbK5GiXw0
「さて、幽霊少女は何を黄昏ていたんだ?」

 幽霊少女とは私の事なのだろうか?
 不意にかがみさんの方を見ると、かがみさんはちょっと困った表情を浮かべた。

「ねぇ、キョン君。その幽霊少女って……?」
「ん? SOS団に寄せられた不思議の一つでな……
 曰く、休日の公園に黄昏る少女がいる。
 曰く、その少女は其処に居て其処に居ない。
 曰く、その少女は幽霊となり何かを待っている。
 と、まぁ良くわからんモンでな。とりあえず、俺と柊のグループはそれを究明するって事だな」
「まぁ、それで……公園に来て見たら黄昏る朝倉さんが居たと言う訳ね」

 キョン君の言葉の後に、かがみさんがそう付け加える。
 そう、それでこの二人が公園に来た訳ね……

「で? 朝倉。お前何を悩んでるんだ?」
「キョン君。デリカシーが無いって良く言われない?」

 私の言葉に、キョン君はお前にデリカシーって言われると思わなかった。と、間の抜けた表情でいわれる。

「キョン君は知ってるでしょう? 私が元々……って」
「ん? そういや、そうだな」

 私とキョン君のやりとりに、かがみさんは小さく首をかしげるが……
 まぁいいか。と、アイスコーヒーをチビチビと飲み始める。

497 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/23(月) 22:22:12.03 ID:AbK5GiXw0
「そして……私が一度【終わってる】のよ」
「あ……そういやそうだ。じゃぁなんでお前が居るんだって話になるな?」
「そう、そう言う事」

 ふむ……と、顎に手を添えて眉を顰めるキョン君。
 私とキョン君の話が、気になりつつもやっぱり訳が分らないのか、
 かがみさんはちょっと困った表情をして私とキョン君の顔を見比べている。

「終わったはずの私、でも此処に居る。長門さんに尋ねてみたけど
 上は、私を束縛しないただ観察しているだけ。
 そして、私はただの人になってしまった………かがみさん、なんで涙目になってるの?」
「ん? おぉ、柊なに涙目になってるんだ?」
「な、なんでもない! あ、欠伸! 欠伸を噛み殺しただけだから!」

 かがみさんは、顔を真っ赤にしてワタワタと慌てた様に手を動かす。

「つまり、あの頃の私には【目的】があった。
 けど、今はその【目的】がない。つまり……自由って事よね?」
「ん? まぁ……そうなるのかもな」

 アイスコーヒーの中に泳ぐ氷が、かすかな音と共に割れ溶ける。
 容器の外側には、水滴がつき……その水滴が重力に逆らう事無くテーブルに落ち広がる。

498 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/23(月) 22:23:12.58 ID:AbK5GiXw0
「説明書の無い使い方のわからないモノを、いきなり手渡されたらどうするかしら?」
「さぁな。モノによるが……大抵は、捨てるだろうな」
「じゃぁ自由は捨てられるのかしら? 捨てたら私に何が残るかしら?」
「哲学的な考えだな」
「それは、昨日泉さんにも言われたわ。でも、本当にわからないのよ」

 たぶん、今私は、困ったような表情を浮かべているだろう。

「柊は、どう考える?」
「はぇ?」

 いきなり話を振られ、間の抜けた表情と同じく間の抜けた返事を返すかがみさん。

「長門の次に、色々本読んでるだろ? なら、何か良いアドバイスできるんじゃないか?」
「な、長門さんと一緒にしてもらっても……私が読むのはラノベだし……」

 キョン君の言葉に、眉をひそめてたはーと、頬を軽く描きながらに言うかがみさん。
 まぁそれでも色々読んでる訳だろ? と、キョン君はカプチーノを一口呷りかがみさんに言う。
 その言葉に、かがみさんは本当に困ったのか眉をしかめて小さく唸る。

「結局、朝倉さんは……自由の使い方が分らないって事だよね?」
「そうね。元々、私は【目的】があって存在していた訳なの。
 でも、その【目的】があっさりとなくなってしまった……
 突然空から降ってきた自由をどう使えばいいのかな?」
「んーと……なら、何か【目的】を探せばいいとおもうんだけど?」

 かがみさんは、眉間の皺を指で軽くほぐした後私を見て言う。

500 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/23(月) 22:24:16.48 ID:AbK5GiXw0
「そう。それが一番正しくて一番間違ってる答えなの。かがみさん」

 私の言葉に、へ? と、目を丸くするかがみさん。キョン君もやれやれと、ため息をつく。

「確かに、目的がなくなったのなら目的を探せばいい。
 でも、その目的をどう探せばいいのか? その目的とは何なのか?
 一言に目的といっても一杯あるわ……何かを目指す事。何かを購入する事。何かを成す事。
 そう、私にはソレが分らない……自分自身で、酷く矛盾してるって分ってるのよ?」

 かがみさんは、お手上げと小さく両手を挙げた。

「朝倉。それってほんと矛盾でただの自分本位だな」
「しょうがないじゃない? 私の姿は貴方達と同世代だけど……ね?」
「あぁ……そういや、そうだった……忘れてた」

 ペシッと、キョン君は、自分の額を叩く。
 そんなキョン君に、え? え? え? と、状況がつかめなくてオロオロし始めるかがみさん。
 こう言うところは、妹のつかささんソックリなのね……と、何気なく思う。

「普通の家庭なら、親が居て子が居て……子は親から色々学ぶわよね?」
「まぁそうだな」
「でも、私には明確に親と言う存在が居ないわ……ただ、生み出され知識だけ詰め込まれたの」
「酷い親も居たもんだ」

 キョン君は、まったく親の顔がみてみたいもんだぜ。と、冗談交じりに言う。
 それに対して、かがみさんは何処か悲しげな表情を浮かべている。

501 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/23(月) 22:25:19.21 ID:AbK5GiXw0
「感情の隆起が無い。確かに今私は笑ってるかもしれない。けれど、それは顔だけ……
 本当に、笑うと言う事柄が理解できていないのよ……他の感情もそう」
「まるで、外側だけ違う少し前の長門みたいだな」
「キョン君。長門さんと朝倉さんに失礼よ? その発言」
「強ち、間違いじゃないのよ? かがみさん」

 キョン君を嗜めるかがみさんに、そう言うとかがみさんは、え? と、私を見る。

「私と長門さんは、姉妹みたいなものなの。苗字は違うけどね?
 だから、育った環境も殆ど一緒。あぁ、他の人には秘密にしておいてね?」

 長門さんに迷惑かかるから。と、小さく付け加えておくと、かがみさんは沈痛な面持ちになってしまった。

「今の私は、卵の中に居るの。その卵の中から出たいのだけど……
 その出る方法がわからない。殻を破ればいい……そう、その通りなの。
 でも、その殻の場所まで難解複雑な無限螺旋の様な迷路。
 今何処にいるのかすら分らない。何処へ行けば殻にたどり着けるのか……」
「なぁ朝倉」
「なに?」
「俺的に、言える事はだな……壁ごとぶっ壊して進め……だ」

 んじゃ、ごちそうさん。余り長い時間居るとハルヒが煩いからな。と、キョン君は席を立つ。
 それをみて、慌てたようにかがみさんも立ち上がる。
 ズボンのポケットに手を入れて、スタバから出て行こうとするキョン君。
 そんなキョン君の後を慌てるように追おうとするかがみさんだったが……
 ピタリと、脚の動きを止め踵を返し私の方へと歩いてくる。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年07月25日 01:14
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。