兔の歌5

502 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/23(月) 22:26:26.24 ID:AbK5GiXw0
「どれだけ長い夜だとしても、明けない夜はない。
 朝倉さんは、視野が狭くなってるのかもしれないわ。
 ちょっと、視野を広くしてみたらいいと思う」

 その言葉と共にかがみさんは、綺麗な笑顔を浮かべた。

「おーい、柊ー。我らが団長から集合かかったぞー」

 やや大きめの声で、スタバの入り口からキョン君の声が店内を通る。
 かがみさんは、慌てた様にスタバから出て行った。

 アイスコーヒーの中に入っていた氷は、既に溶けて無く。
 容器に付着していた水滴がテーブルに広がりっていた。
 容器を手に取れば、冷たい水滴が掌をじんわりと染みる。
 アイスコーヒーを一口飲めば……アイスコーヒーは、薄くなっていて……少し温くなっていた。

504 名前:兔の歌[sage] 投稿日:2007/07/23(月) 22:27:26.49 ID:AbK5GiXw0
「ねぇキョン君」
「ん?」
「朝倉さんの事なんだけど……」
「……少なくとも俺や柊の問題じゃない。あぁ言うのは自分でどうにかしないとどうにもならない」
「でも……」
「まぁ……ハンプティ・ダンプティにならない事だけを祈るかね」
「ハンプティ・ダンプティ?」
「マザーグースの童謡でな……
 Humpty Dumpty sat on a wall.
 Humpty Dumpty had a great fall.
 All the king's horses and all the king's men
 Couldn't put Humpty together again.
 ってな……」
「えーと……?」
「ハンプティ・ダンプティが 塀の上
 ハンプティ・ダンプティが おっこちた
 王様の馬みんなと 王様の家来みんなでも
 ハンプティを元には 戻せない」
「…………」
「ルイス・キャロルの鏡の国のアリスにも、出てくる意外とポピュラーなヤツだよ。
 おっと、我らが団長様が御冠みたいだ。急ぐぞ? 柊」
「あ、ちょっ、ちょっとまってー!」

238 名前: 兔の歌 [sage] 投稿日: 2007/07/25(水) 00:13:18.12 ID:M9ydv4wv0
 屋上。
 空には、幾許かの雲が流れその向こうには、蒼色が広がる。
 今が夏だと知らしめる様に太陽は、燦々と輝き空気を熱く熱する。
 遠くに陽炎がユラユラとおぼろげに揺れている。
 汗により、髪の毛が首筋に幾許か張り付く。
 髪全体が、熱を持ちもう目玉焼きでも焼けるんじゃないだろうか?
 と、思ってしまうぐらいに熱い。

 そんな屋上に私以外の人は居らず………
 下の方から体育の授業中の生徒達の声が、小さくだが耳に入る。
 一応、優等生として存在している私。
 その私が、授業をボイコットするだなんて誰も思わないだろう……
 授業なんて些細な事。
 今、私の抱く問題のなんら解決口にもならない。

 岩崎さんは言った「使い方が分らないのなら分る人に聞けばいい」と
 泉さんは言った「一番身近にあって一番難しい問題。一番難しくて一番簡単な問題」と
 キョン君は言った「壁をぶち壊して進め」と
 かがみさんは言った「どれだけ長い夜だとしても、明けない夜はない」と
 ふと射す影に空を見上げると、空一面が雲に覆われ周囲は薄暗くなっていた。
 突然の一陣の風。思わず目を閉じてしまう。
 そして、目を開けた時……

264 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [sage] 投稿日: 2007/07/25(水) 00:27:11.57 ID:M9ydv4wv0
「何を悩んでいる?」

 唐突に隣から声をかけられた。
 私の他に屋上には誰も居なかったはずなのに……と、私は内心驚きながら横を見る。
 其処に居たのは、金髪の男性。
 足を組みベンチの背もたれに背を預け視線は、虚空を見つめている。

「何故、道に迷っている?」

 男性は、淡々とした口調で相変わらず虚空を見つめながらに言う。
 いきなり現れたこの男性は、一体何なのか?
 訳が分らなかった。もし、私がヒューマノイドインターフェースの頃なら何かわかったのかもしれないけれど……

「……何に脅え何に震え何に足を止める?」

 その言葉の後は、ただただ静寂が流れ……いつの間にか体育の授業中の生徒達の声は聞こえなくなっていた。
 空を見上げれば、淀んだ雲が浮いているが……浮いているだけで一切の動きが無い。
 ふと、小さな点が浮かんでいるのをジッと見てみれば、一匹の烏が羽ばたいた姿のままその場に停止している。
 ありえない出来事が、目の前……とはいえないが存在している言う不可思議な現状。

267 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [sage] 投稿日: 2007/07/25(水) 00:29:37.30 ID:M9ydv4wv0
「私は……私は、何の為に存在しているのかしら?
 元々私は、長門さんのバックアップだった。
 でも、その役目はもう終わって……いや、私自身で辞めてしまった。
 そして、一度私は消滅していて………
 私を生み出した存在は、私を人として此処に存在させ私の動向を観察しているの。
 それ以外の束縛は一切なくて……空から自由が落ちてきた。
 私は、その自由の使い方が分らない」

 私の言葉に、男性はフッと鼻で笑う。

「赤ん坊は、自由だ。何も考えず本能の赴くままに行動する。故に、使い方を知っている。
 自由を忘れたのは? 使い方を忘れたのは何時だ? 常識を知った時か?
 教養を成した時か? 物事を考えられる様になった時か?
 ……自由の使い方とは? 自由の存在とは?
 貴様は、赤ん坊だ。例え、多くの知識を識って居ようとも……
 例え、多くの人よりも常識を識って居ようとも……
 今の貴様は……そう、何故泣いているのかすら分らない赤ん坊だ」

 男性は、不意に立ち上がる。

「卵の殻。無限螺旋の迷路。ループする思考。
 見つからない答え。自由。見つけられない答え」

 男性は、歩きながらに言う。
 何時のかにか、首筋に張り付いていた髪の毛は剥がれ。
 アレだけ熱を持っていた髪も冷えていた。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年07月25日 01:15
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。