「ごゆっくりどうぞ―」
なんで私はここに居るんだろう? 伝票の入ったカゴがなんか重たい。とりあえず、荷物を置いてからキョンを探そう。
でも、見つけたとしてもなんて声をかければいいんだろう? そうね、「あれ、キョン。妹ちゃんの世話をしてたんじゃないの?」
こんなのはどうかしら。……わざとらし過ぎるわね。ここはストレートに「妹ちゃんダシに使ってサボってんじゃないわよこの馬鹿キョン!
罰として百回奢りだからね!」……うん。そうね。これで行きましょう。あんまり厳しく言いすぎて嫌われたらいやだからね。
本棚を抜けて部屋へと向かう。なんでキョンは私に嘘をついてまでして活動をサボったの? それがどうしても知りたかった。
「――あ」
居た。見間違えるはずがない。仏頂面で本棚とにらめっこしているのは間違いなくキョンだ。
「……」
声をかけなくてはいけない。けれど、胸が詰まって声が出てこない。何を言おう? どうやって声をかけよう?
あまりにも真剣な表情のキョンに私は見とれていたのかもしれない。あ、一冊手に取った。あの漫画、面白いのかしら?
――駄目。駄目なのよ涼宮ハルヒ! しっかりしなさい! あんた、何の為にここまで来たの?
「……そうよね」
まずは声をかけなくちゃいけないわよね。何分こうしてキョンを見ていたのかはわからないけれど、これからも動きそうにない。
きっとひとりなんだわ。そうよ。誰かを連れているならキョンは待たせたりしないでさっさと行ってしまうはず。
ぐっと手を握る。息を吸って吐く。呼吸を整え、動揺が表に出ないよう、気をつけなさい。
「ねえ、キョ――」
「キョンキョンもー遅いよー!」
「ん? アニメは見終わったのか? こなた」
「今はCM中なのだ。 もー、早くきてよ。CMは一分しかないんだヨ?」
「……たく、どうせ親父さんが録画してるんだろ?」
「ちっちっち。こーいうのはライブ感が大事なんだよねー。わかってないなーキョンキョンは」
「わかったわかった。わかったから引っ張るなって!」
「――ン……」
え? 今の、何?
キョンが居た。うん、それは理解している。キョンが誰かと話してた。うん、それも見ててわかった。でも、あれは誰?
ううん、嘘。あれは誰だか、本当は知っている。泉こなた。隣のクラスで、キョンと付き合ってるっていう噂になっている子。
でも、わからない。
「なんでポニーテールなのよ……?」
思い出して見る。彼女は確か、うん。ちょっとクセのある長いストレートヘアーだったはず。それが何故かちょっとクセのあるポニーテールになっていた。どうして?
“俺、実はポニーテール萌えなんだ”
――嫌だ。夢の中の話だけれど、あれはキョンが『私』に言ってくれた言葉なのよ。あんたに言ったんじゃないのよ? どうしてあんたなんかがキョンの趣味をしってるの?
“似合ってるぞ”
うん、これも覚えている。あの夢を見た日、ポニーを作ろうと頑張ったのよ。でも髪を短くしちゃったからポニーにならなくて、ただ一本にくくっただけの髪型になっちゃったの。それでもキョンは褒めてくれたじゃない。知ってる?私、今頑張って髪伸ばしてるのよ? もう一月もすれば、キョンの大好きなポニーテールだってできるんだから。
なんで、私じゃ駄目なの? ねえ、キョン? 私はただ、泉こなたに引っ張られて部屋へと入っていくキョンの後ろ姿を見つめることしかできなかった。
最終更新:2007年07月28日 12:36