私に割り当てられた部屋はキョン達の入って行った部屋の隣だった。本当、皮肉だわ。
「……」
荷物を床に放り投げて浅いソファに身を投げ出す。手にはキョンが持って行ったのと同じ漫画……何やってるんだろう。私。
「……」
テレビの反対側、どうしても白い壁に目がいってしまう。駄目。これ以上踏み込んではいけない。
私はもう、これ以上知っちゃいけない。これ以上進んだら戻れなくなるわ。
「……」
漫画を置いて立ち上がる。気付いたら壁は目の前だった。仕方ないわよね。目の前にあるんだから。
私は壁に寄り掛かった。隣の部屋の音が聞こえてくる。聞きたくないのに。
『――ねえ、坊や。とりあえず、そこに跪きな――』
『――なこと言って――』
『――け』
なんなの? これはテレビ? リモコンを手繰り寄せザッピングする。ちがう。ニュースじゃない。ちがう。バラエティーでもない。
『了解、大尉はどういたしますか』
『護衛をつけて事務所へ戻る』
これだ。アニメじゃないの……そうだわ。たしか泉こなたの趣味だったはず。そう、キョン達もこれを見てるんだ。奇遇よね。
『またいつか会いましょうね。今度は二人で、ランチを持って』
『ああ。そいつは素敵だな。本当に素――』
隣の部屋と音は同期している。キョンと同じものを見ている。なのに、この虚無感はなに?どうして体がだるいの?
壁の向こうからはテレビの音しかしない。これじゃ、二人が何してるかなんてわからないじゃない。
「あ、そうだ」
お手洗いに出よう。ふと思った。その時キョンの部屋の前を通るはず。別に覗くつもりはないわ。けれど、見えちゃうものは仕方がないわよね。
ふらふらと壁から離れる。地球の重力ってこんなに軽かったかしら? ノブに手をかける。扉はスプリングのせいで重くなっていた。
――intermezzo:長門宅
「お久しぶりね、長門さん。二度も消したあたしを呼び出すなんて、一体何があったのかしら?」
「涼宮ハルヒを中心とした極大規模の情報フレアの予兆が観測された」
「へえ、やっぱりこの帯電した空気はそれだったんだ。よかったじゃない。貴重データが観測できて上の方も大喜びでしょ?」
「そうではない。情報統合思念体は恐慌状態に陥っている」
「あら、どうして?」
「私と喜緑江美里とでフレアの規模を試算した。情報連結を申請する」
「はいはい、どうせあたしはあなたのバックアップ。どうせ拒否権なんかないんでしょ? 許可……と」
「――な、なにこれ。冗談でしょ? 桁を十二個ほど間違えてるんじゃないの!?」
「事実。現在観測されている情報フレアは、涼宮ハルヒからわずかに漏れ出しているものに過ぎない」
「そんな……! こんな規模の情報爆発が起こったらお終いよ!? 小さな水槽の中で核弾頭を起爆させるようなものよ! あたし達だけじゃない。この世のすべてが押し流されて消え去ることになるわ!」
「そう。だから私はあなたを呼び出した。あなたには私のバックアップとして従ってもらうことになる」
「……そうね。派閥とかに拘っている状況じゃないわね。……それで、あたしは何をすればいいのかしら?」
――fine
最終更新:2007年07月28日 20:05