敗戦Ⅷ

――intermezzo:キョンの自宅前

「……ふう」
「お帰りなさい。ずいぶんおそいのね」
「な!?」
「そんなに身構えないでほしいな。あたしにはもうあなたを殺す理由なんてないんだから。殺さない理由ならいくらでもできたんだけど?」
「……なんでお前がここにいるんだ? 朝倉」
「長門さんに呼び出されたのよ。宇宙的危機っていうことでね」
「長門? 危機? どういうことだ」
「簡単な話よ。あなたと泉さんの関係を涼宮さんがしってしまっただけの話」
「――っ!」


「そう。これで二度目よね。一度目の時――あなたが泉さんとの交際を公表した時も、大惨事になりかけたんですってね? あの時は長門さんの記憶制御が間に合ったおかげで事無きを得た。その後、あなたは涼宮さんに隠れるように泉さんと付き合い、長門さんは喜緑さんと協力してあなたと泉さんの関係を涼宮さんに知られないようにマスクし続けた」
「……」
「涼宮さんにとって、あなたが泉さんを受け入れたのは本当にショックだったみたいね。長門さんの記憶操作が間に合っていなかったら、全宇宙は今頃灰すら残らず消えていたでしょうね――そんな危険な状況なのに、涼宮さんに嘘をついてまで泉さんと付き合い続けた。それは――」
「もういい、わかったからやめろ」
「――単純なこと。あなたが泉さんを受け入れたという事実そのものが涼宮さんにとってはショックだったのよ。あなたが泉さんと別れたからといって解決する問題じゃなかったの。だから、あなたは涼宮さんに隠れて付き合い続けた。どちらを選んでも待っているものが破滅なら、せめて泉さんを悲しませないようにって――よく三か月も隠し通せたものね。流石長門さんと喜緑さんだわ」
「やめろって言ってるだろ!」
「うん。それ無理。だってあたしは自分の持つ情報とあなたの持つ情報のズレを確認しなくちゃいけないもの。どうやらここまでは情報の齟齬がないようね。
 それじゃ聞くわ。あなたが涼宮さんじゃなく泉さんを意識するようになったのはいつ頃?」
「それを聞いてどうするつもりだ?」
「今回のカタストロフを回避するために重要な鍵なの。時間がないわ。急いで」
「……よく覚えてない。ただ、一年の二学期が終わる頃だったように思う」
「ふーん。なるほどね。それじゃ、次の質問。告白はどっちから?」
「俺からだ。文句あるのか?」
「ないわよ。そしたら次の質問。あなた、泉さんと付き合うようになって楽しかった?」
「そんなこと自分で考えろよ」
「わからないのよ。あたしには有機生命体の恋愛感情を理解するプログラムがないからね」
「……楽しいわけないに決まっているだろ? 仲間と恋人に嘘ついてるんだ」
「そう。ま、あなた、最近特に無愛想になっていたらしいからね。それじゃ、最後の質問。もし仮に――涼宮さんの方が気になっていたら告白していた?」

「――どうだろうな。今となっては想像すらできん」
「そう。これで情報は揃ったわ。ありがとう」
「おい朝倉! ハルヒをどうするつもりだ? 俺には何かできないのか?」
「涼宮さんに危害を加えることはないわ。あと、あなたにできることはもう何もな――そうね。どうしても手伝いたいんなら今日は早めに寝てくれないかな? うまくすればそれで涼宮さんの空間に入れるかもだし」
「解った」
「それじゃ、さよなら。あと、最後に言っておくわ。ごめんなさい」
「は? 待て朝倉、お前何する気だ!」


「……くそっ」

――fine


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最終更新:2007年07月28日 20:06
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