あまりパッとしない子役だった私、このまま埋もれて、子役からタレントへのシフトに失敗しちゃうのかな、
と悩んでいた矢先に、いきなり貰ったのがこの「らっきー☆ちゃんねる」のメインパーソナリティのお話だった。
とある人気番組に付属する情報番組で、ここのメインパーソナリティを経て、ブレイクした子も多い。
今回もパーソナリティの子が無事卒業し、この私、小神あきらにようやく、大役がやってきたわけ。
がんばるぞ!
キョンさんと会ったのは、初めての番組打ち合わせで、番組のアシスタントとして紹介されたのがきっかけだった。
最初、ちょっと不機嫌そうでとっつきにくそうな印象だったけど、話しているうちに、ぶっきらぼうだけどとても優しくて、
よく気のつく、まるで
お兄ちゃんみたいな人だって分かった。
聞くと実際、妹さんがいるお兄ちゃんなんだって。いいなぁ、私1人っ子だから。
ちょっと斜に構えたお兄さんと、気の強い妹が仲良くって感じで、番組進行が出来たら面白いだろうな、なんて考えて
いたけど、そんな私のささやかな「夢」を打ち砕いたのが、番組ディレクターの一言。
「ああ、今時そんなの流行らないから却下。ときたま真っ黒い本性を見せるやさぐれアイドルと、格好つけてるけど
本当は気の弱いダメダメアシスタント、って設定で行くからね」
そんなのイヤよ。演技だとしても番組でそんなことして、プライベートでキョンさんに嫌われたりしたら私いやだよ。
マネージャーにお願いして、ディレクターさんに番組の設定を変えてもらおうとしたけど、こちらも却下。
「アンタねぇ、キョンくんと兄妹みたいにイチャイチャしてたら、男のファン無くすし、女の子からもぶりっ子って嫌われるわよ
いい、正統派のアイドルなんてきょうび需要はないの。いろんな方向を見据えていかないと、先はないわよ」
ここまで言われてしまっては、私みたいな小娘の言い分など、通るはずはありません。救いはキョンさんが、
「まあ、そんなに気に病まず、俺相手に思いっきり我が儘娘の演技をしてみろよ。あきらは可愛いし、そのギャップを買われて評判になれば、
ドラマやバラエティから引く手あまたかもしれないぞ。俺もまあ、演技の勉強だと思ってせいぜい頑張るから」
といってくれたこと。分かった、あきら、頑張る。
番組の方は、正直癪な気もするんだけど、ディレクターの読み通り、大評判で視聴率もうなぎ上り。裏表の激しい腹黒アイドルが、
アシスタントをいびったり、扱いに拗ねたり、けっこうハチャメチャながらも、それはそれなりに楽しくやっていた。
初期の頃、私のファンとおぼしき男の子たちが、「キョン、あきら様に馴れ馴れしくするんじゃねぇ」とか、「でしゃばるな。俺はあきらの
顔が見たいんで、おまえなんかお呼びじゃないんだYO」なんて感じのお便りをたくさんよこして、キョンさんが苦笑しながら、番組内で
紹介したりしていたけど、ここに来て、少し風向きが変わってきた。私への非難のお便りが増えたのだ。
「この腹黒アイドル、私生活でも男を足蹴にしてんだろ、この<禁則事項>!」
「小神あきらってホント性格悪りぃよな。オレ、はじめはキョンのこと嫌いだったけど、最近かわいそうになってきたZE」
キョンは普段、無愛想なのが災いしているのか、ほとんどファンレターなんか来なかったけど、よく見ると男らしくて精悍な顔をしているし、
私の我が儘の裁き方も堂に入ってきたからなのか、ぼちぼち、女の子からのファンレターが届くようになった。そして私にも・・・
「キョンくんをいじめるんじゃねーぞあきら! 次キョンくんを引っぱたいたら、ただじゃ済まさねーぞゴルァ」
「キョンくん、番組以外でもあきらにやられてない。わたしたち応援してるからね、がんばれキョンキョン! くたばれ小神!」
普通、このテのお便りはスタッフが気を使って、私の目に触れないようにしてくれるんだけど、振り分ける前の葉書やメール、こっそり目を
通しているんだよね。
やだな・・・こんなキャラで評判になって売れたって、たかが知れてる気がする。それに、キョンさんだってそのうちイヤになるかもね・・・
そんなことを考えながら、控え室の隅っこでちょっと泣いていたら、キョンさんが私のところに来て、お話を聞いてくれた。
キョンさんには絶対、こういうことは言わないでおこうと決めてたんだけど・・・キョンさんの心配そうな顔を見たら、私、たまらなくなって、
このこと全部話しちゃいました。そうしたら、キョンさん・・・
「ま、いろいろあるだろうけどさ・・・俺はあきらが本当は心の優しい子だってこと、ちゃんと知ってるから、気にするなよ」
と言ってくれたので、本当にまた泣きそうになっちゃったよ。
さあ、今日も収録がはじまるよ。がんばっていこう!
最終更新:2007年08月10日 02:36