「やふ~、来たよつかさ~、かがみん!」
「お邪魔しますね」
「ここ来るのも久しぶりだな」
「いらっしゃ~い……おねえちゃ~ん、こなちゃんたち来たよ~」
9月になって、新学期が始まって2週間、久々に柊家で一同会しての
勉強会。今日は予備校の授業のない
キョン君も顔を見せてくれた。ま、学校じゃ毎日話しているけど、こうして家に来てくれるのは久しぶり。
あのいろんな意味で、忘れがたい思い出になった旅行以来、私たちの間の関係……というか雰囲気も、ちょっと
変わってきている気がする。
なんていうのかな……一言で言えば、わたしたちみんな、キョン君を男の子としてきちんと意識し出したってことかな。
ラフな中でもみんな、けっこう意識してお洒落するようになったし、あのオタク趣味以外に碌にリソースを割こうとしない
あのこなたですら最近、服やアクセサリーを買うようになって、私やみゆきなんかもいろいろアドバイスした。
この間の日曜なんて、私、こなたと一緒にブティック巡りしたのよ。まさかこいつと一緒に、服やアクセ見るためにあちこち回る
日が来るなんて思わなかったわ。なんだかんだいっても、こなたも女の子なのね。
そして今日の勉強会では、みな申し合わせたように……というか、申し合わせしたんだけど、髪型をポニテにしている。
まえにポニテにして、こなたに侍なんて言われたのがちょっと心に引っかかるんだけど、いいもん、キョン君のためにするんだから。
私たち姉妹もポニテにしてるのを見て、キョン君も「異常事態」を悟ったみたいで、ちょっと顔を赤くしているのが、可愛い。
変わった……といえば、こうして集まってお喋りするときの話の中身ってのも、あの旅行以来変わった気がする。
なにせ、私ら揃って、キョン君に身体の隅々まで見せちゃったし、キョン君のも見ちゃったし、見るだけじゃなくて<禁則事項>しちゃったし、
妙な共犯意識と、今まで知らず知らずのうちに我慢してきた「鬱憤」があるのか、旅行以前なら男の子の前……というより、キョン君の前では
絶対しなかった類の話も、結構平気でするようになってしまった。
キョン君の立場からすれば、本当の意味でのハーレムに近づいたってことになるのかな。
といっても、今日は勉強会の名目で集まったのだから、やることはきちんとやる。もうセンター試験まで4ヶ月しかないしね。
「う~ん……かがみん、ここの構文分かる?」
「ええと、ここはね……」
「戦国時代や幕末維新は割と興味あるんだけど、古代、中世や明治以降の日本史って、どうも苦手なんだよね……」
「全部暗記しようというのは無謀だぞ。歴史の大まかな流れを掴んで、芋づる的に知識がつながるようにしないと……」
「でも、文化史なんかは結局、暗記に頼らざるを得ませんよね」
相談しあったり、無言で問題集と格闘したり、無言のまま舟を漕いだりしながら、みなめいめい頑張っている。
そんなこんなしているうちに、時間は午後3時を回った。そろそろ休憩しない?
「……おやかがみん、シュークリーム分が切れましたか?」
なんだよ、そのシュークリーム分ってのは?
「説明しよう! シュークリーム分とは、かのあ○まんが大王の
登場人物である……」
はいはい、そんな説明しなくてもいいわよ。いま飲み物持ってくるから……
「あの……お茶請けになればと思って、つまらないものですがこんなものを持ってきましたので、良かったら……」
「うわ~、バームクーヘンだ~!」
ちょうど良かったわ。用意してある飲み物、アイスコーヒーとアイスティーだから。
1階から冷やした飲み物をコップと一緒に持ってきて、みゆきの差し入れをお茶請けにコーヒーブレイク。さて今日はどんな話が飛び出すのでしょう。
最初のうち、めいめい当たり障りのない会話を楽しんでいたけど、その均衡を早くも崩すヤツが現れた!
「ところでキョン~」
ニヤニヤしながら口火を切ったのはこなた。こいつ、何を話すつもりなのやら。
「もしぴったり当たったら、スペシャルサービスをして進ぜよう。時にキョン、今日の私の下着の色は分かるかな?」
他人を話のネタに使わなかったのは褒めてやるけど、おまえ、そのメンタリティーは、そこいらのエロオヤジと同じだぞ!
そんな話にも動揺しないキョン君。さっきは私ら全員、ポニテにしているのを見てちょっと照れていたのに、キョン君の羞恥心の基準というのも
私はよく分からない。
「これだけ女にがっちり周り固められてるのに、いっこうに気にしないキョンは、もしかするとエラい大物かもしれへんで~」
なんて黒井先生が言っていたけど、あながち外れでもないかも。前は私らのこと、女として意識していなかったからかもしれないけど、旅行で
あんなことになっても、基本的な態度は変わらないのだから。
「……水色、だろ」
「ななななんで分かったっ! さては覗いたなっ、キョンのスケベ! ミラーマン! 今からでも遅くないから出頭をっ!」
……おいこら、自分からネタ振っといてそりゃないでしょ、アホこなた! でもなんで……
「一緒にここ来る途中、駅の階段上がってるときに見えちまった、悪いな」
悪びれずに、涼しい顔で答えるキョン君。その言葉や態度に、いやらしさを微塵も感じないのは人徳なのか?
「うう……不覚っ! 私としたことが見られてたとはっ!」
……アンタ、スカート短すぎるんじゃない。
「しかし女に二言はないっ! キョン……私のはじめて、キョンにあげるから、優しくしてネ♪」
「ちょ……ちょっとこなちゃんっ! そんなことで男の子にバージンをあげちゃうのはいけないと思うの!」
「ま、きっかけなんてしょせん理屈に過ぎないんだよネつかさ。こないだの旅行であんなことになった以上、早く手を打った方が……」
ちょ……ちょっとこなたっ。アンタ今言ったこと、まさか本気なの!
「そだよ。だって私、キョンのこと好きだもん」
「待ってください。キョン君の意思も聞かないでそんなことを決めるなんて、私、不承知です」
「ね、キョン。キョンは私のこと嫌い? エッチなことしたくない?」
「……な~んていったら、キョンやかがみんや、つかさやみゆきさんはどう出てくるかな~なんてことが、気になるんですヨ。最近特にネ」
マジ顔でそんなこと言うから、宣戦布告されたと思ったじゃない。今じゃそんなネタも冗談じゃ済まないんだから、自重しなさいよこなた!
「私たち、恋敵同士ですもんね」
おお、みゆきまで怖いことを言い始めた。にこやかに笑っているのが救いだけどね。
「キョン君がなかなかはっきりしてくれないから、私たちもどうしていいのか分かんないんだよね」
つかさまで、キョン君に恨み節をうなり始めた。
「そうそう、だから悶々として、毎晩キョンのこと考えながら指を使うわけですヨ、ね、かがみん?」
こなたっ、アンタここでそのネタを私に振るのかっ! キョン君も私の方を見るなっ、見るなっ!
「私は擦り付けるほうが好きだから、お姉ちゃんみたいに指はあんまり使わないなぁ~」
ちょっと……温泉で、ついつい熱気に当てられてそのテの話をしたけど、改めてはっきり言うなっての。
「いや、まあ……なんだ、俺も指は使うし、別に気にするな」
キョン君、それフォローになってないっつうの!
「あ……あと、キョン君、また例のブツ、PCの方に添付ファイルで送ったげるから、有効活用してねん!」
ちょ……ちょっと、例のブツって何よこなたっ、キョン君っ! 変なモンじゃないでしょうねっ!
「人の下着姿やヌードを変なモンよばわりとは、聞き捨てならないネかがみんっ!」
「おいっこなたっ!」
おっ……おっ……おまえら何やっとんじゃーっ! キョン君も平然と、そんなもん受け取ってるんじゃなーいっ!
「なんだヨ。羨ましいならかがみんも、自慢の三段腹を撮って、送ったげればいいじゃんかヨ!」
誰が三段腹だって、この野郎!
「お姉ちゃ~ん、こなちゃ~ん、ケンカは止めようよ~」
「ふふ、キョン君。私のも欲しいですか?」
「ゆきちゃ~ん、キョン君を誘惑しないでっ!」
いやはや、おやつタイムで妙な展開になったおかげで、あの後、あんまり集中できなかったぜ。
柊家を辞し、駅でみゆきと別れ、電車を降りた後でこなたとも別れ、一人家路につきながら思わずごちる。
あの旅行以来、距離が縮まったのはいいとして、妙に縮まるのも考え物か……いや、客観的に見れば、あれだけ可愛い子が4人、
俺に好意を持ってくれているわけだから、俺は紛れもなく果報者なのだろうし、正直、悪い気もしない……というより、嬉しいのだが、
あの4人から1人を選ぶというのは、これでますます難しくなった気がするよ。俺は女難の相でもあるのかね、ははは……
「……キョン? もしかしてキョンじゃないのか……ああ、やっばりそうだ。久しぶりだね」
そう言いながら現れたあいつの顔を見たとき、更なる波瀾の予感に、一瞬戦慄したのは内緒だ。
季節は夏から、秋へと装いを変え始めていた。
最終更新:2007年08月31日 23:00